3 / 85
1.gift
白雪姫side.1
しおりを挟む
「お継母さま? お継母さま! どこにいらっしゃるのですか?」
城の中、狂ったように城内を探し回る少女――“白雪姫”。
「……アイツ……まさか、逃げやがった?」
およそ可憐な外見からは予想もつかないような汚い言葉遣いがその美しく赤い唇から吐き出される。
「ふざけないでよ! あんたは私が眠りについてそれを小人たちが見つけて小人たちに殺されるのよ! なに逃げてんのよ!!」
可愛らしい顔を歪め、白雪姫は玉座の後ろに向かって行き、そのカーテンを開け――
「きゃっ!」
床に散らばった鏡の破片と無残にも額しか残っていない壁掛け鏡を見てわなわなと唇を振るわせた。
「なに――何してるのよ! 鏡の精は攻略キャラクターなのよ!? 何で鏡を割ってるのよ……!」
白雪姫が怒りで顔を真っ赤にしたとき。
「……あーあーあー、女の子がそんな怖い顔したら、可愛くても台無しだよー」
そんな声と共に、赤髪の男が現れた。煙管を吸い、煙をふーっと吐き出す。全体はやはり透けていた。
赤髪の男を認めた白雪姫は、瞬時にかわいらしい表情を取り繕い、
「あ、貴方……鏡の精さん? 私に真実を教えてくれるの? お継母さまがいないんです! どこか教えていただけませんか……!?」
胸の前で手を握り締め、切実な表情で男を上目遣いに見上げる。
しかしそれに対する男の態度は大変淡白なもので、首をかしげてニマニマと笑い、
「君の継母さんがどこにいるかは知ってるけど、僕は鏡の精じゃないからなー。それには答えてあげられない、ごめんね」
およそまったく謝罪の意が感じられない軽薄な態度を改めることもせず、ゆるりと白雪姫を見つめる。
白雪姫は一瞬男のいい加減な態度に顔を歪めたが、再び可愛らしい表情を繕うと、
「あ、あのじゃあ……貴方は、えっと……もしかして、狩人さん?」
「白雪姫の心臓を狙う狩人はもう白雪姫の頭の中にしか存在しないんだよね。だからそれも外れ~。ちなみに知ってた? 狩人が実在してたら女王様に豚の心臓じゃなくて猪の肺と肝臓を捧げるんだよ。猪さん可哀想ー」
意味が分からない上にやけに不気味なことを淡々と言ってのけ、ひらひらとふざけた様子で手を振って笑う男に、白雪姫は思い切り怒鳴りつけた。
「なん……何なのよあんた!! 私はね、忙しいのよ! 用が無いなら即刻消えなさい!」
「あーそうそう忙しいよねごめんねー。僕も忙しいんだけどねー。じゃあ手早く用済ませて消えるねー」
そう言うと男はにっと微笑んで白雪姫に向かって手を突き出した。
「天と地の狭間より、赤き道化師は君の名に、罪と夢を裁かんとす。奏でる音は断罪を、途切れた弦は罰を謳え。我、世界の行く末に、神と人との果てを見る」
その途端妙な文様が空中に浮かび上がり、白雪姫の中に飛び込んでいった。
「きゃ!! な、何するのよ……何したのよ!!」
「内緒~♪ じゃあ頑張ってねー、我侭姫の白雪姫」
男はそう言ってやはり笑いながら、霞のように消えていった。
城の中、狂ったように城内を探し回る少女――“白雪姫”。
「……アイツ……まさか、逃げやがった?」
およそ可憐な外見からは予想もつかないような汚い言葉遣いがその美しく赤い唇から吐き出される。
「ふざけないでよ! あんたは私が眠りについてそれを小人たちが見つけて小人たちに殺されるのよ! なに逃げてんのよ!!」
可愛らしい顔を歪め、白雪姫は玉座の後ろに向かって行き、そのカーテンを開け――
「きゃっ!」
床に散らばった鏡の破片と無残にも額しか残っていない壁掛け鏡を見てわなわなと唇を振るわせた。
「なに――何してるのよ! 鏡の精は攻略キャラクターなのよ!? 何で鏡を割ってるのよ……!」
白雪姫が怒りで顔を真っ赤にしたとき。
「……あーあーあー、女の子がそんな怖い顔したら、可愛くても台無しだよー」
そんな声と共に、赤髪の男が現れた。煙管を吸い、煙をふーっと吐き出す。全体はやはり透けていた。
赤髪の男を認めた白雪姫は、瞬時にかわいらしい表情を取り繕い、
「あ、貴方……鏡の精さん? 私に真実を教えてくれるの? お継母さまがいないんです! どこか教えていただけませんか……!?」
胸の前で手を握り締め、切実な表情で男を上目遣いに見上げる。
しかしそれに対する男の態度は大変淡白なもので、首をかしげてニマニマと笑い、
「君の継母さんがどこにいるかは知ってるけど、僕は鏡の精じゃないからなー。それには答えてあげられない、ごめんね」
およそまったく謝罪の意が感じられない軽薄な態度を改めることもせず、ゆるりと白雪姫を見つめる。
白雪姫は一瞬男のいい加減な態度に顔を歪めたが、再び可愛らしい表情を繕うと、
「あ、あのじゃあ……貴方は、えっと……もしかして、狩人さん?」
「白雪姫の心臓を狙う狩人はもう白雪姫の頭の中にしか存在しないんだよね。だからそれも外れ~。ちなみに知ってた? 狩人が実在してたら女王様に豚の心臓じゃなくて猪の肺と肝臓を捧げるんだよ。猪さん可哀想ー」
意味が分からない上にやけに不気味なことを淡々と言ってのけ、ひらひらとふざけた様子で手を振って笑う男に、白雪姫は思い切り怒鳴りつけた。
「なん……何なのよあんた!! 私はね、忙しいのよ! 用が無いなら即刻消えなさい!」
「あーそうそう忙しいよねごめんねー。僕も忙しいんだけどねー。じゃあ手早く用済ませて消えるねー」
そう言うと男はにっと微笑んで白雪姫に向かって手を突き出した。
「天と地の狭間より、赤き道化師は君の名に、罪と夢を裁かんとす。奏でる音は断罪を、途切れた弦は罰を謳え。我、世界の行く末に、神と人との果てを見る」
その途端妙な文様が空中に浮かび上がり、白雪姫の中に飛び込んでいった。
「きゃ!! な、何するのよ……何したのよ!!」
「内緒~♪ じゃあ頑張ってねー、我侭姫の白雪姫」
男はそう言ってやはり笑いながら、霞のように消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる