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3.misfortune
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「えー、転校生を紹介します」
春。
進級してほどないころのこと。その日は突然訪れた。
いや、転校生が来ること自体は知っていたけれど、今日だなんて思わなかった。
危機感を募らせる一方で、私はどこか、「こんなのはただの妄想だ」と思っていたところがあったのか。
何にせよ、その日、私の淡い期待を打ち砕くように、その子は来た。
柔らかい栗色のセミロング。艶やかで白磁の如く美しい白い肌。零れんばかりに大きくてつぶらな、チョコレート色の双眸。
少し小柄なその子は、可愛らしく恥じらうようにしながら、おっとりと自己紹介を終えた。
「……はぁ」
ホームルームが終わっても、クラスは美少女転校生の存在にざわついたままだ。当たり前だ。こんなに可愛い子が来るだなんて、誰が想像しただろう。
――何が「普通のごく平凡な主人公」だ。全然平凡じゃない。
神様ってなんでこんなに不平等なんだろう。
私は考えても仕方のないことをぐずぐずと考えながら、ちらりと隣の席の幼馴染に目を向けた。
彼は美少女な転校生を特に気にした風もなく、何やらノートに書きつけている。
いつも通りの様子にどこか拍子抜けしながら、しかし私は確かに安堵した。そして、油断した。
きっと、この時に彼に話しかけるでも何でもして、彼を引き留めておけばよかったのだろう。
けれど、私はそこまでの頭が回らず。
「白百合さん」
彼の声に、はっと顔を上げた。けれど気づいた時にはもう遅く。
「僕は生徒会の会長をしています」
彼は自然体で転校生の少女の元まで歩み寄って声をかけると、丁寧にお辞儀をした。
「判らないことがあったら、僕でも、誰にでも聞いてくださいね。みんないい生徒ばかりなので、きっとすぐに仲良くなれますよ」
にっこり、と何とも爽やかな笑顔を向ける。それに、転校生の少女は頬をバラ色に染めた。
――私は思わず、視線を逸らして窓の外を見ていた。
よそいきの口調、よそいきの笑顔。
けれどそんなこと、彼女は知らない。確かに優しくて親切そうに振舞った彼は、どれだけ魅力的に映ったことだろう。
「あの、お名前は……?」
白百合さんがそう訊ねると、「挨拶が遅れましたね、すみません」と彼は綺麗な笑顔で名を名乗る。
「……」
私は唇を噛むと、ポケットから可愛くない黒色の音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンで耳を塞いだ。
「ご機嫌斜めかい?」
昼食のために屋上に出ていた私に、わざわざ追いかけてそう問うてきたのはやはり彼だった。さっきまで彼女に気に入られて随分話しかけられていたというのに、どうやって撒いてきたのだろう。
「誰が。何で」
ぶっきらぼうにそういうと、彼は「んー」と悩むそぶりを見せてから、
「君が。――彼女が来たから?」
と、からかうように同じ調子で答える。
「別に。……私には関係ないし」
「そうかい。ならいいんだけれど」
そういうと、彼は私の隣に座って弁当を広げた。
「どうやって撒いてきたの」
「白百合さん?」
「……」
「名前を呼んだだけであからさまに嫌な顔をすることはないだろ。別に何かされたわけじゃない」
「気に入らないだけ」
「まぁ、男を惹く外見ではあるんだろう。けど、それで君が迷惑こうむることじゃないだろ? 俺だって特に彼女と親しくなろうと思ってない」
「でも可愛いでしょ」
「そりゃ人によるんじゃないか」
そう言いながら彼は突然私の弁当箱からトマトをかっさらっていった。
「あ、トマト!」
「君、好きじゃないだろ」
「好きじゃなくても私のなのに」
「すまんすまん。なら俺の唐揚げをやる」
「……その交換、割に合わなくない?」
「いいのさ、あまり腹も減ってない」
そう言いながら彼はトマトを咀嚼する。そして飲み下すと、「まぁ、あれだ」と口を開いた。
「あれならいくらでもあしらいようはある。君はあんまり心配しなくていい。心配したところで何かできそうにもないしなぁ」
「どこまで失礼なの本当」
「ははは。俺と君の仲だろう」
「だから何なの」
「まぁ、心配してくれるなってことだな」
彼は笑い、まだ半分も残っている弁当箱のふたを閉じた。
「……全然食べてないじゃない。体調でも悪いの?」
「いや、……。そうだな。まぁ、気分が悪い」
「保健室まで送る」
「いいさ。君はきちんと弁当を食え。保健室なんざ、さすがにひとりで行ける」
彼はそう言うと立ち上がり、屋上から去って行った。
春はいろんなものを連れてくる。
出会いを、別れを、喜びを、悲しみを。
良い縁もあれば悪い縁も。
運命の歯車は、すでに軋み始めている。
春。
進級してほどないころのこと。その日は突然訪れた。
いや、転校生が来ること自体は知っていたけれど、今日だなんて思わなかった。
危機感を募らせる一方で、私はどこか、「こんなのはただの妄想だ」と思っていたところがあったのか。
何にせよ、その日、私の淡い期待を打ち砕くように、その子は来た。
柔らかい栗色のセミロング。艶やかで白磁の如く美しい白い肌。零れんばかりに大きくてつぶらな、チョコレート色の双眸。
少し小柄なその子は、可愛らしく恥じらうようにしながら、おっとりと自己紹介を終えた。
「……はぁ」
ホームルームが終わっても、クラスは美少女転校生の存在にざわついたままだ。当たり前だ。こんなに可愛い子が来るだなんて、誰が想像しただろう。
――何が「普通のごく平凡な主人公」だ。全然平凡じゃない。
神様ってなんでこんなに不平等なんだろう。
私は考えても仕方のないことをぐずぐずと考えながら、ちらりと隣の席の幼馴染に目を向けた。
彼は美少女な転校生を特に気にした風もなく、何やらノートに書きつけている。
いつも通りの様子にどこか拍子抜けしながら、しかし私は確かに安堵した。そして、油断した。
きっと、この時に彼に話しかけるでも何でもして、彼を引き留めておけばよかったのだろう。
けれど、私はそこまでの頭が回らず。
「白百合さん」
彼の声に、はっと顔を上げた。けれど気づいた時にはもう遅く。
「僕は生徒会の会長をしています」
彼は自然体で転校生の少女の元まで歩み寄って声をかけると、丁寧にお辞儀をした。
「判らないことがあったら、僕でも、誰にでも聞いてくださいね。みんないい生徒ばかりなので、きっとすぐに仲良くなれますよ」
にっこり、と何とも爽やかな笑顔を向ける。それに、転校生の少女は頬をバラ色に染めた。
――私は思わず、視線を逸らして窓の外を見ていた。
よそいきの口調、よそいきの笑顔。
けれどそんなこと、彼女は知らない。確かに優しくて親切そうに振舞った彼は、どれだけ魅力的に映ったことだろう。
「あの、お名前は……?」
白百合さんがそう訊ねると、「挨拶が遅れましたね、すみません」と彼は綺麗な笑顔で名を名乗る。
「……」
私は唇を噛むと、ポケットから可愛くない黒色の音楽プレーヤーを取り出して、イヤホンで耳を塞いだ。
「ご機嫌斜めかい?」
昼食のために屋上に出ていた私に、わざわざ追いかけてそう問うてきたのはやはり彼だった。さっきまで彼女に気に入られて随分話しかけられていたというのに、どうやって撒いてきたのだろう。
「誰が。何で」
ぶっきらぼうにそういうと、彼は「んー」と悩むそぶりを見せてから、
「君が。――彼女が来たから?」
と、からかうように同じ調子で答える。
「別に。……私には関係ないし」
「そうかい。ならいいんだけれど」
そういうと、彼は私の隣に座って弁当を広げた。
「どうやって撒いてきたの」
「白百合さん?」
「……」
「名前を呼んだだけであからさまに嫌な顔をすることはないだろ。別に何かされたわけじゃない」
「気に入らないだけ」
「まぁ、男を惹く外見ではあるんだろう。けど、それで君が迷惑こうむることじゃないだろ? 俺だって特に彼女と親しくなろうと思ってない」
「でも可愛いでしょ」
「そりゃ人によるんじゃないか」
そう言いながら彼は突然私の弁当箱からトマトをかっさらっていった。
「あ、トマト!」
「君、好きじゃないだろ」
「好きじゃなくても私のなのに」
「すまんすまん。なら俺の唐揚げをやる」
「……その交換、割に合わなくない?」
「いいのさ、あまり腹も減ってない」
そう言いながら彼はトマトを咀嚼する。そして飲み下すと、「まぁ、あれだ」と口を開いた。
「あれならいくらでもあしらいようはある。君はあんまり心配しなくていい。心配したところで何かできそうにもないしなぁ」
「どこまで失礼なの本当」
「ははは。俺と君の仲だろう」
「だから何なの」
「まぁ、心配してくれるなってことだな」
彼は笑い、まだ半分も残っている弁当箱のふたを閉じた。
「……全然食べてないじゃない。体調でも悪いの?」
「いや、……。そうだな。まぁ、気分が悪い」
「保健室まで送る」
「いいさ。君はきちんと弁当を食え。保健室なんざ、さすがにひとりで行ける」
彼はそう言うと立ち上がり、屋上から去って行った。
春はいろんなものを連れてくる。
出会いを、別れを、喜びを、悲しみを。
良い縁もあれば悪い縁も。
運命の歯車は、すでに軋み始めている。
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