白雪姫の継母に転生しました。

天音 神珀

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「……帰って、きませんね」

 私がぽつんとつぶやくと、その場の三人は何とも言えない顔になった。

「迷子、とか、でしょうか」
「それはないんじゃないかな……」
「君ならともかく、僕たちがこの森で迷子になることはないと思うなー」
「同感ですね。そんなに阿呆な妖精など狩りの時に何の役にも立ちませんよ」

 それは確かにそうだ。もっともなことを言われて私は眉根を寄せる。

 だがしかし、なぜに彼らはこんなにも時間がかかっているのだろうか。
 ノアフェスとエルシャスは愚か、先発隊であるルーヴァス・リリツァス組も戻っていない。
 何かあったとしか思えない。

「……もしかして、獣に遭って襲われて怪我をしたとか……!?」

 思いついた事態にさっと青ざめて呟くと、「ありえませんね」と存外に冷静な答えが返ってきた。

「夜目の利かない人間ならともかく、我々でそんな事態はありません。武器がなくとも、聖力を使えば獣の一匹や二匹、どうとでもなります」

 シルヴィスの答えに、彼らは人間ではないと思い知らされるようだった。それと同時に夜目の利かない人間……という言葉から変な連想が出来上がって、猫みたいに目を爛々と光らせながら妖精七人が夜の森を歩く姿が脳裏に浮かび上がる。結構、不気味だ。

「そ、そうなんですか」

 おかしな妄想を振り払うように軽く首を振ると、この事態を私が怖がっていると思ったのか、カーチェスが安心させるようにぽんぽんと頭をなでてきた。相も変わらず顔を赤くしていたけれど。

「一応は……、でも用心するに越したことはないね。どうしよう、肝試しは中止する……?」

 カーチェスは残りの二人に困ったように訊ねた。しかしそれにユンファスが肩をすくめて、

「別に中止までしなくていいんじゃないの? 誰かが死んだわけでもないだろうしさ。放っとけば帰ってくると思うけどなぁ。どうせリリツァスあたりが道草喰ってるだけじゃない? 大体ルーヴァス以外の面子がどう考えても不安要素しかいないじゃん。先に行かせるメンバーを間違えただけで、別に問題はないんじゃない」

 ルーヴァス以外の面子が不安要素……と言われて何故か妙に納得してしまうあたり、私は失礼だろうか。

 けどなんていうか、実際の話、面子が悪かった。ルーヴァスはともかく、リリツァスはその……はしゃぎまくった挙句に肝試しを忘れそうな人だし、ノアフェスはマイペースすぎるし、エルシャスに至ってはそのまま寝ていそうだ。

 ……不安しかない。

「まぁまぁ、そんな不安そうな顔しないでよ姫~」
「いえその、……ユンファスの言うとおりだなって」
「あ、姫もそう思う? だよね。じゃあ続行でいいじゃん。僕らが行ってさらっと戻ってくるよ」
「そうですね、さっさと終わらせましょう。こんな茶番、長引いても興が冷めるだけでしょう」
「ま、僕的にはシルヴィスがいるだけで興醒めだけど」
「そっくりそのまま、同じ言葉をお返しいたしますよ」

 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、二人はロウソクに明かりをつけて森の中へと消えていく。




 けれどかなりの時間が経っても二人が戻ってくることはなかった。








「……あの」
「……うん」
「……もしかしなくてもこれ、……かなりまずい状況ですよね?」

 私の言葉に、カーチェスが困惑した表情を向けてきた。

「……何かに遭遇した、と考えるのが妥当かな」
「な、何かって何ですか? 獣なら問題ないんですよね?」
「数にもよるかな……でもそんな大量に獣が発生するとも思えないし、今のところそんな気配は感じられない。……不気味だね」

 カーチェスは顔をしかめて森の方を見やる。

 いまだに誰も戻ってこない。

「――おと、」
「ん?」

 ふと思ったことがあって私は呟く。

「音、しませんね」
「音?」
「何かあったなら音がしそうなのに。あの誰かの悲鳴以来、何の音も聞こえない……」

 私が言うと、理解したらしく、あぁ、とカーチェスは頷いた。

「迷いの森は音が響きにくい」
「響きにくい?」
「大きな物音ならともかく小さい物音は吸い込まれてしまう。あの悲鳴は……よほど大きな悲鳴だったってこと、かな」

 カーチェスの言葉に私はますます不安になる。

「あの。……探しに行きませんか」
「六人を?」
「はい。このまま待っていても、帰って来そうにないですし……探したほうが、いいのではと」

 私がそう告げると、カーチェスは少しうつむいた。

「俺は、構わないのだけれど。……君は、大丈夫? いつもならともかく、六人が帰ってこない状況下で、夜の森を歩くのは、怖くない? 家に戻っててもいいよ?」
「大丈夫、だと、思います。私も、行きます。行かせてください」

 怖くない、といえば嘘になるのだが。

 リオリムがいるとはいえ、むしろこの状況下で家にいたくなかった。それは六人が心配なのもあったが、それ以前に状況が状況なので恐怖心が大いにあった。

「……無理はしたら、駄目だよ?」
「はい」

 私が頷くのを見ると、カーチェスはロウソクに火を灯し、「――行こう、」と森へ歩き出した。












「……いません、ね」

 誰かいるだろう、と思いつつ歩いて数分。誰の姿も見当たらない。

 ――と。

 ガサッ、と何か茂みから音がして、うっすらと何かの影が、

「ひっ!!」

 恐怖心が爆発し、思わずカーチェスの服の裾をつかむ。

「どうしたの?」
「そ、そこになにか……」
「……? おかしなものは、見当たらないけど……」

 恐る恐る茂みの方を見やると、確かに何もいない。

 ――見間違いだろうか?

「ご、ごめんなさい、見間違いみたい、です……」
「そう……? 辛いなら、戻ろうか?」
「いいいいいえ! 大丈夫です、進みましょう」

 いまさらになって肝試しを承諾したことに後悔を覚える。
 ……怖いものがかなり駄目な私にはどう考えても馬鹿な判断だったとしか言いようがない。

 私たちはそのまま、そろそろと歩き続ける。

 無論私は怖いので、相変わらずカーチェスの袖をつかんでおり、そのせいか、後ろから見え隠れする彼の長い耳は赤くなっていた。

 歩き続ける間にも、たまにがさりと茂みが鳴ったり、おかしな影が見えたりして散々怯えた。が、どれも見間違いのようで、つくづく人間の想像力が恐ろしいというか恨めしくなった。こんなことなら白雪姫にかじられる毒林檎にでも生まれたほうが楽に生きられたかもしれない……と若干思考がおかしくなり始めたところで。

 ひたり。

 何か冷たいものが、足首に、触れて。

 それは絶対に、勘違いなどではなく。

「ひっ……にゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 私はそのまま、訳も分からずとにかく冷たいそれを振り払うために駆け出した。



 カーチェスの制止も聞かず、暗い森へ、愚かにも、一人で。
 あの手鏡も、持たないまま――
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