輪転十一世界のか弱き少女

影木とふ

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【2027J05131530佐川ユウ 1-8 】

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「君が言ったことは正解だけど、間違いだ」


 全く分かりません。

「そうだなぁ、まずはこの空間だが」
 そう、それだよ。何なんだよ、ここ。俺は今、学校にいるはずなんだ。
「ここは佐川君がさっきまでいた学校という空間じゃないんだ。全く別の世界と言っていい」
 別の世界って……どう理解すりゃいいんだよ。
「僕等が普段生活している世界の裏であり隣の空間。まぁ異空間ってやつだね。普通は入れない所なんだよ。あはは、すごいよね」
 そんなゲームみたいな設定を笑顔で言われてもなぁ。
「ここには普通の人間は絶対入れない。偶然迷い込むことも皆無だね。でも条件を二個満たせば入ることが出来るんだ」
 長谷川さんがズボンのポケットをごそごそしだした。
「じゃーん。一個目の条件がこれ。携帯端末~」
 ……そんな自慢げに出されてもなぁ、最近の高校生なら普通に持ってますよ。
「ちっち、佐川君これは一見市販の携帯端末だが中身は全然違うんだよ。これには特殊な空間補正装置が付いていてね、これを使うことで僕等が普段いる世界とこっちの座標軸をつなげることが出来るんだ」
 全然分からん。俺、頭悪いんだってば。
「でもこれはあくまで携帯用の座標補正装置だからね、単体で空間の扉をこじ開けれるほどの出力はないんだ。だから歴史資料室の扉を使うんだ」
 だから歴史資料室の扉を使う……話がつながっていないですな。
「この空間に来る為の固定ゲートは歴史資料室の扉にあってね、部屋の中にその固定ゲートに人工的に歪みを加える機械があるんだ。携帯端末で入る空間の場所の数値を入力して機械に送信、情報を受け取った機械がその位置に空間を補正してゲートを開くって感じかな。おっとあんまり詳しく聞かないでくれよ? 僕はこっち系は専門外でね、今言ったのも他人の受け売りなんだ。あはは。詳しく聞きたかったら技術開発の甘屋君に聞いてくれ」
 質問のしかたも分からないんでいいです。途中から聞き流してました。

 固定ゲート、空間補正、分からん単語ばっかりだ。
「まぁそういう仕組みなんだよ。で、僕等三人はこの携帯端末を持っている。けれど佐川君は持っていないよね」
 当然だ、俺の端末は純市販品だ。
「うーん、無理なはずなんだよねぇ」
 俺は普通に学校の歴史資料室の扉を開けただけだっての。

「例えこの携帯端末を持っていたとしても、普通の人は入れないんだ。そこで二個目の条件……」
 ……長谷川さんはニコニコしているだけで動かない。あれ、また何かドヤ顔で秘密道具を出すわけじゃないのか。
「二個目の条件……それは能力者であることだ」
 能力者? 何だそりゃ。
「ほら、分かりやすい例がここにあるよ」
 長谷川さんは水野さんを指差した。右手に細身の剣、左手にはシルバーのハンドガンを持った水野さんが俺を睨んでいる。
「人それぞれ形態は違うんだけどね、武器の具現化……それが出来るのが能力者ってわけ。そしてこの力でさっきの黒い影、フェンリスを倒すのが僕等能力者の役目なんだ」
 武器、影を倒す……まるでゲームだな。
「話は半分以下ぐらいでなんとなく分かりましたが、俺はその端末を持っていないし、武器を出すなんて物騒な能力もないですよ」
 武器を持ったキャラクターを操ることはあるが、俺自身はそんなことはしない。
「武器を出す、と言ってもこの空間でしか出ないんだけどね。だからここを出たら安心して水野君に愛の告白をしてくれたまえ。あはは」
 だからしませんって。そして水野さんは武器を持っていなくても、ほっぺにしばらく跡が残るぐらいのビンタの持ち主みたいですよ。

「さて、話がずれてしまったね。そろそろ本題と行こうか」
 ずらしてる本人が言うことだろうか。
「佐川君がどうしてこの空間に入ってこれたんだろうか、ってことだけど、答えは簡単。君が能力者だからだよ」
 ……何を言い出すかと思えば。
「まぁ、いきなりこう言われても信じられないよね。じゃあ証拠を言おう。それはね君の記憶の残滓」
 記憶の……ざんし? 難しい言葉で言われても分からん。
「ホラ、さっき言っていたじゃないか。昨日まであったコンビニが無くなっていたとか、三原先生がいなくなっている、とか」
 ……!
「おかしいよね。昨日までコンビニがあったのに、今日見たらお店が閉店しているならまだしも、お店があった空間すら無くなっているんだもんね」
 ……どうしてそこまで俺の事情に詳しいんだ。
「そしてこの空間に迷い込んでみたら、消えたコンビニがそこにあった、と」
 長谷川さんはさっき俺が扉をこじ開けたコンビニを指差した。
「ここにあるうちはまだ戻る可能性があるんだ。限りなくゼロに近い数値だけどね……」
 戻る……? 分からないぞ。
「次に三原君だ。確かに英語の教師、三原君は昨日まではいたよ。けれど今日からはいない。最初からいなかった、そういうことに昨日の夜になったんだ……」
 昨日までいたけど今日からはいない? 最初からいなかった?
「佐川君が感じたこれらの違和感がさっき言った記憶の残滓だよ。世間一般の大多数の人には残っていない記憶なんだ」
 分からん……。
「でも君は覚えているよね。コンビニがあったこと、三原君に英語を習っていたことを。この記憶が残っている時点で佐川君は能力者であると言えるよ。当然僕等三人も覚えている」

 そろそろ俺の頭は限界だ。許容量オーバー。

「しかも君は携帯端末で空間補正をしないでここ、固定ゲートから一キロも離れたこの位置に現れた。これは能力者のなかでもすごいことだよ」

 突如、長谷川さんの携帯が鳴り出した。
「おっと、制限時間オーバーだ。話の途中で悪いけど、速やかに撤収しようか。佐川君の開けたゲート、時間と共に小さくはなってきているけど、十分近く維持出来るんだねぇ。さぁ消えないうちにそこから帰ろうか」
 俺はオーバーヒートして沸騰した頭を手で押さえ、言われるがまま三人のあとに続いてゲートをくぐった。



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