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しおりを挟む食堂へ通じる廊下をいくと、途中要砦の中に国境の反対側に設置されている中庭と呼ばれる休憩所がある。
要砦の名に相応しい堅牢な建物に似合わず、落ち着いた緑と植えられた季節の花の色が対比となり、整えられたその場所はこの要砦に勤める騎士にとって憩いの場となっている。夏の季節では色んな緑が溢れ、天気の良い日はその木漏れ日も相まって、空気がよく静謐な雰囲気がある。時折咲く、朱い花びらや黄の花びらが映えること映えること。
今は常緑樹の緑や紅葉した黄色に、落ちた葉の色差が言外に季節を教えてくれた。
吹く風も空気も冷たさを含んでいるため、制服をきちんと着こなし、少しでも風の入りを防ぐように袖を伸ばしてみる。
「あーさっむ……」
書類を飛ばさないようにしっかりと持ちながら、目的地である中庭に通じる廊下を歩くと、廊下の真ん中に中庭への扉が開いた。
見えた暗緑の長髪に思わず声を上げると、タオルを首にかけて顔を拭いていたサルアが顔を上げた。
「あれ、先生。何してるんです?」
休憩していたにしては大量の汗を拭いながら、にこやかに声をかけてきたサルアに持っている書類を見せながら、目的の人物の名を言えば、中庭にいると言われてサルアと一緒に扉を開けて外に出る。
「え、なんでお前もくんの?」
「好奇心です」
「真面目な話だよ阿呆」
「ちぇ~」
当然のようについてきたサルアに振り返りながら問えば、真面目な顔して完全な野次馬根性丸出しにしたサルアに再度書類を掲げて、表題を指差す。チラッと見たサルアはユノの言葉が事実だと確認し、口を尖らせたもののそのままついてきたので、なんとも言えなかった。
よくよく見ると中庭にいる休憩中の騎士がどことなく疲れているような気がして、首を傾げながら見ていると、全員総じて汗を大量にかいていた。しまいにゃ持ってきていた水筒の中身を頭からかぶっている奴もいて、思わず今日の訓練メニューの内容が気になった。
丁度いいや、と思い首だけ動かしながらサルアに訓練内容を聞いてみると、特別ハードでもイージーでもなくいつも通り。
眉を寄せて、今度ははっきりと問いかけてみた。
「……なんでそんな発汗してんだよ?」
「あぁ、これさっきまで鬼ごっこしてたもんで」
「…………?」
思わず足を止めて振り返り、サルアの顔を見つめる。
「そんな、有り得ないもの見るような顔しないでくださいよ~。久々にやったら、意外とこれが楽しくって。あ、先生もやります?」
は?
と言葉に出さずとも表情で表現できていたようで、大笑いしながらサルアがタオルで止まらない汗を頭に被せると、まばらに見えていた騎士がとある一角でまとまって座り込んでいる集団を指差しつつ、サルアがユノを誘う。
「……休憩中じゃなかったのか?」
「休憩中ですよ? あとまだ15分くらいあるので、先生もどうです?」
遠回しの返答に気付いているのか否か。
前者だよな、絶対これ。
「おーいサルアー!! もう一戦行くぞー!!」
「分かったー!! 少し待ってろー! ……で、どうです?」
にこ、と細めが弧を描く。
座り込んでいた集団が続々立ち上がり、それぞれ準備運動をし始めている。
サルアを呼んでいた騎士も腕を横に伸ばしたりと準備運動を始め、鬼を決めようと集合し始めた。
早く早く、と言葉はなくても聞こえるサルアの催促に(……まぁ一回くらいならいけるか)と押し負けて頷くと、輝かんばかりの笑顔に変わったサルアがユノの手を引っ張り、集団へ突撃していった。
「先生もやるってさー!!」
「ちょ、おい! 引っ張るな、って……!!」
見た目通りの印象の足の速さでその集団と合流したサルアは、じゃんけんを始めようとした彼らにユノが見えるようにその腕を掲げて参加することを告げた。痛みはなかったが引っ張られたことでたたらを踏んだユノは、サルアの肩口にぶつかる形でその動きを止めた。
つかこの人数でじゃんけんかよ。じゃんけんの時点で時間かかるだろ、これ。
と思ったが流石、騎士。
凄まじい動体視力で流れるように勝者と敗者に分かれていき、ついに最終決戦になった。
「最初はグー! ジャーンケン、ポンッ!!」
対戦同士が言うのではなく、周囲が声を出し、当の二人が出したものは。
ユノがグーで、セグという青年がパー。
ユノはグー。
「………っ、ブハァッ!? あっはっはっは! せ、先生っ……! 負けてるっ………!!」
一瞬の沈黙ののち堪えきれないように笑い出したサルアに向けて、ユノは出した手のままその仰け反ったサルアの腹へと一発お見舞いした。
鈍く空気を出す音が聞こえた。
そんな強くやってはいないため、そのうち復活するだろう。
ふぅ、と息をついて落ち着くと負けちまったもんは仕方がねぇ、と思考を切り替えて、手を数度叩くとカウントを開始を宣言する。
「ぜってぇ速攻で終わらせる」
にこりと笑うとサルアに釣られて笑っていた騎士の笑顔が固まったのは、気のせいではない。
「はい、いーち。にーぃ。さぁーん」
しーぃ、ごーぉ。
と進めていくと慌ててユノから離れていく騎士達。
そんな中ノロノロと動き出したサルアだが、やはりタフだ。段々とその動きが速くなっていき、既に1番遠くに走っていった。
この中庭は、鬼ごっこをしている時点でお察しだが、なかなかの広さを誇る。
遠いサルアの背中姿が、ユノのいる場所からは豆粒のようだ。
彼らは素早く、自由に走っているここだが手入れはされていても草木が生える場所だ。足場も落ちた葉によって悪く、木の根は隠されている。
口で数えながら軽く足踏みや準備運動をしながら地面の様子を確かめると、中庭で鬼ごっこもいい訓練かもな、と遊びながら感心するユノ。今度医療班の皆ともやろうか、とメモしながら、カウントを終えたので呼吸を整えながら、見える範囲にいる1番近い騎士をロックオンする。
速攻、と宣言したからには手を抜くわけにはいかないな、と不敵に舌舐めずりをする。
ぐ、と足に力を込めると、次には落ち葉と砂が舞った。
「え、ちょ……えっ!? 俺っ!?」
「いつまでも笑ってっからだよ。おら、セグとっ捕まえた~」
最後まで笑っていた、ユノの対戦相手であるセグを背後から、脇に腕を刺し込んで持ち上げるように強制停止させる。
体格も身長もあるセグを軽く、足を浮かせる程持ち上げてクルリと後ろ側に回して下ろすと、動きの止まったセグの背中をポンと押して、捕まった者の集合場所である小さな噴水へと向かわせる。
「え、やば。ゴリラ?」
呆然としたように呟いたセグの言葉が、残念ながら聞こえてしまったので強めに背中を叩いておいた。
失礼な。お前らの鍛え方が足りないだけだわ。
「おーら、次行くぞ~!」
腕を軽く回しながら歩き始めれば、様子を見ていた彼らはそれを皮切りに蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
次のターゲットに狙いを定めて足に力を込めれば、瞬間で距離を縮めて、その背中から抱きつくように強制停止させ、勢いのままセグと同様に回して背中を押す。ついでユノの真正面に走ってきた彼を抱き止めて、その彼の両肩を掴んで回せば、集合場所へと足を一歩踏み出す。
ユノの速度が早かったために捕まえた二人目の数歩後ろを走っていた彼は、走っていたために勢いを殺せず、また方向転換もできずにユノへと突っ込んでいったのが現実だ。だが捕まった本人の認識ではいつの間にかユノがいて、引き寄せられるように自分から掴まりに行ったという感じか。
驚いたような顔から言葉を無くしたようにユノを見つめるその表情は、なかなか面白い。
気分が上がったユノはその気分のままに、続々逃げる騎士を捕まえていく。
「バケモンすぎんでしょ先生~~~!!??」
サルアの叫びが響き渡った中庭には、ユノから逃げるために回復したはずの体力を完全消耗した騎士達が屍となって転がっていた。
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