白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「晴れましたね」

 私が空を見上げてそう言うと、隣のノアフェスは「うむ」と頷いた。

「で、あの」
「?」
「いつ、家に着くのでしょうか……」

 森の景色もいい加減飽きてきた。疲れたように問うと、ノアフェスは「ふむ」と頷く。そんな返答は今求めていません。

 むっとして彼を見れば、ノアフェスは相も変わらず無感動な目でこちらを見返してくる。

「どんぐり探してるんですか? そういうことですか?」
「それなら俺の自室にも少しある」
「じゃあなんで家に直行しないんですか?」
「お前と少し話をしようと思った」
「それあなたの自室でもいいのでは? もしくは自室に入られるのが嫌なら私の部屋でも構いませんけど」
「どっちも都合が悪い」

 なんの都合だ。

 私がため息をつくと、ノアフェスはぽんぽんと私の頭を撫でる。どういう意味でやっているのだ、それは。

「何で撫でてるんですか……」
「こうすればリリツァスは喜ぶ」
「いやあの人と私一緒じゃないですからっていうかリリツァスそれで喜ぶんですね!?」
「エルシャスも喜ぶ」
「まじですか」

 エルシャスはあんまり違和感はない。外見が子供のそれだからだ。

 が、リリツァスは……外見からしていい大人だと思う。二十歳くらいじゃないだろうか。それで同い年か、それより少し下くらいに見えるノアフェスに撫でられて喜ぶ? どういうことだ。

 ……まぁいい、今は別にリリツァスの趣味について言及したいわけじゃない。

「それで、別に喜びたいわけじゃないので撫でてもらっても困るんですが……」
「こうされるのは嫌いか?」
「いや嫌いとかそういう以前にどうでも……っていうか、本題からずれてます。私と二人で話をしたかったって、何の話をでしょうか?」

 私がそう聞くと、ノアフェスは二、三度瞬きを繰り返し、ちょんと首をかしげて言った。

「肝試しをしよう」

 と。









 普通に考えておかしいと思うのだ。

 肝試しといえばあれだ。

 夏に墓場だの森っぽいどこかだの何かいかにもな場所を選んで怖いことして「きゃー怖かったね」的なあれだ。

 ――ひとつ言わせていただく。

 今は春真っ盛りである。

 日本ではないようなので桜のように「もう完璧春ですね!」というものはないが、明らかに気温も夏のそれではないし、森の景観も夏というより春だ。花が多く見受けられるし、もうとにかく夏ではない。

 だというのに今この黒ずくめの男はなんといった?

「……すみません、聞き間違えたようなので、もう一回言ってもらってもいいですか」
「肝試しをしよう」

 聞き間違えてなかった。

 ……いや待ておかしい。どうしてそうなった?

「あの、あなたの思考回路がイマイチ……わからないと、いいますか。なんでそういう結果に落ち着いたのか聞いてもいいですか?」
「お前」

 ノアフェスは相変わらずの無表情で私を見てくる。
 なんだというのだ一体。

「この家に何を望んでる?」

 話が思いっきりそれた気がするんだがどういうことだろうか!!

「何を望んでいる、とは、ええと?」
「この家で欲しいモノは何かと聞いている」
「……は、」

 欲しい、もの。

 ……なんだこれ。何を言わせたいんだ?

 「あなたたちの心が欲しいんです!」とかそういえばいいのか? それで好感度上げちゃうみたいな、そういういらない設定ですか?

 ……いやその発言は普通に引かれないだろうか。っていうか私だったら引く。
 いくら白雪姫みたいに綺麗な子が言っても普通引くと思う。数日過ごしただけでこの発言はヤバいと思う。しかも私みたいな別段取り立てて可愛くもない女がそんな発言してもね! 「きったね」って言われるのが目に見えている。というか自信を持って言おう、私ならそう言うだろう。むしろ言われるだけならマシだと思う。そんな不気味な女は即刻家から追い出されそうだ。

 というわけで、もう普通の、本当に普通の答えにとどめておいた。

「欲しいものは、特に、ないと思います。今のところ、生きられれば、それで」
「何歳まで生きたいんだ」

 随分突っ込んだ質問ですね!? 突っ込まれすぎてもはやそんな細かいところまで考えてないんですけどっていう所ですけど。

 というか何歳までとか具体的な年齢言う前に、私は今を乗り切りたいんだよ。白雪姫に理不尽に付け狙われてあなたたちに殺される未来を避けられればそれでいいんです。

「なん、さい……とか、具体的に考えたことはないんですけど」
「うむ」
「とりあえず、今年……? かな? 乗り切れれば、あとはなんとかなるんじゃないかなぁ、とか軽率に考えてますね」
「今年?」

 きょとん、とノアフェスは心底不思議そうに首をかしげた。

「来年なら死んでもいいのか」
「待ってくださいそうは言ってませんよね? あとはなんとかなるんじゃないかな、って言いましたよね私」
「そうだったか?」
「人の話をちゃんと聞いてくださいよ!」

 思わず叫ぶと、ノアフェスは「うむ」とわかったのかわかっていないのかさっぱり読み取れない真摯な表情で頷いた。わかっているのかどうかはともかく素直ですね?

「それで、私が何歳まで生きたいかは置いておいて、何故肝試しなのか聞いてもいいですかね」
「うむ」

 ノアフェスは若干考え込むように視線を彷徨わせた後、ぽんと手を叩いた。

「楽しい」
「は?」
「俺は、肝試しが嫌いじゃない」

 びっくりするほど意味がわからなかった。

「……はい?」
「肝試しが嫌いじゃあない」
「……はぁ、」
「だがここは七人だ」

 ここは七人、とはあれか。妖精の数の話をしているのか。確かに七人ですが。

「組み分けすると不平等になる」

 まぁ七人じゃ均等に分けられないでしょうけど。

「……あの」
「何だ」
「それってあの、……私を頭数に数えて均等に分けられるようにしようとか思ってます?」
「そうだ」

 即答ですか!!

「い……や、いやいやいやいや。なんでそうなるんですか。今からシルヴィスにどんぐりを持って行って謝罪するんですよね? え? なんでそこで肝試しが出てきてしかもそれがタダのあなたの趣味で、え?」
「どんぐりを持っていくのもいいんだが。シルヴィスには肝試しの方が効果的だと思うぞ」
「え、意味わからないんですが。なんですか? シルヴィスは怖いものダメとかそういう感じですか? それって逆に喧嘩売ってるんじゃ」
「あれは賑やかなものが好きだ」

 ノアフェスの言葉に、私は数秒固まった。

「……はい?」
「シルヴィスは賑やかなものが好きだ」

 聞き間違いじゃない。

 シルヴィスは、賑やかなものが、好きだ。

 ……え? …………は?

「え、あの」
「たぶん、機嫌取りになるな」

 機嫌取りのために肝試しするんですかっていうか賑やかなもの好きなんだあの顔で!? あの性格で!? まじですか!!

 でも、まぁ。

 彼がどういう趣味をしているのかはともかく……機嫌取りになるというのなら、したほうがいいかも知れない。うん。

 ……肝試しとかあんまりやりたくないけど。

 っていうかもっと他に何か提案ないのかって思わなくもないんだけど。というかむしろ肝試しのどこが賑やかなんだろうって思うけど。

「……わかりました」
「む?」
「やりましょう。……肝試し」

 私の言葉に、ノアフェスはぱぁあっと顔を輝かせた。

 いや、表面上はいつもどおり無表情だしさして嬉しそうではないのだが、なんというか、こう、雰囲気的に嬉しいんだろうなってことは察した。

 ……これ、彼がやりたいだけじゃないよね?

 私は何とも言えない気持ちでそのまま、ノアフェスと共に家へとたどり着いたのだった。









「……また、突然だな」

 やや当惑したようにルーヴァスが眉根を寄せた。

「ええと、ダメですか」
「ダメではないのだが。他の者が何と言うかによる、といったところだろう。わたしは一向に構わない」

 ルーヴァスの言葉に私はノアフェスをみやった。当のノアフェスはというと「うむ」と頷いて、

「説得する。……姫が」とのたまった。

 待て待て待て。おかしくないか。

 という隙もなく、ルーヴァスが「なら、任せる」と言ってリビングを去ってしまった。

「え、ちょっ……な、なんで私が説得することになってるんですか」
「姫が頼んだほうが良くないか」
「は? どの辺りがですか」
「全体的に」
「意味がわからないです……」

 ノアフェスはうむうむと一人で頷くと、自室から先ほど持ってきた木の実を机に置いた。

「あとはシルヴィスを待てばいい」
「シルヴィスはともかく……他のひとは大丈夫なんですか? 嫌がらないですか」
「大抵は了承してくれるのではないか。わからない」
「てきっとーですね……」

 こんなので大丈夫だろうか、と不安になりつつも、私はシルヴィスをリビングで待ち続けていたのだった。





 結果から言えば。

 全員からOKをもらった。

 最難関と思われたシルヴィスは、やはりノアフェスの言うとおり賑やかしさが好きなのだろうか。肝試しが何かがわからなかったようだが、説明するとまさかの「わかりました、かまいませんよ」と二つ返事で了承した。

 あまりに簡潔な返事に拍子抜けしていると、シルヴィスは言いにくそうに私に告げた。
 「まさか貴女が素直に森に行くとは思いませんでした。貴女がバカ正直なひとだとわかっていれば言わなかったんですが。……その、申し訳ありませんでした」と。どうやら今まではユンファスやノアフェス、エルシャス相手に「森で木の実でも拾って反省しなさい」等々言っていたらしく、大体従うことがなかったようで、シルヴィスもあまり従われるとは思っていなかったようだ。

 罵倒覚悟だったので謝罪を受けるとなんだか混乱してしまい、私も反射のように謝ってしまった。それにシルヴィスは若干驚いていたが、ほんの少しだけ目元を緩めて、「どうして貴女が謝るんですか」と返してきた。

 そんなこんなで、全員の了承はあっけなくもらえることになった。


「では今夜、肝試しをしよう。夕食後、開始する」


 ルーヴァスの言葉に、全員が一様に頷いた。




 まさかこれが、あんな大惨事につながるなどとは、露ほども考えぬままに。
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