白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

文字の大きさ
31 / 85
2.gift

26.apple

しおりを挟む
「え? 紙をくださるんですか?」

 突然ルーヴァスから告げられた言葉に、私はきょとんと彼を見つめ直してしまった。

「ああ。先程はあなたに不愉快な思いをさせた。申し訳ない」
「いえ、そんな。私はみなさんの事情がよくわからないから……でも、紙を頂けるなら良かったです。これで料理が楽になります」
「……そんなに苦戦していたのか」
「え。あ、いや、えっと。…………まぁ、そうです」

 紙をもらっておきながら「していません」と否定するのもおかしいし、一応頷いておく。

「すまない、あなたにはいつも不自由ばかりさせる」
「大丈夫ですよ。皆さん親切にしてくださいますから」

 そう言って笑うと、ルーヴァスは表情を曇らせた。

「……あなたは……」

 と、彼が何か言いかけたところで、どたばたと二階から誰かが激しい勢いで降りてきた。

「へちっ、へちゅっ、ルーヴァスー!!」
「……リリツァス?」

 降りてきたのはリリツァスだった。なにか困ったことでもあったのだろうか。泣き出さんばかりの顔でルーヴァスの下まで駆け寄ってくる。

「どうした?」
「ノアフェスが酷いんだよ!! ひちっ、今回の仕事は行くなってへちちっノアフェスが、ノアフェスが!!」
「とりあえず落ち着いてくれ。何の話だかわからない」

 ルーヴァスが呆れたようにそう言うと、「俺が説明する」と二階からノアフェスが降りてきた。彼の顔を認め、ルーヴァスは首をかしげた。

「ノアフェス。先ほどの話は本当だろうか?」
「ああ。本当だ」
「へっち、酷いよね!? ノアフェスの……はくしゅん意地悪!」
「意地悪だと? その体で仕事などできるわけがないだろう、考えろ」
「できるもん!へちっ!!」
「できない」
「できるってば! へちゅっ」
「できないと言ってる」
「何の話だ」

 不毛な水掛け論にルーヴァスが割って入ると、リリツァスはむくれ、ノアフェスが説明しだした。

「さっきこいつが倒れた」
「え!?」

 予想だにしない言葉に、思わず声が漏れてしまった。

「た、倒れた? リリツァスがですか?」
「ああ。廊下で出くわした時に妙に顔色が悪かったから声をかけて――その後すぐにだ」
「大袈裟なのノアフェスは! はっくしゅん! 俺は本当になんともありません!」
「何ともないのに倒れる奴があるか」

 二人は再び言い合いになる。こうして見ているとリリツァスは元気そのものだ。ノアフェスの言葉が嘘なのかと思うほど。

 しかし今までのノアフェスを見ていて、こんなことで冗談を言う性格にも見えない。初日の彼の私への態度は優しかったし、多分、良かれと思って言っていることなのだろう。どうしたものかとルーヴァスを見てみると、彼はじっとリリツァスを見つめていた。

 何か思う所があるのだろうか。どこか険しい色を湛えた双眸でリリツァスの様子を伺っている。

「リリツァス」
「へちっ、なに?」

 ルーヴァスが不意にリリツァスに呼びかけると、彼は言い争いをやめて振り返った。

「本当になんともないか? ――今回の仕事が、出来ると思うか」

 念を押すように、確かめるようにルーヴァスがゆっくりと訊ねた。

 するとリリツァスは頷き、「へちっ、できる」と答えた。

「――ならば、致し方ない。ノアフェス、あまり心配してやるな」
「だが」
「本人ができるといった。それでいいだろう」

 ルーヴァスがそう言うと、ノアフェスは何か言いかけたが、しかし結局その口をつぐんだ。

「――わかった」
「だが、ノアフェスの言うことにも一理ある。リリツァス。無理だと感じたら仕事中でもすぐに下がるように。自力で移動が不可能だと感じたなら、――」

 そう言いかけて、ルーヴァスはハッとした表情になる。一瞬私の顔を見たが、すぐにリリツァスに視線を戻して、

「――頼めないのか」

 小さく彼がつぶやくと、リリツァスが笑った。

「大丈夫だって。へくしゅっ」
「いや、万一を考えて備えるべきだ。しかし、参ったな……」
「――つくるか?」

 ノアフェスがそう問うと、ルーヴァスは首を振った。

「今の状態では無理だ。わたしも、できることならつくりたいが……。あれを飛ばしている以上、おそらくその体力はない。仮にあったとしても、それだけ膨大な体力を使えば仕事に障るだろう。誰かに頼めないだろうか。ノアフェス、あなたは無理か?」
「俺には期待するな。第一、おそらく俺のものじゃあない」
「ならばシルヴィスはどうだろうか……」
「可能性が無きにしも非ず、といったところだが。まぁカーチェスに頼むよりは脈アリだろうな」

 何のことやらさっぱりわからない話が展開され始め、私は何も言えず俯いた。

 今のこの話は、「女王である私」ならわかったのだろうか。それとも、女王であってもわからなかったのだろうか。
 ルーヴァスが先ほど私を見たのは、何故だったのだろうか。

 私は何も知らない。

 彼らのことも、この世界のことも、――何一つ。




『――お嬢様?』

 落ち込んだ様子で部屋に戻ってきた私に、ポケットから気遣わしげな声が掛かってきた。

「……リオリム。私」

 ポケットから鏡を取り出し、そこに浮かぶ人影を認めて私は目を伏せた。

「私、……どうしたらいい?」

 私は彼らを惚れさせなければならない。そうしなければ私は死ぬらしい。おそらく確実に。

 けれど私は彼らのことを何も知らない。

 彼らが私の行動を制限する理由も。彼らが私を厭う理由も。

 何一つ、知らないのに。それなのに、どうすればいいのだろう?

「私、私には、やっぱり……無理。だって、さっきの話だって、全然わからなかった。リオリムならわかるの? どうしてみんなが私を家に入れたくなかったのかとか。街に行かせたがらない理由とか。……全然、わからないよ……」

 ベッドに腰掛け、私は後ろに両手をついて天井を仰ぐ。

 そうして少し沈黙が流れた後、鏡の中から『……私は』と小さな声が聞こえてきた。

『私では、……お嬢様のお力には、なれません。しかし、わかることなら、あります』
「……」
『それは……、今のあなたが彼らの過去を知らずとも。……この賭けに勝つ可能性はある、ということです』

 リオリムの言葉に私は身を起こして鏡を見た。

「……どういうこと?」
『これは「勝負」なのです、お嬢様』
「白雪姫と、私の?」
『いいえ。道化師と、死神姫の、です』

 よく判らない単語が彼の口から飛び出してきて、私は眉をひそめた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番
恋愛
男爵家の三女イリスに転生した七海は、貴族の夜会で相手を見つけることができずに女官になった。 女官として認められ、夜会を仕切る部署に配属された。 そして今回、既婚者しか入れない夜会の責任者を任せられた。 夜会当日、伯爵家のリカルドがどうしても公爵に会う必要があるので夜会会場に入れてほしいと懇願された。 だが、会場に入るためには結婚をしている必要があり……? ※本当に申し訳ないです、感想の返信できないかもしれません…… ※他サイト様にも掲載始めました!

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...