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占い師のお仕事は、背中を押してあげることです。

佳織の場合①

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チリリン……

 木製の少し重いドアを開けると、どこか反響音のようなものが響く鈴がリンリンと鳴った。
「いらっしゃいませ」
 奥の暖簾のような布をふわりと片側に手で寄せて、不思議な衣装を着た女が出てきた。
 おそらく、この人物が占い師のはず……立花佳織は、緊張からごくりと唾を飲み込んだ。

(どうしようどうしよう! つい勢いで予約しちゃったけど……)

 所謂数合わせの合コンの時間の合間———今日はこの「用事」に合わせて仕事を早めに切り上げて時間が余ったので、カフェでInstagramを眺めていた時にふと目についた占い師のアカウント。
 予約サイトに行ってみると、30分後の時間に空きがあったので何となく予約してしまったのだ。

(いつもなら占いなんて信じないけど……)

 今日の合コンには思うところがあった。

(もう、こんな風に都合よく呼ばれるだけの自分は嫌……!)

『今日の合コン、清楚でおとなしいタイプの子が足りないんだよねー』
 
『カオちゃん彼氏いないよね? 来てよ。服は地味目でいつもの感じで。仕事帰り?のあの感じでいいから』

 今日の女側の幹事でもある大学からの友人・美梨からのLINEのポップアップを思い出す。
 彼氏だって別れたも何も、もともと美梨の紹介で付き合い、先月美梨の主催した飲み会で、彼は美梨の友人だという可愛い子とお互い一目惚れしたとかで振られたばかり。

(なのに……なのに……)

 偶然とはいえ、美梨は勤め先の取引先の大企業の重役の娘だった。娘に甘すぎるという重役は、佳織の会社との取引の担当部局のトップにあたる。美梨はその秘書のようなことをしているらしい。

『すごい偶然! カオちゃんが担当なんだ? パパが褒めてたよー』

 佳織はあくまで担当の1人。しかもまだ2年目の平社員。やっと仕事に慣れてきたところで、こんなところで会社や優しい先輩方に迷惑はかけられない。
 先輩方の中には微妙なパワーバランスを感じ取ったのか、無理をしないでいいと言ってくれる人もいるが、ある案件で佳織をはずして打ち合わせに行くようにしたところ、何故か妙に突っ掛かられることが増えてしまった。
 その後ダメ元で佳織を末席に座らせるようになると以前の通りに上手くいく様になり……これは多分、無関係じゃないよね? とみんなでため息をついたのだ。

 佳織とて、何もしなかったわけではない。でも、美梨から距離を取ろうとしても何故かうまくいかないのだ。
 甘えだと言われればそれまでだが、これ以上は、佳織1人ではどうしようもなく……友人に相談しても、何故か美梨に伝わっている様に感じてどうしようもない。
 転職して実家のある田舎に帰れば美梨とは必然的に離れるだろうが、今の仕事は大学時代からの希望の会社。辞めたくない。

(占いなんかにって……なんかって……)

 つらつらと脳裏を駆け巡る思いに半分くらいは意識を向けていた佳織に、占い師は4人掛けのテーブルの椅子をすすめた。

「立花佳織さまですね。どうぞこちらへ」

「は、はいっ……」

 差し出された手の、青いキラキラしたネイルが綺麗だなと思いながら、佳織は椅子に腰掛けた。


 






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