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六章
25.一生に一度の指輪
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ふよふよと飛ぶことしばらく。
大きな城が見えてきたと思ったら、男は一番大きな窓をめがけて少しずつ下降していく。そして窓から城に入りこみ、イーディスを床の上に降ろす。しゅるんと羽根をしまい、王座に腰掛ける男に声をかける。
「魔王~、イーディス=フランシカを連れてきたぞ」
彼が、魔王。
見た目は隣にいる男とよく似ている。人間っぽいけど、尻尾も角もある。羽根男は一本角だが、彼は二本角だ。それに貫禄が違う。まさに王という名にふさわしい。堂々としたたたずまいの男はスッと腰を上げ、イーディス達が立つ場所までゆっくりと降りてくる。
「本当にイーディスだったのか。アンクレットは?」
「一応周辺を探してはみたがいない。選ばれたのはイーディス=フランシカの方だった。だがこいつ、領主になったことも理解していなければ、ここが魔界であることも認識していないぞ?」
「少し戸惑っているだけだろ」
「戸惑っている、ねぇ……」
やはりここは魔界だったのか。どこから落ちたのだろう、と考えていると急に羽根男はイーディスに話を振った。
「イーディス、椅子に座った時、なんて言われたか覚えているか?」
「遺跡にあった椅子なら座っていませんよ」
「は?」
どうやら椅子に何かしらの仕組みがあったらしい。座ることで作動する予定だった、と。だがいくら疲れていたとしてもあの椅子に座るのはなかなかの度胸が必要だ。掃除したイーディスもイーディスだが、さすがに座る度胸はない。度胸試しも試練の一環だったのかもしれない。
「汚れていたので掃除して、その前でタイムリミットが来るのを待っていました」
未だ状況を理解していないイーディスだが、ここで嘘を吐いても仕方ない。正直に答えたのだが、二人はイーディスの答えが気に入らなかったらしい。羽根男は眉間に皺を寄せ、魔王は大きなため息を吐きながら頭を抱えている。そして頭に疑問符を浮かべるイーディスを無視しながら二人で話を再会する。
「……システムが誤作動したのか?」
「あり得ない」
「だが実際こいつはここに」
「おそらく聖母の力が働いたんだろう。前回みたいに他の世界に飛ばされるよりもずっといい。……この子を、領主にする」
「こいつ、イレギュラーだぞ? 何を起こすか俺たちですら予想が出来ない! 現にこいつは滅ぶ予定だった世界を救っている」
「だからだ。私達は彼女を失う訳にはいかない」
二人の会話の中にはシステムやイレギュラーなどよくわからない言葉ばかりが並ぶ。だがイーディスは世界なんて救っていない。転生先が剣聖や聖女ならともかく、モブ令嬢にそんな力はないのだ。どこぞの勇者様と勘違いしているのではなかろうかーーなんて割って入れるような雰囲気ではないので口を噤んだまま。聖母の力って結局なんなんだろうと考える。
「……聖母の力は強力すぎる。魔王の力さえも上書き出来るんだぞ?」
「発動するタイミングは二回とも、彼女の身体に一定以上の魔が溜まった時だ。聖母はイーディスを守るために力を使う。言い換えればそれ以外は発動していない。つまりイーディスが危機的状況に陥らなければ聖母が干渉してくる可能性は低いと言える」
「強引すぎないか? 何より確証がない。それにあいつの本に聖母の力がべったりついている訳をどう説明するつもりだ」
「確証を取るだけの余裕がないことはお前もよく分かっているだろ。俺は彼女に賭けたい」
「先代の時のように失敗するかもしれない」
「それでも彼女が壊れれば、今の状態だって崩壊する。今の状況から一人でも欠けたらあの世界も終わる。光が見えたあの場所が終わることが何を意味するか分からない訳じゃないだろ」
「それは……」
「それに今ならアンクレットがいる」
「ほぼ丸投げじゃねえか!」
「二十年間領主にならなかったあいつが悪い」
羽根男が「まぁ、いいか」と呟いてようやく話がまとまったようだ。魔王は何も言わず、こちらに来いと手を招く。一体なんだろう。彼らの元へと近寄れば「左手を出して」と指示される。はい、と手のひらを上にして差し出した。すると手首をグッと掴まれ、親指にリングをはめられる。
親指用にしても大きすぎる。男性用なのだろうか。手を引っ繰り返して見れば大きめの石が埋め込まれていた。角度を変えて見てみれば見覚えのあるものとよく似ていることに気付く。
「これは、退魔核?」
ザイルがイーディスにくれた剣にはめ込まれた退魔核とよく似ているのだ。一切のくすみがない無色透明。ダイヤモンドとも違う。水晶に似ているそれにイーディスの頬は緩んだ。
「似たようなもんだ。今後はその石を通してイーディスから魔王に魔が送られるようになる」
「そうなんですか~ってあれ、外れない」
親指にはめていると何かと不便だ。別の指に移動させようと指をひっかける。けれど力を入れてもなかなか外れない。そんなにぴったりはまっているようには見えないのになぜだ。アクセサリーを普段使いする習慣のないイーディスに指輪を外すための知識はない。アンクレットなら知っているかな。呑気に考えるイーディスに、魔王はなんてことないように衝撃の言葉を言い放った。
「死ぬまで外せないぞ」
「冗談でしょう?」
「安心しろ、死んだら外れる」
「なんでそんなもの、許可もなく人の手に付けるんですか!」
「確認もせずに手を出したお前も悪いだろ」
「それに嫌がったところで最終的には身につけることになる。領主の証だから大事にしろよ」
「領主の、証?」
「聞いてなかったのか? お前は今日からカルドレッドの領主になるんだよ」
確かにさっきチラッとそんな話は聞こえていた。だが冗談でしょう? これでもかというほどに顔を歪めれば、羽根男は「まぁ頑張れ」とイーディスの肩を叩いた。
大きな城が見えてきたと思ったら、男は一番大きな窓をめがけて少しずつ下降していく。そして窓から城に入りこみ、イーディスを床の上に降ろす。しゅるんと羽根をしまい、王座に腰掛ける男に声をかける。
「魔王~、イーディス=フランシカを連れてきたぞ」
彼が、魔王。
見た目は隣にいる男とよく似ている。人間っぽいけど、尻尾も角もある。羽根男は一本角だが、彼は二本角だ。それに貫禄が違う。まさに王という名にふさわしい。堂々としたたたずまいの男はスッと腰を上げ、イーディス達が立つ場所までゆっくりと降りてくる。
「本当にイーディスだったのか。アンクレットは?」
「一応周辺を探してはみたがいない。選ばれたのはイーディス=フランシカの方だった。だがこいつ、領主になったことも理解していなければ、ここが魔界であることも認識していないぞ?」
「少し戸惑っているだけだろ」
「戸惑っている、ねぇ……」
やはりここは魔界だったのか。どこから落ちたのだろう、と考えていると急に羽根男はイーディスに話を振った。
「イーディス、椅子に座った時、なんて言われたか覚えているか?」
「遺跡にあった椅子なら座っていませんよ」
「は?」
どうやら椅子に何かしらの仕組みがあったらしい。座ることで作動する予定だった、と。だがいくら疲れていたとしてもあの椅子に座るのはなかなかの度胸が必要だ。掃除したイーディスもイーディスだが、さすがに座る度胸はない。度胸試しも試練の一環だったのかもしれない。
「汚れていたので掃除して、その前でタイムリミットが来るのを待っていました」
未だ状況を理解していないイーディスだが、ここで嘘を吐いても仕方ない。正直に答えたのだが、二人はイーディスの答えが気に入らなかったらしい。羽根男は眉間に皺を寄せ、魔王は大きなため息を吐きながら頭を抱えている。そして頭に疑問符を浮かべるイーディスを無視しながら二人で話を再会する。
「……システムが誤作動したのか?」
「あり得ない」
「だが実際こいつはここに」
「おそらく聖母の力が働いたんだろう。前回みたいに他の世界に飛ばされるよりもずっといい。……この子を、領主にする」
「こいつ、イレギュラーだぞ? 何を起こすか俺たちですら予想が出来ない! 現にこいつは滅ぶ予定だった世界を救っている」
「だからだ。私達は彼女を失う訳にはいかない」
二人の会話の中にはシステムやイレギュラーなどよくわからない言葉ばかりが並ぶ。だがイーディスは世界なんて救っていない。転生先が剣聖や聖女ならともかく、モブ令嬢にそんな力はないのだ。どこぞの勇者様と勘違いしているのではなかろうかーーなんて割って入れるような雰囲気ではないので口を噤んだまま。聖母の力って結局なんなんだろうと考える。
「……聖母の力は強力すぎる。魔王の力さえも上書き出来るんだぞ?」
「発動するタイミングは二回とも、彼女の身体に一定以上の魔が溜まった時だ。聖母はイーディスを守るために力を使う。言い換えればそれ以外は発動していない。つまりイーディスが危機的状況に陥らなければ聖母が干渉してくる可能性は低いと言える」
「強引すぎないか? 何より確証がない。それにあいつの本に聖母の力がべったりついている訳をどう説明するつもりだ」
「確証を取るだけの余裕がないことはお前もよく分かっているだろ。俺は彼女に賭けたい」
「先代の時のように失敗するかもしれない」
「それでも彼女が壊れれば、今の状態だって崩壊する。今の状況から一人でも欠けたらあの世界も終わる。光が見えたあの場所が終わることが何を意味するか分からない訳じゃないだろ」
「それは……」
「それに今ならアンクレットがいる」
「ほぼ丸投げじゃねえか!」
「二十年間領主にならなかったあいつが悪い」
羽根男が「まぁ、いいか」と呟いてようやく話がまとまったようだ。魔王は何も言わず、こちらに来いと手を招く。一体なんだろう。彼らの元へと近寄れば「左手を出して」と指示される。はい、と手のひらを上にして差し出した。すると手首をグッと掴まれ、親指にリングをはめられる。
親指用にしても大きすぎる。男性用なのだろうか。手を引っ繰り返して見れば大きめの石が埋め込まれていた。角度を変えて見てみれば見覚えのあるものとよく似ていることに気付く。
「これは、退魔核?」
ザイルがイーディスにくれた剣にはめ込まれた退魔核とよく似ているのだ。一切のくすみがない無色透明。ダイヤモンドとも違う。水晶に似ているそれにイーディスの頬は緩んだ。
「似たようなもんだ。今後はその石を通してイーディスから魔王に魔が送られるようになる」
「そうなんですか~ってあれ、外れない」
親指にはめていると何かと不便だ。別の指に移動させようと指をひっかける。けれど力を入れてもなかなか外れない。そんなにぴったりはまっているようには見えないのになぜだ。アクセサリーを普段使いする習慣のないイーディスに指輪を外すための知識はない。アンクレットなら知っているかな。呑気に考えるイーディスに、魔王はなんてことないように衝撃の言葉を言い放った。
「死ぬまで外せないぞ」
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「安心しろ、死んだら外れる」
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