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悪役令嬢には運命の人がゴロゴロといるらしい
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けれど今の私がすべきなのは前世に思いを馳せるのではなく、今世と向き合うことだ。
この世界で業火の炎とは……なんて話を出来る相手がいるとしたら、それは私を殺す相手である。
多分私が悪役令嬢として活躍中に遭遇するであろう、ある意味、私の運命の人だ。
ああ、なんてロマンチックな響きだろうか……絶対会いたくないし、出来ればずっと引っ込んでいて欲しいけど。
遭遇したら顔を赤らめるどころか血の気が白旗上げて退却するわ。
とはいえ、どのルートでも断罪されるということは私の運命は他にもある訳で、業火の炎さんにだけ構っている暇はない。
私の運命の人は各地にゴロゴロと転がっていることだろう。
どのくらいの確率で遭遇するものなのかすら分からないことも恐ろしい。
通常、運命の相手は天文学的確率で遭遇するものだ。
確かその確率を数字として導き出すための公式もあったような? だがそのデータも、複数のデータありきのものだったはず。公式も覚えていなければデータも保有していない私に、運命が降りかかる確率を導き出すことは不可能だ。
知識の浅さが憎い。
けれどこんな私でも、たった一つだけ解決の糸口を見つけ出すことは出来た。
トモちゃんは確かに言ったのだ。
『第一王子の婚約者である悪役令嬢』は断罪されるーーと。
超重要情報をキャッチしていた自分を盛大に褒めたい気分だ。
今の私ならコンビニでちょっとお高い、200円超えのアイスを買っても許されることだろう。
なにせ今の私は第一王子の婚約者ではないのだから。
言い換えれば、私はまだ正式な悪役令嬢ではない。悪役令嬢(仮)。むしろ仮免すら持っていない状態。
正確に言えば、私には王子様どうのこうの以前に婚約者と呼べる相手がいない。
年齢的にそろそろいてもおかしくはないのだが、不思議と話すらない。私が知らないだけで話はあるのかもしれないが、今のところは隠れ婚約者もいない。
けれど悪役令嬢、何それ? 所詮、前世の記憶でしょう? とうかうかもしていられない。
最近、第一王子が婚約を解消したらしい。
何があったのかまでは聞かされていないが、次期王子妃のポジションがいつまでも空席であるはずがない。近々、次の婚約者が選出されることだろう。
そして私が悪役令嬢ポジションに収まる可能性もゼロではない。
私が転生を自覚したことで回避するという道が発生した訳だが、両親が婚約を決めてしまう可能性もある。というか、貴族の子どもの婚約・婚姻において本人の意思が介入することはごく稀である。それでもいつ切れるか分からないほっそい糸でもそれ以外頼るもののないのだから仕方ないだろう。
小さな手を伸ばしグッと引き寄せた運命の糸を、身体にぐるぐると巻き付ける。
魔の手の中に落ちませんように、と祈りながらパチンと頬を打った。
「誕生日おめでとう、アドリエンヌ」
「ありがとうございます」
一晩明けたら頭がおかしくなったと思われないように、私はいつものように食事へと向かった。
テーブルには私の好物ばかりが並んでいる。
甘やかされているのではなく、好き嫌いが多すぎるのだ。アドリエンヌという娘は気に入らないものが並ぶとすぐに癇癪を起こす。これは面倒臭いことを避けるための食事なのだ。
前世の記憶が戻ったことで、嫌いな物のほとんどを克服した私には少しだけ寂しく感じる。
野菜はほぼなく、コーンスープでトウモロコシの甘さを感じながら無言で食事を取っていく。
前世で家族の食事といえば、リモコンの争奪戦から始まり、基本人の声が途切れることはなかった。
昼間だってトモちゃんとオタクトークに花を咲かせる。
なのに今世と来たら誰一人声を発さない。
部屋に入ってから耳にしたのはお祝いの言葉だけ。決して貴族だから行儀を重んじているとかではない。
会話の少ない家なのだ。
両親はよくある政略結婚で、愛人こそ抱えていないものの幸せな家族と聞かれれば悩む。よくある貴族の家。
食事以外でも度々癇癪を起こしていたアドリエンヌだが、そのほとんどが両親に構って欲しいからこそ。
基本的に両親にはスルーされるか物だけ与えられ、使用人達に迷惑をかけて終わる訳だが。そしてその使用人達にすらもいつものことだと流される始末。
ワガママばかり言うのは良くないとはいえ、これはこれで悲しすぎる。とはいえ、王子様にそんなことは関係ない。あくまでアドリエンヌと家族の問題だ。
正直、よくもまぁこんなワガママ娘が王子様の婚約者になれたものだと思ってしまう。特別な力を持った平民になびく気持ちを少しくらいは理解出来る。
でも王子に完全同意出来ないのは、私がそのワガママ娘だから。他人であったら全力で首を縦に振ることだろう。
メイプルシロップに溺れたパンケーキを口に運びながら、朝食みたいに甘い人生を歩みたいものだと今後の未来を見つめる。とはいえ、乙女ゲーム知識のない私の視線の先にあるのは無表情の父の顔だけだが。アドリエンヌと同じ金色の髪すら揺らさずに食事を取る父はまるで置物のよう。顔の作りはよく、世に言うイケメンなのだが、父親であると思うとイケメン見物にシフトする気さえ起きない。
栄養を摂取する場と化したこの場にいるだけで息が詰まりそう。
一日三回もこの場所に集まらなければいけないなんて、苦行もいいところだ。
王子様が登場する前からこんなに辛いなんて……。
私の第二の人生は苦難の連続かもしれない。ずーんと沈みながら、べちょべちょになったパンケーキを流し込むのだった。
この世界で業火の炎とは……なんて話を出来る相手がいるとしたら、それは私を殺す相手である。
多分私が悪役令嬢として活躍中に遭遇するであろう、ある意味、私の運命の人だ。
ああ、なんてロマンチックな響きだろうか……絶対会いたくないし、出来ればずっと引っ込んでいて欲しいけど。
遭遇したら顔を赤らめるどころか血の気が白旗上げて退却するわ。
とはいえ、どのルートでも断罪されるということは私の運命は他にもある訳で、業火の炎さんにだけ構っている暇はない。
私の運命の人は各地にゴロゴロと転がっていることだろう。
どのくらいの確率で遭遇するものなのかすら分からないことも恐ろしい。
通常、運命の相手は天文学的確率で遭遇するものだ。
確かその確率を数字として導き出すための公式もあったような? だがそのデータも、複数のデータありきのものだったはず。公式も覚えていなければデータも保有していない私に、運命が降りかかる確率を導き出すことは不可能だ。
知識の浅さが憎い。
けれどこんな私でも、たった一つだけ解決の糸口を見つけ出すことは出来た。
トモちゃんは確かに言ったのだ。
『第一王子の婚約者である悪役令嬢』は断罪されるーーと。
超重要情報をキャッチしていた自分を盛大に褒めたい気分だ。
今の私ならコンビニでちょっとお高い、200円超えのアイスを買っても許されることだろう。
なにせ今の私は第一王子の婚約者ではないのだから。
言い換えれば、私はまだ正式な悪役令嬢ではない。悪役令嬢(仮)。むしろ仮免すら持っていない状態。
正確に言えば、私には王子様どうのこうの以前に婚約者と呼べる相手がいない。
年齢的にそろそろいてもおかしくはないのだが、不思議と話すらない。私が知らないだけで話はあるのかもしれないが、今のところは隠れ婚約者もいない。
けれど悪役令嬢、何それ? 所詮、前世の記憶でしょう? とうかうかもしていられない。
最近、第一王子が婚約を解消したらしい。
何があったのかまでは聞かされていないが、次期王子妃のポジションがいつまでも空席であるはずがない。近々、次の婚約者が選出されることだろう。
そして私が悪役令嬢ポジションに収まる可能性もゼロではない。
私が転生を自覚したことで回避するという道が発生した訳だが、両親が婚約を決めてしまう可能性もある。というか、貴族の子どもの婚約・婚姻において本人の意思が介入することはごく稀である。それでもいつ切れるか分からないほっそい糸でもそれ以外頼るもののないのだから仕方ないだろう。
小さな手を伸ばしグッと引き寄せた運命の糸を、身体にぐるぐると巻き付ける。
魔の手の中に落ちませんように、と祈りながらパチンと頬を打った。
「誕生日おめでとう、アドリエンヌ」
「ありがとうございます」
一晩明けたら頭がおかしくなったと思われないように、私はいつものように食事へと向かった。
テーブルには私の好物ばかりが並んでいる。
甘やかされているのではなく、好き嫌いが多すぎるのだ。アドリエンヌという娘は気に入らないものが並ぶとすぐに癇癪を起こす。これは面倒臭いことを避けるための食事なのだ。
前世の記憶が戻ったことで、嫌いな物のほとんどを克服した私には少しだけ寂しく感じる。
野菜はほぼなく、コーンスープでトウモロコシの甘さを感じながら無言で食事を取っていく。
前世で家族の食事といえば、リモコンの争奪戦から始まり、基本人の声が途切れることはなかった。
昼間だってトモちゃんとオタクトークに花を咲かせる。
なのに今世と来たら誰一人声を発さない。
部屋に入ってから耳にしたのはお祝いの言葉だけ。決して貴族だから行儀を重んじているとかではない。
会話の少ない家なのだ。
両親はよくある政略結婚で、愛人こそ抱えていないものの幸せな家族と聞かれれば悩む。よくある貴族の家。
食事以外でも度々癇癪を起こしていたアドリエンヌだが、そのほとんどが両親に構って欲しいからこそ。
基本的に両親にはスルーされるか物だけ与えられ、使用人達に迷惑をかけて終わる訳だが。そしてその使用人達にすらもいつものことだと流される始末。
ワガママばかり言うのは良くないとはいえ、これはこれで悲しすぎる。とはいえ、王子様にそんなことは関係ない。あくまでアドリエンヌと家族の問題だ。
正直、よくもまぁこんなワガママ娘が王子様の婚約者になれたものだと思ってしまう。特別な力を持った平民になびく気持ちを少しくらいは理解出来る。
でも王子に完全同意出来ないのは、私がそのワガママ娘だから。他人であったら全力で首を縦に振ることだろう。
メイプルシロップに溺れたパンケーキを口に運びながら、朝食みたいに甘い人生を歩みたいものだと今後の未来を見つめる。とはいえ、乙女ゲーム知識のない私の視線の先にあるのは無表情の父の顔だけだが。アドリエンヌと同じ金色の髪すら揺らさずに食事を取る父はまるで置物のよう。顔の作りはよく、世に言うイケメンなのだが、父親であると思うとイケメン見物にシフトする気さえ起きない。
栄養を摂取する場と化したこの場にいるだけで息が詰まりそう。
一日三回もこの場所に集まらなければいけないなんて、苦行もいいところだ。
王子様が登場する前からこんなに辛いなんて……。
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