王子をテイムした悪役令嬢【連載版】

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念願の!

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「まずは背中から」「そこそこ」「うろこの間のゴミをさらうように」「首元……」
 指示通りに撫でていくと、徐々にフレイムさんの声がとろんと蕩けていく。
 気持ちよさそうにするフレイムさんが可愛らしくて、胸の辺りがぽかぽかと温かくなる。ふふふと顔を緩ませていると、フレイムさんから一度ストップが入った。かと思えば、彼は私の膝の上でコロンと転がり、あろうことかお腹を見せてくれた。

「ん」
「い、いいんですか!?」
「力は弱めで」
「了解です」

 フレイムさんは多くを語らない。
 だが無防備なドラゴンのお腹を見た人類ってどれくらいいるのだろうか?

 それもまだ会って二回で。
 フレイムさんも私に運命を感じてくれているのかもしれない。

「失礼します」
 人でいうと腕の付け根に当たるのだろう、羽根の根元まで手をいれさせてもらってマッサージをする要領で軽く押していく。

「きもちいい」
 小さく漏らすフレイムさんが可愛くて、何度抱きしめようと思ったことか!!
 バラ園の外では「王子~」「フレインボルド王子~」と王子の名前を呼ぶ大人達の声がする。
 フレイムさんを撫でる手はそのままに、彼に話を投げる。

「王子がどっかいっちゃったんですかね」
「ああ、脱走癖があるからな……」

 フレイムさんにとっては王子のことなどあまり重要ではないらしい。威厳のなくしたほわほわボイスでなんてことないように呟いた。だが城関係者と思わしきフレイムさんには大したことなくとも、私には結構一大事だったりする。

「ここにいて大丈夫でしょうか?」
 ここでフレイムさんと一緒にいるところが見つかって、会場に連れて帰られてはフレイムさんと会えなくなってしまうかもしれない。怯える私を見上げながら、フレイムさんはふわっとした優しい笑みを零す。

「大丈夫だ。王子はバラが苦手だから追っ手がここまで捜索しにくることはない」
「ああ~。ちょっと匂い強いですからね」
「っふ、そうだな」

 何かがフレイムさんのツボにハマったようで、少しうろこが薄いお腹がピクピクと動いている。

「え、なんで笑うんですか?」
「よりにもよって王妃のお気に入りの場所を匂いが強いという奴がいるとはな」
「あ! 私が言ってたって言っちゃダメですからね」
「言わないから安心しろ」
「約束ですよ」
「ああ。だからもっと撫でてくれ」

 腕を動かし、もっともっととねだるフレイムさん。
 やばい。鼻血出そう。
 鼻を軽く押さえた私の頭からは、脱走癖のある王子様のことなど抜け落ちていく。

 そして脳内メモリの全てを埋め尽くすように、手元の可愛い生物を脳裏に刻み込むのだった。


 終了時間ギリギリまで撫で続け、帰りは会場付近まで送ってもらった。
「ここを真っ直ぐ行けば会場だ。カップと皿は俺が返しておくから、今度から間違って持ち込まないように」
「了解です!」
 手をくの字にして、敬礼すればフレイムさんは楽しそうに笑った。

 また今度。
 その約束が嬉しくて、意気揚々と会場へと戻った。
 ずっと捜索されていたフレインボルド王子だが、結局見つからなかったらしく、会場にはお茶とお菓子とマウント合戦を楽しむご令嬢達が残されていた。

 ススス~と何事もなかったかのように会場の一部に溶け込む。
 時間が時間だけあってお菓子はほとんど残っていないが、使用人は未だカップを手に会場を回っている。一番近くにいた使用人に声をかければ、フルーツの香りがするお茶を注がれた。フレーバーティーか。

 前回はもちろん、会場を出るまでには用意されていなかったと思うが、途中で追加されたのだろう。お菓子の種類追加といい、さすがはお城のお茶会。至れり尽くせりだ。

 ホッと息を吐けば、ご令嬢三人組がお皿片手にこちらへと直進してくる姿が目に入った。

 なんだろう?
 もしかしてこの場所、彼女達が確保していた場所だったとか?

 お菓子を取りに行った間に場所が取られて~なんてことだったら申し訳がない。すぐさま場所を移ろうとしたが、どうやら彼女達は場所ではなく、私自身に用事があったらしい。

「探したのよ。あなたどこへ行っていたんです?」
「え、ああ。ちょっとお手洗いに」
「そう……よければこれどうぞ」
「これは!!」
「先ほど追加されたマカロン。沢山食べていたから好きなのかと思って取っておきましたの」
「いいのですか?」

 名前も知らない相手にお菓子を確保しておいてくれるとか、どこの聖人だ。
 しかも彼女が差し出してくれたのは、チョコのマカロン生地にベリーのジャムが挟まった、前世の私一押しの味だ!

 さらに気前がいいことに、なんと三つも確保しておいてくれているではないか。
 お皿と彼女達の顔を何往復もすれば、ふんわりと優しく微笑んだ。

「もちろん。この前教えて頂いた組み合わせ、とても美味しかったですわ。また教えて頂けるかしら?」
「もちろんですわ!!」

 なるほど。この世界はこうして交友を広げていくのか。
 早速フレーバーティーを淹れてくれる使用人が付けているリボンの色を教えると、彼女達はぺこりと頭を下げてお茶の確保へと向かった。


 開始と同じ鐘の音でお茶会はお開きとなった。
 今日も今日とて会場まで迎えに来てくれた父に手を引かれ、馬車へと乗り込む。走り出してからしばらく経つと、父は無表情のまま質問を投げかけた。

「アドリエンヌ、今日は」
「とても楽しかったです!」
「そうか……」

 私が食い気味で答えれば、ほんの少しだけ父の顔が和らいだ気がした。
 一ミリくらいは口角が上がっていたように思う。喜んでくれているのは確かだろう。

 十年以上娘に溺愛を隠し続けてきた父とて、まさか娘が城のお茶会に行って王子と会話するのでもなく、人間のお友達を作るでもなく、ドラゴンと戯れているとは思うまい。

 手袋とブラシの入ったポケットを撫で、世界一愛らしい彼のことを思い浮かべる。

「ふふっ」
 今度はいつ会えるかな?
 次を想像すれば思わず頬が緩んだ。
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