転生して10年経ったので街を作ることにしました

笹村

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第一章 街を作る前準備編

11 王都のみんなに会いに行こう その② 裏話を聞こう

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「ヒイロさまヒイロさま!」

 ぱたぱた小走りに、今年で8才になる女の子、リトが俺にぶつかってくる勢いで寄ってくる。

「なんで? なんで今日来たの? 遊びに来たのーっ?」

 青空の色をした目をキラキラと輝かせながら、俺を見上げる。
 遊んで貰えると思っているのか、期待感いっぱいに落ち着かなそうに体を揺らし、やわらかな亜麻色の髪も揺れていた。
 俺はリトの、かわいらしさに苦笑しながら、落ち着かせるように髪を梳く。

「違うよ。有希に会いに来たんだ。いま、居る?」
「え~、そうなの~」

 しゅん、と気落ちするリトに、

「ごめんな。今日は、一緒に遊べないんだ。その代り、お土産持って来たから。
 べリムの実、好きだっただろう?」

 お土産を差し出す。するとリトは、ぱぁっと表情を明るくさせると、

「ありがとう! うわっ、うわうわっ! てんちょーっ! てんちょーっ!
 おみやげ! おみやげ貰ったのーっ!」

 俺からお土産を受け取って、なぜだか真上に掲げるように持ちながら、お店のカウンターの奥にある扉に走り寄る。
 すると、リトが辿り着くより早く開き、

「おー、好かったっすねー。なに貰ったんすかー?」

 見た目がちゃらい青年が姿を見せる。茶髪に耳にはピアス、服装もカジュアルな20代半ばに見える彼が、この店の主でもある有希だ。

「ベリムーっ! あまくておいしいのーっ!」

 すでに頭の中はべリムの実でいっぱいなのか、有希にお土産を差し出しながら期待感いっぱいの眼差しを向けている。
 有希は苦笑しながら受け取ると、包まれていた葉っぱを開き、

「おっ、美味そうっすねー」

 一つまみ手にすると、リトの口元に持って行く。
 当然リトは嬉しそうに口を開け、有希は食べさせてやる。

「んーっ! ほいひい~!」

 美味しさに表情をほころばせるリト。
 見てるだけで、こっちも表情が緩んでしまう。
 それは有希も同じだったのか、心地好さげに目を細めると頭を撫る。

 ぎゅっと抱き着くリト。仲が好さげで微笑ましい。
 有希は苦笑しながら、残っているべリムの実の入った包みをカウンターに置き、

「リト。オレっちは、これからヒイロっちと一緒に外に行って来るっす。
 ララとロッカが戻って来るまで、1人でお留守番出来るっすね?」

 リトに言い聞かせるように言う。するとリトは、ぎゅっと手を握りしめながら、

「うん! できる! できるよ! 1人でもおるすばん、できるもん!」

 有希の期待に応えようと、元気好く返した。

「おおっ、頼もしいっすね。じゃ、任せたっすよ、リト。お土産は、食べても良いけど、ララとロッカにも残しておいてあげないとダメっすよ?」
「うん!」

 力一杯頷くリト。じっと、カウンターに置かれたべリムの実に釘付けになっているが、姉であるララと兄であるロッカが返って来るまで待つつもりなのか、苦笑するほど真剣に我慢していた。

「じゃま、外に行くっすか、ヒイロっち」
「ああ。じゃ、行って来るよ、リト」
「いってらっしゃい!」

 元気一杯なリトのお見送りを背に受けて、俺は有希と店の外に出て、ふらりと歩き始める。
 少しばかり歩いた後で、

「それで、今日は何の用事で来たんっすか? ヒイロっち」

 有希が問い掛けてくる。

「ちょっと近くまで来たからね。ついでに顔を見に来たんだ。他のみんなにも、会いに行くつもり」
「おっ、そりゃちょうど良かったっすね。今日ちょうど、ごっちゃんが新作発表するっていうんで、みんなで集まる予定だったんすよ。一緒に居こうっす」
「好いね、助かるよ。と、それは良いけど、リトに一人で留守番させといて良かったの?」
「良いんすよ。過保護すぎるのもリトのためにならないっすから」

 キリっ、とした口調で言う有希だけど、実際はかなり過保護だ。
 お店の作業服という名目でリトに着せているエプロンドレスだけれど、何重にも加護の魔術が掛けられている。
 あれでは、仮に誰かが襲ったとしても、襲った方が酷い目に遭う。
 などと、有希の過保護っぷりに苦笑しちゃいそうになる自分を抑えていると、

「あ、ここ曲がるっすよ」

 人気のない路地裏の入り口を視線で示される。
 先に進む有希の後についていくと、路地の壁の一つに、唐突に扉があるのに気付く。
 有希の店で見た、カウンターの奥にあった扉と同じ物だ。

「おーぷんざせさみ~」

 のんびりとした掛け声に従って、ひとりでに開く扉。その先は、広い倉庫になっていた。

「近道するっすよ」

 先に入る有希に遅れて、俺も倉庫に入る。
 入った途端、扉は閉まり、すっと消え失せた。
 元の扉があった場所からも消えている筈だ。

 有希の神与能力チートスキル「どこでも倉庫」の効果が発動したのだ。

 有希の能力は異空間に、消費する魔力に応じた広さの倉庫と、そこに通じる扉を、個数制限なしで創る能力だ。
 一度創りさえすれば維持するコストは追加で必要とせず、出入り口となる扉は、肉眼で見えている場所であれば、いつどこにでも創れるし消すことが出来る。

 一見すると、元居た世界のゲームで出てくるアイテムボックスのような能力に思えるが、まったく違う。
 いま使っているように、事前に設置した扉同士をつなげ倉庫を渡ることで、移動する距離を短縮することだって出来るからだ。

 それ以外にも使い方によっては、王城さえ一人で落とせる。

 なぜなら、消費する魔力がその分必要になるとはいえ、創り出せる部屋と扉の大きさには際限がないからだ。
 実際、数年前に大きな山崩れが起きた時には、それを丸ごと呑み込むほどの大きな扉と倉庫を創り出し、その先にあった小さな村落を守った事もあるほどである。 
 
 しかも空中だろうと扉は創り出せるので、王城の上空に巨大な扉を下向きで創り、そこから山一つ分の質量体を落とす、とかも出来る。
 魔王との戦いでは、上空1000mに創り出して貰った扉から爆弾を落として爆撃して貰ったものだ。

(あの時は、助かったよなぁ)

 昔のことをしみじみと思い出していると、有希に問い掛けられた。

「今日、王都に来た理由って、やっぱ新しく作る街の件っすか?」
「うん。資材が足りてないから、魔術協会に都合つけて貰えないか頼みに行ってきた」
「……こっちの話、聞いてくれたっすか?」
「なんとか。向こうも、こっちと関わりたかったみたいだし。ただ――」
「どうかしたんっすか?」

 魔術協会からの帰り際、密会を求めてきた若い魔術師のことを思い出し、頭の中で少し整理してから有希に訊いてみた。 

「カルナ・ストラドフォードっていう若い魔術師、知ってる?」
お坊ちゃんボンボン山師のことっすか?」
「……え、ちょっと待って。なに、その呼び名」

 すぐに心当たりが返って来たのも驚くけれど、異名で呼ばれるほど有名っぽいのも予想外だ。

「そんなに有名なの? カルナって」
「有名っすよ。うちらみたいな、雑貨商いや問屋とかだと。
 魔術師の名門、ストラドフォード家の一人息子だってのに、山師まがいの資材の買い占めやら、人の手配だの、幅広く手を出してるって。
 噂だと、博打まがいの投資とかもしてるくせに、破産もせずに倍々ゲームで資産を増やしてるそうっすよ」
「そんなに過激な子だったんだ……かなり若い子に見えたけど……」

 魔術協会で会った彼から受けたイメージからは、結構違う。

(どちらかと言うと、お金とか権力とかにはガツガツしないタイプに見えたんだけど……カンが外れたかな?)

 ちょっと考え込んで、俺が黙っている間にも、有希は情報を提供してくれる。

「若いのは若いっすよ。なにしろ18っすから。その若さで、うちらの間で噂になるほど派手に動けてるのは、大したもんっすけど。
 でも、順風満帆って訳でもないみたいっすけどね」
「そうなの? なんで?」
「実家と仲が悪いらしいっすよ。どうも、本人が家を飛び出したらしくって。
 魔術師は、上の人間に実力が認められさえすれば、その辺は喧しくないそうっすけど。
 噂じゃ、飛び出した時にかっぱらった金めの物を売って、それを元手に今の山師めいた活動してるらしいっすね」

(ふむ……なるほど……) 

 有希から貰った情報を取り込んで、カルナのイメージを修正する。

(家を飛び出したってことは、余程嫌な事があったんだろうけど……そこでヘタレずに活発に動いてるのは、何か目的があるのかな?
 単純に上昇傾向があるって感じじゃなかったし……どっちかというと、朴訥としたタイプだよな、研究とかに勤しむタイプの。
 ただ頑固というか、一途な感じはしたんだよな、あの子。それに――)

 俺は、カルナの傍に居た、ミリィのことを思い出す。
 だから、有希に一つ訊いてみた。

「ねぇ、精力的に動いてるのは分かったけど、女の子の噂はどうかな? 手が速いとか、女癖が悪いとか、そんな話は聞いてる?」
「いや、まったくないっすね」
「まったく? 若くてお金ありそうなのに?」
「ないっすね。ホモなんじゃないかって言われるぐらい、浮いた話の一つもないっすよ。
 エロより金が大事なんだろって、みんな噂してるっすね」
「なるほどね……」

 有希の話のお蔭で、かなりカルナのイメージが出来上がる。
 これは、たぶん、ひょっとして……。

「どうしたんっすか? なんかにやにやしてるっすけど」
「甘酸っぱい色恋沙汰に関われるかもしれないと思って」
「相変わらず、恋愛脳っすね」 
「ハッピーエンドが好きなだけだよ。甘いの大好きだし」
「それは、オレっちも嫌いじゃないっすけどね。
 そうそう、今日ごっちゃんが食べさせてくれる新作も、甘い物らしいっすよ」
「うわ、それは楽しみ。早く行こう」

 わくわくしながら、俺は有希と一緒に、みんなが集まっている場所に通じる扉の前に。
 扉を空けて、外へ出ると、

「あら、陽色も一緒だったのね。お久しぶりじゃない」

 おネェ系勇者に声を掛けられた。
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