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三章
2.好みの顔ではある
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「イーディス、そのリボンは」
「マリア様が贈ってくださったんです! 入学式にって!」
「……そうか。良かったな」
「白いアネモネの花言葉は希望・期待、晴れの日にぴったりですよね! さすがマリア様!」
「今日くらい……」
グッと拳を固めて熱弁すると、小さくリガロが呟いた。けれど馬車の音にかき消されてよく聞こえない。
「何ですか? 今日はいつもよりも距離開いているのでもう少し大きな声で」
「何でもない」
「そうですか?」
よりによって砂利道の上を走っている時に言わなくてもいいじゃないか。というか学園に向かう道なんだから舗装してくれないかな。普段、リガロの前に乗せられているイーディスが馬車に乗る機会はお茶会に参加する時のみ。最近は彼と出かける時以外、外出していないなと気付く。さらに当たり前のようにくつろいでいるが、今乗っている馬車もお茶会に向かう馬車も当然のようにフライド家のものである。最後にフランシカ家の馬車に乗ったのはいつだったか。なんだかんだいってすっかりリガロとの生活に適応してしまっているイーディスは記憶の中を探る。そしてあの剣術大会の帰りか! と答えに行き着いた。つまり三年近く自分の家の馬車に乗っていないことになる。この状況では仲が良いと勘違いされても仕方のないことなのではないだろうか。物理的距離が近づいたことは自覚していたが、想像以上に近くなっているのではないか。今さらながらに気付いた。つい先ほどまで上機嫌のイーディスの表情は一気に深刻なものへと変わる。
「リガロ様」
「どうかしたのか?」
「明日から別々に登校しましょう」
「馬車が嫌だというなら安心しろ。明日からは馬で登校する」
「は?」
「すでに許可は取ってある。いやぁ言ってみるものだな。学園に馬小屋があって良かった」
「いや、私が学園案内を見た時にはそんなものはなかったはずですが」
学園に行きたくないと文句を言っていたイーディスだが、イベント発生場所の確認と共に学園の構内図を頭に叩き込んでいた。モブとはいえ、シナリオに巻き込まれないためである。入学式ではヒロインの様子を確認し、しばらくは彼女の動向を窺う予定だ。もちろん少しでもリガロルートに入ろうという動きを見せようものなら全力で彼を突き放す予定である。すぐにバレるような嘘を吐くんじゃないと睨めば彼はなんてことないように衝撃の事実を告げた。
「馬ブームにより急遽設立された」
「冗談でしょう!?」
「入学式後に確認に行くか?」
なぜ入学初日で情報にほころびが生じているのか。そもそも馬小屋なんてたった数ヶ月で発生するようなものでもないだろう。ブームごときで新設するな! 学費の無駄使いと突っ込みたいところだが、貴族ばかりが通うあの学園で馬小屋一つで異議を唱えるものはいないだろう。
「……これを機に私も自分の馬を「もちろん毎朝迎えに行くからな」
「なんで学園に通ってもあなたの馬に乗らなきゃいけないんですか……」
「早くて楽じゃないか」
「……人目が気になるでしょう」
「今さら気にする者もいないと思うが」
「王都周辺以外からも貴族のご令嬢・ご令息が来るんです」
「そのうち見慣れるだろ」
「慣れたくないんです!」
「そろそろ着くぞ」
すっかりリガロの強引なスルーにも慣れてしまっている気がする。イーディスは深いため息を吐いて窓の外を眺めた。正門を通過すればちらほらと他家の馬車も見えてくる。見慣れぬ家紋も多く、馬車の形も微妙に違う。窓の近くまで移動し、ぴたりと手を張り付けながら探せばカボチャの馬車のような丸いタイプもある。可愛いとぼそりと呟けば、リガロがひょっこりと顔を覗かせた。
「なんだ欲しいのか?」
いつの間に隣に移動したのだろう。視線を少しずらせば、綺麗な顔が至近距離にある。改めてみるとリガロの顔って綺麗なのよね。プレイ後は嫌いなキャラ№2にランクインした彼だが、見た目は好きなのだ。幼い頃のイーディスのように海みたいにキラキラと目を輝かせるようなものではなく、目の保養というカテゴリーで。
「馬車くらいだったら来月にでも……」
「馬車より馬が欲しいです」
イーディスの父に根回しをしてイーディスに馬を飼わせまいとするリガロだが、それ以外はなんだかんだで贈り物をしてこようとする。まるで無関心だった期間の穴埋めをしているよう。そろそろ周りの令嬢によるアピールがうっとおしくなり、婚約者との仲良しアピールにシフトしたとも取れる。ドレスなんかはいらないと突き返しても贈ってくるほどだ。徐々にイーディスの好みを分かってくれたのか地味なものに変わっているが。……本当にこの男、なんなんだろう。
「マリア様が贈ってくださったんです! 入学式にって!」
「……そうか。良かったな」
「白いアネモネの花言葉は希望・期待、晴れの日にぴったりですよね! さすがマリア様!」
「今日くらい……」
グッと拳を固めて熱弁すると、小さくリガロが呟いた。けれど馬車の音にかき消されてよく聞こえない。
「何ですか? 今日はいつもよりも距離開いているのでもう少し大きな声で」
「何でもない」
「そうですか?」
よりによって砂利道の上を走っている時に言わなくてもいいじゃないか。というか学園に向かう道なんだから舗装してくれないかな。普段、リガロの前に乗せられているイーディスが馬車に乗る機会はお茶会に参加する時のみ。最近は彼と出かける時以外、外出していないなと気付く。さらに当たり前のようにくつろいでいるが、今乗っている馬車もお茶会に向かう馬車も当然のようにフライド家のものである。最後にフランシカ家の馬車に乗ったのはいつだったか。なんだかんだいってすっかりリガロとの生活に適応してしまっているイーディスは記憶の中を探る。そしてあの剣術大会の帰りか! と答えに行き着いた。つまり三年近く自分の家の馬車に乗っていないことになる。この状況では仲が良いと勘違いされても仕方のないことなのではないだろうか。物理的距離が近づいたことは自覚していたが、想像以上に近くなっているのではないか。今さらながらに気付いた。つい先ほどまで上機嫌のイーディスの表情は一気に深刻なものへと変わる。
「リガロ様」
「どうかしたのか?」
「明日から別々に登校しましょう」
「馬車が嫌だというなら安心しろ。明日からは馬で登校する」
「は?」
「すでに許可は取ってある。いやぁ言ってみるものだな。学園に馬小屋があって良かった」
「いや、私が学園案内を見た時にはそんなものはなかったはずですが」
学園に行きたくないと文句を言っていたイーディスだが、イベント発生場所の確認と共に学園の構内図を頭に叩き込んでいた。モブとはいえ、シナリオに巻き込まれないためである。入学式ではヒロインの様子を確認し、しばらくは彼女の動向を窺う予定だ。もちろん少しでもリガロルートに入ろうという動きを見せようものなら全力で彼を突き放す予定である。すぐにバレるような嘘を吐くんじゃないと睨めば彼はなんてことないように衝撃の事実を告げた。
「馬ブームにより急遽設立された」
「冗談でしょう!?」
「入学式後に確認に行くか?」
なぜ入学初日で情報にほころびが生じているのか。そもそも馬小屋なんてたった数ヶ月で発生するようなものでもないだろう。ブームごときで新設するな! 学費の無駄使いと突っ込みたいところだが、貴族ばかりが通うあの学園で馬小屋一つで異議を唱えるものはいないだろう。
「……これを機に私も自分の馬を「もちろん毎朝迎えに行くからな」
「なんで学園に通ってもあなたの馬に乗らなきゃいけないんですか……」
「早くて楽じゃないか」
「……人目が気になるでしょう」
「今さら気にする者もいないと思うが」
「王都周辺以外からも貴族のご令嬢・ご令息が来るんです」
「そのうち見慣れるだろ」
「慣れたくないんです!」
「そろそろ着くぞ」
すっかりリガロの強引なスルーにも慣れてしまっている気がする。イーディスは深いため息を吐いて窓の外を眺めた。正門を通過すればちらほらと他家の馬車も見えてくる。見慣れぬ家紋も多く、馬車の形も微妙に違う。窓の近くまで移動し、ぴたりと手を張り付けながら探せばカボチャの馬車のような丸いタイプもある。可愛いとぼそりと呟けば、リガロがひょっこりと顔を覗かせた。
「なんだ欲しいのか?」
いつの間に隣に移動したのだろう。視線を少しずらせば、綺麗な顔が至近距離にある。改めてみるとリガロの顔って綺麗なのよね。プレイ後は嫌いなキャラ№2にランクインした彼だが、見た目は好きなのだ。幼い頃のイーディスのように海みたいにキラキラと目を輝かせるようなものではなく、目の保養というカテゴリーで。
「馬車くらいだったら来月にでも……」
「馬車より馬が欲しいです」
イーディスの父に根回しをしてイーディスに馬を飼わせまいとするリガロだが、それ以外はなんだかんだで贈り物をしてこようとする。まるで無関心だった期間の穴埋めをしているよう。そろそろ周りの令嬢によるアピールがうっとおしくなり、婚約者との仲良しアピールにシフトしたとも取れる。ドレスなんかはいらないと突き返しても贈ってくるほどだ。徐々にイーディスの好みを分かってくれたのか地味なものに変わっているが。……本当にこの男、なんなんだろう。
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