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しおりを挟む出来上がったホットサンドを半分にカットして、木皿に盛り付ける。
一皿はベーコンエッグとレタスのサンドと、照り焼きチキン、ポテトサラダ、フルーツを一切れずつ。割と量があった。
それ以外はもう一つより大きめの皿に、盛り付ける。
「おっし。料理長、邪魔したな。いつもありがとう」
両の手に皿を持ち、後ろでユノの作業をにこやかに見ていたランウォンを振り返る。
「……いいえ~。残り半日、頑張ってねユノちゃん」
笑うユノを見てからランウォンが淑やかに手を振り、キッチンを去りゆくユノの後ろ姿を見送る。
「…………やっぱり、次は白のドレスかしらね……」
装飾は少なくシンプルで、かつ控えめになりすぎない程度の刺繍やレースをあしらって。
裾は長めに、ラインはマーメイド。足首までにスレッドを入れてもいいかもしれない。
ランウォンの密かな野望はまだ、叶わない。
ーーーーーーーーーーー
唐突な鼻のむず痒さに、ユノは咄嗟に顔を下に向けて衝撃に備えた。
「く、っしゅんっ!」
手に持つ皿を落とさないようにバランスを取りつつ、くしゃみの後の強い寒気に体を震わせる。
何故かユノの脳裏にランウォンの姿が過ぎ去った。
「ユノさん、手伝いますよ」
「ターウェ」
嫌な予感にユノが体を硬直させていると、横から手が伸びてきてユノの手の負担が軽くなり、聞き慣れた滑らかな声が聞こえた。
大皿の方を手にしたターウェがにこやかに立っており、半身を先程のメンバーが揃っているテーブルへと向けていた。
皆一緒かよ……。
苦笑しながらターウェと共にそのテーブルに近づいていくと、ヘリオンが憤った表情をしたが隣に座るハインリヒとレヴィンに宥められていた。ブレないな。
「こりゃまた沢山っすね! うまそうっす!!」
おぉ! と声を上げながら席を立ち、ターウェがテーブルに置いた大皿を見下ろしながら、既にどれを食べようかと視線を彷徨わせるティグ。そんなティグの前には空になったワンプレートとスープ用の容器。まだ食う気かコイツ。
ティグほどではないが、少し身を乗り出しているユーミールも似たような反応をしているので、若さは凄いな、と変にユノが感心しているとターウェに着席を勧められたので、最後の仕事を思い出した。
「悪い、これをユーリに届けてくるから先食べててくれ。いくつか俺の分、残しといてくれよ?」
「それは平気ですが……きちんと昼食を摂りに戻って来て下さいね?」
「流石の俺も、こんなに腹が減ってたら没頭はしないさ」
ターウェはユーリの様子見をしたのち、一緒になって調合に熱中することを心配しているようだ。
自分の仕事や研究のための調合であれば気になって食事を忘れて没頭するだろうが、今ユーリのやっていることは自分のための調合だ。ユノはユーリを、同じ薬師としてその能力は認めている。伊達に幼少期を師匠と共に過ごしていない。
それ故に余計な手出しはしないし、ユーリもユーリで薬馬鹿のため、あまり変に横槍入れると厄介なためそこはユノも自重する。
だが。
「…………嘘はだめっすよ、先生」
「嘘はダメですよ、先生」
糸目が訝しげな視線をユノにくれて、ハインリヒの穏やかな眼差しは困った子供を見るような温かい空気を持っていた。
「…………まじなんなのお前ら?」
引きつく頬をそのままに静かに問えば、やべっ、と言う顔をしたサルアは視線を逸らし、ハインリヒはにこやかに笑い、マルティカは一度だけ視線をユノにくれた後、食事を再開していた。……さらっとホットサンド食ってんじゃねぇよマルティカ!
「まぁまぁ。戻ってきてくださるなら良いんです」
クスクス笑いながら小さく手を振るターウェに見送られて、渋々その場を離れるユノ。
空いた片手で後ろ髪を掴み、苦い思いと温かい思いに眉を寄らせる。
……まぁ、悪いものじゃねぇよな。思うところはあるけども。
「なぁににやついてんの、師兄?」
いつの間にか医務室前に近づいていたようで、丁度医務室の扉を開いて姿を現したユーリがユノに気付き、静かに近寄った。
「うわっ」
気配を消して近づいてきたユーリの声に、ユノが素で驚きの声をあげると、何故かユーリが好戦的な光を宿した目でユノを見つめた。
「何、鈍った? 鍛錬付き合おうか?」
視線をユノに流しながら、提案するユーリ。
ユーリの作り出したピリついた空気に半眼になりながら皿を差し出すと、キョトンとした顔でユーリが受け取った。
「いつでも相手するが、まずは回復からな」
「おっ、うまそう」
行儀悪くも廊下でホットサンドの一切れを手にしたユーリは間髪置かずに、それを口に頬張った。
先ほどの鋭い視線は何処へやら。どことなく飼い猫のような雰囲気を漂わせて、立ち食いをさせる気はないため、ユーリを促して医務室へとユノも一緒に入っていく。
皿はユーリに渡しているため、手ぶらのユノはスタスタとユーリを置いて調合室を覗き込んだ。
見れば綺麗に片付けられており、器具は律儀に洗ってくれたのかタオルが下に敷かれて置いてあった。
「終わったのか。彼はどうだ?」
「ふぉん、ふぁりふぁふぉー。ふぁだ寝てるよ」
「食い終わってから喋れ」
振り返るとリスのように頬を膨らませたユーリがいて、注意を言えた後、ユノは堪えきれずに吹き出した。暫し無言が続く。
嚥下の様子を見て、ユノがゆったりと腕を組んで待っているとペロリと口の端を舐めたユーリが徐に口を開いた。
「いくつか情報共有しときたいんだけどさ」
「? あぁ、なんだ?」
「師匠、今行方不明」
「はっ!? あの人が!?」
組んでいた腕が解け目元を手で覆ったが、改めて考えるとそう悲観することはないなと思い直す。
割と長期間いないこともあるし、本人も根っからの研究者のため調合していて時間を忘れるなんて同居生活中にも多々あったし、副職が国の重要職だったため、そちらの仕事に追われている可能性もある。
ただユーリが‘行方不明’という言葉を使ったことに違和感を覚えて、ユノは片眉を上げた表情でユーリに視線で問いかける。
気付いたユーリは肩を竦めてもう一切れ口に含み、嚥下したタイミングでさっぱりとした口調で言った。
「俺も実はよくわかってないんだ。ただいつもと違うのは、謎の調合指示書があってさ。それを時間がかかっても良いから完成させてくれ、って」
「……それはおかしいな。いつも長期間空ける時はそんな指示書なんて書かないのに」
「そ。それに行き先も言わなかった。突然姿が消えて、指示書だけあったんだよ」
だから行方不明。
と、付け足したユーリは再度ホットサンドを口に含み、うまそうに表情を緩ませた。
ユノが口元に手を当て思考するも、確かに師匠の行動としては異常事態だが……ある意味でいつも通りとしか言えない部分もある。
指示書は書かなくても外出する際は何かしらの指示や、ちょっとした引き継ぎはする。行き先を言って出発日時を報告しても、師匠本人が待ちきれずにいつの間にか出発していたこともある。
その時は近隣の小さな村に伝わっていた秘薬の調合依頼があった。
なんでも先代薬師には弟子は何人かいたものの、後継となるにはまだ修練が必要だったようで、その秘薬の調合レシピを伝授していなかったという。ただレシピ自体は残していたようで、その解読と調合をその村の長に依頼されたのだ。その村特有の病があるらしく、それが流行る時期が近いために、随分急かされていた記憶がある。ただ師匠はその秘薬に興味を示し、予定していた日程より先に出発し、予想していた旅程を短縮してその村に着いたらしい。なんとも師匠らしい……。
というかそもそもそんな大事な秘薬レシピ、後継関係なくちゃんと弟子にも伝授しとけよまじで。門外不出ならレシピ素材解体して弟子に渡すとかさぁ。
「で、今その調合してんだけど……」
二つ目を食べ終わったユーリがソースのついた親指を舐め、三つ目を取ろうと皿に手を伸ばす。
「だけど?」
「師兄にも協力して欲しいな、って」
てへ、と音がつくような笑顔をユノに向けるユーリ。
「あ、ついでに彼だけどさ。どうにも……臭うんだよね」
問題発言ってそんな重ねてするものだっけ?
====================
おはようございます、こんにちは、こんばんは
涙希です。
実は22話と23話、結構余裕を持って完成していたのですが残念なことに保存し忘れてデータがパァになりました……。
あぁぁぁあ……悲しみ……(;ω;)
拙い作品ではありますが、楽しんでくれたら幸いです(ぐすん)
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