白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「……そういえば、不思議だったんですけど」
「ん?」

 まだ他の五人が起きだしてこないため、ルーヴァス・リリツァスと食事を取っていたのだが、私はこの機にと二人に疑問を打ち明けた。

「あの、お風呂場に着替えが置いてあったんですけど。私にぴったりのサイズで、明らかに女物で……その、いま着ている服これのことなんですが。これって、誰のもの……でしょうか?」

 というのは。

 この家に来て四日目になるが、風呂に入るたび、脱衣所に私にサイズの合った服が置かれていたからだった。

 この家に、私以外に女が住んでいる様子はない。だから置かれていた服を勝手に着ていたわけで――しかしそれで咎められたりすることもなく。

 故に、私のために置かれていたのだろうと思うのだが、それならこれは一体誰のものなのだろう。初日から置かれていたので、私のために買ってきたということはまずありえないはずだ。

「ほえはひみのはお?」
「リリツァス、食べ終えてから喋ってくれ」

 ルーヴァスの言葉に、リリツァスは口内のものを飲み下して水を飲み、私に向き直った。

「それは君のだよ?」
「私の? え……ど、どういうことですか? 私が来た日から、置いてあったんですが……」
「俺が作ったの」
「つくっ、た……え?」

 作った? 作ったということはその、ええと、最初から縫ったと、そういうことだろうか?

「俺、縫い物とか好きだから。ひくちっ。まぁ、女の子の服は作ったことがなかったから不安だったんだけど。へくちっ。気に入ってもらえた?」

 首を傾げてそう訊ねられたので「え、あ、はい」と咄嗟に答えてしまい……それからはたと気づく。

 それはつまり――

「……? 顔が赤いが、大丈夫か?」
「ほんとだ、真っ赤だ。ひくちっ。風邪でもひいた?」
「…………すか?」
「ん?」

 私が呟いた声は届かなかったらしく、二人に不思議そうな顔をされる。

「……下着も、作った、ってこと……ですか?」
「ぶっ!」

 リリツァスは飲みかけていた水を盛大に吹き出した。

「……リリツァス」
「げほっ、ごほっ、ち、違います! し、下着を作ったのは俺じゃありません!!」
「じゃ、じゃあ誰ですか!?」
「それはその、友達というか、何というか」
「その友達って誰ですか!!」
「あ、あのええとうう」

 リリツァスは真っ赤になって視線を彷徨わせ、

「せ、精霊に」
「はい!?」
「せ、精霊に作ってもらいました!! へくしょん!!」
「精霊……?」

 怪訝な顔をした私にリリツァスは「男でも女でもないから安心して!!」と叫んだ。が、安心して、と言われても全く安心できない。精霊とは一体何なのか。

「精霊とは、我々妖精が使役する者たちのことだ。物に命を宿し生まれてくるものたちで……付喪神、と呼ぶものもいるな」

 ルーヴァスの答えに「そうそれです、俺無罪!!」とリリツァスは悲痛な声で叫ぶ。

「その精霊さんは誰なんですか?」
「誰、といわれても……ひくちっ。うう、怒らないでよ……」
「お、怒ってません! だけど、…………恥ずかしいです……」

 自分の着るものを作られる。しかもその作った人が同居している人だなんて、冗談じゃない。

「ん、なんか騒いでるー」

 その場に大変微妙な空気が流れた時、二階から軽妙な声が足音とともに降りてきた。辛うじて視線だけをそちらに向けると、ニマニマと笑ったユンファスの姿が目に映る。どう考えも嫌な感じしかしない。

「あれ、姫、なんで真っ赤なの。……ふぅん? さては何かルーヴァスに苛められたんでしょ」
「なぜ私が姫を苛めねばならぬのだ」
「好きな子ほどいじめちゃうってやつー? ふふ、真っ赤な姫も、なかなか可愛いー」
「からかわないでください……っ」

 今はそれどころではない。リリツァスを直視出来なかった。

 それはリリツァスも同様らしく、心底困った顔で、耳まで赤くしたまま下を向いていた。

「あれあれ、何この微妙な雰囲気ー?」
「……」

 ユンファスが問いかけても、答える人はなく。

 それがユンファスは気に食わなかったのか、口をへの字に曲げると下を向きっぱなしのリリツァスに歩み寄ると思いっきり顔を覗き込んだ。

「っわぁ!?」
「うわ、真っ赤。何、犯人はリリツァスなわけ? 何やったの?」
「っな、なな、何もしていません! ひくち! へくち!」
「いくらなんでも動揺しすぎじゃない?」

 ユンファスは呆れたように言うと、自席についた。

「で、何したの」
「……うう」

 頑として口を割らないリリツァスに、ユンファスはしびれを切らしたのか、

「言わないと胡椒を頭からぶっかけてあげるけど?」
「い、言います! 言います!! 俺がっ、姫の下着を……」
「なに、下着泥棒? はぁ……なにやってんのリリツァス。いくら女の子が来たからってさぁ……」
「違うったら!! へっくしょん!! 俺が姫の下着を作った疑惑が浮上して! それを否定してたの!!」

 言い終えてからリリツァスは耐え切れなくなったのか顔を両手の平で覆って俯いてしまった。

「なんだ、そんなことか。姫的には恥ずかしいからやだー、みたいな?」
「そ、そうです……」

 居た堪れなくなり私も俯くと、「ふぅん」とユンファスは曖昧な反応を返した。

「……朝からどうした」

 眠たげにあくびをしながら二階から降りてきたのはノアフェスだった。

「あ、ノアフェスおはよ」
「あぁ、おはよう。どうかしたのか?」
「リリツァスが姫の下着盗んだんだって」
「……」

 ユンファスの返答にノアフェスはなんとも言えない顔になった。

「……とりあえず、朝から聞きたい話ではないな」
「ユンファス、嘘つかないでください!!」
「あーはいはい。リリツァスが姫の下着を作ったとかどうとかそんな話になってうわー、みたいな感じ」

 おざなりに返答するユンファスを見てから、ノアフェスは私とリリツァスを交互に見やり――「ふむ」と頷いた。

「確かに衣服は、盲点だったな」
「あぁ。だが、今のところ、リリツァスに作ってもらう以外に方法は……」

 と、ルーヴァスが言いかけたところで。

「街に行けばいいんじゃないかな」

 と、穏やかな声が降ってきた。

「――カーチェス」

 そして、その言葉を咎めるように険しげな色を含んだ声も。

「あ、カーチェス、シルヴィス。おはよー」
「おはよう」
「おはようございます。朝からたいへん姦かしましいですね。何をガタガタ騒いでいるのです」

 鬱陶しげにシルヴィスが顔をしかめる。

「たかが服を男に縫われたくらいで、居候が騒がないでください」
「だけど……っ」

 反論しようとした私より先に、カーチェスがシルヴィスを咎めた。

「そんな言い方をしなくてもいいでしょ、シルヴィス。街に買いに行けばいいじゃない」
「貴方は状況が分かっているんですか? 考えてから、ものを口にして頂けませんか」

 シルヴィスの言葉に、ユンファスが妖しげに目を細めて頷いた。

「そうそう。彼女を街に出すわけにはいかないでしょー?」
「――同感だな。こいつを街に出すことが、どういうことなのかわかってるのか。それに、万一を考えろ」

 ノアフェスがカーチェスを睨む。いつもあまり表情を表に出さない彼らしくない。

「……だけど、姫の気持ちも察してあげようよ……今回は、俺が悪かったし……へちっ」

 リリツァスがうなだれながら弱々しく呟く。

 意見が真っ二つに分かれ、その場に嫌な沈黙が舞い降りた。――とその時。

「――全員、落ち着け」

 剣呑な雰囲気に沈みかけた場に凛と声を張ったのはルーヴァスだった。

「……確かに、姫を一人で放り出すわけには行かない。だが、どのみち我々もそろそろ街に出ねばならぬだろう。……エルシャスの部屋の床。あれの修理の件もある。街に買い出しに出ねばならぬのは明白だ」
「ならば、姫を連れていくと?」
「致し方ないだろう。それに、――姫に数人付いていれば問題あるまい」

 ルーヴァスの言葉に、他の五人は黙り込んだ。

「――姫」
「な、なんですか?」
「……申し訳ないが、街に出たとして、あなたにはあまり自由がない。それでもいいだろうか」
「あ……」

 つまり、彼らは――私のために、服を買うことになるのだろうか。

 いや、一文無しの私ではお金を払いようがないのだけれど。

「あの、……私、一回お城に戻ります」
「はぁ?」

 私の言葉に、シルヴィスが思い切り目を剥いた。

「あなた、ふざけているんですか? それとも本物の馬鹿ですか? この状態で我々が手放しで貴女を城に帰すとでも?」
「え? だって、今私、お金がないんです。だから一回お城に戻って、売れるものがないか探してきます」

 彼らにお金を払わせるべきではない。そう思って言ったのだけれど、なにかおかしかったのだろうか。

「それに、もしかしたらお城の中に服があるかもしれないし。だからそれを見つけたら」
「駄目だよ」

 思いがけず険しい色の声で私を遮ったのはユンファスだった。厳しい表情で私を見る。

「服くらい買うお金はあるよ。そんなことに遠慮しなくていいから、僕たちから離れるような真似はしないで。絶対」
「どうしてですか? お城の中に服があれば買うお金はいらないですし、服がなくても売れる物くらいならあるかもしれません。そしたら皆さんにお金を払わせずに、」
「余計なことを考えないで、お前は街で服を選んで、ここに戻ってこればいい。俺たちから離れようなどとゆめゆめ考えるな」

 ノアフェスは無表情のまま厳しい口調で私に告げた。

 あまりに頑かたくなな態度に、私は二の句を告げられなくなった。

 嫌な沈黙が流れるかと思われたその瞬間、

「じゃあ、みんな身支度して、ひくちっ、身支度が終わったら家の外に集合! 街にお出かけだよー!!」

 リリツァスの明るい声に、皆が皆、それぞれの表情を見せながら一旦自室に戻ったのだった。
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