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しおりを挟む「__こんなとこで何してんだお前」
呆けた顔をしながらユノを見上げる紺の長髪を乱した、妖艶な性別不明の昔馴染みに声をかけた。
記憶にあるより身長も伸び、頬の輪郭は丸みをなくし、シャープな印象を持たせる。
正体が分かったからかユノは遠慮なく近づいていくと、まだ新しい血の匂いがして。その芳香を辿って性別不明のユーリのその膝の上に、ボロボロの衣服を纏い、その間から血を流す男を見つけた。よくよく見ればユーリも脇腹の服が裂け、血が滲んでいる包帯を巻いていた。
「状態は」
「痛みと疲労で気絶中。怪我は軽傷、幸いにも深くないけど……数が多いし、武器に麻痺毒も仕込まれてたらしい」
「お前は?」
「……あー…………魔物と対戦中、しくった、だけ……。処置は自分でしたから平気」
ふーん、と気の無い返事を返しながらユーリの脇腹を視ると、止血のみ終わった状態であることがわかった。
平気じゃねぇな。
おいおい、と思ったがもしや手当て中にこいつを見つけたのか? と思い至り、さもありなん、と頷いてユーリのそばに膝をつく。
「え、あ、いや! 俺はいいよ! この人視てやって」
「はいはい~、さっさとその手を退けろ~」
「ちょっ、師兄……!!」
左手でユノの行動を防ぐユーリを押さえながら右手に魔力を纏わせて、脇腹に手を当てると内部を探る。
深々と鋭い刃物が刺さったような傷だった。地味に奥に行くほど表面に戻るようにカーブしているから、止血するために魔力で血管を活性化させているが、それが届いていなかった。ユノはユーリに魔力が馴染むように調整して血管細胞を強化すると、滲み出ている血が流れないように魔力で傷つけられた血管に蓋をする。馴染んできたら魔力を抜きつつ、治癒力を強化していく。
同時に細胞を活性化させ、傷ついた肉体が再生始めると、表面にそれが近付いていくごとに魔力量を多くし、活性化と治癒力強化の度合いも強くしていく。
「ぐ、っ……!!」
ぐぐもった、低い声が聞こえた。
汗が滲むユーリの額を、制服の袖で拭きながら、あとは本人ができるだろうと手を離すと、次はユーリの膝を借りて気絶している男の額に触れる。
同じように魔力を伝達しながら、その体を視ていく。
そこでマルティカとサルア、ユーミールにティグが追いついてきたので、少し待て、と一声かける。
視たところ、傷も毒も深刻なほどではなかった。
皮膚の細胞活性化を促して、毒は魔力回路に馴染ませた魔力を満たしながら巡回し、毒素を気化させる。男の呼吸に合わせながら馴染ませた魔力を抜くと、安定した寝息が聞こえてきて、ふぅと一息つく。
あとは体力回復を待つだけだ。
この様子であればまだまだ起きるのは先だな、と思いながら、そのボロボロの姿を見ながら意匠に既視感を覚えて、首を傾げる。
「なんか……こいつのこの服の紋様、見たことあるような……?」
出かかってて、出てこない答えにうんうん腕を組んで唸っていると、膝をついているユノの背後から覗き込んできたティグが声を上げた。
「あ、シルメア国の聖騎士だ」
「シルメア……てぇと、あれか。トラーリの北にある国か」
「っす。女神信仰が強い国っすよ。この意匠はその女神の象徴で、実在する植物みたいっす」
「詳しいな?」
「俺の姉が嫁いでその国に移住したんすよ! 結婚式もそっちでやったすけど、滅茶苦茶綺麗でしたよ」
へぇ、とユノが相槌を打っていると当時を思い出したようにキラキラと瞳を輝かせたティグが、拳を握りしめて力説する。
5枚の花弁の先は切り込みが入り、それが三日月を描くように大きさを変え複数配置され、その真ん中には髪の長い横顔の女神がいた。女神は顔の輪郭だけで、長い髪が風に流れているように描かれていて。綺麗なもんだな、と男が気絶しているのをいいことに、不躾にもその制服の胸元の紋様を見つめる。
「先生、気絶しているやつは運びますか?」
マルティカが本題を提示してくれて、そうだったと立ち上がる。
膝についた葉を叩き落としながら、ユーリに動けるかと問えば、肯定が返ってきたため「よしっ」と意気込むと、ユーリの眼前に半身向けながらしゃがみ込む。そしてユーリの膝で気絶している男の腕を取り、引っ張りながら衝撃のないように掬うようにユノの背中にその体を寄り掛からせると、バランスを整えながら立ち上がる。
「マルティカ、こいつは俺が運ぶからユーリに手を貸してやってくれ。ユーリ、荷物はあるか?」
「え、いや俺は平気だ。あとは帰って自分でやる、からぁ!?」
「よ、っと……なんだ、思ったより軽いな」
ユーリが断りの言葉を言いながら、ユノはマルティカに視線をくれると、察したマルティカが話途中のユーリを横から抱き上げた。身長のあるユーリを抱き上げて、マルティカが静かに驚きを表していると丁度ユノ達の反対側に、まとまった置かれた横かけショルダーと籠が置かれていた。
ティグとユーミールがその荷物を持ちながら、大声で確認する。
「荷物ってこれですか~?」
ティグが大きく手を振り、存在を主張していた。
「あれで全部か?」
「……あぁ」
珍しいこともあるもんだな。ユーリが照れてる。
久々に見た妹弟子のその顔に小さく口角を上げると、振り返ってティグとユーミールに肯定する。走り寄ってくる二人を見ながら、十分な距離に近づいた時、出発の言葉をかけた。
再度森に入った時、サルアがひょっこり顔を出した。
「何してんだお前」
「いやぁなんか入りづらくて……」
気まずそうに視線が泳ぐサルアを見ながらなんだ? と首を傾げていると、そういやこいつもかと思い出し納得する。確かにこの気絶した男の国は、魔物や魔族に対する忌避感が強い国だ。そりゃ遠慮したくなるか、とサルア本人もあまり明言していない情報を思い出し、サルアには深掘りせずにそのまま歩く。
「…………不思議ですよね、先生は」
糸目がうっすらとその色を見せて、意外にもユノと似た色の瞳があった。
警戒したような探るような気配を滲ませながら、後ろからついてくるサルアに視線だけ後ろに動かして、質問の意図がわからず問いかけた。
「何がだ?」
「いやもう全部が」
間髪入れずに言われた言葉に、どうすりゃいいんだよ、と目が据わるのを自覚した。
「お前ら本当に人のことを……ったく」
「あ、諦めた」
「言葉にできなかったんだよ」
おかしそうに笑ったティグに不貞腐れたユノがぶっきらぼうに返す。
人は違えど、騎士団の中では比較的よく見る光景で、やりとりだった。
「あー、腹減ったから急ぐぞ」
それだけ言って五人を置いていくように歩きから走りに変更し、速度を加速させる。
背負っている男に振動が行かないように着地時の衝撃を体や魔力干渉で吸収しながら、3分もかからず森を抜けて、遠目に要砦の扉付近に数名残っているのが見えた。
視力強化してみると、ターウェにレヴィン、ヘリオン、それに医療班のハインリヒがいた。
なんか……ハインリヒに向かってヘリオンが喚いてんな。
目を細めながらその様子を見ていると、馬を落ち着かせるようにハインリヒが両手を前に出し、柔らかく上下に動かしていた。
(幼馴染だったか……いやぁ大変だなぁ~)
ヘリオンの喚きの理由は察しているが、いつものことなのでまるっと彼方に放り投げ、優しい顔立ちを困ったように眉を下げ、苦笑するハインリヒには後でスイーツでも作って持っていこうと考える。甘いものが好きだったはずだ。
何がいいかなぁ……、と砦の食堂にある材料を思い起こしながら、作れそうなものをピックアップしていく。
走り寄っていくユノに気付いたターウェが、そのユノの背にいる男を目にして、少し目を見開いたのち、しょうがないな、というように苦笑いした。解せないんだが?
「お帰りなさい、ユノさん。お土産付きのようですね?」
「怪我人は放っておけないんだよ、職業柄な。ただいま」
ターウェが一歩踏み出したので、さらにその数歩前で立ち止まるユノ。
やれやれ、と首を振ったターウェに言葉を返しながら、勢いよく近づいてくるヘリオンを視界の隅で把握し、苦笑するターウェに隠すことなくめんどくせぇ、と顔に出した。
「ユノ殿!! 単独行動は控えて頂きたい! 団長の貴重な時間を待機時間にするとは、それでも騎士団の一員ですか!!」
「元気だなお前……。きちんとターウェに許可取ったぞ」
「それならなおのこと、時間が長すぎです!」
「……お前、ほんとターウェのこと好きな……」
口撃の止まらないヘリオンに乾いた笑いがユノのみならず、ターウェからも漏れた。
部下から支持を得るのはいいことだとは思うが、こういうタイプはどうなんだろうか、と一考する。
そこに、小さく空腹の主張をしたユノの胃袋。
追いついた他の五人をそのまま連れて、増えた人数と会話しながら食堂に向かう。の、前に医務室へと向かう。
だからユノとマルティカ、ユーリ、ハインリヒだけで医務室へ向かおうとしたら、ターウェが同行すると付いてきて。必然的にヘリオンがくっついて、面白そうだとレヴィンにサルア、ティグがくっついて、御目付役にユーミールがくっついた。
いや全員かよ。
合計10名で移動していくと、やはり邪魔だなと廊下を歩きながら思う。
というか、ヘリオンうるせぇ。
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