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間章
第2話 幸太の結果報告 その②
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それは、完全に地雷が爆発した瞬間だった。
その只中に居る大吾と典雅は、視線だけで気持ちをぶつけ合う。
(アカーン! これどないすりゃええんじゃ! 冴やんパスじゃ! ワシじゃさばけん!)
(テメェーっ! 地雷踏むだけ踏んどいて丸投げしてんじゃねぇぞ!)
ギリギリとにらみ合いながらも、最終的に典雅が折れて声を掛ける事になった。
「あ~、その、なんだ。その子に好きな相手がいるって、どこのどいつなんだ? 幸太は告白しようと思ってるんだから、別にいまその子が付き合ってるって訳じゃないんだろ?」
と、ここまで言って気付く。実は付き合ってるのを知ってて告白しようと思ってる、という答えが返ってきたら、最早お手上げだと。
気付いてだくだくと冷や汗を流す典雅に、幸太は返した。
「そんな事は無いです。だって、もう結婚してますから、その人」
予想外の返事に、キリキリと何故か胃が痛む大吾と典雅の2人。
(なんじゃ、なんじゃこりゃ。恋人無し歴=年齢のワシにゃ荷が重すぎぞ)
(不倫、まさか不倫とか出て来ないよな。やめて、マジ止めてそんな展開)
戦々恐々とした空気が続くのに耐えられず、2人は口を開く。
「結婚って、そうか。そりゃええのう。結婚ってなそりゃええのう」
(もっとマシなこと言えバカ!)
心の中で大吾を罵倒しながら、典雅は言った。
「結婚してるんだったら、もう関係ないんじゃないか。それはそれこれはこれで気持ちを切り替えて、告白してみりゃ良いんじゃないか?」
これに幸太は、しっかりとした口調で返した。
「いえ、出来ません。こんな自信の無い気持ちで、アイツに告白なんか出来ませんから。だから本当は、先輩たちのクラブに入って、そこで部長になれるほど皆に認められるようになったら告白しようと思ってたんです」
「だったら入れば良いんじゃないかのぅ。それで全部丸く収まるじゃろ」
大吾の言葉に、幸太は思い出すような間を空けて、表情を柔らかくして返した。
「そういう訳にはいきません。何しろアイツと賭けをして負けちゃいましたから。だからこれからは、アイツの目標のために頑張って、力になれたって自信を持てるようになったら、告白しようって思ってるんです」
この応えに、嵐は過ぎ去った事を感じた2人は胸をなでおろしながら、気を抜いた声で言った。
「ほーか。そりゃええこっちゃのぅ。それに賭けに負けたんならしょうがないわ。そりゃそっちのクラブに入らんといけんのぅ」
「幸太が賭けに負けるってのは、珍しいな。よっぽど運が良かったんだな、相手の子」
これに返した幸太の言葉を聞いて、2人は固まった。
「運じゃないですよ。アイツの実力です。でなけりゃ、生徒会長を騙すなんてこと出来ません」
「……嘘じゃろ」
「……マジか」
一瞬押し黙った後、2人は堰を切ったように喋り出す。
「どないすりゃ、あがぁなチートお化け騙せるんじゃ!」
「は? なに? バケモンなのかお前の好きな子」
「……バケモノって……別にそんなんじゃないですよ、アイツは。ただ単に、生徒会長と勝負して、勝った瞬間の隙をついて騙しただけで」
「嘘じゃろ! 騙しただけでもオカシイのになんでアレに勝てるんじゃ!」
「……いや、別にアレも、常勝不敗って訳じゃないから勝ててもオカシイ事は……まぁ、最終的に絶対に勝ってやがるから、どうしようもないチート野郎なんだが」
2人の言葉に、幸太は心の底から同意する。
「ですね。勝てたと言っても、一ゲームだけの事ですし。続けてたら確実に負けてたと思います。単純に、勝てた瞬間に勝ち逃げしただけで」
「それでも相当なもんだよ……なぁ、そういう子が目指してる物の力になりたいって言ってたよな。なにを目標にしてるんだ、その子」
怖いもの見たさな気持ちで聞いて来る典雅に、幸太は答えた。
「ギャンブルフェスティバルに在学中に出る事です」
これに大吾と典雅の2人は思わず言葉を無くす。その沈黙に曝されながら、幸太は2人が口を開いてくれるのを待ち続ける。
短いが長く感じた時間が過ぎて、2人は口を開いた。
「……なるほどのぅ。幸太がウチに入らんいう理由がよう分かったわ。そがぁな目標にしとんなら、他所に関わっとる暇ねぇわ」
「金も人も、集めるのに苦労するぞ。当てはあるのか?」
心配するように聞いてくる2人に、幸太は素直な声で返した。
「いえ、全くないです。だから助けて下さい」
信頼した眼差しで見つめてくる幸太に、大吾と典雅の2人は気付く。
「幸太、お前、そんつもりで途中から話しおったの」
「オカシイとは思ったんだよ。お前が自分だけのことならともかく、自分以外の誰かが関わることべらべら喋るの。こっちに興味持たせて、助けを頼む気だったんだろ」
これに幸太は、はぐらかす事なく返す。
「はい。姑息なのは自覚してますけど、どうしても助けて欲しかったですから」
応えを聞いた2人は、軽く眉を寄せ返した。
「そがぁなことなら、最初っから言っとけ。水臭いのぅ。言っちょくが、ワシゃ、お前の兄貴分のつもりじゃぞ。弟分が困っちょる言うんなら、幾らでも手ぇ貸したるわ」
「そだな。余計な心配すんな。これぐらいで借りが出来たとか気にする仲じゃねぇだろ」
「いえ、むしろ借りにして欲しいんです」
幸太の言葉に2人は何か返そうとしたが、真剣な眼差しを向けてくる幸太に言葉を返す事はせず、先を促すように黙っていた。
それに気付いた幸太は、軽く息をついて自分を落ち着かせ、考えを口にした。
「さっき、俺が言った事は、大吾先輩と典雅先輩の興味を引きたい気持ちもありましたけど、それ以上に本心なんです。今の俺だと、新和に告白できる自信なんてありません。それなのに、ただ甘えて2人に頼るだけじゃ、いつまでたっても自信を持てない気がするんです。だから、一方的に頼るんじゃなく、俺にも何か返させて下さい。お願いします」
頭を下げて頼みこんでくる弟分に2人は、
(こがぁなんは、あれじゃのぅ。兄貴分としては成長したんを喜ぶべきなんじゃろうが、ちぃと寂しい気もするのぅ)
(成長してる……んだろうなぁ、これ。とはいえ、その理由が彼女に告白したいからってのが、微妙な気持ちになるな……)
年頃の子供を持った親のようなことを思いつつも、幸太の気持ちに返す為に、あえてクラブの部長と副部長の立場として返した。
「よぅ分かった。そこまで言うんならギブ&テイクでいこうかいの。幸太、ギャンブルフェスティバルに出るんじゃったら、人もじゃが、まずは何よりも金を集めんといけんじゃろ」
「はい。学内と学外、両方で集める事を考えてます。学内で勝負をして集めつつ、学外でスポンサーを見つけられないか試してみるつもりです」
これに典雅は厳しい声で返した。
「スポンサーは止めとけ、ろくなことにならん。まず真っ当な所なら学生を相手にしないし、それで金を出すと言ってくるような相手は、大抵はろくでもない詐欺師か山師だ。どちらにしろ海千山千、そんなのに下手に関わる縁結んだら、ギャンブルフェスティバルに出るどころじゃないぞ」
「それは……そうかもしれませんけど、そうなると学内だけで一千百万円を集めないといけないことに――」
「集めりゃええじゃろ、それぐらい」
平然とした口調で、大吾は言った。
「幸太、お前まだウチに入って間が無いから実感しとらんのじゃろうがのぅ、たかだか一千万程度の金ぐらい平気で動く学校じゃぞ、ここは」
これに返すことが出来ない幸太に、典雅が続けて言った。
「幸太、ウチの学校に入ったら、学校の紹介で勧められたバイト先で、月に最低三万円以上を稼ぐよう課題を出されてるのは知ってるな」
「はい。俺もそれで、ギャンブルバーの下働きに出てますから」
「みたいだな。朝早くから店の片付けやら何やら積極的に頑張ってるって話は聞いてるよ。でだ、それで稼いだ金は学校指定の口座に入れて、月三万以上になってたら好きに使って良いって話になってるよな。なんで、月最低三万円は口座に貯め続けないとダメか知ってるか?」
「……いえ、知りません。ウチの学校は学費がタダですから、何かあった時にそこから出させるのかと思ってはいたんですが」
「当たらずとも遠からずってとこだな。お前らが貯めさせられてる月三万の金な、来月からお前ら一年も参加できる、月例学内ギャンブル大会で強制的に使わされる金だ」
これに幸太は、すぐには返せない。内容を咀嚼する間を空けて、理解しきった所で表情を硬くしながら返した。
「それって、ウチの生徒全員ってことですよね。生徒の総数が六百人だから、一月毎に一千八百万が動いてるってことですか」
これに大吾が応える。
「単純計算じゃとそうなるのぅ。実際はそこまで単純じゃないがの。ギャンブル大会いうても、生徒全員が博打できる訳じゃのぉて、運営役もせにゃあかんからの」
「それって、どういうことです?」
ある程度の推測は出来ているが確信の持てない幸太が聞き返すと、大吾が答える。
「そのまんまの意味じゃ。参加する生徒はグループを組んでカジノを運営しつつ、他の生徒がギャンブラーとして来たら相手をせにゃいかんのじゃ。場合によっちゃ、グループ内のギャンブラー役が勝っても、カジノの方で負けがこんどったら手持ちがマイナスになる事もある、楽しい楽しい大会じゃ」
「しかもカジノ運営するのに毎回学校側に場所代を払う必要もあるからな。勝ち負けなしのプラマイゼロにすらならん。勝てなければマイナスの大会だよ」
「……よく、そんな大会開いてるのに、外部に知られて無いですね」
獏兎高校の事を、入学前から調べられるだけ調べていたのにも拘らず、いま初めて学内ギャンブル大会の事を知った幸太は苦い口調で言う。
それに、先輩である2人は返した。
「学外に教えたら、下手すりゃ停学、最悪退学になるからな。言っとくが、この辺の守秘義務は、ギャンブル関係者として社会に出た時のことも考えての適正チェックにもなってるぞ。だから知らないのが当たり前だ」
「卒業生もその辺はべらべら喋らんからのぅ。そがぁな口の軽いの、ろくに相手にされんの皆わかっちょるからの」
「という訳だ、幸太。大吾が一千万程度って言ったのが理解できただろ?」
これに幸太は改めて、とんでもない高校に来たな、という実感を抱きつつ返した。
「……理解できました。最初にギャンブルフェスティバルに出るって言った時、2人とも驚いたんで学内でお金を集めるのは無理だと思ってたんですが、そういうことならスポンサーに頼らず学内だけで集めようと思います」
「それがええじゃろ。ああ、それとの、ギャンブルフェスティバル出る言うて驚いたんは、あがぁな出たらほぼ負けにしかならん大会目指しちょるのに驚いただけじゃ」
「俺も同じだよ。それぐらい無茶だからな、ギャンブルフェスティバルに出るの。ほぼ確実に集めた金を全部スッちまう覚悟は今の内からしとけよ」
「……はい」
神妙に頷き返す幸太に、大吾と典雅の2人は苦笑しつつ、力になるために提案した。
「それはそれとしてじゃ、幸太。ウチの学校じゃと、月に一千万単位で金が動くのは分かったじゃろ。という事はじゃ、すでにそれ以上の金を持っとる所もある、ということじゃ。そういう所で、普段からギャンブル勝負を受け付けとる相手のこと、知りとうないかのぅ?」
「要は、ギャンブルで勝って金ぶんどって来いってこった、幸太。その情報を教えてやる、巧く使えよ。という訳で、適当な相手というと――」
「ルーレット勝負しちょる所がある。そこに勝負に行ってみぃ、幸太」
典雅が迷うような間を空けた瞬間、大吾は言った。それに典雅は厳しい表情になると、
「お前、あそこと勝負させる気か。それじゃ――」
幸太を心配し止めるように言おうとする。だが大吾は手で制し、更に言った。
「ギャンブルフェスティバル出る言うんなら、弱ぇ相手とやり合うてもダメじゃろ。それに幸太は貸し借り無しがええ言うたんじゃ。ウチが情報を教える代わりに、幸太には仇を取りに行ってもらう。それでトントンじゃろ」
「……どういう事なんですか?」
大吾たちの会話に、後輩ではなく勝負師としての表情をさせながら聞いてくる幸太に、大吾は楽しそうな笑みを浮かべ、典雅は息を抜くように苦笑しながら返した。
「ウチのクラブのメンバーだけじゃないが、勝負してきた相手のほぼ全てにボロ勝ちしてきた相手が居るんだ。そいつらに勝ってくれってことさ」
これに幸太は、迷い無く返した。
「分かりました。教えて下さい、その相手を」
幸太の迷いの無さに、更に笑みを深くした大吾は相手の名前を口にした。
「東雲冬也と江田梓乃。現生徒会長、阿散井真志に負けた、前生徒会長と前副会長のコンビじゃ」
名を聞いて、幸太は息を飲む。すぐに言葉を返せないほど、一年生である幸太にも、相手の強さの噂は伝わっている。
それほどの相手だった。
それを証明するように、東雲冬也と江田梓乃の2人は、今この時も勝負に勝っていた。
その只中に居る大吾と典雅は、視線だけで気持ちをぶつけ合う。
(アカーン! これどないすりゃええんじゃ! 冴やんパスじゃ! ワシじゃさばけん!)
(テメェーっ! 地雷踏むだけ踏んどいて丸投げしてんじゃねぇぞ!)
ギリギリとにらみ合いながらも、最終的に典雅が折れて声を掛ける事になった。
「あ~、その、なんだ。その子に好きな相手がいるって、どこのどいつなんだ? 幸太は告白しようと思ってるんだから、別にいまその子が付き合ってるって訳じゃないんだろ?」
と、ここまで言って気付く。実は付き合ってるのを知ってて告白しようと思ってる、という答えが返ってきたら、最早お手上げだと。
気付いてだくだくと冷や汗を流す典雅に、幸太は返した。
「そんな事は無いです。だって、もう結婚してますから、その人」
予想外の返事に、キリキリと何故か胃が痛む大吾と典雅の2人。
(なんじゃ、なんじゃこりゃ。恋人無し歴=年齢のワシにゃ荷が重すぎぞ)
(不倫、まさか不倫とか出て来ないよな。やめて、マジ止めてそんな展開)
戦々恐々とした空気が続くのに耐えられず、2人は口を開く。
「結婚って、そうか。そりゃええのう。結婚ってなそりゃええのう」
(もっとマシなこと言えバカ!)
心の中で大吾を罵倒しながら、典雅は言った。
「結婚してるんだったら、もう関係ないんじゃないか。それはそれこれはこれで気持ちを切り替えて、告白してみりゃ良いんじゃないか?」
これに幸太は、しっかりとした口調で返した。
「いえ、出来ません。こんな自信の無い気持ちで、アイツに告白なんか出来ませんから。だから本当は、先輩たちのクラブに入って、そこで部長になれるほど皆に認められるようになったら告白しようと思ってたんです」
「だったら入れば良いんじゃないかのぅ。それで全部丸く収まるじゃろ」
大吾の言葉に、幸太は思い出すような間を空けて、表情を柔らかくして返した。
「そういう訳にはいきません。何しろアイツと賭けをして負けちゃいましたから。だからこれからは、アイツの目標のために頑張って、力になれたって自信を持てるようになったら、告白しようって思ってるんです」
この応えに、嵐は過ぎ去った事を感じた2人は胸をなでおろしながら、気を抜いた声で言った。
「ほーか。そりゃええこっちゃのぅ。それに賭けに負けたんならしょうがないわ。そりゃそっちのクラブに入らんといけんのぅ」
「幸太が賭けに負けるってのは、珍しいな。よっぽど運が良かったんだな、相手の子」
これに返した幸太の言葉を聞いて、2人は固まった。
「運じゃないですよ。アイツの実力です。でなけりゃ、生徒会長を騙すなんてこと出来ません」
「……嘘じゃろ」
「……マジか」
一瞬押し黙った後、2人は堰を切ったように喋り出す。
「どないすりゃ、あがぁなチートお化け騙せるんじゃ!」
「は? なに? バケモンなのかお前の好きな子」
「……バケモノって……別にそんなんじゃないですよ、アイツは。ただ単に、生徒会長と勝負して、勝った瞬間の隙をついて騙しただけで」
「嘘じゃろ! 騙しただけでもオカシイのになんでアレに勝てるんじゃ!」
「……いや、別にアレも、常勝不敗って訳じゃないから勝ててもオカシイ事は……まぁ、最終的に絶対に勝ってやがるから、どうしようもないチート野郎なんだが」
2人の言葉に、幸太は心の底から同意する。
「ですね。勝てたと言っても、一ゲームだけの事ですし。続けてたら確実に負けてたと思います。単純に、勝てた瞬間に勝ち逃げしただけで」
「それでも相当なもんだよ……なぁ、そういう子が目指してる物の力になりたいって言ってたよな。なにを目標にしてるんだ、その子」
怖いもの見たさな気持ちで聞いて来る典雅に、幸太は答えた。
「ギャンブルフェスティバルに在学中に出る事です」
これに大吾と典雅の2人は思わず言葉を無くす。その沈黙に曝されながら、幸太は2人が口を開いてくれるのを待ち続ける。
短いが長く感じた時間が過ぎて、2人は口を開いた。
「……なるほどのぅ。幸太がウチに入らんいう理由がよう分かったわ。そがぁな目標にしとんなら、他所に関わっとる暇ねぇわ」
「金も人も、集めるのに苦労するぞ。当てはあるのか?」
心配するように聞いてくる2人に、幸太は素直な声で返した。
「いえ、全くないです。だから助けて下さい」
信頼した眼差しで見つめてくる幸太に、大吾と典雅の2人は気付く。
「幸太、お前、そんつもりで途中から話しおったの」
「オカシイとは思ったんだよ。お前が自分だけのことならともかく、自分以外の誰かが関わることべらべら喋るの。こっちに興味持たせて、助けを頼む気だったんだろ」
これに幸太は、はぐらかす事なく返す。
「はい。姑息なのは自覚してますけど、どうしても助けて欲しかったですから」
応えを聞いた2人は、軽く眉を寄せ返した。
「そがぁなことなら、最初っから言っとけ。水臭いのぅ。言っちょくが、ワシゃ、お前の兄貴分のつもりじゃぞ。弟分が困っちょる言うんなら、幾らでも手ぇ貸したるわ」
「そだな。余計な心配すんな。これぐらいで借りが出来たとか気にする仲じゃねぇだろ」
「いえ、むしろ借りにして欲しいんです」
幸太の言葉に2人は何か返そうとしたが、真剣な眼差しを向けてくる幸太に言葉を返す事はせず、先を促すように黙っていた。
それに気付いた幸太は、軽く息をついて自分を落ち着かせ、考えを口にした。
「さっき、俺が言った事は、大吾先輩と典雅先輩の興味を引きたい気持ちもありましたけど、それ以上に本心なんです。今の俺だと、新和に告白できる自信なんてありません。それなのに、ただ甘えて2人に頼るだけじゃ、いつまでたっても自信を持てない気がするんです。だから、一方的に頼るんじゃなく、俺にも何か返させて下さい。お願いします」
頭を下げて頼みこんでくる弟分に2人は、
(こがぁなんは、あれじゃのぅ。兄貴分としては成長したんを喜ぶべきなんじゃろうが、ちぃと寂しい気もするのぅ)
(成長してる……んだろうなぁ、これ。とはいえ、その理由が彼女に告白したいからってのが、微妙な気持ちになるな……)
年頃の子供を持った親のようなことを思いつつも、幸太の気持ちに返す為に、あえてクラブの部長と副部長の立場として返した。
「よぅ分かった。そこまで言うんならギブ&テイクでいこうかいの。幸太、ギャンブルフェスティバルに出るんじゃったら、人もじゃが、まずは何よりも金を集めんといけんじゃろ」
「はい。学内と学外、両方で集める事を考えてます。学内で勝負をして集めつつ、学外でスポンサーを見つけられないか試してみるつもりです」
これに典雅は厳しい声で返した。
「スポンサーは止めとけ、ろくなことにならん。まず真っ当な所なら学生を相手にしないし、それで金を出すと言ってくるような相手は、大抵はろくでもない詐欺師か山師だ。どちらにしろ海千山千、そんなのに下手に関わる縁結んだら、ギャンブルフェスティバルに出るどころじゃないぞ」
「それは……そうかもしれませんけど、そうなると学内だけで一千百万円を集めないといけないことに――」
「集めりゃええじゃろ、それぐらい」
平然とした口調で、大吾は言った。
「幸太、お前まだウチに入って間が無いから実感しとらんのじゃろうがのぅ、たかだか一千万程度の金ぐらい平気で動く学校じゃぞ、ここは」
これに返すことが出来ない幸太に、典雅が続けて言った。
「幸太、ウチの学校に入ったら、学校の紹介で勧められたバイト先で、月に最低三万円以上を稼ぐよう課題を出されてるのは知ってるな」
「はい。俺もそれで、ギャンブルバーの下働きに出てますから」
「みたいだな。朝早くから店の片付けやら何やら積極的に頑張ってるって話は聞いてるよ。でだ、それで稼いだ金は学校指定の口座に入れて、月三万以上になってたら好きに使って良いって話になってるよな。なんで、月最低三万円は口座に貯め続けないとダメか知ってるか?」
「……いえ、知りません。ウチの学校は学費がタダですから、何かあった時にそこから出させるのかと思ってはいたんですが」
「当たらずとも遠からずってとこだな。お前らが貯めさせられてる月三万の金な、来月からお前ら一年も参加できる、月例学内ギャンブル大会で強制的に使わされる金だ」
これに幸太は、すぐには返せない。内容を咀嚼する間を空けて、理解しきった所で表情を硬くしながら返した。
「それって、ウチの生徒全員ってことですよね。生徒の総数が六百人だから、一月毎に一千八百万が動いてるってことですか」
これに大吾が応える。
「単純計算じゃとそうなるのぅ。実際はそこまで単純じゃないがの。ギャンブル大会いうても、生徒全員が博打できる訳じゃのぉて、運営役もせにゃあかんからの」
「それって、どういうことです?」
ある程度の推測は出来ているが確信の持てない幸太が聞き返すと、大吾が答える。
「そのまんまの意味じゃ。参加する生徒はグループを組んでカジノを運営しつつ、他の生徒がギャンブラーとして来たら相手をせにゃいかんのじゃ。場合によっちゃ、グループ内のギャンブラー役が勝っても、カジノの方で負けがこんどったら手持ちがマイナスになる事もある、楽しい楽しい大会じゃ」
「しかもカジノ運営するのに毎回学校側に場所代を払う必要もあるからな。勝ち負けなしのプラマイゼロにすらならん。勝てなければマイナスの大会だよ」
「……よく、そんな大会開いてるのに、外部に知られて無いですね」
獏兎高校の事を、入学前から調べられるだけ調べていたのにも拘らず、いま初めて学内ギャンブル大会の事を知った幸太は苦い口調で言う。
それに、先輩である2人は返した。
「学外に教えたら、下手すりゃ停学、最悪退学になるからな。言っとくが、この辺の守秘義務は、ギャンブル関係者として社会に出た時のことも考えての適正チェックにもなってるぞ。だから知らないのが当たり前だ」
「卒業生もその辺はべらべら喋らんからのぅ。そがぁな口の軽いの、ろくに相手にされんの皆わかっちょるからの」
「という訳だ、幸太。大吾が一千万程度って言ったのが理解できただろ?」
これに幸太は改めて、とんでもない高校に来たな、という実感を抱きつつ返した。
「……理解できました。最初にギャンブルフェスティバルに出るって言った時、2人とも驚いたんで学内でお金を集めるのは無理だと思ってたんですが、そういうことならスポンサーに頼らず学内だけで集めようと思います」
「それがええじゃろ。ああ、それとの、ギャンブルフェスティバル出る言うて驚いたんは、あがぁな出たらほぼ負けにしかならん大会目指しちょるのに驚いただけじゃ」
「俺も同じだよ。それぐらい無茶だからな、ギャンブルフェスティバルに出るの。ほぼ確実に集めた金を全部スッちまう覚悟は今の内からしとけよ」
「……はい」
神妙に頷き返す幸太に、大吾と典雅の2人は苦笑しつつ、力になるために提案した。
「それはそれとしてじゃ、幸太。ウチの学校じゃと、月に一千万単位で金が動くのは分かったじゃろ。という事はじゃ、すでにそれ以上の金を持っとる所もある、ということじゃ。そういう所で、普段からギャンブル勝負を受け付けとる相手のこと、知りとうないかのぅ?」
「要は、ギャンブルで勝って金ぶんどって来いってこった、幸太。その情報を教えてやる、巧く使えよ。という訳で、適当な相手というと――」
「ルーレット勝負しちょる所がある。そこに勝負に行ってみぃ、幸太」
典雅が迷うような間を空けた瞬間、大吾は言った。それに典雅は厳しい表情になると、
「お前、あそこと勝負させる気か。それじゃ――」
幸太を心配し止めるように言おうとする。だが大吾は手で制し、更に言った。
「ギャンブルフェスティバル出る言うんなら、弱ぇ相手とやり合うてもダメじゃろ。それに幸太は貸し借り無しがええ言うたんじゃ。ウチが情報を教える代わりに、幸太には仇を取りに行ってもらう。それでトントンじゃろ」
「……どういう事なんですか?」
大吾たちの会話に、後輩ではなく勝負師としての表情をさせながら聞いてくる幸太に、大吾は楽しそうな笑みを浮かべ、典雅は息を抜くように苦笑しながら返した。
「ウチのクラブのメンバーだけじゃないが、勝負してきた相手のほぼ全てにボロ勝ちしてきた相手が居るんだ。そいつらに勝ってくれってことさ」
これに幸太は、迷い無く返した。
「分かりました。教えて下さい、その相手を」
幸太の迷いの無さに、更に笑みを深くした大吾は相手の名前を口にした。
「東雲冬也と江田梓乃。現生徒会長、阿散井真志に負けた、前生徒会長と前副会長のコンビじゃ」
名を聞いて、幸太は息を飲む。すぐに言葉を返せないほど、一年生である幸太にも、相手の強さの噂は伝わっている。
それほどの相手だった。
それを証明するように、東雲冬也と江田梓乃の2人は、今この時も勝負に勝っていた。
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