若頭と小鳥

真木

文字の大きさ
13 / 74

13 若頭と小鳥の恋人のお仕事

しおりを挟む
 義兄の怪我は左腕を切りつけられたもので、義兄は大したことはないと言ったが、朔は心配でたまらなかった。
 部屋で休んでいる義兄に、朔はたびたび戸口から顔をのぞかせて問いかける。
「兄さん、何か僕にできることないかな?」
 家には使用人もいるし、仕事に関わっていない朔にできることは少ないかもしれない。でも何かしてあげたくて、朔は義兄から言葉を引き出そうとした。
 義兄は机で仕事のものらしい書き物をしていたが、顔を上げて微笑む。
「いいんだよ。さっちゃんは大学の勉強があるでしょ?」
「でも利き手の怪我で不自由じゃないかな。食事とか、着替えとか。助けられたら」
 義兄は少し思案顔になって、ふと気づいたように言った。
「そうだなぁ……平日に、一日中さっちゃんと一緒にいられるのは貴重かも。さっちゃん、勉強見てあげる。持っておいで」
 それだといつも通り面倒を見られるのは朔の側だと思ったが、義兄がそう言うならと、朔はうなずいた。
 朔が義兄の部屋に勉強道具を持ってくると、義兄はテーブルの方に移っていた。朔も義兄の隣に座って、講義のレジュメやノートを広げる。
「わからないところや、つまずいているところは?」
「僕、経済学が苦手かな。大きな話で、実感が湧かなくて。たとえば……」
「ああ、それはね」
 朔がレジュメをめくって義兄に見せると、義兄は丁寧に説明を返してくれる。
 義兄は医学部卒だが、商学部の大学院も卒業している。天才肌でその勉強の仕方は変わっているが、昔から学問に長けている人だった。
「こうやって図を描いて……」
 子どもの頃から、学校を休みがちな朔に勉強を教えてくれたのも義兄だった。それも始終優しく、年の離れた朔でも知っている言葉を使って説明してくれた。
 一時間ほどそうやって勉強を見ているうち、義兄は朔に言った。
「さっちゃんは、大学を卒業したら俺の手伝いをしたいって言うけど。俺はさっちゃんを屋敷から出したくないんだ」
 義兄は気がかりそうに朔を覗き込んで言葉を続ける。
「俺の仕事は、危ないこともあるから。今回だって、さっちゃんが居合わせなくて本当によかったと思ってるんだ。……俺は自分が怪我をするより、さっちゃんが痛いって泣く方が耐えられない」
「兄さん……」
 朔はこくんと息を呑んで、精一杯言葉を返す。
「……だったら僕、外では泣かないように強くなる。兄さんの側にいたいもの」
 義兄の瞳が揺れたのを見て取って、朔は口をへの字にする。
「兄さん。少しずつ、仕事の場にも連れてって。今の僕は……し、失禁もしちゃうような、情けない僕だけど。強くなるって言っても全然説得力ないかもしれないけど、でも僕、兄さんの弟で……」
 朔はじわりと赤くなって、うつむきながら言った。
「……こ、恋人でもあると、思っていたいんだ」
 ふいに朔は義兄にぎゅっと抱きしめられて、朔は慌てる。
「兄さん、腕! 傷、開いちゃう」
「かわいい、かわいい……。なんてかわいいんだろ、俺のさっちゃんは。外の空気になんて触れさせたくない。俺の寝室だけに閉じ込めたい」
 義兄はそのままなかなか朔を離してくれなくて、朔を困らせた。朔が、傷が開いちゃうとおろおろしていると、義兄はようやく腕を解いてくれた。
 義兄は悪戯っぽく朔を見て言う。
「じゃあ……さっちゃん、恋人のお仕事頼んでいい?」
「は、はい。何でしょう」
 朔はそれを聞いて緊張すると、どうしてかかしこまって返事をする。
 義兄は照れくさそうに笑って朔に言った。
「今夜のお風呂。……さっちゃん、俺の体を洗ってくれる?」
 朔は一瞬きょとんとして、それでかぁっと赤くなった。
 小さい頃から、いつも義兄が朔の体を洗ってくれた。でもその逆は初めてで、朔は緊張するのと、どきどきする思いがした。
「本当は今すぐ一緒に入りたいけど。……俺の方が我慢、できなさそうだから」
 義兄が目を逸らしてぼそりとつぶやいた言葉は、朔には少し不思議だったけれど。
 それは小さい頃からゼロ距離だと思っていた二人の距離が、それ以上に近くなった瞬間だった。
 その夜の初めての「恋人のお仕事」は、くすぐったくて、お互い笑ってばかりだった。
 そんな、いつものお風呂以上に長くて甘い時間だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

僕の歓び

晴珂とく
BL
道弥と有一は、交際一年半。 深い関係になってからは、さらに円満なお付き合いに発展していた。 そんな折、道弥は、親に紹介したいと有一から打診される。 両親と疎遠になっている道弥は、有一の申し出に戸惑い、一度は断った。 だけど、有一の懐の深さを改めて思い知り、有一の親に会いたいと申し出る。 道弥が両親と疎遠になっているのは、小学校6年生のときの「事件」がきっかけだった。 祖母に引き取られ、親と離れて暮らすようになってからはほとんど会っていない。 ずっと仄暗い道を歩いていた道弥を、有一が救ってくれた。 有一の望むことは、なんでもしてあげたいくらいに感謝している。 有一の親との約束を翌日に控えた夜、突然訪ねてきたのは、 祖母の葬式以来会っていない道弥の母だったーー。 道弥の学生時代の、淡く苦い恋が明かされる。 甘くてしんどい、浄化ラブストーリー。 === 【登場人物】 都築 道弥(つづき みちや)、25歳、フリーランスデザイナー 白川 有一(しらかわ ゆういち)34歳、営業部社員 常盤 康太(ときわ こうた)道弥の同級生 === 【シリーズ展開】 前日譚『僕の痛み』 時系列 『僕の痛み』→『僕の歓び』

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

処理中です...