祭りをするのはアナタの為に

笹村

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本章 十

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「……昔、信じて貰えないかもしれないですけど、勇者さんに会った事があるんです、オレ」

 俺は話し始める。昔の思い出と、そこから産まれた願いを。

「一緒に居ることが出来たのは、ほんの少しの間だけだったんですけど、それでもオレ、勇者さんに出会えて、好かったって今でも思ってるんです」

 巧く言葉はまとまってくれない。思いつくままに思い出せるままに、言葉を重ねていく。

「その時、オレ、勇者さんに言ったんです、魔王が居なくなったらお祭がしてみたいって、そしたら、今みたいなお祭が開かれるようになって……きっと、勇者さん、覚えててくれてて……オレが言った願いを、叶えてくれたんです」

 うん、きっとそうだ。勇者さんの顔も姿も声も、何もかも覚えていないくせに、きっと勇者さんはそうしてくれたんだっていう確信だけは、心の中に残ってくれている。だから、オレは、

「ありがとうって、言いたいんです、勇者さんに」

 取り留めの無い、心の中の想いを吐き出すだけの言葉。
 けれど一度溢れ出したそれは、止まることなく形になっていく。

「おかえりなさいって、言ってあげたい。お祭を一緒に回って、楽しませてあげたい。だから、だからオレ――」

 結局の所、想いは一つだけ。他の何もかもの望みの全ては、その願いの為だけに産まれてきた物だ。そうだ、オレは――

「勇者さんに、逢いたいんです。それが、それだけが、オレの願いなんです」

 涙が、零れてしまった。ただ自分の願いを口にしただけだというのに。
 情けないなって、そう思う。そんなオレの涙を、セラさんはやさしく拭ってくれた。

「やさしい願いですね。それはきっと、意味のある物の筈です。たとえ伝わらなくても、叶わなくても、貴方がそう思うだけで、きっと意味のあることなんです。
 だから、貴方が涙を流す必要は無いんですよ、シーザ。
 きっと、貴方がそう想ってくれるだけで、相手にとって意味のあることなんです。絶対に」

 心が、落ち着いていく。セラさんの言葉を聞くだけで、オレは何故だか彼女の言葉が本当なんだって思えてくる。たとえそれがどれだけ、根拠の無い物だったとしても。
 オレは、セラさんを信じたくて、彼女の言葉を受け入れた。

「……そうかも、しれないですね。ううん、きっとその筈です。オレがそう思ってないと、いつか出逢えるかもしれない勇者さんに胸を張って応える事が出来ないです。だから、うん、オレ、ずっとずっと願い続けます。勇者さんに出逢えるまでずっと、この願いを」

 一瞬、セラさんは驚いたようにじっとオレを見詰め続ける。
 そしてやがて、ふんわりと静かに笑顔を浮かべてくれながら、

「叶うと好いですね、いつかその願いが。それまではずっと貴方に想い続けて貰えるんですから、勇者はきっと、嬉しい筈ですよ」

 オレの願いを望んでくれた。嬉しいって、そう思う。あたたかで心地好い想いが広がっていく。それはこの先も頑張ろうっていう気合も生み出してくれる。うん、だからオレは、

「叶えます、いつか必ず。いつのどこでのお祭になるかは分かりませんけど、絶対にお祭バトルに勝ち残って願いを叶えます」

 絶対に叶えたいっていう決意を胸に、そう断言した。
 のだけれど、何故だかセラさんと二アちゃんは、オレの言葉を聞いて惚けたように固まっちゃったあと、

「えっと、ひょっとして、これからある他のお祭バトルに出続けるつもりですか?」
「色んな場所である筈ですよ、きっと。移動するだけでも大変なのに、本気なんですか?」

 二人はオレに本気かどうかを尋ねてくる。オレは苦笑しながら、

「本気ですよ、もちろん。お金とか掛かると思うんですけれど、大丈夫です。賢人会の人達からたっぷりと貰いましたから」
「賢人会って、え? なんで?」

 不思議そうに訊き返すセラさんに、俺は詳しく答えを返す。

「その、実はですね、今回のお祭、元々はオレが開催する権利を神さまに貰っていたんです。
 でも、オレ一人が開くんじゃ、他の人たちに呼び掛けたとしても小さい物になっちゃいますから、大きな物にする為に賢人会の人たちに権利を渡したんです。
 その時に、出来るだけ交渉して高く買って貰っていたんです、お祭をする権利を」

 うん、結構高く買ってくれた、思った以上に。
 何というか、賢人会の中が一枚岩じゃなくて色々と派閥があったのも助かったけれど。

 タキエスさんが属している派閥ではなく、それ以外の派閥に譲り渡す、という約束をする事が出来たのも運が好かったかもしらない。
 タキエスさん、大食いバトルの後にオレに会いに来たのも、その辺りのことを探ることも目的だったんだろうなぁ。関わり合いたくないから、かなり色々とすっとぼけて対応したけれども。
 そんなことを思いながら、オレは更に続ける。

「実を言うとオレ、今回のお祭バトルは勝ち残るのは無理だろうなぁ、って思ってたんです」

 ど~せ、何か妨害とかあるとは思っていたし。実際、今日いきなりあんなにも急に眠気が襲ってきたのだって、睡眠薬でも使った可能性が大だろうし。
 子供の頃に親に死なれてから大部分を一人で生きていたせいか、そういう部分に関してはそれなりに鼻が利く、なので多分そうなんだろう。
 セラさんは眠っていなかったみたいだから、全員に薬が盛られたという訳じゃないみたいだ。

 ……うんまぁ、お祭の開催全部をさせたあげくに優勝までしちゃったらさすがに悪いような気がするので、それはそれでしょうがないような気がする。
 とはいえ、本気で勝ち残る気だったのも事実だけれど。

「今回は勝てるかどうかは分からないって思ってたんです、実を言うと。
 でも、それで諦めるのも嫌だったから。
 だから、もっともっと他のお祭にも行って、何回でも挑戦しようって思っていたんです」

 本音を言うと、思っているだけでそう実行しようという気力が残るかどうかは分からなかったけれども。一回ダメだっただけで、心が折れる可能性だってあった。

 ううん、セラさんと二アちゃんに出逢えていなければ、二度や三度は頑張れたかもしれないけれど、それ以上は無理だった筈だ。
 でも今は、何度でも挑戦しようっていう気力が湧いている。うん、本当に、二人のお陰だ。

「ありがとうございます。二人とも」
「……いや、なんで、いきなりお礼を言われるのかが分からないんですけれど」
「えっと、どういう意味なんですか?」

 本気でよく分からないと不思議そうにオレを見詰めてくる二人にオレは応える。

「二人と出逢えたから、こんな風に強く思えるんです。本音を言うと、頑張れても数回程度だろうなって思ってましたから。でも、今は違うんです。
 何回負けても、どれだけ勝てなくても、願いを叶えるまでは頑張り続けようって思えていますから。二人のお陰なんですよ、そんな風に思えるようになったのは」

 オレの言葉を聞いて、二人は少しだけオレをじっと見続けながら黙ってしまう。
 けれどやがて、二人とも力を抜くように苦笑した。

「まったく、貴方って人は。結構したたかなんですね」
「ほんとです。ちょっとだけ、びっくりしちゃいますよ」

 苦笑しながらオレを見詰めてくる二人に、オレも自然に笑みが浮かぶ。そんなオレにセラさんは、

「それなら、また何処かのお祭で出逢うことがあるかもしれませんね」

 笑みを浮かべたままオレを見詰めながらそう言った。

「私も、他のお祭に挑戦してみようって思います。その時はライバルになっちゃうかもしれませんけれど、手は抜きませんからね」
「ええ、もちろんです。オレだって、手は抜きませんから。いつかお互いの願いが叶うまで、頑張りましょう」

 オレはセラさんの願いが叶うことを望みながらそう言った。
 それは偽善のような願いだけれど、間違った願いじゃない筈だ。
 それに、お祭はきっと続く筈だから、そう思ったって好いはずだ。

 終わらないお祭を。一つのお祭が終わったって、また次のお祭が来るように。
 ずっとずっと、続くお祭があると好い。

 それが、勇者さんと一緒に望んだ二人の願いなのだから。
 それを勇者さんは叶えてくれた筈だ。だったら、俺は信じ続けなくちゃいけない。
 お祭は続いていくって、終わっても終わっても、また新しいお祭が開かれるんだって。

 いつかそのお祭のどこかで、オレは勇者さんと出逢い、そして一緒にお祭を楽しむ。

 そんなたわいの無い、けれどオレにとっては何よりも大事な願いをいつか絶対叶えようって、オレは、改めて誓った。
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