祭りをするのはアナタの為に

笹村

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本章 四

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「わ、私は、その、他の所に行っておきますねっ」
「えっと、なんで?」

 いきなりそんなことを言い出した二アちゃんに、不思議に思ったオレが尋ねると、

「え、って、それは、その、だってあれですよ……これからデートなんですよね! 
 だったら私が居たらお邪魔にしかならないですからお邪魔虫は消えるというか居ない方が好いと思うというか――」

 顔を赤くしたまま早口でそんなことを言う。

 えっと、そういえば傍から見たらそんな感じなんだろうなぁ、女の人を誘ってお祭を一緒に見て回ろうっていうのは。
 でも、うん、なんというか、それはちょっと違う気がする。

「それだと、楽しくないですよ」

 オレは二アちゃんへ顔を向けながらそう告げる。

「オレとセラさんだけじゃなくて、二アちゃんも一緒に回ってくれた方が、ずっとずっと楽しい筈です」

 確信を持って、オレはそう応える。
 セラさんもきっとそう思ってくれるって、そう思う。
 それはどこかセラさんに甘えているような思いだけれど、間違っていない筈だっていう信頼感にも似た確信がある。
 きっと、その方がセラさんは楽しんでくれるって、そう思う。

 そんな風に考えて二アちゃんには応えた。
 けれど、彼女とセラさんは違う部分に反応してくれる。

「ふぇ、ぁ、その、二ア……ちゃんって……」
「へ~。二ア、ちゃん、ですか。
 私の方は『さん』付けなのに、ちょっと親しさが違う感じですね~」

 一気に汗が吹き出てくるような感じになる。
 ヤバい、ダメだ。何というかその場の雰囲気に押されて馴れ馴れしく名前を読んじゃったけど、よく考えなくても調子に乗り過ぎてる。
 それに気付けてオレが慌てて何かを言おうとすると、

「いいですよ、気にしてくれなくても」

 苦笑しながらセラさんはオレの言葉を止める。 

「私は嬉しいですよ、そんな風に呼んでくれて。
 二アだって、そうだと思いますし。
 そうでしょ? 二ア」

「え、あ、はいっ。
 その、ちょっとびっくりしただけというか心の準備もなしにいきなり名前を呼ばれたんで驚いただけというか……だから、その、嫌じゃないですよ、ほんとですよ」

「だ、そうです。だから、気にしてくれなくても大丈夫ですよ。
 謝ったりとか、しないで下さいね。
 悲しくなっちゃいます、そんなことさせちゃったら」

 オレをやわらかく見詰めながら、セラさんはそう言ってくれた。
 ほっと安心する。怒ったり不愉快な気持ちになっていないって分かって安堵に力が抜ける。
 そして、今まで以上にもっともっと嬉しくなる。
 名前を呼べるようになっただけだというのに、セラさんや二アちゃんとの距離が縮まったような気がしたからだ。

 だからオレは、もっと親しい気持ちになりたくて、

「ありがとうございます。それじゃ、セラさんも二アちゃんも名前で呼ばせて貰いますね。
 だから、その、オレの名前も気兼ねなく呼んで下さい。オレの名前は――」

 自分の名前をセラさんと二アちゃんの二人に呼んで貰えるよう口にしようとする。
 けれどそれよりも早く、

「シーザさん、ですよね」

 セラさんはオレの名前を口にした。そのことにオレが尋ねるより早く、

「お祭バトル、出てたじゃないですか。
 勝負が終わって、司会の人が勝った方の名前を呼んでいたのを覚えていたんですよ」

 セラさんは理由を説明してくれる。

 あぁ、そういえばそうだ。
 美味しくない、というよりは正直に言って不味いとしか言いようの無い物を食べ過ぎてその辺りのことは記憶がおぼろげだったけれど、そういえば名前を呼ばれたような記憶が薄っすらとある。

「お祭バトル、見てたんですね」

 結構一杯一杯だったお祭バトルのときの様子を見られていたかと思うとちょっと恥ずかしい。
 どの辺りから見てたんだろうと気になったので、それを聞こうとするよりも早く、

「見てましたよ、最初から」

 セラさんは先回りをするように応えてくれる。
 あ~、最初からか~。かなり恥ずかしい感じ。
 そんな風に思っていると、

「大変だったでしょう、あれだけ食べるの。
 ものすっごく美味しくなかったですからねアレ。私も苦労しました」

 味を思い出しているのか軽く眉を寄せる。……って、あれ?

「あの、ひょっとしてセラさんもお祭バトル出てたんですか?」
「えぇ、そうですよ」

 セラさんはあっさりと答えてくれると続けて、

「シーザさんの次の次の順番だったんです。
 ライバルの人たちがどんな人達かは見ておきたかったですから、全員見ておこうと思ったんですけれど、口直しをしたい誘惑には勝てなかったので今ここにこうしている訳です」

 何で今ここに居るのかの理由も説明してくれた。
 あぁ、なるほど、オレと同じ理由だ。

「分かります、それ。すっごく美味しくなかったですから、アレ。
 よくぞあそこまでって、そう思いました」
「同じですね。だったら、これから見て回るのは食べ物屋さんに決定ですね」
「え、いや、それは好いんですけれど――」

 オレは二アちゃんの持っている大量の食べ物を見ながら尋ねる。

「二アちゃんの持っているのはどうするんですか?」

 とてもじゃないけれど、そんなにすぐに食べきれる量じゃない。
 特にお祭バトルであれだけの物を食べた後なんだし。と思っていたのだけれど、

「食べますよ、もちろん。あ、残しちゃうと思ったんですか? 大丈夫です、まだまだいけます」
 そう言って、二アちゃんから使い捨て用の容器に入ったふわふわの生地の中にクリームが入ったお菓子を手にとってあっという間に食べてしまう。一体どこに入っちゃうんだろう? 

「えっと、どうかしましたか?」

 セラさんの気持ちの好い食べっぷりに思わず苦笑してしまったオレに気付いて、不思議そうにセラさんは訊いて来る。

「いえ、美味しそうに食べるんだなぁって思って。
 気持ちが好いです、そんな風に食べる人を見るのは」
「……そうですか?」

 ほんのちょっとだけ、セラさんはオレの言葉を聞いて視線を逸らす。
 なんだか恥ずかしがっているみたいな感じがする。
 オレは、また浮かんでしまいそうになる苦笑を飲み込むと、

「それじゃ、もっと他の食べ物屋さんも見て回りましょう。
 セラさんと二アちゃんの二人一緒に。
 ぁ、荷物は、オレが持つから渡してくれる? 二アちゃん」

 そう言って二アちゃんが持っている大量の出店の戦利品をオレは手にとっていく。

「え、あの、別に大丈夫です。その、持てますからそんな――」
「ううん、持たせて、お願いだから。その方がオレは気が楽だし。
 女の子に荷物を持たせてる、なんて周りに見られる方が嫌だから。
 だから、ね、顔を立たせると思って渡してくれる?」
「……そういう、ものなんですか?」
「うん、そういうものなんです」

 意識して柔らかな表情で見詰めながらそう応えると、二アちゃんは戸惑いながらもオレに荷物を渡してくれた。

 そんなオレと二アちゃんのやり取りを見ていたセラさんは楽しそうに笑みを浮かべながら、二アちゃんをからかうように言った。
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