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テイム契約
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「それに私には夢があるんです」
「夢?」
「一度ドラゴンの背中に乗って空を飛んでみたい」
折角ドラゴンがいる世界に転生し、こうして仲良くなれたのだ。初めはブラッシングをさせてもらっただけで十分だと思っていたのに、むしろ一つクリアしてしまったことでどんどん欲が出てきてしまったようだ。
「それは、今の俺では叶えられないな……」
「私もさすがにフレイムさんに乗ろうとは思いませんよ~」
私もまだ幼いとはいえ、フレイムさんは小型犬サイズ。空を飛ぶどころか身体を預けた時点で潰れてしまう。変な声を出して潰れるフレイムさんももちろん可愛いだろうが、そんな姿は見たくない。乗るにしても他のドラゴンさんに当たるしかあるまい。
「だが成体になれば乗せられる!」
「でもフレイムさんが成体になる頃には、このお茶会も終わって、会えなくなっていますよ」
「……っ」
フレイムさんもいつか終わりが来ることくらい理解しているはずだ。
元々彼とは王城外では会うことはない。王家主催のお茶会の日。会場から抜け出した時限定で会うことが出来る特別な存在。それがフレイムさんなのだ。王子の婚約者が決まれば王城に足を運ぶ機会なんてなくなるだろう。私みたいな彼との交流を避けていた令嬢ならなおのこと。
それでも私の夢を叶えてくれようとしている。本当に、優しいドラゴンだ。だがその優しさが今はとても悲しい。薄く切れた傷口に塩を塗り込むように、小さな痛みが私を襲う。
「ありがとうございます」
「何の礼だ」
「私の夢を叶えようとしてくれたことに対して」
「…………王子の婚約者が、近日中に決まるらしい」
「そう、ですか」
フレイムさんは俯きながら小さく呟いた。
脱走王子のお相手もついに決まってしまったらしい。意外だとは思わない。心を決めたか、周りのおとな達が決めたのか。どちらにせよ判断材料に困ることはなかっただろう。会場に居なかった私が知らないだけで、試験のようなものが繰り広げられていたのかもしれない。運命どうのこうのなんて考えて損した。だが王子や当て馬婚約者のことなんてどうでも良かった。
「これが、最後なんですね」
終わりが来ることなんて分かっていたのに、いざ決まるとぽろぽろと涙がこぼれた。
拭うことすらしないそれはフレイムさんの顔に落ちる。吸収されることなく、彼のうろこを伝ってするすると落ちていく。
「そうとは限らない」
「え? もしかして私に手紙を送ってきたのって、私とフレイムさんがバラ園で会っているのを知っている王子様からの気遣いだったり? もしかしたらお茶会が終わってからも会わせてくれるかもだし……。だったらもっと愛想良い文章書けば良かった!!」
顔を両手で覆って天を仰ぐ。
もっと分かりやすい文章を書いてくれれば……と文句を言いたいところだが、ろくに会話も交わしたことのない相手にこれ以上を望むのも酷と言うものだろう。
毎回ガン見していたのもフレイムさんから話を聞いていたかもしれない、と考えると後悔がひたすら押し寄せて来る。
「感情の起伏が激しいな。というか気にするところはそこなのか」
「フレイムさんの交流以上に気にするところとかあります?」
暗闇の中に放り出されたと思ったら、一筋の光が見えた。
これではしゃぐなという方が無理だ。だが私はその光差し込む窓に思い切り板を打ち付けて塞いでしまったかもしれないのだ。
くっ、今からでも時を戻したい。
あの不躾な手紙をビリッビリに破いて、ここぞとばかりにごまをすって媚びを売りたい。
バラよりも欲しいものをフレイムさんの交流だって解釈してくれないかな~。
今から直談判もあり? 帰って手紙を出すべき?
私の思考はグオングオンと凄い音をたてながら猛烈なスピードで回転する。
頭を両手で押さえながら百面相を繰り広げていると、膝の上から呆れたような視線が向けられた。
「自分が選ばれるかもしれないと、手紙はそのために送られたものだとは考えないのか」
「え、何ソレ。めっちゃ嫌なんですけど」
婚約者になんて選ばれたら最悪でしょ。
記憶を取り戻して速攻でミニマムな頭で考え出した最大の回避方法がダメだったってことになる。
それに何より、まともに王子と会話もせず、好きなだけ飲み食いをし、あろうことか毎回お茶会から抜け出す女を選ぶなんて、明らかに裏の意味があるに決まっている。当て馬の悪役令嬢就任だけでは済まないとか一体どれだけ私に役職を押しつけるつもりだ。働きたくない。一生フレイムさんをなでなでしながら暮らしたい。これでもかというほど歪んだ表情をフレイムさんに向ければ、少しだけ視線を落とした。どこか悲しそうな顔だ。けれどそれも一瞬だった。
「……ところでアドリエンヌ」
「なんでしょう?」
「王子の婚約者が決まっても俺たちが離れなくて済む方法が一つだけある」
「なんですか! 教えてください」
「テイム契約だ」
「テイム、契約……」
「俺とお前が望んだ時にのみ結ぶことが許される魂と魂の契約」
テイム契約とは、モンスターと人間が結ぶ契約のことだ。
この世界の契約については詳しく知らないどころか、この世界にも存在したことを今知った訳だが、前世のラノベや漫画・ゲームでは『テイマー』と呼ばれる特殊な素質を持ち合わせている者しか結べないことも多かった。
「私に、出来るでしょうか?」
「出来るさ。お前が心から望みさえすれば」
フレイムさんは軽く笑って、私の心配を吹き飛ばしてしまう。
「それを結べばずっと一緒に居られるんですか?」
「死ぬまで一緒だ」
「フレイムさんはいいんですか?」
「嫌ならわざわざ教えない」
「なら結びます! 方法を教えてください」
フレイムさんが許してくれるのなら、私は彼とこの先ずっと一緒にいたい。
悪役令嬢なんて当て馬役で顔もよく知らない王子様の隣にいるのではなく、フレイムさんの隣で友人として笑っていたい。だから私は彼に教えてくれと縋った。
「なに簡単だ。お前はただ俺とのテイム契約を許可すればいい」
「え?」
その時、空中に変な画面が登場した。
『フレイムとのテイム契約を結びますか? YES/NO』
私は迷いなく赤字で書かれた『YES』を押した。
「夢?」
「一度ドラゴンの背中に乗って空を飛んでみたい」
折角ドラゴンがいる世界に転生し、こうして仲良くなれたのだ。初めはブラッシングをさせてもらっただけで十分だと思っていたのに、むしろ一つクリアしてしまったことでどんどん欲が出てきてしまったようだ。
「それは、今の俺では叶えられないな……」
「私もさすがにフレイムさんに乗ろうとは思いませんよ~」
私もまだ幼いとはいえ、フレイムさんは小型犬サイズ。空を飛ぶどころか身体を預けた時点で潰れてしまう。変な声を出して潰れるフレイムさんももちろん可愛いだろうが、そんな姿は見たくない。乗るにしても他のドラゴンさんに当たるしかあるまい。
「だが成体になれば乗せられる!」
「でもフレイムさんが成体になる頃には、このお茶会も終わって、会えなくなっていますよ」
「……っ」
フレイムさんもいつか終わりが来ることくらい理解しているはずだ。
元々彼とは王城外では会うことはない。王家主催のお茶会の日。会場から抜け出した時限定で会うことが出来る特別な存在。それがフレイムさんなのだ。王子の婚約者が決まれば王城に足を運ぶ機会なんてなくなるだろう。私みたいな彼との交流を避けていた令嬢ならなおのこと。
それでも私の夢を叶えてくれようとしている。本当に、優しいドラゴンだ。だがその優しさが今はとても悲しい。薄く切れた傷口に塩を塗り込むように、小さな痛みが私を襲う。
「ありがとうございます」
「何の礼だ」
「私の夢を叶えようとしてくれたことに対して」
「…………王子の婚約者が、近日中に決まるらしい」
「そう、ですか」
フレイムさんは俯きながら小さく呟いた。
脱走王子のお相手もついに決まってしまったらしい。意外だとは思わない。心を決めたか、周りのおとな達が決めたのか。どちらにせよ判断材料に困ることはなかっただろう。会場に居なかった私が知らないだけで、試験のようなものが繰り広げられていたのかもしれない。運命どうのこうのなんて考えて損した。だが王子や当て馬婚約者のことなんてどうでも良かった。
「これが、最後なんですね」
終わりが来ることなんて分かっていたのに、いざ決まるとぽろぽろと涙がこぼれた。
拭うことすらしないそれはフレイムさんの顔に落ちる。吸収されることなく、彼のうろこを伝ってするすると落ちていく。
「そうとは限らない」
「え? もしかして私に手紙を送ってきたのって、私とフレイムさんがバラ園で会っているのを知っている王子様からの気遣いだったり? もしかしたらお茶会が終わってからも会わせてくれるかもだし……。だったらもっと愛想良い文章書けば良かった!!」
顔を両手で覆って天を仰ぐ。
もっと分かりやすい文章を書いてくれれば……と文句を言いたいところだが、ろくに会話も交わしたことのない相手にこれ以上を望むのも酷と言うものだろう。
毎回ガン見していたのもフレイムさんから話を聞いていたかもしれない、と考えると後悔がひたすら押し寄せて来る。
「感情の起伏が激しいな。というか気にするところはそこなのか」
「フレイムさんの交流以上に気にするところとかあります?」
暗闇の中に放り出されたと思ったら、一筋の光が見えた。
これではしゃぐなという方が無理だ。だが私はその光差し込む窓に思い切り板を打ち付けて塞いでしまったかもしれないのだ。
くっ、今からでも時を戻したい。
あの不躾な手紙をビリッビリに破いて、ここぞとばかりにごまをすって媚びを売りたい。
バラよりも欲しいものをフレイムさんの交流だって解釈してくれないかな~。
今から直談判もあり? 帰って手紙を出すべき?
私の思考はグオングオンと凄い音をたてながら猛烈なスピードで回転する。
頭を両手で押さえながら百面相を繰り広げていると、膝の上から呆れたような視線が向けられた。
「自分が選ばれるかもしれないと、手紙はそのために送られたものだとは考えないのか」
「え、何ソレ。めっちゃ嫌なんですけど」
婚約者になんて選ばれたら最悪でしょ。
記憶を取り戻して速攻でミニマムな頭で考え出した最大の回避方法がダメだったってことになる。
それに何より、まともに王子と会話もせず、好きなだけ飲み食いをし、あろうことか毎回お茶会から抜け出す女を選ぶなんて、明らかに裏の意味があるに決まっている。当て馬の悪役令嬢就任だけでは済まないとか一体どれだけ私に役職を押しつけるつもりだ。働きたくない。一生フレイムさんをなでなでしながら暮らしたい。これでもかというほど歪んだ表情をフレイムさんに向ければ、少しだけ視線を落とした。どこか悲しそうな顔だ。けれどそれも一瞬だった。
「……ところでアドリエンヌ」
「なんでしょう?」
「王子の婚約者が決まっても俺たちが離れなくて済む方法が一つだけある」
「なんですか! 教えてください」
「テイム契約だ」
「テイム、契約……」
「俺とお前が望んだ時にのみ結ぶことが許される魂と魂の契約」
テイム契約とは、モンスターと人間が結ぶ契約のことだ。
この世界の契約については詳しく知らないどころか、この世界にも存在したことを今知った訳だが、前世のラノベや漫画・ゲームでは『テイマー』と呼ばれる特殊な素質を持ち合わせている者しか結べないことも多かった。
「私に、出来るでしょうか?」
「出来るさ。お前が心から望みさえすれば」
フレイムさんは軽く笑って、私の心配を吹き飛ばしてしまう。
「それを結べばずっと一緒に居られるんですか?」
「死ぬまで一緒だ」
「フレイムさんはいいんですか?」
「嫌ならわざわざ教えない」
「なら結びます! 方法を教えてください」
フレイムさんが許してくれるのなら、私は彼とこの先ずっと一緒にいたい。
悪役令嬢なんて当て馬役で顔もよく知らない王子様の隣にいるのではなく、フレイムさんの隣で友人として笑っていたい。だから私は彼に教えてくれと縋った。
「なに簡単だ。お前はただ俺とのテイム契約を許可すればいい」
「え?」
その時、空中に変な画面が登場した。
『フレイムとのテイム契約を結びますか? YES/NO』
私は迷いなく赤字で書かれた『YES』を押した。
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