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62.花瓶にお手紙を挿して

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 レオンさんが乗った馬車が見えなくなるまで手を振り、エドルドさんの屋敷へと向かう。
 今日のご飯は何かな~。
 スキップしたい衝動を我慢しつつ、屋敷の門をくぐった辺りで異変に気づいた。
 屋敷の前に見慣れぬ馬車が止まっていたのだ。その馬車に描かれた家紋にも見覚えがなければ、お客さんがやってきたのだとスルーすることだろう。だが車体に描かれていたものは私が何度となく目にしたことがあるもの。もっといえば学園に通う日は最低二回は目にしている。そう、シャトレッド家の、エドルドさんの家の家紋だ。
 私が普段乗せて貰っている馬車とは違うものということは、エドルドさんのご家族が来ている可能性が高い。

 ご両親か義弟さんか。
 どちらにしても顔を合わせづらいのは確かだ。
 音を立てないように屋敷内へと侵入し、こっそりと自室へと向かう。机の上から一枚便せんを取り出して『部屋にいます』とだけ記した紙を花の形に折る。完成した紙の花玄関近くの花瓶に挿した。帰宅の際には物音で気づくだろうが、そこまでの間に帰ってこないと騒ぎになっても困る。きっとマリアさんなら紙花の存在に気づいてくれるだろう。周りに人の気配がないことを確認しながら、再び部屋へと戻った。

 ふうっとため息を吐けば、達成感すら覚える。
 まるで一仕事を終えたような感覚だ。体力的にも精神的にももう一仕事くらい行けるが、私が帰ってきてからというもの、エドルドさんは一度も仕事を持ってきてはくれない。レオンさんがいたため、家族の時間を確保してくれただけかもしれないが、暇な時間が空くとどうも身体を動かしたくなってしまう。

 身体を動かしたいといえば、近々ガイナスさん? のお屋敷にも足を運ばねばならない。
 双子のお兄さんにも来るように言われているし、長い間約束を放ってしまっている状態だ。それでも待っていて暮れているというのならお茶をご馳走になりに伺うべきだろう。
 お兄さん方はどちらかといえば、手合わせメインだったように見えたが、一応模擬剣を持参した方がいいのだろうか?

 だが知り合いのお家に行くのに剣先が丸まっているとはいえ、武器を持ち込むのはマナーとしてどうなのだろう。道場破りと思われても困る。そうなると手合わせはある程度仲良くなってからすべきなのだろうか。だが私はガイナスさんと仲を深めるつもりはない。……今のところは。だがレオンさんもお兄さん方と仲が良いみたいだし、学園での初めてのお友達になるにはちょうど良いのかもしれないとも思い始めている。
 今のところ、学園にいる知り合いはエドルドさんの義弟さんのみ。だがあの人とは友人にはなれそうもない。最後に会ってから時間はすっかりと開いてしまったが、放置した所で好感度が上がるはずもない。そもそも名前すら知らないのだ。学園版攻略本? 情報に載っていた少年が彼だという確信もない。まぁ確認なんてしなくても、名前なんて呼ぶ機会もないのだろうけれど。義弟さんは義弟さん。困ったら『あなた』とでも呼べば良いだろう。

 面倒な銀髪さんのことはひとまず置いておいて、暇な私はアイテム倉庫から大剣を取り出す。
 山ごもり中に使用していたもので、すっかりと刃がかけてしまっている。リサイクルに出すのもいいが、使えない訳ではない。むしろ無意識に使いやすいように調整していたのか、今まで交換した武器のどれよりも握りやすいし、振り回しやすい。これをそう簡単に逃がしてやるほど私も馬鹿ではない。すでに錬金術シリーズで鍛錬初歩は習得済み。簡単なものなら武器に属性付与も可能だ。

 だが今回は付与ではなく、欠けた刃の補修をしていく。
 アイテム倉庫から鉄鉱石や銀、アダマンタイトを出して、手の中で剣に押しつけていく。この方法だと一回一回手の中に入る数のものしか化合させていくことが出来ないのが不便だが、少しずつ合わせていくことで細かい調整をするのも楽だ。毎回調合が終わるごとにアイテムボックスから出した魔石を切って、切れ味を確認する。スパンと切れるのがベスト。だがそれで刀身が歪んでしまっては意味がない。アダマンタイトをプラスして丈夫さを増していく。だが増やしすぎても重心や重さが変わってしまう。
 あくまで私が持っているスキルは鍛冶に特化した鍛冶スキルではなく、調合全般を可能とする錬金術。鍛錬の他に薬も作れるが、それはそれで特化したスキルが別にある。一覧には特化系のスキルもあるため、取っても良いのだが、今の私にはポイント交換と錬金術で十分ではある。
 それに面倒な作業ではあるが、細かい作業は嫌いではない。レオンさんの誕生日に武器や防具を贈る日が来たら、その時に鍛冶スキルを取ればいいだろう。
 竜装備を手にした彼が喜ぶ装備品なんて今は思い浮かばない。けれどレオンさんなら何でも喜んでくれることだろう。でもやっぱり渡すなら最高のものを渡したいから。納得のいく素材と出会った時にでも贈ろうと思う。
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