14 / 19
間章
第2話 幸太の結果報告 その①
しおりを挟む
「幸太。つまりお前は、ウチん所にゃ入れんと、そういう事じゃな」
「はい。折角お誘い頂いたのに、申し訳ありません」
お昼休み。
ディーラーズクラブの部室で幸太は、大学の応援団が着るような長ランの学生服を着た坊主頭の三年生相手に、手を後ろ手に直立不動の体勢で返答した。
返答を受けた相手の名前は、剣崎大吾。
獏兎高校で最も古いクラブの一つであるディーラーズクラブの部長である。
大吾は、部室に備え付けの机を前にして椅子に座りながら続けて言った。
「んで、ウチん所に入らんで、他所で入るいうんが、幼馴染が作ったいうクラブと、そういう訳じゃな」
「はい」
明朗な応えに大吾は、しばし黙って固まっていたが、
「ふぅ……――」
軽くため息一つ吐いた後、なんか壊れた。
「なんじゃそりゃああああっ! リア充かっ、リア充なんかワレェ!
ああああっ、妬ましいっ! 妬ましいわあああっ! こっちが高校三年何ものぉて終わろいうんに一年坊が大人の階段昇る言うなら足引っ張りたくなるわあああっ!
つーわけで、ガラ拐ってでもウチのクラブに入れちゃろうかいのーっ!」
これに対する突っ込みは速かった。
「落ち着けボケ」
「はうっ!」
好い音をさせハリセンが大吾の後頭部に炸裂する。
突っ込みを入れたのは、ブレザーの学生服をチャラい感じにイジった物を着込んだ三年生、冴島典雅だ。
漠兎高校では、学校に申請を出して認められれば好きな服を着ても良いことになっているとはいえ、結構チャラい感じの生徒である。
もっとも、ディーラーズクラブの副部長をしているだけあって、見た目はともかく中身は真面目だったりする。
そんな典雅が、軽くため息一つ吐いて、
「後輩を妬んでんじゃねーよ、みっともねーな。それでもディーラーズクラブの部長かよ」
割と本気で呆れたように言った。しかし大吾は堂々と言い返す。
「それとこれとは別じゃあ! 別腹なんじゃあっ! ワシの中の嫉妬心が突っ込めと叫んどんじゃあ! お前それどんなエロゲと」
「燃えないゴミの日に捨ててしまえそんな不純物」
大吾と典雅2人のやり取りに、幸太は遠い目をしなから気だるげに小さく笑みを浮かべると、さらっと言った。
「あ、もう帰って良いっすかね」
「お、良いぞ」
「待て待て待てぃっ! 話はこれからじゃろうがい!」
「……はぁ」
げんなりとしつつも、学校だけではなく、学外の若手マジシャン協会の先輩後輩の関係でもある幸太は、大吾の言葉でその場に留まる。すると典雅が、
「帰っても良いんだぞ。後はこっちで適当にあやしとくし」
「いえ、典雅先輩だけに苦労を掛ける訳には」
「お前ら二人、ワシをなんじゃと思っとるんじゃ」
テンポ良く会話を重ねる三人。学校ではなく若手マジシャン協会ではあるが、十年近く仲良くしてきたのは伊達では無かった。
それぞれの個人的な事も知っているぐらいに、気安い仲である。だからこそ、大吾は言った。
「しっかし惜しいのぉ。ウチに入るんなら、来年の部長になれるよう口添え出来たんに」
これに幸太は僅かに表情を硬くして返す。
「大吾先輩。そういうのは――」
「それに関しちゃ、俺も同意見だ」
幸太の言葉を遮り、典雅が続ける。
「言っとくが、贔屓がどうのこうの、そういう話じゃないぞ。下手なのを部長につけると、その年から寄付金がごっそり減るからな。クラブの繁栄のためにも、寄付金元を納得させられる人事をするのが部長の最後の仕事だからな」
これに幸太は返せない。典雅の言うことは正しいと思っているからだ。
それは、獏兎高校のシステムが独特である事に理由がある。
なにしろ獏兎高校は、経営資金の大半を寄付金に頼っているのだ。
学費には一切頼っていない。基本、生徒はタダで学校に通えるのだ。
試験に通れば、ではあるが。
そのため、寄付金元の意向というのは、学校のみならず生徒も意識せざるを得ないのだ。
「幸太も知っちょるじゃろうが、ウチのクラブの寄付金元の大口は、マジシャン協会に席をおいちょるディーラーが大半じゃ。じゃから、伝統的にウチの部長はマジシャン協会に伝手のあるんを第一候補に選らんじょる。お前が入らんとなると、また一から選定せんといかんから面倒、言うのが本音じゃ」
淡々と事実のみを告げる大吾に、幸太は勢い良く頭を下げ言い切った。
「すみません。先輩の期待に応えられないのは申し訳ないと思っています。それでも、俺は入れません」
「……あ~、頭あげぇや。別に責めちょる訳じゃないからのぅ」
パタパタと手を振りながら軽い口調で言う大吾に、幸太は真っ直ぐに視線を合わせながら顔を上げる。
それに大吾は、軽くため息一つ。そして楽しそうに笑いながら言った。
「やっぱ野郎の先輩よりゃ、彼女の方が大事かのぅ。ええのぅええのぅ、ワシも彼女欲しいのぅ」
これに幸太は、自分でも気づけないほど僅かに表情を硬くしながら返した。
「別に、新和とはそういうんじゃないです。告白とかも、してないですから……」
その声には、聞いていて分かるほど苦い物が込められていた。だからこそ、大吾も気づく。
(いかん。地雷踏んでもうたか、ワシ)
助けを求めるように典雅に視線を向けるが、その時には既にあさっての方向を見ながら微妙に距離を空けられていた。
(この野郎、さっさと逃げよった)
顔が引きつりそうになるのをこらえながら、大吾は慣れない慰めのようなことを言う。
「いや、まぁ、そのなんじゃ。告っとらんなら告ってしまえばええじゃろ。それで万事解決――」
「無理です。まだ、そんな自信ないですから」
幸太の応えに、場の空気が固まる。その空気をほぐせる器用さが無いのを自覚している大吾は、必死に典雅にフォローを視線でアピール。
助けを求めるというより殺す気満々な雰囲気を漂わせる大吾に、典雅は諦めるようにため息をつくと、
「自信って、相手の子に好かれて無いって思ってるのか?」
幸太の想いが吐き出せるように促す。それに幸太は、少しだけ迷うような間を空けて返した。
「アイツ、他に好きな人がいますから」
「はい。折角お誘い頂いたのに、申し訳ありません」
お昼休み。
ディーラーズクラブの部室で幸太は、大学の応援団が着るような長ランの学生服を着た坊主頭の三年生相手に、手を後ろ手に直立不動の体勢で返答した。
返答を受けた相手の名前は、剣崎大吾。
獏兎高校で最も古いクラブの一つであるディーラーズクラブの部長である。
大吾は、部室に備え付けの机を前にして椅子に座りながら続けて言った。
「んで、ウチん所に入らんで、他所で入るいうんが、幼馴染が作ったいうクラブと、そういう訳じゃな」
「はい」
明朗な応えに大吾は、しばし黙って固まっていたが、
「ふぅ……――」
軽くため息一つ吐いた後、なんか壊れた。
「なんじゃそりゃああああっ! リア充かっ、リア充なんかワレェ!
ああああっ、妬ましいっ! 妬ましいわあああっ! こっちが高校三年何ものぉて終わろいうんに一年坊が大人の階段昇る言うなら足引っ張りたくなるわあああっ!
つーわけで、ガラ拐ってでもウチのクラブに入れちゃろうかいのーっ!」
これに対する突っ込みは速かった。
「落ち着けボケ」
「はうっ!」
好い音をさせハリセンが大吾の後頭部に炸裂する。
突っ込みを入れたのは、ブレザーの学生服をチャラい感じにイジった物を着込んだ三年生、冴島典雅だ。
漠兎高校では、学校に申請を出して認められれば好きな服を着ても良いことになっているとはいえ、結構チャラい感じの生徒である。
もっとも、ディーラーズクラブの副部長をしているだけあって、見た目はともかく中身は真面目だったりする。
そんな典雅が、軽くため息一つ吐いて、
「後輩を妬んでんじゃねーよ、みっともねーな。それでもディーラーズクラブの部長かよ」
割と本気で呆れたように言った。しかし大吾は堂々と言い返す。
「それとこれとは別じゃあ! 別腹なんじゃあっ! ワシの中の嫉妬心が突っ込めと叫んどんじゃあ! お前それどんなエロゲと」
「燃えないゴミの日に捨ててしまえそんな不純物」
大吾と典雅2人のやり取りに、幸太は遠い目をしなから気だるげに小さく笑みを浮かべると、さらっと言った。
「あ、もう帰って良いっすかね」
「お、良いぞ」
「待て待て待てぃっ! 話はこれからじゃろうがい!」
「……はぁ」
げんなりとしつつも、学校だけではなく、学外の若手マジシャン協会の先輩後輩の関係でもある幸太は、大吾の言葉でその場に留まる。すると典雅が、
「帰っても良いんだぞ。後はこっちで適当にあやしとくし」
「いえ、典雅先輩だけに苦労を掛ける訳には」
「お前ら二人、ワシをなんじゃと思っとるんじゃ」
テンポ良く会話を重ねる三人。学校ではなく若手マジシャン協会ではあるが、十年近く仲良くしてきたのは伊達では無かった。
それぞれの個人的な事も知っているぐらいに、気安い仲である。だからこそ、大吾は言った。
「しっかし惜しいのぉ。ウチに入るんなら、来年の部長になれるよう口添え出来たんに」
これに幸太は僅かに表情を硬くして返す。
「大吾先輩。そういうのは――」
「それに関しちゃ、俺も同意見だ」
幸太の言葉を遮り、典雅が続ける。
「言っとくが、贔屓がどうのこうの、そういう話じゃないぞ。下手なのを部長につけると、その年から寄付金がごっそり減るからな。クラブの繁栄のためにも、寄付金元を納得させられる人事をするのが部長の最後の仕事だからな」
これに幸太は返せない。典雅の言うことは正しいと思っているからだ。
それは、獏兎高校のシステムが独特である事に理由がある。
なにしろ獏兎高校は、経営資金の大半を寄付金に頼っているのだ。
学費には一切頼っていない。基本、生徒はタダで学校に通えるのだ。
試験に通れば、ではあるが。
そのため、寄付金元の意向というのは、学校のみならず生徒も意識せざるを得ないのだ。
「幸太も知っちょるじゃろうが、ウチのクラブの寄付金元の大口は、マジシャン協会に席をおいちょるディーラーが大半じゃ。じゃから、伝統的にウチの部長はマジシャン協会に伝手のあるんを第一候補に選らんじょる。お前が入らんとなると、また一から選定せんといかんから面倒、言うのが本音じゃ」
淡々と事実のみを告げる大吾に、幸太は勢い良く頭を下げ言い切った。
「すみません。先輩の期待に応えられないのは申し訳ないと思っています。それでも、俺は入れません」
「……あ~、頭あげぇや。別に責めちょる訳じゃないからのぅ」
パタパタと手を振りながら軽い口調で言う大吾に、幸太は真っ直ぐに視線を合わせながら顔を上げる。
それに大吾は、軽くため息一つ。そして楽しそうに笑いながら言った。
「やっぱ野郎の先輩よりゃ、彼女の方が大事かのぅ。ええのぅええのぅ、ワシも彼女欲しいのぅ」
これに幸太は、自分でも気づけないほど僅かに表情を硬くしながら返した。
「別に、新和とはそういうんじゃないです。告白とかも、してないですから……」
その声には、聞いていて分かるほど苦い物が込められていた。だからこそ、大吾も気づく。
(いかん。地雷踏んでもうたか、ワシ)
助けを求めるように典雅に視線を向けるが、その時には既にあさっての方向を見ながら微妙に距離を空けられていた。
(この野郎、さっさと逃げよった)
顔が引きつりそうになるのをこらえながら、大吾は慣れない慰めのようなことを言う。
「いや、まぁ、そのなんじゃ。告っとらんなら告ってしまえばええじゃろ。それで万事解決――」
「無理です。まだ、そんな自信ないですから」
幸太の応えに、場の空気が固まる。その空気をほぐせる器用さが無いのを自覚している大吾は、必死に典雅にフォローを視線でアピール。
助けを求めるというより殺す気満々な雰囲気を漂わせる大吾に、典雅は諦めるようにため息をつくと、
「自信って、相手の子に好かれて無いって思ってるのか?」
幸太の想いが吐き出せるように促す。それに幸太は、少しだけ迷うような間を空けて返した。
「アイツ、他に好きな人がいますから」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる