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本章 一
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祭をするのはアナタの為に
初戦の相手は、マッチョだった。
「ふんっ!」
鼻息もあらわに気合を入れながら、盛り上がった筋肉を強調するようにポーズを決める。
ぶっちゃけキモい。
「はっはっはっはっはっ、まったく、もって、私が相手で、運が悪かったな、キミは」
言葉の最中に一々ホージングをしながらのたまうマッチョ。正直ウザい。
というか、なぜに昼日中の野外特設ステージの上でビキニパンツ一枚で平気なのか。
お巡りさ~ん、ここに変態が居ます。
そんな言葉一つで事が片付けば楽だけれど、そういう訳にもいきはしない。
何しろ相手は、これから戦う相手なのだから。決着が付く前に消えて貰っては困る。
なのだけれど、今すぐ目の前から消えて欲しいと思うほどにうっとうしい相手なのは確かだった。
「どうした少年、溜息をついて。キミの敗北は確実だが、恥じる事は無い。
ブレイン・マッスルとまで言われたこの私に敗北することは、むしろ名誉だと思いたまえ」
明らかに馬鹿にされてますそのあだ名。
口元まで出かかった言葉を飲み込む。言ったところで無駄だろうな~、と思っちゃうからだ。
でないと脳まで筋肉、みたいなあだ名は付けられないだろうし。
とはいえげんなりとした溜息だけはまた出てしまう。すると、
「はっはっはっはっは、少年、そんなに溜息ばかりついていてはダメだぞ。
筋肉をつけなさい筋肉を、そんな貧弱な体つきではいかんぞぉ」
そんな魔改造、自分の体にしたく無いです。いやほんとうに。
それにしても、少年と言われるほどの年ではないんだけどなぁ。もう、十八にもなってるんだし。 それに貧弱というほど細いわけじゃない。
この年頃の男としてみればむしろ体つきはしっかりしている方、なんだけれど……やっぱり、童顔でどこか女っぽい見た目だとそう見えるんだろうか。
今は亡き父さんと母さんの二人に似ているせいか、たまにそういうことは言われる。
ちょっとへこむ、この年頃の男としては。
「元気を出したまえ少年、何故に沈んでいる」
貴方のせいなんですが。
言えれば好いなぁ、言っても無駄だろうけれど。
そんな風に思っていると、ステージの端からこちらへタキシード姿の人物が近付いてくる。
この祭の企画者であり運営者でもあるタキエスさんだ。
タキエスさんは、オレとマッチョの傍まで来ると、
「レディース・エ~ンド、ジェントルメン、そうで無い方達もようこそここへ。
これから始まるお祭騒ぎ、みなさん、期待していますか?」
一瞬の沈黙。その後に歓声がちらほらと返ってくる。
それが呼び水となって、さらに大きな歓声が沸き起こる。
ちなみに、最初の歓声はサクラらしい。
盛り上げ要員として雇っていると、タキエスさんには聞いている。
実際にお祭を運営するのって大変なんだな~、などと思っている内に、タキエスさんは歓声が薄まった頃合を見計らって更に言葉を続けた。
「さぁっ、お祭の目玉の何でもバトル、これより開幕です。初戦の演目は――」
溜めが入る。どんなお題でのバトルなんだろうか。
それ次第で、有利不利が決定してしまう。
固唾を呑んで待っていると、勢い好くタキエスさんは答えを口にした。
「大食いバトルですっ!」
答えを聞いて沸きあがる歓声と、少しばかりの落胆の声。
もっと派手な物を期待していた人も居たんだろう。
けれど、こちらとしては大助かりだ。
単純な力勝負だと勝ち目はまず無かった筈だから、これなら勝負になる。と思っていると、
「ちなみに食材はプロティンです」
更に追加でタキエスさんは口にする。
というか、それ食材で無いです。
うぅ、やっぱり楽な勝負にはなりそうに無いよぅ。
そんな泣き言を思いながら、勝負は始まった。
結果としては、辛勝だった。
「うぅっ……気持ち悪い」
一番の難敵が不味さと言うのは大食い勝負としてどうかと思う。
ちなみに相手のマッチョな人は、途中まではハイペースだったけれど途中でぴたりと食べる手が止まってしまい、それで何とかこちらが勝つ事が出来た。
それ以上食べるとカロリーオーバーだったらしい。何しに出て来たんだろ、あの人……。
そんなことを思いながら大きな木の木陰で休んでいると、
「どうしました、シーザさん? 苦しそうですね。
そんなことでは、この先の勝負で勝ち残れませんよ」
穏やかな声で名前を呼ばれ声を掛けられる。
視線を向けるとそこにはタキシード姿のタキエスさんが。
「良いんですか? 司会者がこんな所に居て」
周囲には、オレとタキエスさん以外には誰も居ない。
お祭会場からも、お祭目当ての出店の集まりからも離れた場所であるからだ。
タキエスさんは軽く肩を竦めると応えを返してくる。
「大丈夫ですよ、司会は私だけでは無いですからね。
それよりもこの祭の企画運営者としては、このお祭を開催する権利を譲って頂けた方の接待は大事ですからね。優先順位が違います」
どこか芝居掛かった口調でタキエスさんは言う。
それはタキエスさんに好く合っているように思えた。そう思っていると、
「おや? 胡散臭くてウソ臭い親父だな~とか思っています?」
タイムリーな一言が。それに不自然では無い程度のタイミングで言葉を返す。
「思っていませんよ。秘密が多そうな人だな~、とかは思いますけど」
この返しに、タキエスさんは楽しそうな笑みを浮かべる。
「おやおや、好い目をお持ちで。
そういう目をした方は、大抵はひとかどの人物になるか、もしくは誰かに殺されるものですが。
さて、どちらのタイプなんでしょうね? 貴方は?」
「どちらも真っ平ごめんです。それに、そんなに買いかぶられても。
所詮は、神さまがくれたお祭をする権利をもてあまして貴方たちに権利を譲り渡す程度の人間ですから、オレは」
そう、所詮オレは、その程度の人間だ。
今の世の中、誰もが『神さまがくれるお祭をする権利』を欲しがっている。
何しろ神さまから貰えるお祭実行権だ。
それを取り仕切る事が出来れば莫大な富を手に入れる事だって出来る。
それだけじゃない、元々が『誰かの願いを叶える能力』を持っている神さまのお祭なのだ。
当然のように、それにまつわる特典だって付いてくる。
お祭の中で開催される勝負事に最後まで勝ち進んだ者の願いが叶えられる。
そんな、ありえない特典。
もっとも、それは神さま本来の能力からすれば、ごくささやかな物ではある筈だけれども。
誰かにとって、個人的で世界に広がらないけれど大事な願い、そんな願いが叶えられるのだ。
ある人は、治らない筈の死病を持った恋人の病気を治して貰い。
またある人は、壊れてしまった両親の形見の品を元通りに直して貰ったり。
中には背を伸ばしたい、なんて願いを叶えて貰った人も居るらしい。
そんな願いが叶えられるのだ。
だからこそ、お祭の中で開催される勝負事は自分にとって有利な物になるようにするのが普通なんだろう。お祭をする権利を与えられた者ならば。
「人が好いんですね、貴方は」
褒めているようには聞こえない、けれど不思議と不快な気持ちにならない声でタキエスさんはオレを批評する。
「ビックリしましたよ、貴方が私の所に、このお祭をする権利を譲り渡したいと言いに来たときは。 何か裏があるものだと思ったのですが、そんなものはありませんでしたし。
できる限り大きなお祭にして欲しい、というお願いはありましたけれど。
それにしても、強制というよりは懇願、という感じでしたしね。
まったく、欲が無いんですかね、貴方は」
「そんなことはないですよ」
ちょっと勘違いしているタキエスさんに、オレは自分の思いを告げる。
「出来るだけ大きなお祭を開催する、それがオレの願いの一つでしたから。
でもそれをする為には、色々とコネや資金だって要るでしょう?
いくらお祭をする権利を神さまから貰ったっていっても、俺にはそういった物は無いですから。
貴方みたいな人でないと無理ですよ」
そう、今の世界を実質的に取り仕切っていると言われる賢人会、その支部長として俺の住んでいるこの町に偶々住んで居たタキエスさん、それぐらいの人でないと大きなお祭を開催するなんてことは不可能だ。
「お祭で手に入るお金はもちろん興味がありますよ。
でも、下手に大金なんか手に入れても、それで訳の分からない人達にたかられるのはごめんです。 それ以前に、お祭をする権利を貰った、なんてことを知られるだけでも大変そうですよ。
そうならない為にも、オレがお祭をする権利を手に入れたんじゃなくて、貴方たち賢人会が最初から最後まで関わってお祭を開いている、ていう方がオレにとっては都合が好いんです」
「なるほどなるほど、つまりキミは、小心者な小市民というわけですね」
……改めて目の前で言葉にされるとへこむけれど――
「そうですね。結局はそういう事です」
その通りだと思うので頷き返す。そんなオレにタキエスさんは苦笑すると、
「正直な子ですね、キミは。でも、それはそれとしてまだ気になる事があるんですよ」
「なんですか?」
聞き返すオレにタキエスさんは小さく笑いながら問い掛ける。
「キミがこのお祭で叶えたい願いはなんですか?
あるのでしょう?
だからこそ、お祭バトルに出ているのでしょう?」
「……大した願いじゃないですよ」
ちょっとだけ、返事をするのに間が空いた。
「本当に、大した願いじゃないんです。本当ですよ。
だから、お祭バトルを何にするのかもお任せにしたんです。
オレの願いなんかより、もっと大事な願いを持っている人も居るかもしれないですから」
「なるほど。でも、叶えたいとも思っているのでしょう?
けれど、他人の願いを押しのけてまで叶えて良い物かどうかも迷っている。
だからこそ、同じ条件で戦って勝ち残って叶えようと思っているんですね。妥協案ですね~」
「……まぁ、その通りです」
ズハズバと言う人だな~。嫌味な感じがしないから不思議と不快感は無いんだけれど。
「えっと、聞きたいことはそれだけですか?
そろそろ出店とか見て回りたいんで、そっちに行こうと思うんですけれど」
「ああ、最後に一つだけ」
何故だろう。
今までとは変わらない口調と表情なのに、どこか怖い感じがする声でタキエスさんは訊いてくる。
「神さまに会われたんですよね、貴方は。お祭をする権利を頂いたんですから。
どんな方でした? 神さまは」
「さぁ、どんな姿をされていたのか、分かんないです」
自然な口調とタイミングでオレは応えを返す。
「何しろ夢の中でお告げというか『お前にお祭をする権利を与える』なんて言われて、目が覚めたら枕元に『お祭許可証』なんて物が有っただけですから」
うん、あれは何ていうか、狸とか狐にでも化かされているんじゃないかって感じだった。
掌サイズの大きさで家が一つ建つという魂鋼に魔力と共に刻まれた物じゃなかったら、とてもじゃないけれど誰も信じてくれない所だ。
「なるほど。では、あなたは神さまについては何も分からなかったと、そういう事ですか?」
「はい、そういうことです。賢人会の人たちにも、何度もそう言いましたけど」
ほんの少しの間だけ、タキエスさんはオレを笑みを浮かべたまま見続けていたけれど、
「なるほどなるほど。よく分かりました」
ふっ、と力を抜くようにして納得してくれた。
「いやいや、好かった好かった。貴方が何かしら知っていたら、私達ももっと必死にならないといけませんでしたから。好かったですよ、お互いに」
「そうですね」
とりあえず頷いておく。その方が身のためっぽい。
「えっと、それじゃ、もう行っても良いですか?
さっきの大食い対決の時の口直ししたいんです。
後味の悪さがまだ残っちゃってて」
「ああ、構いませんよ。
次の勝負は二時間後ですから、それまでには勝負会場に着ておいて下さいね」
「はい、そうします」
にこやかに笑みを浮かばせあいながら、オレはタキエスさんから離れた。
しばらく進んで、人ごみでごった返した出店の通りにまで辿り着く。
そうしてようやく、オレは自分の指で自分の掌をなぞってみる。
さらりとしていた。汗をかくほど緊張はしていなかったみたいだ。少なくとも肉体的には。
(賢人会も必死なんだな、神さまのことについて知ることに)
賢人会の支部へお祭をする権利を譲り渡しに行った時のことを思い出しながら、オレは思う。
何度も何度も、繰り返し尋ねられた。
神さまのことを、どんな些細なことでも良いから話せと。
それは、しょうがないけれど。
なにしろ、神さまのことについて知っていることなんて今ではほとんどないのだから。
十年ほど前、魔王に囚われていた神さまのことを知っている人間は、今の世の中には誰も居ない。
より正確に言うと、誰かの願いを叶える能力を持っている存在ということ以外は、誰も知らないし記録にも残っていないのだ。
どんな姿をしていて、どんな性格だったのか、それについての記憶や情報がこの世から消え失せたのだ。
神さまを助け出した、勇者さんと同じように。
思い出せない、何一つ。
調べようとしても何も残っていないのだ。
神さまと勇者さんがどんな人たちだったのかということは。
ただ、したことだけが記録として残っているだけ。
勇者さんは神さまを助け、そして神さまは、お祭バトルで勝ち残った者の個人的な願いを叶えるお祭を創造した、そんなことぐらいしか残っていないし分かってもいない。
だからこそ、色々な人間が消えてしまったそれを知ろうと躍起になっている。
色々な思惑を持って。
「……まぁ、オレも他人のことは言えないけどさ」
つい、心の中で思っている事が言葉になって出てしまう。
しょうがないと思うと同時に、ダメだな、とも思う。
だから気持ちを切り替えるために、周囲の出店へと視線を向ける。
楽しまないと。
たとえ傍に、一緒に居て欲しい相手が居なかったとしても。
「さってと、どうしようっかな?」
気合を入れてそう言うと、まずは食べ物系の屋台を探してみる。
麺類系にお肉系も好いけれど、まずは甘いお菓子系が好いよなと、そう思い探している時だった。
ある出店が目に付いた。
いや、より正確に言うとその出店の前に立っている女の人にだったけれど。
初戦の相手は、マッチョだった。
「ふんっ!」
鼻息もあらわに気合を入れながら、盛り上がった筋肉を強調するようにポーズを決める。
ぶっちゃけキモい。
「はっはっはっはっはっ、まったく、もって、私が相手で、運が悪かったな、キミは」
言葉の最中に一々ホージングをしながらのたまうマッチョ。正直ウザい。
というか、なぜに昼日中の野外特設ステージの上でビキニパンツ一枚で平気なのか。
お巡りさ~ん、ここに変態が居ます。
そんな言葉一つで事が片付けば楽だけれど、そういう訳にもいきはしない。
何しろ相手は、これから戦う相手なのだから。決着が付く前に消えて貰っては困る。
なのだけれど、今すぐ目の前から消えて欲しいと思うほどにうっとうしい相手なのは確かだった。
「どうした少年、溜息をついて。キミの敗北は確実だが、恥じる事は無い。
ブレイン・マッスルとまで言われたこの私に敗北することは、むしろ名誉だと思いたまえ」
明らかに馬鹿にされてますそのあだ名。
口元まで出かかった言葉を飲み込む。言ったところで無駄だろうな~、と思っちゃうからだ。
でないと脳まで筋肉、みたいなあだ名は付けられないだろうし。
とはいえげんなりとした溜息だけはまた出てしまう。すると、
「はっはっはっはっは、少年、そんなに溜息ばかりついていてはダメだぞ。
筋肉をつけなさい筋肉を、そんな貧弱な体つきではいかんぞぉ」
そんな魔改造、自分の体にしたく無いです。いやほんとうに。
それにしても、少年と言われるほどの年ではないんだけどなぁ。もう、十八にもなってるんだし。 それに貧弱というほど細いわけじゃない。
この年頃の男としてみればむしろ体つきはしっかりしている方、なんだけれど……やっぱり、童顔でどこか女っぽい見た目だとそう見えるんだろうか。
今は亡き父さんと母さんの二人に似ているせいか、たまにそういうことは言われる。
ちょっとへこむ、この年頃の男としては。
「元気を出したまえ少年、何故に沈んでいる」
貴方のせいなんですが。
言えれば好いなぁ、言っても無駄だろうけれど。
そんな風に思っていると、ステージの端からこちらへタキシード姿の人物が近付いてくる。
この祭の企画者であり運営者でもあるタキエスさんだ。
タキエスさんは、オレとマッチョの傍まで来ると、
「レディース・エ~ンド、ジェントルメン、そうで無い方達もようこそここへ。
これから始まるお祭騒ぎ、みなさん、期待していますか?」
一瞬の沈黙。その後に歓声がちらほらと返ってくる。
それが呼び水となって、さらに大きな歓声が沸き起こる。
ちなみに、最初の歓声はサクラらしい。
盛り上げ要員として雇っていると、タキエスさんには聞いている。
実際にお祭を運営するのって大変なんだな~、などと思っている内に、タキエスさんは歓声が薄まった頃合を見計らって更に言葉を続けた。
「さぁっ、お祭の目玉の何でもバトル、これより開幕です。初戦の演目は――」
溜めが入る。どんなお題でのバトルなんだろうか。
それ次第で、有利不利が決定してしまう。
固唾を呑んで待っていると、勢い好くタキエスさんは答えを口にした。
「大食いバトルですっ!」
答えを聞いて沸きあがる歓声と、少しばかりの落胆の声。
もっと派手な物を期待していた人も居たんだろう。
けれど、こちらとしては大助かりだ。
単純な力勝負だと勝ち目はまず無かった筈だから、これなら勝負になる。と思っていると、
「ちなみに食材はプロティンです」
更に追加でタキエスさんは口にする。
というか、それ食材で無いです。
うぅ、やっぱり楽な勝負にはなりそうに無いよぅ。
そんな泣き言を思いながら、勝負は始まった。
結果としては、辛勝だった。
「うぅっ……気持ち悪い」
一番の難敵が不味さと言うのは大食い勝負としてどうかと思う。
ちなみに相手のマッチョな人は、途中まではハイペースだったけれど途中でぴたりと食べる手が止まってしまい、それで何とかこちらが勝つ事が出来た。
それ以上食べるとカロリーオーバーだったらしい。何しに出て来たんだろ、あの人……。
そんなことを思いながら大きな木の木陰で休んでいると、
「どうしました、シーザさん? 苦しそうですね。
そんなことでは、この先の勝負で勝ち残れませんよ」
穏やかな声で名前を呼ばれ声を掛けられる。
視線を向けるとそこにはタキシード姿のタキエスさんが。
「良いんですか? 司会者がこんな所に居て」
周囲には、オレとタキエスさん以外には誰も居ない。
お祭会場からも、お祭目当ての出店の集まりからも離れた場所であるからだ。
タキエスさんは軽く肩を竦めると応えを返してくる。
「大丈夫ですよ、司会は私だけでは無いですからね。
それよりもこの祭の企画運営者としては、このお祭を開催する権利を譲って頂けた方の接待は大事ですからね。優先順位が違います」
どこか芝居掛かった口調でタキエスさんは言う。
それはタキエスさんに好く合っているように思えた。そう思っていると、
「おや? 胡散臭くてウソ臭い親父だな~とか思っています?」
タイムリーな一言が。それに不自然では無い程度のタイミングで言葉を返す。
「思っていませんよ。秘密が多そうな人だな~、とかは思いますけど」
この返しに、タキエスさんは楽しそうな笑みを浮かべる。
「おやおや、好い目をお持ちで。
そういう目をした方は、大抵はひとかどの人物になるか、もしくは誰かに殺されるものですが。
さて、どちらのタイプなんでしょうね? 貴方は?」
「どちらも真っ平ごめんです。それに、そんなに買いかぶられても。
所詮は、神さまがくれたお祭をする権利をもてあまして貴方たちに権利を譲り渡す程度の人間ですから、オレは」
そう、所詮オレは、その程度の人間だ。
今の世の中、誰もが『神さまがくれるお祭をする権利』を欲しがっている。
何しろ神さまから貰えるお祭実行権だ。
それを取り仕切る事が出来れば莫大な富を手に入れる事だって出来る。
それだけじゃない、元々が『誰かの願いを叶える能力』を持っている神さまのお祭なのだ。
当然のように、それにまつわる特典だって付いてくる。
お祭の中で開催される勝負事に最後まで勝ち進んだ者の願いが叶えられる。
そんな、ありえない特典。
もっとも、それは神さま本来の能力からすれば、ごくささやかな物ではある筈だけれども。
誰かにとって、個人的で世界に広がらないけれど大事な願い、そんな願いが叶えられるのだ。
ある人は、治らない筈の死病を持った恋人の病気を治して貰い。
またある人は、壊れてしまった両親の形見の品を元通りに直して貰ったり。
中には背を伸ばしたい、なんて願いを叶えて貰った人も居るらしい。
そんな願いが叶えられるのだ。
だからこそ、お祭の中で開催される勝負事は自分にとって有利な物になるようにするのが普通なんだろう。お祭をする権利を与えられた者ならば。
「人が好いんですね、貴方は」
褒めているようには聞こえない、けれど不思議と不快な気持ちにならない声でタキエスさんはオレを批評する。
「ビックリしましたよ、貴方が私の所に、このお祭をする権利を譲り渡したいと言いに来たときは。 何か裏があるものだと思ったのですが、そんなものはありませんでしたし。
できる限り大きなお祭にして欲しい、というお願いはありましたけれど。
それにしても、強制というよりは懇願、という感じでしたしね。
まったく、欲が無いんですかね、貴方は」
「そんなことはないですよ」
ちょっと勘違いしているタキエスさんに、オレは自分の思いを告げる。
「出来るだけ大きなお祭を開催する、それがオレの願いの一つでしたから。
でもそれをする為には、色々とコネや資金だって要るでしょう?
いくらお祭をする権利を神さまから貰ったっていっても、俺にはそういった物は無いですから。
貴方みたいな人でないと無理ですよ」
そう、今の世界を実質的に取り仕切っていると言われる賢人会、その支部長として俺の住んでいるこの町に偶々住んで居たタキエスさん、それぐらいの人でないと大きなお祭を開催するなんてことは不可能だ。
「お祭で手に入るお金はもちろん興味がありますよ。
でも、下手に大金なんか手に入れても、それで訳の分からない人達にたかられるのはごめんです。 それ以前に、お祭をする権利を貰った、なんてことを知られるだけでも大変そうですよ。
そうならない為にも、オレがお祭をする権利を手に入れたんじゃなくて、貴方たち賢人会が最初から最後まで関わってお祭を開いている、ていう方がオレにとっては都合が好いんです」
「なるほどなるほど、つまりキミは、小心者な小市民というわけですね」
……改めて目の前で言葉にされるとへこむけれど――
「そうですね。結局はそういう事です」
その通りだと思うので頷き返す。そんなオレにタキエスさんは苦笑すると、
「正直な子ですね、キミは。でも、それはそれとしてまだ気になる事があるんですよ」
「なんですか?」
聞き返すオレにタキエスさんは小さく笑いながら問い掛ける。
「キミがこのお祭で叶えたい願いはなんですか?
あるのでしょう?
だからこそ、お祭バトルに出ているのでしょう?」
「……大した願いじゃないですよ」
ちょっとだけ、返事をするのに間が空いた。
「本当に、大した願いじゃないんです。本当ですよ。
だから、お祭バトルを何にするのかもお任せにしたんです。
オレの願いなんかより、もっと大事な願いを持っている人も居るかもしれないですから」
「なるほど。でも、叶えたいとも思っているのでしょう?
けれど、他人の願いを押しのけてまで叶えて良い物かどうかも迷っている。
だからこそ、同じ条件で戦って勝ち残って叶えようと思っているんですね。妥協案ですね~」
「……まぁ、その通りです」
ズハズバと言う人だな~。嫌味な感じがしないから不思議と不快感は無いんだけれど。
「えっと、聞きたいことはそれだけですか?
そろそろ出店とか見て回りたいんで、そっちに行こうと思うんですけれど」
「ああ、最後に一つだけ」
何故だろう。
今までとは変わらない口調と表情なのに、どこか怖い感じがする声でタキエスさんは訊いてくる。
「神さまに会われたんですよね、貴方は。お祭をする権利を頂いたんですから。
どんな方でした? 神さまは」
「さぁ、どんな姿をされていたのか、分かんないです」
自然な口調とタイミングでオレは応えを返す。
「何しろ夢の中でお告げというか『お前にお祭をする権利を与える』なんて言われて、目が覚めたら枕元に『お祭許可証』なんて物が有っただけですから」
うん、あれは何ていうか、狸とか狐にでも化かされているんじゃないかって感じだった。
掌サイズの大きさで家が一つ建つという魂鋼に魔力と共に刻まれた物じゃなかったら、とてもじゃないけれど誰も信じてくれない所だ。
「なるほど。では、あなたは神さまについては何も分からなかったと、そういう事ですか?」
「はい、そういうことです。賢人会の人たちにも、何度もそう言いましたけど」
ほんの少しの間だけ、タキエスさんはオレを笑みを浮かべたまま見続けていたけれど、
「なるほどなるほど。よく分かりました」
ふっ、と力を抜くようにして納得してくれた。
「いやいや、好かった好かった。貴方が何かしら知っていたら、私達ももっと必死にならないといけませんでしたから。好かったですよ、お互いに」
「そうですね」
とりあえず頷いておく。その方が身のためっぽい。
「えっと、それじゃ、もう行っても良いですか?
さっきの大食い対決の時の口直ししたいんです。
後味の悪さがまだ残っちゃってて」
「ああ、構いませんよ。
次の勝負は二時間後ですから、それまでには勝負会場に着ておいて下さいね」
「はい、そうします」
にこやかに笑みを浮かばせあいながら、オレはタキエスさんから離れた。
しばらく進んで、人ごみでごった返した出店の通りにまで辿り着く。
そうしてようやく、オレは自分の指で自分の掌をなぞってみる。
さらりとしていた。汗をかくほど緊張はしていなかったみたいだ。少なくとも肉体的には。
(賢人会も必死なんだな、神さまのことについて知ることに)
賢人会の支部へお祭をする権利を譲り渡しに行った時のことを思い出しながら、オレは思う。
何度も何度も、繰り返し尋ねられた。
神さまのことを、どんな些細なことでも良いから話せと。
それは、しょうがないけれど。
なにしろ、神さまのことについて知っていることなんて今ではほとんどないのだから。
十年ほど前、魔王に囚われていた神さまのことを知っている人間は、今の世の中には誰も居ない。
より正確に言うと、誰かの願いを叶える能力を持っている存在ということ以外は、誰も知らないし記録にも残っていないのだ。
どんな姿をしていて、どんな性格だったのか、それについての記憶や情報がこの世から消え失せたのだ。
神さまを助け出した、勇者さんと同じように。
思い出せない、何一つ。
調べようとしても何も残っていないのだ。
神さまと勇者さんがどんな人たちだったのかということは。
ただ、したことだけが記録として残っているだけ。
勇者さんは神さまを助け、そして神さまは、お祭バトルで勝ち残った者の個人的な願いを叶えるお祭を創造した、そんなことぐらいしか残っていないし分かってもいない。
だからこそ、色々な人間が消えてしまったそれを知ろうと躍起になっている。
色々な思惑を持って。
「……まぁ、オレも他人のことは言えないけどさ」
つい、心の中で思っている事が言葉になって出てしまう。
しょうがないと思うと同時に、ダメだな、とも思う。
だから気持ちを切り替えるために、周囲の出店へと視線を向ける。
楽しまないと。
たとえ傍に、一緒に居て欲しい相手が居なかったとしても。
「さってと、どうしようっかな?」
気合を入れてそう言うと、まずは食べ物系の屋台を探してみる。
麺類系にお肉系も好いけれど、まずは甘いお菓子系が好いよなと、そう思い探している時だった。
ある出店が目に付いた。
いや、より正確に言うとその出店の前に立っている女の人にだったけれど。
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
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「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
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