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脱走王子の隠れ場所
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指が触れた瞬間、私達の身体はまばゆい光で包まれる。
正面さえも見えないのに、不思議とフレイムさんの居場所だけは分かった。胸元にいたはずの彼までは少し距離が空いてしまっている。けれど手を伸ばせば簡単に引き寄せられる。抱き寄せれば私の胸にはぬくもりが集まった。フレイムさんの熱ではない。
彼とは違う、けれど同じくらい心地の良いもの。
温かくて優しくて。
ゆっくりと目を開けば、至近距離にはフレイムさんの顔があった。
金色の瞳だけは私だけを見つめている。
私の、私だけのドラゴン。
顔に手を運び、ゆっくりとうろこを撫でれば彼は心地よさそうに笑った。
「アドリエンヌ。今日からお前は俺のマスターだ」
「マスター?」
「何でも言うことを聞かせられる俺の使役者。その証に胸元にドラゴンの刻印が刻まれているだろう?」
フレイムさんは私の胸元をツンツンと突く。
首元を緩め、上から覗き込めば確かにその位置には見慣れぬ証が発生していた。ドラゴンを模したタトゥーのようなもの。
「これがフレイムさんとのテイム契約の証……」
この刻印が身体に刻まれている間は、フレイムさんと一緒にいられる。
顔を緩めて「ずっと一緒」と漏らせば幸せが胸いっぱいに広がった。
「そして俺の婚約者の証でもある」
「は? こんやく、しゃ?」
ドラゴンとも結婚出来るんですか? と疑問を投げかけようとした時だった。フレイムさんは先ほどと似たような光に包まれ、形を変え、人の形を作り出していく。私よりも頭一つ分は高めに固定された光は少しずつ散り、シルエットだけの姿はやがて姿を見せる。
人間に変化出来るドラゴンだったんですね! なんて両手を合わせて喜べたのならどれだけ良かったのだろうか。
だが残念なことに、私はフレイムさんが変化した男性の顔をよく知っていた。
「フレイムさんの本名って……」
「フレインボルド=アッセム。知っての通り、アッセム王国の第一王子もとい脱走王子とは俺のことだ」
え、じゃあ私ってお茶会初日から王子様と会っていたの?
会話一回もしたことないどころか、会場にいるご令嬢達の誰よりも濃厚な接触を行っていたってこと?
バラ園のどこかでこちらを見ているのだと思っていたが、まさか膝の上から見上げているとは思うまい。というか、自国の王子様がドラゴンになれるのだと誰が想像するだろうか。
回避したと思った悪役令嬢突入ルート。
私自身が喜んでフラグを育てていたなんて……。
夜中に寝室でぐるぐると回っていた両親の姿が脳裏に浮かぶ。
「アドリエンヌ。君は王家最大の秘密を知ったんだ。婚約、してくれるよな?」
自身に満ちあふれたイケメンが憎い。死んだ魚の目がデフォルトの残念王子だったくせに、なぜこんな時に限って俺様を属性振りかざしてくるんだ!
炎を彷彿とさせるほどの赤い髪に、全てを見透かすような金色の瞳。目の前の王子様は、私がこの二つの色に弱いことを知っているのだろう。だってどことなくフレイムさんに似てるし! この目でお願いされるとついつい甘やかしたくなってしまうのだ。そのことを十分理解しているからか、断られるなどつゆほども思っていないようだ。
わざわざ『王家最大の秘密』なんてたいそうなものまで振りかざして、婚約を迫るなんて卑怯すぎる。
こっちが公爵令嬢だから、格下だから断れないとでも思っているのだろう。いや、私がフレイムさんに駄々甘だから?
実際、この場にお父様がいたら「はい、よろこんで!」の二つ返事で婚約が成立してしまうかもしれない。
『きっと王子様もアドリエンヌのことを気に入ってくれますわ』
まさか彼らの言葉があの夜にはすでに実現していたとは……。
王子様から婚約を結びたいなんて言われたら、絶対即了承することだろう。迷ったところでお茶会の度に会っていたことを告げられたら一発アウトだ。夜になるのを待たずしてくるくると周りだすかもしれない。もちろん無表情で。
だがここは王城のバラ園。
私達以外誰も居ない。
断るなら、この申し入れをなかったことにするなら今がチャンスだ。
娘を溺愛している両親の耳に入れば一発アウトだ。娘の幸せと信じて全力でアクセルを踏むことだろう。大量のリボンやレースで装飾されただっさいドレスどころでは済まない。
どうにかここで阻止せねば……。
私は最大級の笑みを浮かべて口を開く。
「嫌です。断固拒否します」
自ら王子様との婚約を受け入れるのは、よほど自分の教養の高さと身分に自信があるか、ロマンスに憧れているか、玉の輿狙いかの三択だろう。
私はそのどれでもない。
あるのはドラゴンに対する愛だけ。
王子の婚約者となるために特に重要視されるであろう、教養とかない。勉強は嫌いだし、人の上に立つとか責任感を伴うものは苦手中の苦手なのだ。マナーだって出来ていない。その上、今世の死因に関わるかもしれない王子様との婚約なんて絶対嫌。
イケメン? それがなんだ!
顔なんて死んだら拝む機会なんてなくなるし、生理的に無理でもなければいずれ慣れる。
イケメンなんて所詮、顔のパーツが整っているだけ。私はメンクイではないのだ。イケメンは数日も見てたら飽きる。生涯を賭してまで拝み倒したいものではないのだ。
私が拝み倒したいのは高貴なドラゴンと、可愛さフルMAXなフレイムさんの成長だけだ。
誰かと婚姻を結びたかったら、他の女性でも連れてくるんだな!
お茶会の会場に戻れば公爵令嬢なんてたくさんいるのだ。よりによってこんなお茶会を抜け出すような不良娘を選ぶことはないだろう。
正面さえも見えないのに、不思議とフレイムさんの居場所だけは分かった。胸元にいたはずの彼までは少し距離が空いてしまっている。けれど手を伸ばせば簡単に引き寄せられる。抱き寄せれば私の胸にはぬくもりが集まった。フレイムさんの熱ではない。
彼とは違う、けれど同じくらい心地の良いもの。
温かくて優しくて。
ゆっくりと目を開けば、至近距離にはフレイムさんの顔があった。
金色の瞳だけは私だけを見つめている。
私の、私だけのドラゴン。
顔に手を運び、ゆっくりとうろこを撫でれば彼は心地よさそうに笑った。
「アドリエンヌ。今日からお前は俺のマスターだ」
「マスター?」
「何でも言うことを聞かせられる俺の使役者。その証に胸元にドラゴンの刻印が刻まれているだろう?」
フレイムさんは私の胸元をツンツンと突く。
首元を緩め、上から覗き込めば確かにその位置には見慣れぬ証が発生していた。ドラゴンを模したタトゥーのようなもの。
「これがフレイムさんとのテイム契約の証……」
この刻印が身体に刻まれている間は、フレイムさんと一緒にいられる。
顔を緩めて「ずっと一緒」と漏らせば幸せが胸いっぱいに広がった。
「そして俺の婚約者の証でもある」
「は? こんやく、しゃ?」
ドラゴンとも結婚出来るんですか? と疑問を投げかけようとした時だった。フレイムさんは先ほどと似たような光に包まれ、形を変え、人の形を作り出していく。私よりも頭一つ分は高めに固定された光は少しずつ散り、シルエットだけの姿はやがて姿を見せる。
人間に変化出来るドラゴンだったんですね! なんて両手を合わせて喜べたのならどれだけ良かったのだろうか。
だが残念なことに、私はフレイムさんが変化した男性の顔をよく知っていた。
「フレイムさんの本名って……」
「フレインボルド=アッセム。知っての通り、アッセム王国の第一王子もとい脱走王子とは俺のことだ」
え、じゃあ私ってお茶会初日から王子様と会っていたの?
会話一回もしたことないどころか、会場にいるご令嬢達の誰よりも濃厚な接触を行っていたってこと?
バラ園のどこかでこちらを見ているのだと思っていたが、まさか膝の上から見上げているとは思うまい。というか、自国の王子様がドラゴンになれるのだと誰が想像するだろうか。
回避したと思った悪役令嬢突入ルート。
私自身が喜んでフラグを育てていたなんて……。
夜中に寝室でぐるぐると回っていた両親の姿が脳裏に浮かぶ。
「アドリエンヌ。君は王家最大の秘密を知ったんだ。婚約、してくれるよな?」
自身に満ちあふれたイケメンが憎い。死んだ魚の目がデフォルトの残念王子だったくせに、なぜこんな時に限って俺様を属性振りかざしてくるんだ!
炎を彷彿とさせるほどの赤い髪に、全てを見透かすような金色の瞳。目の前の王子様は、私がこの二つの色に弱いことを知っているのだろう。だってどことなくフレイムさんに似てるし! この目でお願いされるとついつい甘やかしたくなってしまうのだ。そのことを十分理解しているからか、断られるなどつゆほども思っていないようだ。
わざわざ『王家最大の秘密』なんてたいそうなものまで振りかざして、婚約を迫るなんて卑怯すぎる。
こっちが公爵令嬢だから、格下だから断れないとでも思っているのだろう。いや、私がフレイムさんに駄々甘だから?
実際、この場にお父様がいたら「はい、よろこんで!」の二つ返事で婚約が成立してしまうかもしれない。
『きっと王子様もアドリエンヌのことを気に入ってくれますわ』
まさか彼らの言葉があの夜にはすでに実現していたとは……。
王子様から婚約を結びたいなんて言われたら、絶対即了承することだろう。迷ったところでお茶会の度に会っていたことを告げられたら一発アウトだ。夜になるのを待たずしてくるくると周りだすかもしれない。もちろん無表情で。
だがここは王城のバラ園。
私達以外誰も居ない。
断るなら、この申し入れをなかったことにするなら今がチャンスだ。
娘を溺愛している両親の耳に入れば一発アウトだ。娘の幸せと信じて全力でアクセルを踏むことだろう。大量のリボンやレースで装飾されただっさいドレスどころでは済まない。
どうにかここで阻止せねば……。
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自ら王子様との婚約を受け入れるのは、よほど自分の教養の高さと身分に自信があるか、ロマンスに憧れているか、玉の輿狙いかの三択だろう。
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あるのはドラゴンに対する愛だけ。
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イケメンなんて所詮、顔のパーツが整っているだけ。私はメンクイではないのだ。イケメンは数日も見てたら飽きる。生涯を賭してまで拝み倒したいものではないのだ。
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