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第1章 変則ポーカー
第3話 勝負 その⑤
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手元に配られる、五枚のカード。
その一枚目を捲る前に、新和は全ての覚悟を決めていた。
(一枚目のカードで、全部決める。勝てると信じられるならコイン五枚以上、そうでないなら一枚で降りる)
状況に流されるのではなく、自分の意志で勝ちと負けを掴み取る。その果てに敗北したのなら、代償を支払う覚悟は出来ていた。
絶対に勝てると思ってはいない。けれどそれでも、
(私が、勝つ)
絶対に勝つという意気込みを同時に抱く。
そうでなければ、一番欲しい相手を手に入れる事など出来ないのだから。
勝利への渇望を力に変えて、新和は決着をつけるべく一枚目を捲った。
その数字は――ハートの2。
表に出されると同時に、
「十枚、ベットします」
最大枚数を賭けて来た。
(迷いは無い……か)
応える真志は僅かに間を空ける。見極めるために新和の目を見詰め、思惑を読み取ろうとしていた。
(賭けなければ負けるから賭けたんじゃない。勝てると信じて賭けに来てる。カードは良くないのに、なんでだ?)
目まぐるしく思考を巡らせ、可能な限りの過程を導く。その中で特に強く浮かび上がって来たのは、本ゲームが始まる前に行った模擬戦での新和の言葉。
「この子、よく来てくれる子なんです。かわいいんですよ。きっと、幸運を運んで来てくれてます。だって、今日は最初に来てくれたんだもの」
それを思い出し、真志は確信する。
(自分のジンクスに賭けて来た? おそらく……それが決断の最後の一押しだな。問題は、考え無しにそれだけに頼っているかだが……間違いなく違うな)
これまでの新和の行動から、彼女のギャンブラーとしての性質を読み取っていた真志は判断する。
(彼女は、直感を根っ子に置いた上で、論理的思考を手段として賭けの精度を上げてくるタイプだ。だからギリギリまで考え抜いた上で、それでも分かり得ない部分を直感で補う事に迷いは無い。となれば最後の勝負、こちらが幾らゆさぶりを掛けても、降りる事は無いな)
真志は理解する。最後の最後、この一戦は、退いた瞬間に終わるチキンレースめいた勝負になると。だからこそ、
「コール」
真志は新和の迷いの無さに押し切られないよう、確信を持って賭けて出た。
コールに応じると同時に捲られたカードの数字は、クラブのK。そのカードに真志が優位を感じるよりも、すでに覚悟を決めていた新和の迷いの無さの方が速い。
「十枚、レイズします」
即座にコイン十枚を乗せ、更に踏み込んでくる。
捲られたカードは、ハートの5。
(拙い、向こうの勢いの方が速い)
新和の勢いに流されそうになった真志は、軽く息を吸い吐く事で気持ちを整えると、あえてゆったりとした動きで返す。
「コールするよ」
更に積み増されるコイン十枚。そして僅かな間を空け、カードを捲る。
スペードのQ。
二枚続けてきた高目の数字。これに真志が思考を巡らせる余裕すら与えず、
「レイズ。十枚です」
新和は即座にコインを積み、カードを捲る。
ハートの3。
それを目にした瞬間、真志はぞわりと悪寒を感じ取った。
無意識の内に嗅ぎ取った直感。それは言語化されていない推論の兆し。
瞬間的に自覚できなかったそれを、瞬き一つの間に理解する。
(待て……待て待て待て、ここで、この局面で来るか、それが)
有り得ない。理性は常識を伴って諭してくる。
けれど、どうしようもなく直感は叫んでいた。
退け。降りろ、と。
(来る筈がない……その役は、来る訳がない)
単なる理屈だけでなく、今まで重ねた経験も合わせ、真志は思い至った役を否定しようとする。
だが、否定しきれない。
なぜなら今まで知り得たカードの中に、その役を作るカードが来ていないのだ。
つまり、裏になったままのカード、あるいは新和だけが知り得たカードの中にしか、それはない。
だからこそ、新和から読み取るしかなかった。けれど、
(まったく隠す気ないな……)
読み取るまでもなく、新和の考えは明白だった。
勝てると信じているのではなく、確信を持って勝ったと思っている。見ただけでそれが、伝わって来た。
(……騙しでも何でもない。隠さずさらけ出す事で、こちらに圧力を掛けて来たか)
チキンレース只中で、勝利を確信しアクセルをノンブレーキで全開にするような態度。
それに真志は怯まない。どれだけ煽られようが、冷静さを崩す事は無かった。
何があろうと頼りにするのは理性と経験、そして直感。
それらが勝負を続けるべきか降りるべきか、頭と心で駆け巡る。そして出した結論は、
「……まいったな……降りるよ。僕の負けだ」
流されるままに勝負を続ける事ではなく、自分自身の直感に賭ける事だった。
張り詰めた空気が、その瞬間弾ける。
決着は付いた。
勝敗が色付き、息つくように意識が緩んだその時、新和は最後の勝負に出た。
その一枚目を捲る前に、新和は全ての覚悟を決めていた。
(一枚目のカードで、全部決める。勝てると信じられるならコイン五枚以上、そうでないなら一枚で降りる)
状況に流されるのではなく、自分の意志で勝ちと負けを掴み取る。その果てに敗北したのなら、代償を支払う覚悟は出来ていた。
絶対に勝てると思ってはいない。けれどそれでも、
(私が、勝つ)
絶対に勝つという意気込みを同時に抱く。
そうでなければ、一番欲しい相手を手に入れる事など出来ないのだから。
勝利への渇望を力に変えて、新和は決着をつけるべく一枚目を捲った。
その数字は――ハートの2。
表に出されると同時に、
「十枚、ベットします」
最大枚数を賭けて来た。
(迷いは無い……か)
応える真志は僅かに間を空ける。見極めるために新和の目を見詰め、思惑を読み取ろうとしていた。
(賭けなければ負けるから賭けたんじゃない。勝てると信じて賭けに来てる。カードは良くないのに、なんでだ?)
目まぐるしく思考を巡らせ、可能な限りの過程を導く。その中で特に強く浮かび上がって来たのは、本ゲームが始まる前に行った模擬戦での新和の言葉。
「この子、よく来てくれる子なんです。かわいいんですよ。きっと、幸運を運んで来てくれてます。だって、今日は最初に来てくれたんだもの」
それを思い出し、真志は確信する。
(自分のジンクスに賭けて来た? おそらく……それが決断の最後の一押しだな。問題は、考え無しにそれだけに頼っているかだが……間違いなく違うな)
これまでの新和の行動から、彼女のギャンブラーとしての性質を読み取っていた真志は判断する。
(彼女は、直感を根っ子に置いた上で、論理的思考を手段として賭けの精度を上げてくるタイプだ。だからギリギリまで考え抜いた上で、それでも分かり得ない部分を直感で補う事に迷いは無い。となれば最後の勝負、こちらが幾らゆさぶりを掛けても、降りる事は無いな)
真志は理解する。最後の最後、この一戦は、退いた瞬間に終わるチキンレースめいた勝負になると。だからこそ、
「コール」
真志は新和の迷いの無さに押し切られないよう、確信を持って賭けて出た。
コールに応じると同時に捲られたカードの数字は、クラブのK。そのカードに真志が優位を感じるよりも、すでに覚悟を決めていた新和の迷いの無さの方が速い。
「十枚、レイズします」
即座にコイン十枚を乗せ、更に踏み込んでくる。
捲られたカードは、ハートの5。
(拙い、向こうの勢いの方が速い)
新和の勢いに流されそうになった真志は、軽く息を吸い吐く事で気持ちを整えると、あえてゆったりとした動きで返す。
「コールするよ」
更に積み増されるコイン十枚。そして僅かな間を空け、カードを捲る。
スペードのQ。
二枚続けてきた高目の数字。これに真志が思考を巡らせる余裕すら与えず、
「レイズ。十枚です」
新和は即座にコインを積み、カードを捲る。
ハートの3。
それを目にした瞬間、真志はぞわりと悪寒を感じ取った。
無意識の内に嗅ぎ取った直感。それは言語化されていない推論の兆し。
瞬間的に自覚できなかったそれを、瞬き一つの間に理解する。
(待て……待て待て待て、ここで、この局面で来るか、それが)
有り得ない。理性は常識を伴って諭してくる。
けれど、どうしようもなく直感は叫んでいた。
退け。降りろ、と。
(来る筈がない……その役は、来る訳がない)
単なる理屈だけでなく、今まで重ねた経験も合わせ、真志は思い至った役を否定しようとする。
だが、否定しきれない。
なぜなら今まで知り得たカードの中に、その役を作るカードが来ていないのだ。
つまり、裏になったままのカード、あるいは新和だけが知り得たカードの中にしか、それはない。
だからこそ、新和から読み取るしかなかった。けれど、
(まったく隠す気ないな……)
読み取るまでもなく、新和の考えは明白だった。
勝てると信じているのではなく、確信を持って勝ったと思っている。見ただけでそれが、伝わって来た。
(……騙しでも何でもない。隠さずさらけ出す事で、こちらに圧力を掛けて来たか)
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それに真志は怯まない。どれだけ煽られようが、冷静さを崩す事は無かった。
何があろうと頼りにするのは理性と経験、そして直感。
それらが勝負を続けるべきか降りるべきか、頭と心で駆け巡る。そして出した結論は、
「……まいったな……降りるよ。僕の負けだ」
流されるままに勝負を続ける事ではなく、自分自身の直感に賭ける事だった。
張り詰めた空気が、その瞬間弾ける。
決着は付いた。
勝敗が色付き、息つくように意識が緩んだその時、新和は最後の勝負に出た。
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