シスターもどきは諦めが悪い

夜ノポテ人

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生意気な小娘

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「ちょっとママ!!得体の知れない女なんかにお金貸しちゃダメよ!!」

声の方に視線を向けるとホールへと続くドアを開け放ち、少女が足早にこちらに近付いて来る。ママさんと同じ様に頭に三角巾、服の上からシンプルなデザインのエプロンを着けている。年齢は十五歳前後くらい…?私よりは年下だと思うけど…。

容姿は美少女と言っていいほど整ってはいるが、何となく猫を思わせるツンとした顔の作り。しかし、今は眉を潜めて目を吊り上げているため魅力半減かな。もの凄く不機嫌そう…。見惚れている場合じゃない。その彼女が私の目の前に立ち少し下から睨み付ける。身長は私より少し低い。…勝った気分。

「アンタ何ふざけたこと言ってんの?助けてもらった上にお金を貸せ?図々しいにも程があるわ!一体どういう神経してんの?」

「…」

「何黙り込んでんのよ!何とか言いなさいよ!このひとでなし女!」

…とりあえずママさんに視線を移す。

「どちら様ですか?この生意気な小娘は?」

しまった…。突然横から口を挟まれて嫌みを言われたから…。

「あっ…この娘は…」

ママさんが慌てて何かを言おうとする…が…。

「誰が生意気な小娘だって…?!」

今にも殴りかかってきそう。

私は軽く一礼し、穏やかな口調で話す。

「失礼しました。ご無礼をお許し下さい…お嬢様。しかし、部外者のお子様が大人の会話に口を挟んではいけませんよ。その場が混乱しますから」

「誰が部外者よ!関係大アリよ!ウチのママが不審者に金貸せなんて言われて黙ってられる訳ないでしょ!!」

「ママ?…ママさんではなくて?」

「ごめんなさい。娘のミリーです。このお店を手伝ってくれてるの…」

いや…ママさんが悪い訳ではないですが…。
そういえば、部屋の扉に『ミリーの部屋☆』と書かれたプレートがあったっけ。勝手に年端もいかない少女をイメージしてたけど…。こんなに成長したお嬢様だったのか。確かに二人を見比べてみると髪色は同じだし、瞳の色も同じに見える。

しかし…だとしたらママさんは一体何歳なんだろう…。見た目は
二十代後半くらいに見える程の若々しさと健康美を感じさせる。でも、それだと仮に二十歳でこの娘を産んだとしても、歳は七~九歳位じゃないと計算が合わないような…ぶつぶつ…

「ちょっと!!人様の親をジロジロ眺めてんじゃないわよ!何か企んでんじゃないでしょうね?!」

うるさい娘…。一発ひっぱたいてやろうかな。…いや、ママさんのお嬢様に手を上げるのはダメ。それにこの娘の方が喧嘩強いかも…。ここは一つ煽てて機嫌を直してもらおう。

「何も企んでなどいませんよ。そうですか…。ママさんのお嬢様でしたか。なるほど…ママさんに似て大変お美しい。まるで童話に出てくる妖精さんのよう…お会いできて光栄です」

「いきなり手のひら返してんじゃないわよ!さっき生意気な小娘って言ったわよね!」

「いえいえ…とんでもない。『小生意気な天使ちゃん』という書物がございましてですね、そちらに登場する主人公の女の子によく似ていらっしゃいますと申し上げようとしたところ」

「ワケわかんない事言って誤魔化そうとしてんじゃないわよ!ほんとふざけた女!ママ、コイツ殴っていい?」

逆に火に油を注いでしまったみたい。

「ミリー…この人はシスター・ユリカさんと言って…」

「名前なんかどうだっていいわよ!大体、アンタ女神教団の人間でしょ?教団の人間が一般人からお金なんか借りていいと思ってんの?!」

「いえ…。私は旅のシスターでしてその女神教団とやらとは縁もゆかりもございません」

「はあ?この国でその格好してる人間は女神教団の人間って決まってんのよ!」

「ですから、私は国外から来た人間ですのでそんな決まりは知りません。聞いたこともありません」

「ますます胡散臭い奴!ママ、王国騎士団を呼ぶわ!それが手っ取り早い!」

マズイ…。警察(のようなもの)を呼ぶ気なの?それは遠慮願いたい。別に悪事はしてないけど(修道服剥ぎ取りを除く)私が身元不明・住所不定の放浪者であることに違いはない。職務質問とかされて逮捕するってなったら…。復活していきなり牢屋暮らしなんて救いが無さすぎる。

「ミリー…私の話を落ち着いて聞いて。彼女は悪い人ではないわ。今まで特に悪さもしていないし、お店の経営の事だって心配してくれた。普通、自分の利益の事ばかり考える人間は他人の心配なんかしたりしないはずよ。
お金の事もそう。彼女は金額を指定しなかった。悪人ならできるだけ多くお金を借りて、手に入ればすぐにトンズラするって考えでしょ?…なのに彼女はほんの少しでいいと言ったわ。これって『自分はお金が無くてとても困っている』…でも、相手にもなるべく負担を掛けたくないっていう気持ちの表れじゃないかな…と私は思うの」

ママさんは静かに…諭すようにミリーに語り掛けている。

「それに彼女…所持品もない状態で大ケガして倒れていたのよ。何か人には言えない事情があるに違いないわ。ミリー…私は彼女を助けたいの。私を信じて任せてもらえないかしら?」

「ママさん…」

ヤバい…。何か…泣きそう。そんなに深い考えがあったわけじゃないのに…。

「…わかった」

ミリーが静かに呟く。

「でも条件があるわ!」

こちらをキッと睨み付ける。

私は親の仇なの?そんなに睨まなくても…。

「一週間!一週間以内に借りたお金を全額返さなかったら許さないから!即、王国騎士団に通報する!」

「ミリー。一週間は短すぎるわ。もう少し待ってあげないと…」

「じゃあ二週間!二週間以内に返さなかったら半殺しにして騎士団に引き渡すから!…文句ないわよね?」

何で半殺しがプラスされてるの? 

「わかりました。二週間以内に必ずお返し致します…ミリーお嬢様」

「馴れ馴れしく呼ばないで!あたしはアンタの事…全く信用してないから!」

そう言うとミリーはその場から離れシンクで洗い物を始めた。

「ごめんなさいね。ミリーは私を守ってくれようとしてるだけなの。…うちは主人がいないから。」

「旦那様が…」

「ミリーが八歳の時に病気でね。それ以来二人暮らしだから。でも深刻に考えないでね?」

「そうですか…。お二人様、とてもお辛い思いをされた事でしょうね…。もし、私に何か出来る事がありましたら遠慮なく申し付け下さい」

「ありがとうユリカさん♪…それじゃあ、もし良かったらなんだけど…あの娘と仲良くしてやってもらえないかしら?もちろん、この町を出発するまでの間で構わないわ。ユリカさん歳はおいくつ?」

「今年で二十歳です」

でも、一回死んだから実際には0歳という事になるのかな。…まあ細かい事はいいかな…。

「あの娘が十六歳だから…そんなに離れてないわね♪うん、きっと良いお友達になれるわ!」

いえ…現時点で相当嫌われてますけど…。修復不可能なレベルでは…?と、思ったけど口には出さないでおく。

「誠心誠意努力致します」

「フフ…ありがとう♪」

嬉しそうなママさん。

「あ!ちょっと待っててね。今お金持ってくるから♪」

ママさんがホールから出ていく。

その間ミリーが私の事をジト目で見ている…。

まだ何か言い足りない事があるの?
 
「お待たせ!はい、どうぞ♪」

ママさんが戻ってきてお金が入っている封筒を渡してくれた。

「ありがとうございます。出来るだけ早くお返しします」

「焦らなくていいのよ。あなたのペースで無理せず返してくれれば…。ところでユリカさんはもう住む所決まっているの?」

「いえ…町に着いてすぐ気を失ってしまいましたので全然決まっていません。このままでは野宿コースです。夜空を見上げ星を数えることになりそうです」

「それは大変!だったら…もし良かったらこの食堂…というよりこの建物の二階に住むのはどうかしら?空き部屋が幾つかあるの。もちろんユリカさんが嫌なら断ってくれて構わないけど…」

「本当ですか?!それはありがたいお話です!…と言いたいところなのですが…。せっかくお借りした貴重なお金ですので、最大限安いお部屋を探して住もうかな、と考えています」

「それだったらウチがピッタリよ♪たぶん、この町で一番安く部屋を貸せるわ」

「え?嬉しいお話ですが…。不動産屋の方々より安くする事など出来るのでしょうか?」

「大丈夫大丈夫♪…ただ、残念な事に部屋が少し古くて傷んでるかもしれないの。あと、割引も利用出来るのだけど…。一つ条件があって…」

「割引?スペシャルママさんデラックス割引ですか?」

「…?そんなおかしな割引ないわよ♪ユリカさん…真顔で面白い事いうわね…」

ママさんが口元に手を当てて笑っている。

「ここは冒険者ギルド御用達の食堂って言ったでしょ?正確にはこの建物自体が冒険者優遇の施設に指定されてるの。だから、二階の部屋もギルドメンバーなら割引価格でお貸し出来るの」

「そうだったんですか…。ですが、私はギルドメンバーではありませんので割引は適用されないのでは?」

「そうなのよね…。でも、割引無しでもこの辺りでは一番安い価格でお貸しするわ!お近づきの印に♪」

「ありがとうございます。そういう事でしたら、こちらで決めさせていただこうと思います」

「部屋を見ずに決めていいの?」

「構いません。雨風をしのぐ事が出来れば満足ですので」

「流石はシスターね♪とっても謙虚!」

「いえ…それほどでもございません…」

シスターじゃないんだけどね…。

「えーと…お支払いの事なんだけど、家賃と電気代・水道代などの公共料金全て込みで一万五千ゴルかかるけど大丈夫かしら?」
 
全て込みで一万五千円?破格の安さなんじゃ…。前の世界じゃ考えられない…。

「たぶん大丈夫だと思います。頑張ります」

「それじゃあ…はい!これ部屋の鍵!無くさないよう気を付けてね♪あ!お支払いは後払いの来月中で良いからね」

ママさんがポケットから鍵束を取り出し、その内の一本を渡してくれる。

「助かります。鍵は確かにお受け取りしました。えっと…契約書に判子とかサインを…」
 
「ん?いいのいいの♪細かい事は気にしない!部屋は食堂を出て右側の階段登って二つ目の部屋ね!何かあったら遠慮なく言ってね!」

書かなくていいの?凄い世界…。何となく心配…。

「了解しました。早速お部屋に行ってみます。何から何まで色々とありがとうございました」

「いいのよ♪またお店に来てね!」
 
「はい。失礼致します」

お辞儀して食堂を出る。

何かトントン拍子に話が進んじゃったけど…。

住む所が決まった事は素直に安心出来るし喜ばしい事だよね。

よし…新たなマイホームに行ってみよう。
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