32 / 85
2.gift
27.apple
しおりを挟む
「……道化師と、死神姫?」
『はい』
道化師……というと、ピエロという認識でいいのだろうか?
ピエロ、という単語に赤い髪をした男が脳裏に浮かんだ。
「だれの、こと?」
『お嬢様をここに導いたものと、その対戦者の名称です』
私を導いた……というと、本当にあの赤髪の男か。その対戦者……とは一体誰のことだろう。
『お嬢様がここにいる理由。……白雪姫がこの世界にいる理由。それは、彼らが戦っているからです』
「戦う? 戦争をしているの?」
『いいえ。彼らにとっては……チェスゲームのようなもの、とでも言えば良いのでしょうか』
――チェスゲーム……?
「どういうこと……?」
『つまり……彼らにとってあなたは、……チェスの駒のようなものだということです』
リオリムはぽつぽつと話し出した。
この世界は、乙女ゲームの世界。私はつまり、この世界での悪役と肉体を残したまま魂を交換したことになるそうだ。
それは白雪姫も同じ。この世界における主人公と、魂を交換した。
では、そもそもなぜそんなことをしたのだろうか?
その理由が、つまり。
私をここに導いたあの赤髪の男と、その対戦者――白雪姫をこの世界に導いた者との「お遊び」だった、らしい。
私が生き延びれば赤髪の男の勝ち。逆に私が死に、白雪姫がこの世界で望み通り恋愛を楽しんだのなら、対戦者の勝ち。
「つまり私は……彼らにとってその程度の価値しかない。別にあの赤髪の男が負けて私が死んだとしても、彼らにとっては構わないっていうこと?」
『……仰る、とおりでございます』
リオリムは言いにくそうに、そういう。
『……しかし、当然、負けるとしか思えない勝負を道化師が受けるとは思えません。それ故に、今のあなたが――つまり、七人の過去も、この世界のこともまったく知らないあなたが勝つ可能性はある。私は、そう思っています』
リオリムの言葉に、私は告げる言葉を失った。
……そんなもののために、私はここにいるのか。
『……お嬢様……』
うつむき、黙り込んだ私にリオリムが小さく呼びかけてきた。しかし今の私にそれに答えられるだけの余裕など微塵もなかった。
「………………しい」
『……お嬢様?』
私の声が聞き取れなかったのだろう。リオリムは控えめに問い返してきた。
それに答えるつもりでもなかったが、私は感情のままにベッドから立ち上がり、言葉を吐き出した。
「……っ悔しいーッッ!! なに、何なの!? ふざけてるの!? っていうか人のことを何だと思ってるわけ!? 馬鹿にするのも大概にしてよ!! 私はあともう少しで受験するところだったのに無理やりそれを覆されてこんな訳の判らないところにふっとばされたの!! その理由が「お遊び」!? 信じられない!!」
突然叫び始めた私にリオリムが驚いた様子で瞬きを繰り返していたが、それに構う余裕もない。
『お、お嬢様』
「もうこうなったら自棄やけになってやる! こんなところで死んでたまるものかっ! 何が何でも生き延びてあのふざけた男の顔面に一発……ううん、百発でも拳を叩き込んでやるんだから!! リオリム! 改めてよろしく!! 私があの男の顔面を殴るまで見届けてね!!」
私が一気にそう告げると、リオリムはしばし唖然とした表情で私を見ていたが、しかしくす、と破顔して、
『かしこまりました、お嬢様』
と、頭を下げたのだった。
その時の私は、考えもしなかった。
「……どう思うよ、あれ」
「警戒するまでもないんじゃナイ? あんまり頭は良さそうじゃないよネ☆」
「わたくしは主に従うのみでございます」
「律儀だよねぇ☆ キミはもう少し肩の力を抜いたラ?」
「貴殿はやや肩の力を抜きすぎているのではなかろうか?」
扉の外、部屋の前で、誰かが盗み聞きをしているなどということを――
『はい』
道化師……というと、ピエロという認識でいいのだろうか?
ピエロ、という単語に赤い髪をした男が脳裏に浮かんだ。
「だれの、こと?」
『お嬢様をここに導いたものと、その対戦者の名称です』
私を導いた……というと、本当にあの赤髪の男か。その対戦者……とは一体誰のことだろう。
『お嬢様がここにいる理由。……白雪姫がこの世界にいる理由。それは、彼らが戦っているからです』
「戦う? 戦争をしているの?」
『いいえ。彼らにとっては……チェスゲームのようなもの、とでも言えば良いのでしょうか』
――チェスゲーム……?
「どういうこと……?」
『つまり……彼らにとってあなたは、……チェスの駒のようなものだということです』
リオリムはぽつぽつと話し出した。
この世界は、乙女ゲームの世界。私はつまり、この世界での悪役と肉体を残したまま魂を交換したことになるそうだ。
それは白雪姫も同じ。この世界における主人公と、魂を交換した。
では、そもそもなぜそんなことをしたのだろうか?
その理由が、つまり。
私をここに導いたあの赤髪の男と、その対戦者――白雪姫をこの世界に導いた者との「お遊び」だった、らしい。
私が生き延びれば赤髪の男の勝ち。逆に私が死に、白雪姫がこの世界で望み通り恋愛を楽しんだのなら、対戦者の勝ち。
「つまり私は……彼らにとってその程度の価値しかない。別にあの赤髪の男が負けて私が死んだとしても、彼らにとっては構わないっていうこと?」
『……仰る、とおりでございます』
リオリムは言いにくそうに、そういう。
『……しかし、当然、負けるとしか思えない勝負を道化師が受けるとは思えません。それ故に、今のあなたが――つまり、七人の過去も、この世界のこともまったく知らないあなたが勝つ可能性はある。私は、そう思っています』
リオリムの言葉に、私は告げる言葉を失った。
……そんなもののために、私はここにいるのか。
『……お嬢様……』
うつむき、黙り込んだ私にリオリムが小さく呼びかけてきた。しかし今の私にそれに答えられるだけの余裕など微塵もなかった。
「………………しい」
『……お嬢様?』
私の声が聞き取れなかったのだろう。リオリムは控えめに問い返してきた。
それに答えるつもりでもなかったが、私は感情のままにベッドから立ち上がり、言葉を吐き出した。
「……っ悔しいーッッ!! なに、何なの!? ふざけてるの!? っていうか人のことを何だと思ってるわけ!? 馬鹿にするのも大概にしてよ!! 私はあともう少しで受験するところだったのに無理やりそれを覆されてこんな訳の判らないところにふっとばされたの!! その理由が「お遊び」!? 信じられない!!」
突然叫び始めた私にリオリムが驚いた様子で瞬きを繰り返していたが、それに構う余裕もない。
『お、お嬢様』
「もうこうなったら自棄やけになってやる! こんなところで死んでたまるものかっ! 何が何でも生き延びてあのふざけた男の顔面に一発……ううん、百発でも拳を叩き込んでやるんだから!! リオリム! 改めてよろしく!! 私があの男の顔面を殴るまで見届けてね!!」
私が一気にそう告げると、リオリムはしばし唖然とした表情で私を見ていたが、しかしくす、と破顔して、
『かしこまりました、お嬢様』
と、頭を下げたのだった。
その時の私は、考えもしなかった。
「……どう思うよ、あれ」
「警戒するまでもないんじゃナイ? あんまり頭は良さそうじゃないよネ☆」
「わたくしは主に従うのみでございます」
「律儀だよねぇ☆ キミはもう少し肩の力を抜いたラ?」
「貴殿はやや肩の力を抜きすぎているのではなかろうか?」
扉の外、部屋の前で、誰かが盗み聞きをしているなどということを――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる