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番外編
たーちゃんとれもねーど(前編)
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「うん。今日の分もしっかりと浸かっている」
「わ~い」
「滑りやすいから落とさないようにな」
「うん」
親父さんがたーちゃんに渡してくれたのはレモンの蜂蜜漬け。
先日、ランプのお客さんから迷惑料としてもらった大量のレモンと蜂蜜を使用している。それを水やサイダーで割って飲むのが最近のたーちゃんのお気に入りなのだ。
ちなみに大きめの容器いっぱいに作ってもらうのはこれで三度目。
とはいえたーちゃん一人で飲んでいるわけではない。お裾分けも含めてマイブームとなっているのだ。
「じぜるぅ」
「ちょっと待ってね」
グラスにレモンの蜂蜜漬けを入れ、冷たい水を注いでいく。軽くかき混ぜて、たーちゃんにバトンタッチ。
「ありがとぉ。おやじさんどおぞ~」
「ありがとな」
「おかみさんにもわたしにいく?」
「うん。一緒に行こうか」
「たーちゃんものみたいなぁ」
「じゃあ三つ作って、女将さんに渡したら部屋で一緒に飲もう?」
「やったぁ」
たーちゃんはルンルンとはしゃぎながら、親父さんからたーちゃんのグラスを受け取る。ドワーフさんからもらったグラスだ。ジゼルの分のグラスも出してもらい、三つのグラスにレモネードを作っていく。
「私が自分のとたーちゃんの持っていくから、たーちゃんには女将さんの分お願いしていい?」
「まかされたぁ!」
胸を張るたーちゃんを床に下ろし、グラスを持たせる。ここ最近は毎日のようにせっせと運んでいるため、慣れたものである。
ちなみに親父さんがこっそりと、たーちゃんが運ぶ用の小さめのグラスを購入したことは内緒である。
グラスを両手で大事そうに抱えて歩くたーちゃんは、早くも宿の名物となりつつある。
『俺たちもたーちゃんにレモネードを運んでもらいたい!』『頑張るたーちゃんを間近で応援したい!』との強い要望があり、近日中に宿屋のメニューに『たーちゃんのれもねーど』が追加される予定だ。
たーちゃんが起きて宿屋のお仕事をしている時に限り、たーちゃん本人が運んでくれるサービス付き。疲れると早めに終わりますとの注意書きも添える予定。
こちらは新しく購入した比較的お手頃価格の蜂蜜とレモンを使用するつもりで、試作を行っている。
主な味見役はメニュー名にもなったたーちゃんと、食べ物にはちょっぴりうるさいドラゴンさんである。
巣材集めで疲れた身体にレモンの蜂蜜漬けはぴったりらしい。
ドランによって錬金飴の制限がかけられているため、味見役にも乗り気なのだ。
まだもう少し調整が必要だが、宿屋ご利用のお客様限定でレモンの蜂蜜漬けのテイクアウトサービスを行うことも決定している。
カウンターの近くまでやってくると、見慣れた人が立っていた。
「たーちゃん。こんにちは」
「さんどいっちさんだ!」
サンドイッチさんである。たーちゃんは飲み物が溢れないように注意しながらも、嬉しさを隠しきれずにズンズンと進み出す。
彼はたーちゃんに視線を合わせるようにしゃがむと、たーちゃんが大事そうに抱えているグラスを指差した。
「それはなんだ?」
「れもねーど。おやじさんがつくってくれたのみものでねぇ、たーちゃんのおきにいりなのぉ」
「親父さんが……それは間違いなく美味しいだろうな」
神妙な面持ちをする彼に、たーちゃんはコクコクと頷いた。
肯定の気持ちが強すぎてレモネードが少し床に溢れてしまった。後で拭いておこう。
「あとでさんどいっちさんにもおすそわけしてあげるねぇ」
「いいのか?」
「うん」
「後でお部屋にお持ちしますね」
「ありがとう。楽しみにしてる。……と、そうだ。お嬢さんに渡すものがあったんだった」
「私に、ですか?」
「ドラゴン使いと番になったんだろう。おめでとう」
彼はそう言いながら、ポケットからキラキラと輝く石を取り出した。角度によって微妙に色が異なる。
「それはお守りみたいなもので、大事にしてると少しだけいいことがある……はず」
「ありがとうございます。大切にしますね」
「それ、たーちゃんもつくれるよぉ」
「作るの?」
「じぜるほしい?」
「たーちゃんのは今度もらおうかな」
「ほしくなったらいってねぇ」
「うん」
どんな効果があるのか。サンドイッチさんはともかく、たーちゃんはどうやって作るのか。具体的なところはよく分からないのだが、綺麗で見ているだけでも楽しい。
自室のよく見えるところに飾らせてもらうことにしよう。
ドランも綺麗なものが好きだから、家が完成したらリビングに飾るのもいいかもしれない。
それにしてもサンドイッチさんは最近王都に来てなかったはずなのに、どこでジゼルがドランの番になったことを知ったのか。女将さんに聞いたにしてもお祝いの品になりそうな物をちょうどよく持っていた、なんてことがあるのだろうか。
……サンドイッチさんならあり得るな。
なにせサンドイッチが大好きなこと以外のほとんどが謎に包まれた人だ。お守りも飴みたいに常備しているのかもしれない。
女将さんにレモネードを渡し、一旦自室にグラスを置いてから再びキッチンに戻る。
親父さんに用意してもらっている間にささっとレモネードを拭き取りに向かう。雑巾と手を洗ってから、たーちゃんと一緒にサンドイッチさんの部屋へと向かうのだった。
「わ~い」
「滑りやすいから落とさないようにな」
「うん」
親父さんがたーちゃんに渡してくれたのはレモンの蜂蜜漬け。
先日、ランプのお客さんから迷惑料としてもらった大量のレモンと蜂蜜を使用している。それを水やサイダーで割って飲むのが最近のたーちゃんのお気に入りなのだ。
ちなみに大きめの容器いっぱいに作ってもらうのはこれで三度目。
とはいえたーちゃん一人で飲んでいるわけではない。お裾分けも含めてマイブームとなっているのだ。
「じぜるぅ」
「ちょっと待ってね」
グラスにレモンの蜂蜜漬けを入れ、冷たい水を注いでいく。軽くかき混ぜて、たーちゃんにバトンタッチ。
「ありがとぉ。おやじさんどおぞ~」
「ありがとな」
「おかみさんにもわたしにいく?」
「うん。一緒に行こうか」
「たーちゃんものみたいなぁ」
「じゃあ三つ作って、女将さんに渡したら部屋で一緒に飲もう?」
「やったぁ」
たーちゃんはルンルンとはしゃぎながら、親父さんからたーちゃんのグラスを受け取る。ドワーフさんからもらったグラスだ。ジゼルの分のグラスも出してもらい、三つのグラスにレモネードを作っていく。
「私が自分のとたーちゃんの持っていくから、たーちゃんには女将さんの分お願いしていい?」
「まかされたぁ!」
胸を張るたーちゃんを床に下ろし、グラスを持たせる。ここ最近は毎日のようにせっせと運んでいるため、慣れたものである。
ちなみに親父さんがこっそりと、たーちゃんが運ぶ用の小さめのグラスを購入したことは内緒である。
グラスを両手で大事そうに抱えて歩くたーちゃんは、早くも宿の名物となりつつある。
『俺たちもたーちゃんにレモネードを運んでもらいたい!』『頑張るたーちゃんを間近で応援したい!』との強い要望があり、近日中に宿屋のメニューに『たーちゃんのれもねーど』が追加される予定だ。
たーちゃんが起きて宿屋のお仕事をしている時に限り、たーちゃん本人が運んでくれるサービス付き。疲れると早めに終わりますとの注意書きも添える予定。
こちらは新しく購入した比較的お手頃価格の蜂蜜とレモンを使用するつもりで、試作を行っている。
主な味見役はメニュー名にもなったたーちゃんと、食べ物にはちょっぴりうるさいドラゴンさんである。
巣材集めで疲れた身体にレモンの蜂蜜漬けはぴったりらしい。
ドランによって錬金飴の制限がかけられているため、味見役にも乗り気なのだ。
まだもう少し調整が必要だが、宿屋ご利用のお客様限定でレモンの蜂蜜漬けのテイクアウトサービスを行うことも決定している。
カウンターの近くまでやってくると、見慣れた人が立っていた。
「たーちゃん。こんにちは」
「さんどいっちさんだ!」
サンドイッチさんである。たーちゃんは飲み物が溢れないように注意しながらも、嬉しさを隠しきれずにズンズンと進み出す。
彼はたーちゃんに視線を合わせるようにしゃがむと、たーちゃんが大事そうに抱えているグラスを指差した。
「それはなんだ?」
「れもねーど。おやじさんがつくってくれたのみものでねぇ、たーちゃんのおきにいりなのぉ」
「親父さんが……それは間違いなく美味しいだろうな」
神妙な面持ちをする彼に、たーちゃんはコクコクと頷いた。
肯定の気持ちが強すぎてレモネードが少し床に溢れてしまった。後で拭いておこう。
「あとでさんどいっちさんにもおすそわけしてあげるねぇ」
「いいのか?」
「うん」
「後でお部屋にお持ちしますね」
「ありがとう。楽しみにしてる。……と、そうだ。お嬢さんに渡すものがあったんだった」
「私に、ですか?」
「ドラゴン使いと番になったんだろう。おめでとう」
彼はそう言いながら、ポケットからキラキラと輝く石を取り出した。角度によって微妙に色が異なる。
「それはお守りみたいなもので、大事にしてると少しだけいいことがある……はず」
「ありがとうございます。大切にしますね」
「それ、たーちゃんもつくれるよぉ」
「作るの?」
「じぜるほしい?」
「たーちゃんのは今度もらおうかな」
「ほしくなったらいってねぇ」
「うん」
どんな効果があるのか。サンドイッチさんはともかく、たーちゃんはどうやって作るのか。具体的なところはよく分からないのだが、綺麗で見ているだけでも楽しい。
自室のよく見えるところに飾らせてもらうことにしよう。
ドランも綺麗なものが好きだから、家が完成したらリビングに飾るのもいいかもしれない。
それにしてもサンドイッチさんは最近王都に来てなかったはずなのに、どこでジゼルがドランの番になったことを知ったのか。女将さんに聞いたにしてもお祝いの品になりそうな物をちょうどよく持っていた、なんてことがあるのだろうか。
……サンドイッチさんならあり得るな。
なにせサンドイッチが大好きなこと以外のほとんどが謎に包まれた人だ。お守りも飴みたいに常備しているのかもしれない。
女将さんにレモネードを渡し、一旦自室にグラスを置いてから再びキッチンに戻る。
親父さんに用意してもらっている間にささっとレモネードを拭き取りに向かう。雑巾と手を洗ってから、たーちゃんと一緒にサンドイッチさんの部屋へと向かうのだった。
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