獏兎高校ギャンブル部

笹村

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第1章 変則ポーカー

第3話 勝負 その④

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「さて、どれだけ賭けようか」

 第四ゲーム先攻である真志しんじは、一枚目を捲りしばし思案する。
 表になったカードの数字はダイヤの3。
 これまで知り得た二十四枚のカード、その中には一枚も無い数字だ。

(ふむ……こちらが知ることの出来ない、新和にいな君が得た八枚のカードに残り三枚の3がある可能性もあるが……ここは攻めに行きたいね)

 勝てる、と信じられるカード。
 けれどそれを手に入れたからといって、賭けるコインの枚数に悩まないで良いという訳ではなかった。

(さて、何枚なら、退かずに食いついてくれるかな?)

 真志しんじがこの状況で考慮しているのは、今回のゲームがポーカーだからだ。
 優位だからと調子に乗って攻めすぎれば、慣れたプレイヤーなら即座に損切りを選び降りてしまう。
 そして新和にいなは、今までの流れから考えて、必要ならば即座に降りる判断が出来る相手だ。

(三戦目で最大枚数を賭けて『逃げない』ことを意思表示してきた以上、残りの二戦で『退く』ことにためらいは見せないだろな)

 そこまで考えつくと、同時に一つの悪戯心が浮かんでくる。

(この枚数で行ってみるか……表情が変わるかどうか、楽しみだよ) 

 一歩間違えれば新和にいなが退く枚数である事を予想しながら、それでも行けるという直感を信じ、楽しみながらコインを賭ける。

「二枚、ベットするよ」

 その枚数を見て、思わず新和にいなは引きつりそうになった表情を、辛うじて抑えることに成功した。

(なんでここで二枚出してくるの、この人……)

 残り二戦。コイン差は十枚で負けている。その状態にあって、出された二枚。

(こっちが最初から降りるかもって、思ってないの? それとも、こちらに降りて欲しいと思うほど、カードが良くないと思ってる?)

 新和にいなは一枚目に捲られたダイヤの3に、一瞬視線を向ける。
 その数字は、新和にいなが知ることの出来た中には無い。
 だから分からない。真志しんじが勝てると思ってブラフとしてコイン二枚を出して来たのか、それとも勝てないと思い出して来たのかが。
 第四戦のこのゲームで、自分が勝てるかどうか、何一つ分からず思い悩んでいた。
 それを真志しんじは読み取る。

(迷ってる、みたいだね)

 それは新和にいなの表情から読み取ったのではない。表になったダイヤの3に向かった、一瞬の視線。そこから読み取ったのだ。

(表情を隠したり、最低限のことは出来てるみたいだけど、それ以外がまだまだだな)

 ギャンブル、特にプレイヤー同士が対戦するゲームの場合、相手の心理を読み解くのは重要だ。
 その助けとなるのは表情、体の動きや僅かな挙動、あるいは視線である。
 視線の向き、留まる長さ。目の色素が薄く瞳孔の動きが読み易い人種相手であれば、瞳孔の収縮で読み取る手段とする程。

 だからこそ、一定以上のレベルなプレイヤー相手には、それらに対する対処が出来なければならない。それが新和にいなには出来ていなかった。
 それは純粋に経験値不足が原因だ。ギャンブラーである姉に幾らか鍛えられたとはいえ、まだまだ未熟。
 けれど、その不足を埋めるように、新和にいなは必死に悩んでいく。

(勝てないなら、退くべき。でも、勝てる勝負で退いたら、大損。なのに、勝てるかどうか全く分からない)

 じわじわと、不安がにじり寄って来る。それはベったりと貼り付くと、囁くように、逃げへと押し流そうとする。

 ――勝負なんて、しなくて良い。まだまだコインは勝っている。だから逃げろ、と。だからこそ、

(……ふざけんな)

 新和にいなは踏み込む事を決意する。

(私はここに、勝ちに来たんだ。勝ちを貰いに来たんじゃない。状況に流されて、自分の意志を捨ててたまるもんか。私は私の意志で、勝ちをもぎ取ってやる)

「コールします」

 僅かに硬い響きを声に滲ませ宣言すると、コイン二枚を代償にカードを捲る。
 スペードの3。
 条件は共に等しくなる。その中にあって、真志しんじは目を細めた。

(うん、楽しくなってきた)

 勝つか負けるか、どちらに転ぶか分からない状況を喜ぶ。
 不安も迷いも置き去りにして、真志しんじはギャンブルを楽しんでいた。そして、

「レイズするよ」

 即座に賭け金の上乗せを決意し、更にカードを捲る。
 スペードの8。
 真志しんじが知ることの出来たカードとしては、二枚目の8。
 新和しか知り得ぬカードの中に混じっているかもしれない事を考えれば、ワンペアが取れるかは微妙なカード。そのカードに、

「二枚、乗せるよ」

 一枚目のカードと同様の枚数を賭ける。
 弱気とも取れる枚数だったが、真志しんじは負けるとは全く感じていなかった。

(勝てる)

 それは確信めいた直感。
 根拠は希薄。絶対など、どこにもない。
 それを自覚しながら、自分の直感を信じる。
 状況に流され思考を放棄したのではなく、知り得た数字から可能性を考慮し、新和の思惑を読み取った上での判断だ。
 その上で二枚にしたのは、更に新和にいなに踏み込ませるため。
 それに返す新和にいなの動きは早かった。

「コールします」

 既に踏み込むと決めた以上、最早悩まない。コイン二枚を積み、カードを捲る。
 スペードの4。既に知り得たカードの中で、二枚出ている数字。
 それを見た瞬間、直感する。

(負けた)

 勝てないという直感。それを得ると同時に、既に意識は次の勝負に向かっていた。

(先輩がなにを出して来ても次で降りる。最大枚数を次でレイズしてきても、こちらの負けは四枚。次の勝負で最初に、最低五枚以上出さないとこちらの勝ちは無い――)

 悔やむなら勝負の後で。
 勝負の只中にある今は、そんな物に関わっている暇はない。
 踏み込み見切りをつけ、更にその先に。実力で劣っている事を自覚している新和にいなは、つたなくとも速さで先回りをする事を選ぶ。
 真志しんじが追い付き最後の勝負に挑むその時、覚悟の全てを終わらせておくために。
 その気配を、真志しんじは読み解く。

(返しが速いな……こちらが目の前の勝負にこだわっている隙に、最後の勝負に賭けて来たか……)

 出遅れたことを実感しながら三枚目を捲る。
 ハートのエース
 真志しんじの知り得た中では、一枚しかない数字。それを確認すると同時に、

「レイズ、十枚」

 最大枚数をかぶせて来た。
 しかし新和にいなは欠片も不安を見せず、ぐらつくことなく受け返す。

「フォールドします」

 裏になったままのカードを即座に手元に寄せると、結果を確認する。

 新和にいなは、ダイヤの6と7、そしてクラブの8。
 表に出したスペードの3と4を合わせても役なしノーハンド

 対する真志しんじは、クラブの3とクラブのエース
 表で出たダイヤの3とスペードの8、そしてハートのエースを入れてツーペア。

 確率にして五%にすら満たない役が真志しんじに来ているのを確認し新和にいなが感じたのは、自分の不運は足りているという実感。そして最後の勝負での、カードの手役への直感。

(ワンペアが一回に、ツーペアが一回。私が知ることの出来なかった六組の中で、一度もワンペアが来てないとは思えない。だから、最後の勝負は同じ数字が揃うような、ワンペアは出ない。なら最後は、十中八九、役なしノーハンド同士の戦いになる)

 その直感を得ているのは、真志しんじも同様。

(第四戦の僕のカードは、3かエースのどちらかは数字が揃っていたと考えるべきだ。場合によっては、新和君のカードで3のワンペアが出来ていた可能性すらある。
 今まで二回ワンペアが来てることが確認できてる事から考えれば、もうワンペアが今回の勝負で出て来る事は無い。
 となれば、今まで出た数字の重なりから考えても、最後の勝負はより強い数字のカードを手にした方が勝ちになる)

 新和にいなよりも多くの数字を知り得ていた真志しんじは、より高い精度で直感を受け入れる。
 だが、所詮それは直感。全てのカードを知り得ていない以上、絶対の根拠などない不確かな感覚。
 けれど二人は自分の直感に賭け、最後の勝負に挑んだ。

「ラストゲームです。二人とも、準備は良いですか?」

 ディーラーである幸太こうたの呼び掛けに、

「もちろん」
「良いよ。配って、幸太こうた

 真志しんじ新和にいなは、お互い視線を外すことなく返し、最後の勝負に挑む。
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