白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「……順を追って説明しますね。私が洗濯していたら、エルシャスが来てくれて、話していたんです」

 とりあえず風呂場で騒ぐのも何なので、一階に戻り、全員テーブルに着いて顔を突き合わせて話すことになった。クマのぬいぐるみは一段落着くところまで洗い、ある程度水分を取った後、陽の当たる窓際に窓を開けて干した。そのうちきちんと乾くだろう。そしたらきっと、お日さまの匂いがするようになるんじゃないだろうか。

「そしたらぬいぐるみの話になって。汚れているから洗ったほうがいいかなってことになってですね。風呂場で二人で洗ってたんですけど」
「そしたら姫が……いなくなるって……」
「エルシャス、話をすっ飛ばしたらわけわからなくなります。そこにリリツァスが来てですね、ぬいぐるみ洗うのを教えるのが偉いとかなんとか」
「だって偉いよ!? ひちっ。普通は洗ってあげて終わりにするじゃん! なのにちゃんと教えてるんだよ!? エルシャスに!! へちちっ」
「それは確かに、大変だとは思うけれど……ええと、そこから何がどうなって姫がいなくなるっていう話になったのかな?」
「エルシャスに教えるのは、私がいなくなった時、エルシャス自身で洗えないと良くないんじゃないかって思ったから。そう言ったら、何故か今すぐいなくなると誤解されてですね」
「……そういう、こと……」

 カーチェスは気の抜けたようにため息をついた。

 しばらく皆一様にぽかんとしていたが、じっとりとリリツァスを見つめ始めた。

「え、みんな何? ひちっ」
「……要は、お前の早とちりだな?」
「えっ!? いやだって姫が! いなくなるって!」
「そうだよねぇ、もとはといえばシルヴィスが散々姫を虐めなければこんな話にはならなかったんじゃない?」
「は!? まだそれを言うのですか!」
「いやだってそうでしょ~。シルヴィスの心ない発言のせいで姫は凄く傷ついちゃったんだよ。ねぇ?」
「いえ、シルヴィスの言葉は棘はあれどある程度普通だと思いま」
「ほら物凄く傷ついてる! シルヴィス最っ低だなぁ。あーあ、姫可哀想」
「いやあの」
「ま、待ってください、私は発言をそこまで間違えたとは思っていません」
「へぇ、この期に及んでそんなこと言うんだ~」
「二人とも、この場で喧嘩はやめてよ。上でルーヴァスも寝ているんだから」

 カーチェスが少し叱るようにして言うと、シルヴィスはつんとそっぽを向き、ユンファスは片眉を上げた。

「ルーヴァスそこまで重傷なの?」
「傷は大方塞がっていると思うが、暫くは大人しくしているほうが賢明だろうな」
「あーあ。まーた無茶してんの。いつも思うんだけどさぁ、あれ、まともに相手してる意味ある? ……殺しちゃえばよくない?」
「は?」

 ユンファスの口から飛び出してきた物騒な言葉に、ぎょっとして思わず間の抜けた声が零れる。そこで、ノアフェスがユンファスの頭を叩いた。

「あたっ」
「モノのたとえだな、誤解する奴もいるのだから少し気を遣え」
「ノアフェス、姫が来てから随分口数多くなったよねぇ……」
「そうだったか?」
「いや絶対そうでしょ……」

 ユンファスの言葉に、そういえばここに来た初期の頃、ノアフェスはもっと寡黙だったかもしれないと思いだす。

「ノアフェスって元々は結構話す方なんですか? それとも私がいるから無理に話してます?」
「いや、そんなつもりはない」
「でも確かに、へちっ、最近よく話すよね! ……はちゅっ」
「……ノアフェス、お酒……飲むと、げんき、だよね」

 エルシャスがぼんやりと首を傾げてそういう。

「元気?」
「沢山、しゃべる」
「え、そうなんですか」
「そんな記憶はない」

 ノアフェスがきっぱりと言い切ったところで、何故かカーチェスの顔色が悪くなった。そして少しだけひきつった笑みを浮かべ、

「……。いや、そんなことより姫の話だよ。姫、ここにいる限りはあの姫君もそうそう容易く君を追うことはできない。……だから、出ていこうなんて考えなくていいよ」

 と、私に言う。

 まぁ、容易く追うことができないのは事実だろう。元々が白雪姫が継母から身を隠すために入った森だし、迷いの森である以上はそう簡単にこの家に辿り着けるとも思えない。リオリムのような存在が彼女の近くにいるならともかく、現時点で彼女がここまで来ていないところを考えると、それは少し考えにくい気もする。

 とはいえ。

「ですが、私がいずれここを出ていかなきゃいけないのは事実です。白雪姫から逃げきれたら……それまでにできることはしておきたいと、そう思って」
「それは何を判断基準にするのですか」
「判断基準?」

 シルヴィスの言葉に私が首を傾げると、彼は何とも言えない――というか明らかに呆れている顔をした。

「その我侭な姫君から逃げおおせる、というのは何を基準に言っているのですか。それこそ姫君が死ななければ確実に逃げ切れるとはどうしたって言えないでしょうに」
「あ」

 確かに、それはそうかもしれない。

 私としてはあの、街の路地で聞いた会話からリンゴの季節、つまり秋から冬にかけてを無事に生き延びられればいいと思っていたのだが、そもそもそれが今年の秋から冬だという保証もないのだった。

 ……それを考えると頭が痛い。私の身の安全は、現状、どこまで行っても保証はされていないようなものだ。

 彼ら妖精が白雪姫に洗脳されていなければ問題ない、という認識ではあるが、その洗脳される可能性のある時間に、今のところ明確な期限はない。

 ……道化師にきちんと聞いておかなければならなかった。あまりにも愚かだ。

「……。考えてませんでした」
「期待を裏切らない間抜けっぷりですね」
「ほら! そういう所が姫をこの家から追い出そうとしている言動に思えるんだって。何で女の子にそういう言い方しかできないの? お子ちゃまだからかな~?」
「貴方はどこまで人の神経を逆なですれば気が済むのですか? 間抜けという以外にないでしょう。そんなことではいつ出ていくかも見通しがつかない」
「つまり何、シルヴィスは姫が出ていかないか心配で心配で仕方ないってこと? うわ、正直に言えばいいのに」
「誰がそんなことを言いましたかこの金髪」
「二人とも、喧嘩はやめてって言ったでしょう」

 カーチェスが再び窘めると、今度はシルヴィスは苛立たしげに髪をかき上げ、ユンファスは「はいはーい」とおざなりに返事をした。

「……。この冬を無事に生き延びられたら、ですかね」

 私が唐突に呟くと、「は」と誰ともなく呆然としたような声をこぼした。

「この冬を無事に生き延びられたら、出て」
「待った!」

 ユンファスが思い切り手のひらを私に突き出してきたので、私の言葉は遮られる。

「姫はそれで問題ないわけ? 記憶喪失のまま放り出されても困るんじゃないの」
「それは確かにそうですが、居候のままいつまでも居座り続けるわけにもいきません。赤いピエロの不審者に会えたらその件についても聞いてみようと思いますが……会えるとも限らないので、皆さんに確実なことは言えないです」

 実際問題、ここにいつまでもとどまっていられるとも思えない。それ故にできれば早々に白雪姫とのことは決着をつけたいのだ。白雪姫が隣国の王子か何かと結婚してくれれば一件落着……のような気もするが、彼女の目的が彼ら七人と恋愛関係に落ちることにある以上、その結婚はあり得ないと考えて問題はないのだろう。

 白雪姫が彼ら妖精と接触した時点で、洗脳が起こるとあの道化師が言っていた。つまり彼らが白雪姫に恋をした時点――というか接触をした時点で、私の死亡は決定。

 そう推測すると、シルヴィスの言う通り、白雪姫が死ぬ以外に確実な解はない。しかし、私が彼女を殺すという選択肢はどうしても考えたくない。……命の危機だというのに呑気だろうが、戦いだの命の取り合いだの、そんなものとは無縁の世界で生きてきたのだ。自分の命のためとはいえ白雪姫を私がこの手で殺すなど、あまりに現実味がなかった。

「不審者……? あぁ、君たちのお城に紛れ込んでいた正体不明の」

 カーチェスがそう納得したところで、ユンファスは怪訝そうに唇を開いた。

「いやいや、ピエロの問題以前でしょ。ピエロがどれだけ情報に精通していたところで、その姫君が君を狙うのをあきらめる時まではどう考えてもわかるわけがないじゃん」

 それは常識的に考えればもちろんそうなのだが、何せあの道化師だ。
 この世界が乙女ゲームだのなんだの言っていた彼のことだから、ある程度のことはわかるはず。

「ですが現状、私が頼れるのはあの不審者だけなんですよね。信じていいと言い切れないのがさらに厄介なんですけど」
「何者かわかってないしね……へちゅっ。っていうかピエロに会える場所ってどう考えても迷いの森の中じゃないよね。それじゃあ……はくしゅっ、そのピエロから情報を引き出すにしてもお城まで行かないとダメな感じじゃない?」

 そうとも限らない、だろう。というかあの城でなくともあの道化師にはもう会っている。彼の場合、会うのに必要なのは城という場所でなく、タイミングという、要は運だけである。

 しかしそれを彼らにどう説明すべきだろうか。

 そう悩んでいると、道化師の話を受けた妖精たちも各々参った顔をしていた。

「……。そんなことをルーヴァスが許すか?」

 ノアフェスがこてんと首を傾げる。

「姫が外に出ることを、ルーヴァスは容易に容認しないんじゃないか」
「え、そうなんですか」

 以前の外出の際、ルーヴァスは否定しなかったはずだ。むしろシルヴィスやノアフェス、ユンファスの方が反対していた。
 ここに来てルーヴァスに反対されるとは考えていなかった。

「ルーヴァスより皆さんが反対するイメージなんですが」
「俺たちが反対してもしなくても……へちっ、最終的にはルーヴァスの一存だよ。この家の主はルーヴァスだし」
「そしたら、逆に反対されないで終わりそうですが……」
「ルーヴァスの判断基準は我々にもよくわかりません。ですが、城は街よりもあの姫君に会いやすいでしょうし、ルーヴァスも許さないのではないですか」
「と、いうかさぁ」

 ユンファスが目を細めて妖しげな笑みを浮かべた。

「ルーヴァスの許可以前に。――城とか、絶対、“鴉”の溜まり場じゃん?」
「……“からす”?」

 ユンファスの発した言葉に、一番最初に浮かんだのは黒い鳥だが――流石に、違うだろう。この会話の流れで鳥を気にするとは思えない。

 そこでおぼろげに思い出す。


――最近“鴉”が動いてるのを聞いてないのか? お前
――おや、あれが動いているのですか
――あったりめぇだろ、私兵だ。特にアレはまだよくわかってねぇが、ほぼ完璧にクロだ。この女を抱え込むってことは“鴉”と敵対するってことだ
――相手は所詮ただの兵でしょう。我々七人で十分始末できるのでは?
――馬鹿野郎、“鴉”の正体が分かってもいねぇのに派手に動くやつがあるか


 以前、クファルスの店でシルヴィスとクファルスがしていた会話。

 そこにも、“鴉”という単語が出てきた。

「あの。からす、というのはなんでしょう」

 私が訊ねると、エルシャスが瞬きをした。

「ひめの」
「私の?」
「ひめの、兵。ひめが、この国にくるときに、いっしょに来た、兵隊」
「……え?」

 それは。

 それは、おかしいのではないだろうか。

「あの、それなら、とっくに、……解雇、しているんじゃないですか?」

 私がそう言うと、六人は不思議そうな顔になる。

「どうしてかな」
「いえ、だって……私は、というか私たちのあのお城は、貧乏なはずです。財政の記憶なんてないけれど、確かに貧乏だっていうのはわかるくらい、お城には何にもなかった。会ったのは玉座と、あと――」

 カーテンの裏にあった、あの道化師がいた鏡。元々リオリムが収まるはずだった、私が壊した鏡。

 それだけ。

「大きな鏡が一枚。それ以外には、多分、ほぼ何もなかったと思います。……あまりに財政がひっ迫しているから売り払ったと……いや、借金取りに持って行かれた? とにかくそんな状況で兵を雇っていられるとは思えません」
「それが、そうでもないんだ」

 カーチェスが困ったように眉を寄せる。

「“鴉”は君の本国からついてきた、君のための私兵。――その実態はほぼ謎に包まれているけれど……つまりは、この国の財政状況に影響しないんだと思う」
「ん? すみません、よくわかりません。国ではなく私にはお金があったということですか?」
「いや、違う。……君の故郷、コーネリアから直接お金が出ているんじゃないかな」
「……え」

 つまり、何だ。

 私には、思い通りになる兵がいるということ?

 ……それって。

「……あれ。これ、勝機がある感じじゃないですか?」
「え? なんのこと」
「いや、だから。その“鴉”って私が使える兵隊なんですよね。つまり、その人たちに私を護ってもらえばわざわざ皆さんに迷惑をかける必要もないのでは」

 これ、名案じゃないだろうか。

 だって、私には思い通りになる兵がいるのだ。恐らく私を護るためだけにこの国によこされた私兵が。
 それはつまり、私の身の安全はある程度確保されるということではないか。

 いざとなれば、故郷らしいコーネリアという国に行けば――結婚して出ていった娘が戻ってくるとか迷惑以外の何物でもないと思うけれど――命の危険があるのだし、追い返しはせず、護ってくれる気もする。

 ……これ、かなり救いの手が見つかった感じじゃないだろうか。

 ……けれど。

「……」

 全員がそこで、黙り込んだ。

「皆さん、どうしたんで……」

 私が、妖精たちの複雑そうな面持ちに疑問を投げかけようとした時だった。

「申し訳ないが、それは許可できない」


 柔らかな陽の光が差し込んでいた部屋に、凛とした声が、静寂を切り込むように響いた。
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