獏兎高校ギャンブル部

笹村

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間章

第3話 ルーレット その②

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「それって狙った数字に、絶対・・に入れられるかってこと? そんな訳ないじゃん」

 面白そうな笑みを浮かべながら、冬弥は悠馬の言葉を否定した。

「そんな噂話、信じてるの?」
「いや、ただの確認だ」

 そっけなく悠馬は返す。実際、悠馬は好きな数字に玉を入れられる筈がないと確信していた。

 ルーレットにおいて、ディーラーは好きな数字に玉を100%入れることが出来るのかどうなのか?
 これはルーレットを行う者ならば一度は思いつく疑問である。
 それに応えるならば、有り得ないというのが妥当だろう。

 玉が入る数字が描かれた円盤。これが回転することなく止まったままの物ならば、それは有り得るかもしれない。

 しかし今、勝負に使われているのは円盤が回転する形式の物。これで100%好きな数字に玉を入れるなど不可能である。
 だからこそ、悠馬は更に疑問を口にした。

「さっきの答えを前提に、もう一つ聞きたい。狙った数字に入れられないと思ってるなら、なんでディーラーが好きな数字を狙う前提の勝負にしてるんだ? そのせいで、変則的なやり方になってるのに」
浪漫ロマンだよ」

 応える冬弥は楽しそうに返した。

「カッコ好いじゃない、そういうの。好きなんだ。だからだよ」

 これに悠馬は、すぐには返さない。代わりに思考を走らせる。

(嘘でもハッタリでもない、こいつは本気でそう思ってる。だからこそ、先張りの禁止なんてルールをわざわざ設けてやがるんだ)

 悠馬は、この場で行われているルーレットのルールを改めて思い出しながら、思考を続けた。

 先張りとは、ディーラーが玉を投げる前に賭けるやり方だ。
 この場合、もしディーラーが好きな数字に玉を入れられるとしたら絶対に勝てない。
 それを禁止しているという事は、先張りのやり方ではフェアにならない方法を、胴元である冬弥とディーラーである梓乃は取っているという事だ。

 今ここで行われているルーレットでは、ディーラーである梓乃が玉を投げた後、胴元である冬弥が二十秒の砂時計をセットしてから賭けを行うことが出来る。
 砂時計がセットされる前に賭けても無効になるし、砂が落ち切った後に賭けても同様だ。

 それだけでも普通ではないが、更にオカシイのは円盤に描かれた数字の配置である。

 今ここで使われている円盤は、アメリカンスタイルのような対角線上に続きの数字が来るようなタイプ、つまり向かい合わせの数字が1であれば2というような組み合わせで描かれた物ではない。
 ヨーロピアンスタイルである為に数字の配置は自由に行われるが、今ここで使われている円盤の数字はランダムで配置されていなかった。

 0を始まりにして1から36までの数字が時計回りに順番通りに描かれている。これでは特定の数字が来ると判断した場合に、保険として周辺の数字に賭けるという事がし易くなる。つまり、

(ディーラーが入れようとしている数字を読み切る事さえ出来れば、その周辺に賭けることで確実に勝てる勝負だと、こいつらは言いたい訳だ)

 思考の果てに結論を付けた悠馬は、小さく笑う。

(ということは、確実に狙った数字に入れる事は出来ないが、その周辺までなら玉を入れられる自信があるってことだな)

 それは、有り得る事だ。ルーレットにおいて特定の数字に確実に入れる事は不可能ではあるが、ある程度の範囲、円盤を2分割、あるいは4分割やそれ以上に分けた範囲でどこに入れるのか、その程度ならば熟練のディーラーであれば練習次第で可能である。

 実際、欧米などのカジノにおいて、ディーラーが店に備え付けのルーレットで練習することは禁じられている。
 それどころか、人の手によるルーレットへの玉の投入を無くし、機械式にしている場所さえある。

 いまこの場でルーレットのディーラーをしている梓乃は、1年生の後半から冬弥とコンビを組み、2年生の初め頃にはこの部室でディラーとして活動している。
 つまり1年近く、いま勝負を行っているルーレットでディーラーとして勝負しているという事だ。練習も含めれば、相当の数をこなしている筈である。
 そこまで悠馬は考えると、ディーラーである梓乃に顔を向け言った。

「随分と腕に自信があるみたいだけど、ミスはしないってことか?」
「まさか。そんな訳ないでしょ」

 肩をすくめるように返すと、続けて言った。

「魔法使いじゃないんだから、毎回成功なんてしないって。ちょくちょく外すわよ、狙った所を」

 これに悠馬は、鼻で笑うように息をもらすと、

「堂々と言うなよ。それじゃ、そっちがどこに入れるか読み切っても、外れる事があるってことじゃねぇか。かと言って、入れる場所を狙って球を投げてるってんなら、純粋に確率の偏りを読んで賭けるやり方だけでも足りやしねぇ。両方が必要ってこっちゃねぇか。ホントに――」

 そこまで言うと、獰猛で、それでいて楽しげな笑みを浮かべ言った。

「挑発的な勝負にしてくれるよなぁ」
「挑戦的って言って欲しいなぁ、そこは」

 冬弥は無邪気な笑みを浮かべ返す。

「こっちとしては、挑戦して貰ってるつもりだよ」
「へぇ、そうかい。なんか試されてるみたいだな」
「うん。そうだよ」

 悪びれもせず、平然と冬弥は言った。それに悠馬は、獰猛な笑みを更に深くすると、

「ああ、それってアレだよな。使える手駒になれるかどうか、品定めしてるってことだろ。お前のトコのクラブは、そういうの好きだからなぁ。ウチのクラブも飲みこんで、更にデカくなろうってか」
「そういうもんでしょ、漠兎高校ウチのクラブって」

 冬弥の言葉は事実である。獏兎高校におけるクラブとは、学生の健全な成長だの情操教育だの、そんなお題目は一切ない。
 必要とされるのは組織を作り、如何に勢力を誇示するかという目的だけである。
 生徒会と、あるいは学校との交渉を有利に出来る規模のクラブを維持するために、より小規模のクラブを吸収合併することなど日常茶飯事だ。
 だからこそ、悠馬は問い掛ける。

「最初にウチの2年生、勝負に引き込んだのは、ウチのクラブを取り込む事が目的か?」
「そだよ。旨い具合に釣り上げられたんで、彼女を餌にしてより大物を狙ったってわけ」
「……そうか……」
「あれ? 怒んないの?」
「別に。勝負に引き込まれんのも負けるのも、本人の責任だ。でもな――」

 僅かに言いよどんだ後、悠馬は言った。

「そういう素振りがあったのに、早く気付いて対処してやれなかったのは部長である俺の責任だ。仇討ちぐらいしてやらなきゃ嘘だろ」
「お人好し」
「うるせーっ! んなことより勝負だ勝負! 残り時間も少ないんだし、巻いていこうぜーっ!」
「はいはい、分かりましたよ――梓乃」

 冬弥は苦笑しながら梓乃に視線を送ると、それに応え梓乃は円盤を回し玉を投下する。それに合わせ冬弥は砂時計をセットした。

「さて、敵討ちって言うなら、いいとこ見せてよ」
「流れが来たら見せてやるよ」

 冬弥と悠馬が軽口を叩き合う間も、円盤は回り玉は駆け巡る。
 刻一刻と締め切りを告げる砂は落ち続け、落ち切る直前で悠馬は賭けた。

「黒に1枚、ねぇ」

 冬弥は肩をすくめるように言いながら、砂の落ち切った砂時計を右手で掴み左向きに倒すと、左端を掴んだままやや前に押し出し、賭けの締切りを示す。
 それを見た梓乃が賭けの締切りノーモアベッツを告げる中、悠馬は冬弥に言った。

「好きな数字には入れられないんだろ? だったら黒か赤か、どちらかを選んで入れる事も出来ねぇ筈だ。違うか?」
「まぁね。好きな数字に、絶対に・・・入れられる訳じゃないから。
 だから毎回確実に・・・・・、好きな色を出せる訳じゃないってのも、当たってるよ。だからこそ、そこには制限を掛けてるんだ。ルールは、覚えてるよね?」
「分かってる。同じ色が五回続けて出た時は、その次の回の勝負だと赤黒賭けカラーには賭けられない。変な所で臆病だな」
「臆病にもなるよ。ただでさえ、ほぼ2分の1の確率で負けるんだよ、こっちは。そこに出目の偏りが上乗せされちゃ堪んないし」
「その理屈で言うなら、奇数偶数賭けオッドイーブンでも同じだろ。そっちは制限掛けてねぇくせに」
「ゲン担ぎ、そこは。あんまりキチキチにやっちゃうと、運が逃げちゃうし。幸運の女神は束縛が嫌いなのだよ。どこかは、ゆる~くしないとね」

 玉が回る中、冬弥と悠馬は雑談を重ねる。一見穏やかな風景ではあったが、心の中は2人とも荒々しくたぎっていた。
 現に、2人とも会話を重ねながらも、視線をルーレットから一瞬たりとも離さない。
 今までと同じく熱い視線が注がれる中、回り続けた玉は勢いを無くし円盤を転がり、そして最後に小さく跳ねた後、結果を告げる数字に落ちた。
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