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しおりを挟む気絶している男を医務室に隣接された治療室に寝かせると、ユノが宣言したように、お腹を満たすために食堂に向かう‘十人’。
十人、10人だ。
ユーリと男を拾ってから出会った奴ら全員が、医療班員除いた全員がついてきやがった。
特にヘリオン。まじうるせぇ。
医務室には調合に必要な道具も薬草も一通り揃っているため、ユーリは自分の傷の炎症抑制と痛み止め、念の為魔力緩和剤を作ると言って、普段ユノが入り浸っている調合室に篭った。また男が起きた時の対応をするためにも残ると言っていた。
梃子でも動かないその真面目な瞳に、肩を竦めて諦めたのはユノで。
一通りの内装や器具の説明をし終えると、早速とばかりに目当ての薬草や器具を手にして、作業台に齧り付いた。
ターウェはその後ろ姿を見て見覚えがあると思い、記憶を漁っていると横で嬉しそうに笑っているユノが目に入って、あぁ! と納得した。同じ師匠を師事していると聞いたため、やはりどこか似ているようだ。
ターウェだけではなく、他のものも同じように感じ考えたのか、ユノへ視線をくれていたが、ユノは空腹が強く主張し始めたのか、お腹を手で押さえて、ターウェを振り返り見た。
「腹減った」
「はは、食堂に行きましょうか」
簡潔にユノが主張し、そのシンプルな言葉にターウェが笑えば、ゾロゾロと動き始める。
医務室を出た廊下でユノが一度振り返り、医務室奥の調合室に向かって叫ぶ。
「何かリクエストは!?」
「なんでもいい!!」
「後悔すんなよ!」
「やめろまじで!!」
奥の方から答えがあって、冗談交えて叫べば、焦りと怒りが混じった声が聞こえた。
ユノが声を上げて笑うとターウェが「程々に」と苦笑めいた笑いを浮かべながら、肩に触れた。
ターウェは知っていた。ユノが躊躇いもなくふざけに入ることもある、と。昔からの親しい人に対する、普段より子供っぽい言動に少しユーリの危機を察知したのだ。ユノのことだから滅多なことはしないとは思うが、それでも念の為一言入れておく。
「何作ってやっかなぁ~」
楽しそうに笑うユノに、若干意味がなかったかな、と今日初めて会ったユーリに合掌するターウェ。
「先生、何作る気なんすか?」
「ん~……時間もあれだし、簡単レシピがいいな。……あぁ、ホットサンドにするか」
「いいっすね!!」
「え、もしやティグ食う気か?」
「え、ダメなんすか?」
「……材料あったらな」
「やりぃ!! 先生、ありがとうっす!!」
ルンルン気分のまま軽快なスキップを披露して、一人先行して食堂へ向かうティグ。
やはり中々の甘え上手だ。犬みを感じる。
シュンとなったその姿が小型犬に似ていたため、思わず言葉に詰まり曖昧な返事をしたが、あの浮かれようは作らないと先ほどの比ではない姿を見ることになりそうだった。ユノは苦笑しながら多めに作るか、とどうせここにいる奴らもあれば食うだろうと思い、ティグに続いて足速に食堂に向かった。
ついてこようとするターウェやマルティカにはゆっくり来い、と伝えて、食堂に着いて早速調理場へ入っていく。制服の上衣を脱ぐことは諦めて(場所が場所のため置き場がなかった)カフスボタンをとって腕を捲る。
「あら。お疲れ、ユノちゃん」
「お邪魔してるぞ、料理長」
「何よ、ランウォンって呼んでくれないのね? 仕方がないからランちゃんでもいいわよ」
語尾にハートが見えた気がしたが、気のせいだと思いたい。投げキッスは余裕を持って避けた。
はは、と乾いた声で笑いながら料理長の見た目と中身とのギャップに、毎度のことながら驚きを通り越して、無になっていく。当然の事ながら、料理長ことランウォンの希望はスルーした。
……いやまぁ……認めてくれたってことだよな……?
素を出してもいいって認めてくれたんだよな?
それぐらいには仲良く、また料理の腕とかも認めてくれたんだよな?
……肩口に感じるこの体温は、俺が何をするのか覗き見ているだけだよな……?
柔らかい口調とは裏腹の低くて渋いその声は、しっかりした体格によく合っていて。
最初は寡黙な職人気質の料理長だと思っていたが、だんだん……そう、段々と喋るようになって。今では最初の面影は調理時の眼差しだけだ。いやそこが1番重要か。
「…………料理長、フリルエプロン着せようとするな。いつものでいい」
肩口の体温が離れたと思ったら、横から白い何かが見えて、材料を見ていたユノの真正面にその姿を表した。
白の生地に惜しむことなく襟口や裾口にフリルのついた、とても可愛らしいエプロン。
ユノの予想と違って安堵はしたが、別の恐怖がユノを襲う。つい反射でエプロンの首紐に首を通したが、我に返ってキチンと断ることに成功した。いつもこの調理場を使用する際に使わせてもらっている予備のエプロンを視線だけで探すと、料理人の一人がユノから見て奥の洗い場で指差していた。水場近くに用意されている手ふきやタオルが置かれた棚の、その手前に置かれた椅子の上。
見慣れたグレーのラップエプロンが、畳まれて置かれていた。
ホッと安心したのも束の間、ランウォンが拒否したユノにキョトンとした表情を見せ、首を傾げながら言った。
「あらいいじゃない、よく似合うわよ?」
「……………………俺の趣味じゃない……」
「そう? それなら……これはどうかしら!」
嬉しくねぇし、色が違うだけの同じエプロンじゃねぇか!!
一気に疲れが来たが、更なるボケを重ねようとするランウォンに手振りで拒絶を示し、残念そうな顔で渋々その薄桃のフリルエプロンを畳んで、自分のコック服のポケットに仕舞うランウォン。……え、自前……?
「ここ数日隙あらば何かしら着せに来るけど……どうしたんだよ?」
ほっと一息ついて緊張と恐怖で凝った首を回して、改めて材料を見繕いながらいまだに襟足引かれるようにユノの後ろ姿を眺めていたランウォンに、ユノが思い切って聞いてみる。
正確にはつい、三日前。
よく話をするようになり、このランウォンの口調にも慣れ始めた時だ。
その時は調合に集中しすぎたせいで糖分摂取したくなり、スコーンとプリンを作り、一息ついていた時だった。
おもむろに近付いてきたランウォンに、特に気を向けずにキリの良いところで振り返ると。そこには質の良い生地で、袖口にたっぷりとフリルのついたブラウス。おまけにランウォンの腕には小さな紙袋がぶら下がっており、チラリとユノの瞳の色と同色のリボンみたいなのが見えた気がした。
この日、ユノは人生初の着せ替え人形となる。
その時を思い出してゲンナリとした面持ちでランウォンを見上げると、頬に手を当てながら首を傾げて、苦笑い気味に言う。
「ユノちゃん何でも似合うわね。つい着せたくなっちゃうのよ~」
ごめんなさいねぇ。
お淑やかに笑う、ランウォン。
(…………なんか……強く、言えないんだよなぁ……)
肩を落としながら、申し訳なさそうに口に手を当て誤り始めたランウォンに諦めの境地で手を振り、気にするなと言外に伝えると、パァッとランウォンの顔に笑顔が咲いた。
長引きそうな気配に制止し、空腹を主張するユノの腹を治めるためにささっと食材を籠に入れ、いつもの奥の調理場を借りる。
この要砦でも王都の王宮食堂と似たような構造をしており、これ幸いとユノは奥の一角を借りて、気まぐれキッチンを開いていた。
用意されているパン・ド・ミを一斤丸々持ってきて、適当な厚さに切っていく。
そして中に挟むものはベーコン、スクランブルエッグ、レタス、照り焼きチキン、昼食用のポテトサラダ、果物があったのでフルーツ数種類、ホイップクリームを使用する。
メニューを考えていたらユノも食べたくなってきたため、少し多めに作り始める。
量が必要になったため、広めのフライパンを2つほど借りて、具材を挟み、焼き始める。
パンの焼ける匂いが広がってきた。
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