祭りをするのはアナタの為に

笹村

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本章 五

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「好かったですね、二ア。女の子扱いして貰えて」

 イタズラっぽく笑みを浮かべながら言うセラさんに、ニアちゃんは戸惑うように返した。

「女の子って……それは、その、見た目はそうかもしれないですけど――」
「おや、不満なんですか? 贅沢者ですね、二アは。ちゃんとこういう時は、受け入れるものです」
「それは、そうかもですけれど……って、そもそもセラさんが買って来て欲しいって言ってたものばかりじゃないですか。セラさんも持たないとダメです。シーザさんが大変ですよ」

 気を使ってくれる二アちゃんにオレは応える。

「これぐらい別に平気だよ。ありがとう、気にしてくれて」
「そうそう、こういう時は男性を立ててあげるものです」

 合いの手を入れるように言葉を挟んできたセラさんに二アちゃんは言い返す。

「セラさんのは自分が楽してるだけじゃないですか」
「そんな事は無いですよ。エスコートして貰っているだけです。それに――」

 ひょいっと、セラさんはオレの手から串に刺さった焼き鳥を一本手に取ると、

「こうやって食べさせてあげるのは私たちの仕事です。はい、ど~ぞ」

 そう言ってそれをオレの口元へと持ってきてくれる。
 うぅ、まただ。これ、かなり恥ずかしいんだけどな。

「えっと、その、別にこういう事はしてくれなくても――」
「ダメですよ~。貴方が私たちを女の子扱いするんですから、私たちは貴方のことを男の子扱いします。だから、はい、ど~ぞ」

 嬉しくて楽しそうな笑顔を浮かべながらセラさんは再びオレの口元へと持ってくる。
 うぅ、無理だ。こんな風に笑顔を向けられると逆らう気が起きない。

 それ以前に、こんな風に笑ってくれる彼女の笑顔を崩したくないし。
 だから、恥ずかしさを飲み込んで差し出されたそれを口にする。
 甘いタレと香ばしい肉の味が、美味しいと思わせてくれる。

「おいしいですか?」

 期待感一杯に訊いて来るセラさんに、オレは自然と笑みが浮かぶ。
 なんだかくすぐったい気持ちになる。
 だから素直に応えを返す事が出来た。

「はい、とっても」
「好かったです、それなら」

 嬉しそうに目を細めてそう頷くと、また食べ掛けのそれを自分で食べてしまう。

「えっと、そんな食べ掛けの物を食べなくても、ちゃんとしたヤツを食べて下さい」

 恥ずかしいですから、それ。
 そう思って言うのだけれど、セラさんはどこ吹く風といった感じで、

「好いじゃないですか、そんなに気にしなくても。
 貴方が美味しく食べてくれるから、そんな風に嬉しそうになれる味を私も楽しみたいんです。
 嬉しさのお裾分けをして貰っているんです。問題は何一つありませんよ」
「いや、それはそうなのかもですけど、その、恥ずかしいですし……」
「ふむ、私は気にしないから大丈夫です」

 いえ、オレが気にするんです。
 と、即座に返せないのは小心者だからだろうなぁ。
 などと思っていると、

「ダメですよ、セラさん。シーザさんはセラさんと違って大雑把じゃないんですから」

 助け舟を出してくれるみたいに二アちゃんが言葉を挟んでくれる。
 けれど、そんな二アちゃんにセラさんは楽しそうな眼差しを向けると、

「大雑把だからじゃなくて、間接キスぐらいで大騒ぎしない大人というだけです。
 二アはお子さまですから、無理でしょうけれど」

 面白そうに挑発するみたいに言う。
 それに二アちゃんは僅かに顔を赤らめると、

「べ、別にそういう問題じゃないじゃないですか。見た目がこんなでも、十分大人だし……その辺りのことは知ってるくせに……とにかくっ、そういう問題じゃなくてですね――」
「なら、二アも食べさせてあげて下さい。はいどうぞ」

 そう言うとセラさんは、ひょいっとオレの手から焼き鳥の串を取ると二アちゃんへと渡す。

「ふぇ、ちょ、そんな渡されても私――」
「なんです? やっぱりお子さまなんですね。まぁしょうがないですけれど」

 やれやれ、といった感じで肩を竦めるセラさん。そんな分かり易い挑発に、

「別に、そんな子供じゃないです。その、これぐらい、全然平気なんですから」

 二アちゃんは思いっきり乗っかると、

「その、どうぞっ、です……」

 一生懸命にオレを見詰めながら、真剣勝負をするみたいな気迫でオレの口元へと焼き鳥を差し出してくる。
 って、そんなに気にしなくてもいいのに、というかこっちの方が一杯一杯です。
 などと思うものの、セラさんのは食べておきながら二アちゃんの物は放っておく、などということは出来ないので、

「えと、じゃあ、いただきます」

 できるだけ一番上の肉以外に触れないように、一番上の肉だけにガッチリと歯を食い込ませ固定した上で串から引き抜き口の中へと放り込む。
 うん、やっぱりおいしい、のだけれど、恥ずかしさの方が強いので味がどうのこうのは吹き飛んでしまう感じだ。

 そんな風に、オレがちゃんと食べたのを確認すると今度は二アちゃんが、強張った表情で食べかけのそれを見詰めていたけれど、やがて一大決心をしたみたいな勢いで一気に焼き鳥を食べてしまう。 そして食べ終わると、

「どうです、別にこれぐらい、へっちゃらなんですから」

 セラさんに勝ち誇ったように言う。

 うん、なんというか、この子、からかいがいのある子だなぁと思う。
 たぶん、セラさんもそう思っているんだろう。今にも二アちゃんを抱きしめちゃいそうな感じの、親しさと近しい感じが伝わってくる笑みを浮かべながら、

「さすがですね。どうやら私は見くびっていたようです。立派な大人振りです、二ア」

 どこか芝居がかった感じで大げさに言う。それに二アちゃんは、

「分かれば好いんです分かれば」

 胸を張るみたいに機嫌よく応えを返した。

 ……あぁ、この二人、きっといつもこんな感じなんだろうなぁ。
 そう思うと、なんだか心地好くなる。
 自分は今ここで、このお祭の場でなければ二人の仲に入ることは出来ないだろうけれど、でも今はそのチャンスを与えて貰っているんだ。
 だから、その幸運を楽しもうって、そう思う。

「それじゃ、他の場所も見て回りましょう」

 セラさんと二アちゃん、二人に呼び掛ける。それに、

「そうですね。ふふ、楽しみです。まだまだ食べたいものは一杯ありますからね。覚悟して下さいね、容赦しませんから」
「もぅ、セラさんは食べ物ばっかりなんですから。もっと他にも見て回るものは一杯ありますよ。私は、それも見て回りたいです」

 二人とも、期待にほころんだ楽しそうな笑顔を浮かべてくれながらオレの言葉に応えてくれた。だから、

「オレも、色々食べてみたいですし、色々見て回りたいです。楽しみましょう、三人でお祭を」

 二人を誘う言葉を贈り、お祭を楽しみ始めた。
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