王子をテイムした悪役令嬢【連載版】

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プロローグ ロードボタンはどこですか?!

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「アドリエンヌ。君は王家最大の秘密を知ったんだ。婚約、してくれるよな?」
 炎を彷彿とさせるほどの赤い髪に、全てを見透かすような金色の瞳。目の前の王子様は、私がこの二つの色に弱いことを知っているのだろう。断られるなどつゆほども思っていないようだ。
 自身に満ちあふれたイケメンが憎い。
 わざわざ『王家最大の秘密』なんてたいそうなものまで振りかざして、婚約を迫るなんて卑怯すぎる。

 こっちが公爵令嬢だから、格下だから断れないとでも思っているのだろう。
 実際、この場にお父様がいたら「はい、よろこんで!」の二つ返事で婚約が成立してしまうかもしれない。
 だがここは王城のバラ園。私達以外誰も居ない。

 断るなら、この申し入れをなかったことにするなら今がチャンスだ。
 だから私は最大級の笑みを浮かべて口を開く。

「嫌です。断固拒否します」
 自ら王子様との婚約を受け入れるのは、よほど自分の教養の高さと身分に自信があるか、ロマンスに憧れているか、玉の輿狙いかの三択だろう。
 私はそのどれでもない。
 特に教養とかない。勉強は嫌いだし、人の上に立つとか責任感を伴うものは苦手中の苦手なのだ。その上、今世の死因に関わるかもしれない王子様との婚約なんて絶対嫌。

 イケメン? それがなんだ!
 顔なんて死んだら拝む機会なんてなくなるし、生理的に無理でもなければいずれ慣れる。
 イケメンなんて所詮、顔のパーツが整っているだけ。私はメンクイではないのだ。
 イケメンは数日も見てたら飽きる。生涯を賭してまで拝み倒したいものではないのだ。

 誰かと婚姻を結びたかったら、他の女性でも連れてくるんだな!

 お茶会の会場に戻れば公爵令嬢なんてたくさんいるのだ。よりによってこんなお茶会を抜け出すような不良娘を選ぶことはないだろう。

「お前が嫌と言ったところで王家が打診した婚約を正当な理由もなく断るなんて出来ないのだが」
「詐欺だ、詐欺。私は政略的にハメられたんだ」

 くっ、俺様属性持ちか。
 舌打ちしたい気持ちを我慢して、抗議の姿勢に移る。
 王家が絶対的権力を有しているとかこの国の権力バランスはどうなっているのだ。
 公爵家を筆頭とした貴族や官僚達が存在するのだから、もう少し分散すればいいのに……。もしくは自分の娘を婚約者に! とゴリ押しするために、他の家の足を引っ張ろうとする家とか。まともな意見を進言する宰相とかでもいい。

 とにかくこの暴走王子を止めてくれるなら誰でも良い。
 良い感じのポジションの人が来てくれないかと周りを見渡した所で、今日も今日とてバラ園は閑散としている。助けや捜索者など来る様子もない。
 だからこそ王子は正式な場所ではなく、この場で切り出したのだろう。

 策士め……。
 自分の考えのなさを悔やんだ所でもう遅い。


 私はもう、彼にハメられた後なのだ。


「詐欺も何もアドリエンヌ以外の女は引っかかる可能性が限りなく0に近い作戦を好んで打ち出す訳がないだろう。時間の無駄だ。ということで明日からよろしく頼むぞ、マスター。いや、俺の麗しの婚約者様」
 しかも私を狙い打ち。
 自らの身を危険に晒しながらも、確実に私を仕留めたイケメン王子はにっこりと微笑んで私の手の甲にキスを落とす。

 端から見ればロマンチックな光景だ。
 会場に残されたご令嬢なら目をハートに変えて「喜んで」と一つ返事をすることだろう。

 そう、他のご令嬢ならば。私はそんじゃそこらのご令嬢とは違うのだ。

「いやああああああああ」
 私の悲鳴は城に木霊する。高くて良く響く声だ。自分でも少し耳が痛い。けれど耳の痛みよりも精神に負った痛みの方が大きいのだ。手を胸元に引き寄せ、ハンカチで勢いよく甲を擦る。

 王子の唇が触れるなんて恐ろしい。
 この痕を速攻で消し去りたい。

 なんならここ二ヶ月ほどの過去もまとめて消し去りたい。

 ロード! ロードボタンはどこですか!?

 記憶を取り戻した所から全てやり直したい。
 今度こそ上手く立ち回る自信がある。断固としてベッドから出ないとか、いっそのこと二ヶ月は安静にしてなければならない怪我をするのもいいかもしれない。

 なぜあのときの私はお茶会に足を運んでしまったのか。
 いや、せめてバラ園に足を踏み入れなければ何かが変わっていたかもしれない。


 私はただ断罪されるまで悠々自適にファンタジーライフを謳歌したかっただけなのに……。
 出来ることなら悪役令嬢という役職を辞退したかっただけなのに……。
 どうしてこうなった!?


 知識もなければ解説すらなし。バッドエンド不可避? な悪役令嬢ルートに突入した私は、これから先、どうやって生きていけば良いのだろうか?

 目元をハンカチで押さえれば、王子の腕が肩に回される。

「気を張らず、今まで通りでいてくれればいい」
「だったら婚姻とか辞めて、今まで通りの関係で……」
「それは無理だ」

 イケメンスマイルを浮かべる王子様をぶん殴りたい気持ちを押さえるために、私は両手で顔面を押さえ、地面に向かって叫ぶ。

「元に戻してえええええええ」
 けれど叫び声を上げた所で、この男がひるむ気配はない。今さら奇行が一つ増えた所で気にしないのだろう。
 接した時間は少なくが、私はこの男相手に素の自分を隠すことなく接していたのだから。

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