白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

文字の大きさ
2 / 85
1.gift

2.apple

しおりを挟む
「…………ここか」

 私は、こじんまりとした割と可愛らしい家の前で立ち止まった。鏡の精の指示を受けながら歩きつづけること約二十分。ようやく小人の家に辿り着いた。

 小人の家は小人が住んでいる割にかなり大きかった。
 その家の前で、私はふと思ったことを鏡に聞いてみた。

「あの、鏡さん」
『はい、何でございましょうか、お嬢様。――言い忘れておりましたが、私に敬語など使われずとも大丈夫ですよ。どうぞ自然な話し方でお話しいただければ』
「え……いいんですか」
『はい、お嬢様さえ良ければ、そのようにしていただけると私も光栄な限りです』
「じゃあ……うん。自然体でいきます」
『はい』

 鏡の精はどこか嬉しそうにうなずいた。

『それで、あの。最初から不自然にも好感度MAXになる白雪姫はともかく、私がこの家入って勝手にお掃除とか始めたら、普通に不法侵入者だよね」
『……たしかにそうですね』
「じゃあ家に入るべきじゃないよね。でも、家の前にずっと突っ立ってるのも不審だよね?」

 私だったら一発で通報するもの。
 しかも突っ立っているだけじゃなくて「あの、惚れてもらえませんか?」とかもう明らかに頭おかしいよ。不審者とかそういう勢いどころじゃないよ。

「……どうすべきだと思う?」

 私が質問すると、鏡の精は少し考え込んだのち、首を傾げた。

『……家の前で行き倒れのフリ、はいかがでしょう』
「行き倒れ?」
『奇跡的にここまではたどり着いた。しかしもう迷いの森を歩く気力が無い、死にかけ……といった演技で、相手の同情心を誘う、とか。幸い、彼らは情深い性格をしているようです。恐らくあなたを助けてくれることでしょう』

 ……なるほど。

「……でも、行き倒れが回復したらすぐに家を追い出されない? 追い出さないで~って泣きついても不自然だよね……。そもそも、なんで行き倒れになったのかっていう疑問もあるけど」
『そうですね……ではこうなったらもう、記憶喪失のフリです。行き倒れに加えて記憶喪失なら、絶対同情を誘えます。恐らく記憶喪失が回復するまで置いてくれるでしょう。やってみる価値はあると思いますよ』

 なるほど、それならいける気がする。
 小人たちには申し訳ないけど、しばらくそれで住まわせてもらおう。
 ……何か親切心につけ込むようで物凄く良心の痛くなる計画だけど。

『さぁ、家の壁に寄りかかって。小人たちがそろそろ帰ってきます――あぁ、そうです。一つだけ、お嬢様にお願いがございます』
「お願い?」
『はい。私の存在は、誰にも伏せておいて欲しいのです』

 ……なんで、そんなことを?

「ええと、誰にも話さなければいいのかな?」
『はい。白雪姫は勿論、小人や王子に会ってもです。できれば鏡の存在も悟られないようにしてください。……魔法の鏡だと知れればお嬢様は「魔女」と呼ばれ弾圧される可能性もございます。この世界はお嬢様のいた世界と同じように、魔法が一般的ではないようですから』

 な、なるほど。

 私は「わかった」と頷き、家の壁に寄りかかって目を閉じた。

 小人って初めて見るけど、どんな感じなんだろ。
 まぁ、この世界の元が乙女ゲームだとかあの赤毛の道化師が言ってたから、恐らく容姿は整っているんだろう。多分、私の容姿が惨めになるくらいには。

 ……それにしても、はぁ。
 元の世界には、戻れないのか。

 無事白雪姫から逃げおおせたら戻れるとかないのだろうか。
 本当にこれで一生このおかしな世界で生きていかなきゃいけないのだろうか。
 もし本当に戻れないなら、受験勉強なんかしないで、美味しいものとかもっと食べておけばよかったなぁ……

 そんなことをつらつらと考えている時だった。

「そもそもああいうケチくさい依頼人の依頼なんか受けなければ良かったんですよ。お陰で無駄足になったも同然じゃありませんか」

 なにやら不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 ……まさか小人たち?

 随分大人びた声だけど……

「でも、本来なら俺たちに対する依頼自体少ないしさ……頼んでくれたのを感謝すべきなんじゃ……ひくちっ」
「……申し訳ない。わたしのせいだな」
「ち、違うよ! へちゅっ、ルーヴァスを責めてるんじゃないよ!? へちちっ」
「一体貴方はいつまで花粉症をやっているんです? 一年中頭の中が花粉だらけのお花畑になっているんじゃないでしょうね」
「あ、花粉症を侮っちゃダメなんだからね! ひくち! ほんと辛いんだから! ひくち!」
「うんうんそうだよねー。はいお花あげる」
「わぁ、ありが……へっくしょん! は、は……待って花粉出さないでへっくしょーい!!」
「こら、やめてあげないとダメだよ。可哀想でしょ」
「だってこんな面白いおもちゃ」
「俺おもちゃじゃないからぁあああへちぢっ」
「――強く生きろ」

 ……なんて緊迫感の無い会話。

「……あれ? 家の前に、誰かいる……」

 うわぁ気付かれた! いや気付かれる為にここにいるんだけど。

 私は目を閉じたまま彼らの会話に耳を傾ける。

「……確かに、誰かいる。人間か?」

 草を踏む音が段々と近づいてくる。

「ずいぶんと酷い身なりの女性ですね。物乞いか何かでしょうか?」

 うぉおおおい!! その発想は酷いよ!!

「……物乞いのためにこの森に入るものはいないだろう。どこかの国の逃亡者と考えるのが妥当ではないか?」

 逃亡者なのは合ってるんだけど、なんかその言い方だと私が犯罪者みたいなんですが……
 犯罪者はどう考えても私じゃなくて白雪姫です。

「……ねむぅい」
「君はもう少し会話に参加しようねー。で、どうするのこの子?」
「面倒そうだから捨て置きましょうよ。そのうち熊が掃除にきてくれます」

 嘘それ食われるってことじゃない! こんなところで死ねと!? どこが慈悲深いの!? ちょっと鏡さん! ヘルプミー! この際信用できないけど赤髪のあの男でもいいよ、誰かこの小人たちを止めてくれ!

「待て。面倒事を運んできたかどうかはまだ判らないだろう。介抱くらいはした方が良いのではないか?」

 面倒事は運んできました本当にすみません。でもお願いだから介抱して! 慈悲を!

「貴方は人が良すぎるんです。いいですか? 今回の依頼主から渡された報酬金はこれっぽっちしかないんですよ。判ってます? そこの所判っててその発言なんですか? 現実見えてます?」

 ジャラジャラとお金が乱暴に振り回されるような音が聞こえる。お金を乱暴に扱うからお金が入ってこないんじゃないんですか? お金は大事にしないと……

「だが、相手は女性だ。あまりに無下むげではないか」

 フェミニスト? そんな人って本当に実在するんだ。さすがは乙女ゲーム。世界が違いますね。

「知りませんよ。こんな森に足を踏み入れる方が愚かなんです。大方行き倒れでしょう? ならそのまま放っておけば良いんですよ。あぁもう空腹すぎて腹と背がくっついてしまいそうです。さっさと夕食にいたしましょう」
「……でも本当に可哀想だよ。こんなに服もボロボロだし、多分凄く森の中で迷ったんじゃないかな」

 そうそう可哀想だよ森では迷ってないけどね!

 というかこの敬語野郎、滅茶苦茶薄情。他の人は確かに割合情に厚そうだけど、こいつも小人だというなら口説くのは無理だよ……いやでも十中八九小人だよ……いきなり初っ端から詰んだよ……

「……んんー? あれぇ……、ぼく、なんかこのひと、見たことがあるー……」

 ……え?

 幼い声の言葉に、しんとその場が静まり返った。
 やがて、

「確かにわたくしも……どこかで……」
「そうだね、何か俺も見たことある気がする……」
「わたしも見覚えがあるな」
「俺も、ひくちっ、ある気が、ひくちっ、する、っち!」
「俺にもある。確か街の方で……」
「……あー、僕判った気がする! ねぇ、この子あの人だよ。コーネリアから嫁いできた貧乏くじ引いたお姫様!」

 びんぼ…………なんだって?

「あぁ! あの新聞にも載ってた不幸なお姫様ですか」

 え、いやちょっと待っ……

「なるほど。あの我侭娘の母親になって苦労するだろうと言われていた姫君か」

 あの……。

「そもそも政略結婚とはいえ年齢差が可哀想だったよね。ほぼ親子みたいな人と結婚させられてさ」

 ………………。

「っていうことは、夫と娘から逃げてきたのかな?」

 ……………………。

「いや、王の方は死んでいた筈だ。今は確か女王と我侭姫しかいないと聞いたことがある。おそらく没落するのではと噂を聞いたな。路頭に迷うだろう、とも」

 ……なに? 私そんなひどい役柄に転生しちゃったわけ?

 貧乏で? 我侭娘がいて? もう死んでるけどロリコンのおっさんと結婚させられて? 没落寸前で? 路頭に迷うのほぼ確定の女王様?

 ……いいところ一つもないじゃない!?

 今更ながら赤髪の男にふつふつと怒りが湧いてくる。

 あいつめ。次会ったらただじゃおかないんだから。

 物理攻撃が効かないなら精神面でめっためたに傷つけてやる……っ。

「どうするの……? ぼくも……おなか……すいた……」
「貧乏女なら尚のこと助ける必要は無いでしょう。食事にいたしましょう」

 やめて! その発想ほんとにやめて!!

「待て、シルヴィス。あなたは薄情すぎるだろう」

 ああ! 小人の誰だかわからないですけど、ほんとに感謝します! 思いっきり全力で面倒事持ち込んできたけど助けてください!

「そうだよー。女の子なんだし、可哀想じゃない。これがむさい男とかだったら僕も熊にあげていいと思うけど、僕もルーヴァスに賛成ー。それに、女王なら……ねぇ」

 ………………ほんとにこいつら、情深いのか?

「とりあえず、朝起きたら家の前が血まみれと言うのはあまりに寝覚めが悪い」

 それは言わずもがな私の肉片と言うことですね! っていうか肉片すら残ってないと言う状況ですね!!
 ……私は寝覚めが悪いじゃすまないんですけど!! 

「それはそうかもしれませんけど、貧乏女ですよ? 介抱しても何の得にもならないじゃないですか。血まみれになっていたら水で洗い流せば済む話です」

 お前には情と言うものがないのかッ!!
 大体洗い流せば済むって何だ。血ですよ血。家の前にべったり血がついててもあなた平気なんですか! 怖くないんですか!! 私は怖いよ!!

「まぁいいじゃない。ルーヴァスの言うとおりにしようよ」
「はぁ……わたくしはそんな女、知りませんからね」

 …………え……折れた、のか? 敬語の小人。

 もしかして、第一ラウンドクリア? いやまぁそもそも何ラウンドまであるのか知らないんだけど……

 ちょっと待って、じゃあ……生き延びれる可能性が出てきた……って、こと?

 …………普通に死ぬ気がするけど、とりあえずここまで来たからには後には引けないだろう。

 とりあえず、死なない為に全力で当たって砕けろ、だ…………!!

 ……死ぬとしか思えないけど!!

 お父さんお母さん、顔も知らない七人を惚れさせるために色々馬鹿なことをするであろうろくでもない娘を、お許しください……
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...