王子をテイムした悪役令嬢【連載版】

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膝の上

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「だが何はともあれ、無事に会えて良かった」
 フレイムさんはそう呟きながら、私に向かってとことこと歩いてくる。私は両手を広げ、彼を抱き上げると膝の上に載せた。まだ二度目だというのにすっかりと慣れた様子だ。

 まるで私の膝の上がフレイムさんの居場所のよう……なんて言い過ぎだろうか。
 幸せを噛みしめながら、目を細めると視界の端にお菓子が映り込んだ。私がここまで持ってきてしまったお菓子である。隣にはカップも鎮座している。

「フレイムさん、お菓子食べます?」
「前回もそうだが、なぜアドリエンヌは当然のようにこの場所に皿を持っているんだ?」
「会場内の安息地で食べようと思って歩いてたらここに辿り着いちゃったんです。別に美味しいから持って帰ろうとかじゃないので安心してください」
「安息地?」
「王子の視線が気になるんですよ。変なドレスで目立っている自覚はありますが、だからって何度も目が合うのはあんまり……」

 愚痴を吐きながら、一番上に鎮座していたマカロンを口の中に放り込む。
 なら見なければいいだろう、との指摘が入るかと思ったが、フレイムさんの反応は違った。

「変なドレスだという自覚はあったのか。てっきり奇抜なセンスを持っているのだとばかり……」

 まさか王子よりもドレスに食いつくとは……。
 軽く見下ろしたところで今日も今日とて凄いセンスのドレスだ。突っ込みたくなる気持ちも分からないではない。前回指摘しないでくれたのはフレイムさんの優しさなのだろう。

「ありますよ! でも両親に用意されたから着るしかないし、それにあの人達はこれを最高に可愛いと思っているんで……」
「そうか。なんというか大変だな」
「まぁ私は悪い噂が立ったところで教えてくれる相手すらいないので大丈夫です」
「友人がいないのか?」
「ストレートに言わないでください!」
「確かに友人がいれば会場の外であんなこと呟かないよな。どこかの死にたがりかと思った」
「ハハハ」

 両親のセンスはともかく、友人については反論出来ない。アドリエンヌ百パーセントの時はもちろん、今後も出来る見通しがない。それにあの発言も今となっては本当に死にたがりでしかないし。
 乙女ゲームが~と説明した所でフレイムさんに通じることはないだろうし、私だってよく分かっていないのだ。笑い飛ばすしかない。

 フレインボルド王子を参考に、死んだ魚の目で遠くを見つめれば、膝の上から小さな謝罪が届いた。

「……すまなかった」
「悪いと思っているならブラッシングさせてください」

 しょぼんと落ち込むフレイムさんにこんなことを言うなんて卑怯かも知れない。だが絶好の機会だったのだ。申し入れくらいさせてもいいだろう。キラキラおめめで彼へと視線を注げば、長いため息を吐かれた。

「素直に謝った俺が馬鹿だったか。それにしてももう手に入れたのか? あれからまだ二週間ほどしか経っていないが……」
「帰りの馬車で牛革の手袋とブラシをおねだりしたんです。数日前に手元に届きまして」
「ブラシは分かるが、牛革の手袋なんて何に使うんだ?」
「フレイムさんをなでなでする用です。力加減ミスって傷つけたら嫌ですし、先にこっちかなと思いまして」

 一応どちらも持参している。
 ブラッシングを断られても、今度は手袋着用の許可を取って撫でさせて貰う作戦に移行するだけだ。

「今日は持ってきているのか?」
「はい。両方ありますよ」
「なら今日は手袋にしてくれ。あいにくとブラッシングは慣れた相手にしかされたことがないからな。慣れたらブラシな」
「ありがとうございます!」

 ぺこりと頭を下げ、早速ポケットから手袋を取り出す。
 装着すると想像以上にぴったりと手に馴染んだ。おそらくこれも両親が選んでくれたのだろうが、アドリエンヌは過去に手袋を贈られたことはない。

 いつの間に手のサイズを計ったのだろうか?
 疑問はあるが、それよりもフレイムさんだ。

「それにしてもプレジッド公爵は一人娘に甘いな……」
「みたいですね。最近知りました」
「結構有名だぞ?」
「そうなんですね~。まぁそんなことより、どこをどうすれば」

 全く本人に伝わっていなかった両親の溺愛情報を聞くよりも、私はフレイムさんをなでなでしたい!
 手袋を装着した手を空中で右へ左へ動かして指示を仰ぐ。

「アドリエンヌは本当にドラゴンが好きなんだな」
「はい!」
 呆れたような声に元気よく返事を返す。だって事実だし。

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