モブ令嬢は脳筋が嫌い

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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二章

9.面倒事

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 ただでさえ憂鬱な学園入学に、面倒事が加わったのは入学式を二週間後に控えた日のことだった。王子から呼び出されたリガロはイーディスを海に連れて行く予定を急遽変更し、城に向かった。だが本日のイーディスを諦めた訳ではない。目的地をどこにしようかと考えていた。応接間に通されても座ることなく、立ったまま王子と対峙する。

「座らないのか?」

「話を聞いたらすぐ帰りますので」

「……リガロは本当に変わったよな」

「それで話とはなんでしょう?」

 早く話せと急かせばスチュワート王子は「本当にイーディス嬢が大好きだよな……」と深くため息を吐いた。けれど今さらこんなことで不敬だと騒ぐような王子ではない。彼はこの数年間、イーディスのために功績を積み重ねなければならないリガロによって数多の大会で瞬殺されているのだから。リガロの辞書には忖度という言葉はない。相手が王子であろうとも見せ場を作ってさしあげるなんてこともない。それに会う度にイーディスの話を延々と聞かされてきたのだ。だからリガロの不敬は受け流し、今日の要件を伝える。

「癒やしの聖女が見つかった」

「おめでとうございます。それで用件はそれだけですか? 帰って良いですか?」

「帰るな。本題はここからだ。リガロには癒やしの聖女の友人役として働いて欲しい」

「嫌です」

「即答か」

「なぜ俺がイーディス以外の女性と好き好んで仲良くしなければいけないんですか。第一、その手の話は同性に持っていくべきでは?」

「相手が癒やしの聖女でなければな。彼女が力を発動するには信頼する異性の力が必要なことはリガロも知っているだろう?」

「ですが俺にはイーディスがいます。婚約者がいる男を付けるというのは些か不自然なのでは?」

「リガロには相手役は期待していない。友人といってもリガロには、儀式を邪魔する輩が出てきた時に聖女を守る役を担って貰いたい。まぁ女性がいた方が自然なのは理解しているが、その……断られてな」

「断られた?」

「頼んだ娘というのが身体が弱い令嬢でな。最近回復したと聞いていたのだが、いつ死ぬかも分からなかった娘が結婚前の少しの時間でいいからお友達と学園に通いたいと言い出したらしく、男爵家としては娘の願いを叶えてやりたいと遠回しに断られた。まぁ彼女の場合、少し事情が特殊で、本来学園に入学予定はなく今年中に西方の国に嫁ぐ予定だったんだ。それをずらしてまで友人のために入学している。そのことを考慮するとこちらも強くは言えなくてな……。それに彼女の婚約者も心配だからとギリギリになって入学を決めている」

「その婚約者は身分の高い方なんですか?」

「あのギルバート家の嫡男だ。だから打診したんだ。だが当の彼女自身は詳しいことを知らないらしくてな、後日ギルバート側から抗議の手紙が送られてきた。我が国としてもギルバード家を敵にしたくはない」

 ギルバート家といえば魔界と繋がるゲートを管理している一族で、下手をすれば各国の王族よりも強い力を持つ。そんな相手にわがままを言うとは恐ろしい婚約者だ。何より、そんな相手の予定を変えてしまう『お友達』と呼ばれる相手が気になるところだ。学園でイーディスが変なことに巻き込まれないといいが……。いや、長年令嬢達の嫌みを巧みに交わしてきた彼女のことだから大丈夫だろう。だが万が一を考えれば常に一緒に居た方がいいのではないか。男女で授業が離れることはあるが出来るだけ同じ授業を選択して……制服姿のイーディスも素敵だろうな~。案外学園生活も悪くないかもしれない。楽しい学園生活を想像し、リガロの頬は緩んだ。

「リガロ、戻ってこい」

「すみません。イーディスが魅力的すぎて王子の存在を忘れていました」

「………………有力候補だった令嬢に断られたからといって、話を付けやすい私の婚約者であるローザに友人役をやらせれば、聖女の周りに不特定多数の貴族達が集まることになる。だが学園内や貴族の多く集まる場所で目立った警護を付ける訳にはいかない。一応ギルバード家も可能な限り協力すると言ってくれてはいるが、過度な期待は出来ない。ということで協力者は男で固めた」

 女性の協力者が一人もいないのは痛手だろうが、確かに下手な人間を増やすくらいだったら、確実に裏切らない相手だけで固めた方が安全ではある。儀式が行われるのはこの一年のどこか。三十年ほど前に魔物が溢れてからというもの特別な事件は起こっていないが、それでも前例がある以上、長い時間はかけられない。おそらくリガロ以外の協力者たちもまた王家から信頼されているのだろう。国にとっても重要な存在である聖女を守ることで、将来的に国の重役に置こうと考えているのかもしれない。
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