獏兎高校ギャンブル部

笹村

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間章

第1話 新和の結果報告

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 賭けの勝ちを告げ、それを聞いた友人は驚愕した。

「え? マジでやったの? ちょっと引いたんだけど」
「さっちゃんのアイデアでしょうがーっ!!」

 午前の授業も終わったお昼休み。
 教室の机をくっつけて、お弁当を一緒に食べながら、賭けの結果報告を友人である堂島どうじま咲希さきに告げた新和にいなは、思わず突っ込みを返す。
 お昼休みで周囲の皆も雑談に忙しい事もあって、多少声は大きかったが注目を浴びてはいない。それ以前に、ギャンブラーを養成するような高校に来る生徒達である。クセのある変わり者だらけなので、この程度で気にするような『常識的な』生徒は居なかったりする。
 なので、普段と変わらぬ調子で新和にいな咲希さきは、いつものようにいつもの如く、じゃれ合うようにして言葉を交わしていく。

「いや~、ホントにやるとは思わなかったわ。というか――」

 他の生徒には聞こえないよう声を潜めて咲希さきは続ける。

「幼馴染の見てる前で他の男に見せながら脱衣って、どんだけドMプレイなん」
「ちっ……違うっ。そんなんじゃないってば」

 思わず大きくなりかけた声を抑え、僅かに頬を染めながら返す。
 ついでに言うと、微妙に涙目だった。
 それを見ながら咲希さきは悪戯心を満足させつつ、更にからかう。

「違うって言ってもねぇ。他の方法取らなかったんだし、そういう趣味があるとしか思えないじゃん」

 これに新和にいなは涙目のまま、拗ねたように返す。

「他に、こーたとの賭けに勝てる方法があったらやってたよ。あのやり方以外で、今の私だと無理だったんだから、しょうがないじゃない」

 そんな新和にいな咲希さきは、によによ笑みを浮かべ見詰めながら優しく言った。

「うんうん、分かってる分かってるって。それだけ必死だったんだよね。今まで通り、一緒に居られますようにって」

 これに新和にいなは、更に顔を赤らめる。そして小さく俯くと、

「……うん」

 恥ずかしそうに返した。そんな新和にいなに、ぞわぞわと嗜虐心が沸き立つ咲希さきは、

「うわっ、あま~い。口の中、じゃりじゃり言いそう。という訳で、口直しにチーズハンバーグもらいっと」

 ひょいっと、新和にいなのお弁当から一口チーズハンバーグを強奪する。

「あーっ、のけておいたのにーっ!」
「大事にしてるだけだと横から取られちゃったりするのだよ。そしていただきまーすっ! ん……あ、美味しい。硬すぎず柔らかすぎず、冷めても肉汁がしつこくなくて美味しいヤツだ、これ。チーズとソースが合わさってちょうど良い感じ。腕上げた?」

 これに新和にいなは、今まで咲希さきに言葉攻めでイジめられ拗ねていたのだが、褒められた嬉しさに表情かおを微妙に緩めながら返す。

「そう、かな……挽肉の配合とか変えたんだけど。豚肉と牛肉だけじゃなくて、鶏肉も入れてみてソースも調整してみたし」
「ふ~ん。それって練習してる? 幸太こうた、ハンバーグ好きなんでしょ」

 これに一気に顔を赤くし、何かを言おうとした新和にいなに、

「はいはい、落ち着いて落ち着いて」

 咲希さきは自分のお弁当から、甘味のある出汁巻卵を箸で取り、新和にいなの口に放り込む。

「んんっ!」

 慌てて口を閉じ、味わう新和にいな。くどさの無い上品な甘みがほんのりと広がり、思わず表情かおが緩む。

「美味しい。お寿司屋さんとかの、お店で出て来る卵みたい」
「みりんと出汁でちょちょい、ってね。さすがに海老とか魚のすり身入れて出汁巻みたいなの作る気はないけど、これはこれで受けが良いのよ。今度教えたげよっか? 幸太こうた、甘いの好きだし」
「うっ……それは、その……お願いします」

 悩みつつも返す新和にいなに、咲希さきは苦笑しながら、

「はいはい、素直でよろしい。そういう努力家なところ、私好きだよ。だから、それが無駄にならないよう、ギャンブルフェスティバルに出れるよう頑張らないとね。それまでは、告白する気は、ないんでしょ?」
「……うん」

 咲希さきの言葉に新和にいなは、それまでの浮かれた表情を消し、意気込むように返した。
 いま二人が話題にしているギャンブルフェスティバルとは、文字通りギャンブルの祭典のことだ。
 年に一回、ここ漠兎市で行われるそれは、全国からギャンブラーが集まり二週間を掛けてのギャンブルレースが行われる。
 日本全国はおろか、世界中からギャンブラーの集まるこのイベントは、百億単位のお金が動く。
 だがそれ以上に、健闘を見せるだけで、ある種のステータスを得る事の出来るイベントでもあった。
 そのため、お金だけではなく地位や名誉に自己顕示欲、その他諸々を満足させようと、古強者から卵の殻が取れたばかりのヒヨコちゃんめいた素人モドキまで、多種様々な人間が参加する。
 年齢制限も十五歳以上という事で、過去には学生でありながら参加し、大いにその名を知らしめた者も居た。
 新和にいなの姉、今では結婚して苗字の変わっている佐々木水奈ささきみなも、その一人だ。

「お姉ちゃん、今年も出るんでしょ?」

 咲希さきの問い掛けに、

「うん。そう、言ってた。遊んでやるから、早く来いって」

 新和にいなは姉の言葉を思い出しているのか、意欲を表情に滲ませる。とはいえ、

「そのためには、参加費用とメンバー、集めないとね。一人で出る気は、無いんでしょ?」

 咲希さきの言葉通り、ギャンブルフェスティバルに参加する為の費用とメンバーを集める必要があった。
 ギャンブルフェスティバルは、二週間の期間を費やして幾つものギャンブルが行われる。そのため、ぶっ通しで行われる事で出る、肉体的精神的疲労は軽くは無い。その上、多種多様なギャンブルが行われる事もあり、どうしても得手不得手は出て来る。
 そういった事情から、最小で一人から、最大で十人で一チームの参加が認められている。
 更に言えば、メンバーを集めないといけないだけでなく、参加費用がまたおおごとだ。
 なにしろ、一チーム一千百万円が必要になって来る。
 これ自体は、高すぎるという訳ではない。海外の一万人以上が参加するポーカー大会などでは、参加費用が一人あたり日本円で百万を超える、というのも珍しくは無いからだ。
 参加メンバーが十人なら一人頭百十万円。この程度も用意出来ないようでは、参加する資格は無い。
 ギャンブルフェスティバルとは、そんな大会である。

「まだまだ、先は遠いね」

 改めて、自分が目指している物を意識し、新和にいなはポツリと呟く。

「弱気になってる?」
「ううん。頑張らなくちゃって、思っただけ」

 意気込みを見せる新和にいなに、友人である咲希さきは力になるべく、参謀役として返していく。

「とにかく当面の問題は、メンバー集めか。前にも話したけど、それも見越してクラブのメンバーは集める、って事で良いでしょ?」
「うん、そのつもり。大金も絡んでくるし、信用できる人達を集めないといけないから。一緒にクラブ活動をしてれば、その辺りは気付けると思う」
「となると、まずは力量よりも信用できそうな相手を探さないとダメか。心当たりある?」
「こーたとさっちゃんで、私は一先ずは種切れ。学校に入学したばかりだから、他の人達、知らない人ばっかだもん」
「全国から集まってるもんね、ここ。入学してからしばらくは、色々と調べたりなんだりで忙しかったし、なかなか同級生と関われる時間も無かったし」
「ちょっとぐらいなら、お喋りしたりできる子もいるけど、それ以上の仲になれた子は、いないもの」
「友達ならまだしも、一緒に目標を目指せる『仲間』じゃないとダメだしね。そんなの気軽に誘えないし」
「一先ずは、私とさっちゃんとこーたの三人で、頑張らないと。頑張って成果を出せれば、うちに来てくれる人も増えるかもだし」
「今の所、ギャンブラーの新和にディーラーの幸太こうた、んでプロデューサー科の私で、バランスは良いんだけどね」

 思案するように視線を下げながら返す咲希さき
 ちなみに、咲希さきが所属しているプロデューサー科とは、ギャンブルの企画運営に関わる職業を目指す学科である。
 ある意味、漠兎高校で一番幅広く様々な知識や視点を持っていなければならない所だ。
 そのため、長期的な見通しを立てたり、参謀めいた能力や思考をする者も多い。
 咲希さきもそういった者の一人であるだけあって、新和にいなにとっては頼れる相棒である。
 もちろん、友達としても大事で大切な相手でもあったが。

「さっちゃん、どうすれば良いと思う?」

 親友同士の気安く甘えた声で訊いてくる新和にいなに、頼られて嬉しい咲希さきは安心させるように返していく。

「任せなさい、考えてあげるから。その分、勝負に関しては頼りにさせて貰うから」
「うん。任せて。頑張る」

 戯れ合い遊ぶような気安さで2人は、お互いの信頼に応えようと意気込んだ。
 それがなんだかお互いくすぐったくて、2人とも楽しそうに笑い合う。
 そうしてお昼を楽しみながら、休み時間の終わりに近づく頃、咲希さきは言った。

「まずは、生徒会長の所に、みんなで行こう。クラブ活動の許可も予算も欲しいし、それ以上に会長とのコネ欲しいし!」
「うん、そうしよう。それじゃ後で、こーたにもそう言っておくね」
「任せた。って、そういえば、幸太こうたいまどこに居るの? これから先のこと話そうと思ったのに」
「ぁ……その、こーた、行かなくちゃいけない所があったみたいだから」

 僅かに話し辛そうに返す新和にいなに、

「そうなの? え、どこどこ?」

 話し易くさせる為にわざと気軽な声で咲希さきは聞き返した。その声の響きに促され、新和にいなは答える。

「ディーラーズ・クラブに行ってる。その、私の作ったクラブに入らなかったら、そこに入るつもりだったみたい。手品協会の先輩が居て、誘われてたって言ってたから」
「なるほど。それってば、仁義を切りに行ったのかな。そういう所、義理堅いし」
「うん、だと思う」
「……心配してる?」
「……うん」

 力なく言う新和にいなに、

「ありゃりゃ。もう、そんな表情かおしないの。ほりゃほりゃ、慰めてあげるから」

 そう言うと、咲希さきは自分の胸に顔を押し付けさせるようにして、新和にいなを抱きしめる。

「んんっ、ちょ、苦しいってばっ」
「あははっ、ちょ、くすぐったいって、動かないで」
「だったら離してよ~」

 こうして2人が、わいわいがやがやと戯れ合っている頃、幸太こうたは一人、いかつい上級生を前に仁義を切っていた。
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