王子をテイムした悪役令嬢【連載版】

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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いざバラ園へ 

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 お皿を空にし、お茶のおかわりを貰う。
 濃いめのお茶が続いたが、最後はさっぱりめのものをセレクトした。
 カップを傾けながらお菓子エリアを眺めれば、そこは王子とその取り巻き軍団に占拠されたまま。よほど肝が座っているか、あの場に混ざる覚悟がなければ取りに行くことも叶わない。そのおかげか、私のお菓子セレクトに注目する者もいない。

 抜け出すなら今だ。
 皿を適当な机の上に放置し、人を縫うように会場の外へと向かう。

 ーーさぁ問題はここからだ。

 前回お手洗いまで出てから会場まで戻ったこともあり、最初はお手洗いを目指していた。
 トイレも済ませておきたいし。

 だが私が辿り着いたのはお手洗いはお手洗いでも、会場付近にある所ではなく、多分使用人専用のもの。入ってから明らかに作りがお客様向けではないことに気づいた。全身を映し出す鏡が多数用意されており、蛇口の近くにはブラシが置かれている。おそらく身だしなみを整える用なのだろう。鎖がついているのには驚いたが、盗難防止と思われる。髪を梳かすにも筋力が必要そうだ。

 普段は自分用を持っていて、これは緊急用とか?
 髪をボサボサにしたメイドを城の中に置いておくのも格が落ちるといったところだろうか。さすがに前世のちょっとお高めのカラオケみたいに使い捨てのクシなんて設置出来ないだろうし、結果として共用ブラシを設置した、と。


 お城勤めはお給料はいいけど、求められるラインが外見の時点でハードル高めなんだろうな~。
 ずぼらな私には出来そうもない、と濡れた手をハンカチで拭う。まぁ生きるか死ぬかの分かれ目に立たされている私がお城で働くことなど未来永劫こないのだろうが。


 お手洗いから出た私はバラ園を目指して歩き出しーーなぜか会場に戻っていた。

 おかしい。
 これでは普通にお手洗いに行って帰ってきただけではないか。

 たまたま正面にいたフレインボルド王子が私のやや長めのおトイレに目を丸くしている。いや、主役がわざわざ誰が会場にいるとかいないとかを把握しているはずがないか。いくらこんなドレスを着ているとはいえ、自意識過剰すぎた。とりあえず連続して会場を抜け出す訳にもいかないので、王子の隣を通過してお菓子の確保に向かう。

 次は何にしようかな~なんて考えていれば、追加の焼き菓子が運ばれてくる。どうやら今回は前回に比べてお菓子の消費スピードが早いようだ。残りが少ないお菓子も多い。追加されたものから適当に見繕い、皿に載せ、途中で使用人からお茶を貰う。カップとお皿で両手を埋めて安息の地を求めて歩き出した。

 ーーすると今度はバラ園に到着していた。
 まだ歩きだして数分といったところだ。つい少し前まで確かに会場内にいたはずなのに……。辺りを見回せば生け垣ばかり。前回よりも人の声が近い。どうやら会場内のどこかにバラ園に繋がる道があったらしい。

 だが別の入り口から入ってしまったことで新たな問題が浮上する。

「この前フレイムさんと会ったのってどの辺だろう?」
 同じ入り口から入れば、前回と同じように直進して右折してを繰り返せばいいだけだ。まぁそれですら迷う可能性が否定出来ないのが痛いところだが、それでも別の入り口から入るよりもずっと到着出来る確率が高くなる。

 だが今の私はどうだろうか。
 そもそも自覚した時点ですでにそこそこ迷路の中を歩いてしまっているので、現在地ですらどこだか分からない。

 そして何より、前回目指したはずのガセボがこの位置からでは見えないのだ。
 ぴょんぴょんと飛べば頭くらいは見えるのかもしれないが、あいにくと私の手にはお茶とお菓子がある。これらを犠牲には出来ないし、だからといってフレイムさんの名前を呼びながら歩くというのも……。もう少し会場から離れていればな~。それも叶わぬ願いだ。

 仕方ない、会えるまで歩くか。
 真っ直ぐ歩いて右折、真っ直ぐ歩いて右折を繰り返しながら進んでいく。行き止まりになったら戻って逆方向に向かう。だが一向に見えてくるのはバラの赤ばかり。フレイムさんのうろこは見当たらないし、羽ばたく音すら聞こえない。

 まだバラ園に到着していないのかな?
 そろそろ休憩をいれたいところだが、到着して待っていてくれていたら申し訳がない。
 来ないからと帰ってしまったら今日ここに来た意味がないし……。そろそろ最後の手段を取るべきだろうか。会場の声も少し小さくなっており、もう少し離れた位置からならフレイムさんの名前を呟きながら歩いても会場まで届くことはないだろう。怪しさMAXだし、他の人に遭遇したらそれこそ父に連絡がいきそうなので、あくまでこれは最終手段としてではある。不審者カードを切る前に、遭遇したいところだ。

「ふぅ、後少し遠ざかるか」
 カップに口をつけて水分補給をする。
 お行儀は悪いけれど、私の左右と背後には生け垣シールドがある。前方から人が来さえしなければ安全だ。

 ーーそんな考えはあっさりと崩れ去る。
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