73 / 85
3.gift
66.apple
しおりを挟む
「エルシャス」
「……ん」
「台所に入る前に一つ、約束してほしいことがあるのですが」
「……?」
私の言葉にエルシャスが首をかしげる。
うん、可愛い。可愛いけれども。
「やくそく」
「はい。ええとですね、台所では、勝手に突っ走るのは禁止です」
「突っ走る……?」
「まぁつまり、この本を見ながら、私と一緒に頑張っていきましょうってことです」
やんわり、暴走しないでくれ、と暗に伝えたつもりなのだが、伝わっているだろうか。
私が緊張気味に彼の返答を待っていると、彼はしばらく考え込んでから、
「力加減、できない」
「いや、しましょう」
割と真顔で返してしまった。……流石に今より好感度が落ちるのはまずいだろうと思われたので、私はできる限り笑顔を繕うと彼の手を握る。
「私も一緒に頑張りますから。力加減ができないなら、できるように一緒に努力しましょう。物は壊したらダメです」
「こわしたら……だめ」
「そうです。今回はそれを目標に頑張りましょう」
「いいですか?」と私が訊ねると、エルシャスは重々しくうなずく。そこまで難しいことなのだろうか、これは。
「ひめ」
「はい?」
そのまま台所に入ろうとした私の袖を、エルシャスがきゅっと掴む。
「力加減、できたら」
エルシャスはうつむいていた。その表情はふわふわの前髪に隠れて見えない。
「ひめは、ぼくのこと、嫌いにならない?」
エルシャスの言っている意味が、一瞬、理解できなかった。
けれど、その言葉に聞き覚えがあるのを思い出す。
あれは確か、そう。彼が私に、斧を振った後のこと。
――ごめん、姫。ごめんなさい。だけど、ねぇ、きらわないで。おねがい。いなくなっちゃ、やだ……
確かそんなことを、言われた気がする。
はっきり言って、彼が何を考えてそんなことを言ったのかは、未だにわからない。
あの時は今よりさらにここの七人との心理的な距離があったし、そう考えると彼が出会って数日の私に物凄い好感を抱くというのは考えにくかった。
ただ、考えられるとするなら。
――彼は、誰かに嫌われ、捨てられることを極度に嫌がっている、のだろうか。
誰だって嫌われて捨てられるだなんて気分のいいものではないだろうけれども、出会って数日の良く知りもしない女にそんな台詞が出るというのなら、それは何かしらの相当なトラウマがあるのかもしれない。
だとしたら、私は慎重に言葉を選んで答えを返すべきだろう。
どう答えるべきだろうか。
「……エルシャス」
私は少しの逡巡の後、彼の両手をとった。そして、それにつられて私を見つめる彼を、真正面から見つめた。
「私は、正しいひとじゃないし、聖人じゃないから、エルシャスの求める答えはわからないけれど。……努力をする人は、嫌いじゃないです。でもそれ以前に、エルシャスは、凄く、良い子ですから」
「……良い、子?」
「そうです」
彼の青の双眸がゆらゆらと揺れる。
それから数秒して、彼は首を振った。
「ぼくは良い子じゃない」
いつもの眠たげな声色とは違った。はっきりと、拒絶するかのようにそう言いきる。その様子に私は驚いた。
しかし何も言わないわけにもいかない。だから私は、ゆっくりと落ち着かせるように、できるかぎりの優しい声で、
「エルシャスは良い子だと思いますよ。とっても」
けれど、
「ちがう」
エルシャスは首を振る。
「ぼくは良い子じゃない。いいこじゃない……」
ぎゅっと眉根を寄せて、泣きそうになりながら彼は何度も繰り返す。良い子じゃない、僕は良い子じゃない、と。
「ぼくがもし」
一瞬言いよどんでから、しかし彼はこういった。しゃくりあげながら、それでも言い募る。
「ぼくがもし、いいこだったら……だれかは、きっと、ぼくのこと、だいじにしてくれる……みんな、ぼくのこと、きらいにならない……いいこに、なりたい……」
大粒の涙が、青い瞳からほろりと零れ落ちた。それはさながら、宝石のように美しかった。美しくて、なにより痛々しかった。
「良い子になりたい、って……」
――どうして、そんなことを言うのか。
彼は、そりゃあ力加減が出来ずにいろんなものを壊しているようだけれど、この家のひとたちは彼のことを少なくとも最低限気遣っていないだろうか。例えばそう、料理の味についてはっきり彼に伝えたら傷つけるだろうと、明言を避けたりしている様子を見る限り、エルシャスは大事にされていると思う。
それに彼自身、世間的に見て良くできた凄く良い子、ではなくても、決して悪い子じゃあないはず。
それなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。現時点の大事にされている、という状態ではまだ、満足できないのだろうか。
それともその「大事に」の方向が、彼の思っているものと違うのだろうか。
――私にはわからない。
……結局、私にその答えは出せなかった。安易に彼の真意を聞くことも何故かためらわれた。正直、どんな顔をすればいいのかすらわからなかった。
だから私は、曖昧に彼をなだめて台所へと向かうしかなかったのだ。
「エルシャス、こっちです、こっち」
「ん……」
エルシャスが粉の入った大きな袋を腕一杯に抱えて慎重に運んできてくれる。その粉が一体何なのか、実のところ私自身もよくわかっていないのだが、レシピを見る限りは多分小麦粉みたいなものだと思う。
落とさないように潰さないように、力加減をしようとするその小さな手は、少し震えていた。
「はい、そこに。ありがとうございます」
「うん。つぎは?」
エルシャスが首をかしげるのを見て、私は慌ててレシピをのぞき込んだ。
「えーとですね……その袋の粉をカップに……二杯……で、器に」
「……わかった」
エルシャスが袋の口を開けて、無造作にカップを袋に突っこむ。
あっ、という間もない。袋へ入ったカップが見えなくなった途端に、
「……! けほっ、こほっ、うぅ」
恐らくカップを叩き付けられたのだろう白い粉が袋からもわっと舞い上がった。
「え、エルシャス大丈夫ですか!! けほっ」
「けほっ……力加減……こほっ……できなかった……」
しょぼん、と肩を落としてエルシャスが項垂れる。うん、項垂れても可愛いですね。
彼の鼻先が白く染まっていたので、人差し指で拭うと彼は捨てられた子犬のような目で私を見つめる。多分、自分が失敗したことを責めているのだろう。
「大丈夫です、大きな失敗じゃありません。次行きましょう、次。えーと、カップに二杯、慎重に」
「うん」
今度はゆっくりと慎重に袋の中にカップが消えていく。そして静かに白い粉を掬い上げられた。
「その調子です、エルシャス! あともう一回、頑張ってください」
少しプルプルと震えている手をそっと両手で包むと、エルシャスは私を見て緩慢に瞬きをし――頬を染めて照れくさそうに笑った。
「……ええと」
リビングの椅子に座って静かに眠っているエルシャスの頭をなでながら、私はテーブルの上に視線を走らせた。テーブルの上にはいくつもの皿が並んでいる。
しかしなんというか、黒である。
ものの見事に、黒である。
……まぁ早い話が、料理に失敗したわけなのですが。
「……とりあえず、ですね。結構いいところまで行った、ということは、彼の名誉のためにも言っておきたいです」
と、私が言っても、妖精六人からは反応が返ってこない。
「あと焼くだけだったんですけど。火の加減を、間違えてしまったみたいで。まぁ危うく私まで火だるまになりかけた、すんでのところで彼が水をぶっかけた途端、これが出来上がった次第です」
おそらくハンバーグらしきものであろうものが出来上がるはずだったわけだが、最後の工程で前述のような状態になり、まぁ当然、料理は仕上がらなかった。
エルシャスはと言えば、疲れたのか眠ってしまい、今現在は私の隣で座って寝ている、という状況である。
「確かに料理自体はダメになってしまいましたけど、今回は初めての試みですし、その、大目に見てもらえると……」
私がそう言おうとすると、「いや……」とルーヴァスから声が上がった。
「その。……その状況については、全部知っている」
「は」
「万一エルシャスの暴走が起こったらということを考えて、一応……我々が交代であなた方を見ていた」
気まずそうに眼をそらしながら、ルーヴァスがそういう。
なるほど。
「しかし今回は大事に至らなかったようだが、危ない面もあっただろう。火については特に。このようなことで女性のあなたの顔に火傷の跡でもついてしまったら、わたしはあなたに合わせる顔がない。……それだけ危険だったというのに、あなたは怒らないのか?」
「……うーん」
怒らないのか、と問われても、正直何とも言えない。
火が眼前で上がった時、慌てるだけで、特に誰かに対する怒りも恨みも浮かばなかったし、むしろ目の前に火が迫るあの状態でそんな余裕などあるわけがなかった。鎮火した後は焦りから解放されて安堵したのと、ぐったりしただけで、何というか、あれだ。
とりあえず、疲れた。
この一言に尽きる。
まあでも、最後に失敗したとはいえ、エルシャスがあれだけ頑張って慎重に慎重に料理をしてくれたのだし、達成感はあった。
何度も何度も続けていけば、彼はもっともっと良くなるだろうと思う。あれだけ頑張って力を制御していたわけだし。
「怒るとか、そういう感情は、とりあえずないです」
「……そう、なのか?」
「そもそも私が一緒に料理しようって持ち掛けたわけですし」
「確かにまぁ、それは……そうだが」
「まぁ次は、下手でも何でもいいから、料理を完成まで持って行くのが目標かな。頑張ります、ほどほどに」
つい本音が最後にこぼれたが、特に六人は言及しなかった。
「じゃあ私、ちょっと疲れてしまったので部屋で休んできてもいいですか」
「その……もう朝食、って時間じゃないけれど、昼食はどうするの? おなかすいたでしょう」
「うーん……お気遣いは凄くありがたいんですが、今は疲れてるせいか微妙で」
「そう? じゃあ昼食を作ったらここに置いておくから、おなかがすいたら食べにおいで」
カーチェスがはにかみながらゆるりと微笑む。
私は礼を言うと、七人を背にふらふらと自室へと戻った。
「……ん」
「台所に入る前に一つ、約束してほしいことがあるのですが」
「……?」
私の言葉にエルシャスが首をかしげる。
うん、可愛い。可愛いけれども。
「やくそく」
「はい。ええとですね、台所では、勝手に突っ走るのは禁止です」
「突っ走る……?」
「まぁつまり、この本を見ながら、私と一緒に頑張っていきましょうってことです」
やんわり、暴走しないでくれ、と暗に伝えたつもりなのだが、伝わっているだろうか。
私が緊張気味に彼の返答を待っていると、彼はしばらく考え込んでから、
「力加減、できない」
「いや、しましょう」
割と真顔で返してしまった。……流石に今より好感度が落ちるのはまずいだろうと思われたので、私はできる限り笑顔を繕うと彼の手を握る。
「私も一緒に頑張りますから。力加減ができないなら、できるように一緒に努力しましょう。物は壊したらダメです」
「こわしたら……だめ」
「そうです。今回はそれを目標に頑張りましょう」
「いいですか?」と私が訊ねると、エルシャスは重々しくうなずく。そこまで難しいことなのだろうか、これは。
「ひめ」
「はい?」
そのまま台所に入ろうとした私の袖を、エルシャスがきゅっと掴む。
「力加減、できたら」
エルシャスはうつむいていた。その表情はふわふわの前髪に隠れて見えない。
「ひめは、ぼくのこと、嫌いにならない?」
エルシャスの言っている意味が、一瞬、理解できなかった。
けれど、その言葉に聞き覚えがあるのを思い出す。
あれは確か、そう。彼が私に、斧を振った後のこと。
――ごめん、姫。ごめんなさい。だけど、ねぇ、きらわないで。おねがい。いなくなっちゃ、やだ……
確かそんなことを、言われた気がする。
はっきり言って、彼が何を考えてそんなことを言ったのかは、未だにわからない。
あの時は今よりさらにここの七人との心理的な距離があったし、そう考えると彼が出会って数日の私に物凄い好感を抱くというのは考えにくかった。
ただ、考えられるとするなら。
――彼は、誰かに嫌われ、捨てられることを極度に嫌がっている、のだろうか。
誰だって嫌われて捨てられるだなんて気分のいいものではないだろうけれども、出会って数日の良く知りもしない女にそんな台詞が出るというのなら、それは何かしらの相当なトラウマがあるのかもしれない。
だとしたら、私は慎重に言葉を選んで答えを返すべきだろう。
どう答えるべきだろうか。
「……エルシャス」
私は少しの逡巡の後、彼の両手をとった。そして、それにつられて私を見つめる彼を、真正面から見つめた。
「私は、正しいひとじゃないし、聖人じゃないから、エルシャスの求める答えはわからないけれど。……努力をする人は、嫌いじゃないです。でもそれ以前に、エルシャスは、凄く、良い子ですから」
「……良い、子?」
「そうです」
彼の青の双眸がゆらゆらと揺れる。
それから数秒して、彼は首を振った。
「ぼくは良い子じゃない」
いつもの眠たげな声色とは違った。はっきりと、拒絶するかのようにそう言いきる。その様子に私は驚いた。
しかし何も言わないわけにもいかない。だから私は、ゆっくりと落ち着かせるように、できるかぎりの優しい声で、
「エルシャスは良い子だと思いますよ。とっても」
けれど、
「ちがう」
エルシャスは首を振る。
「ぼくは良い子じゃない。いいこじゃない……」
ぎゅっと眉根を寄せて、泣きそうになりながら彼は何度も繰り返す。良い子じゃない、僕は良い子じゃない、と。
「ぼくがもし」
一瞬言いよどんでから、しかし彼はこういった。しゃくりあげながら、それでも言い募る。
「ぼくがもし、いいこだったら……だれかは、きっと、ぼくのこと、だいじにしてくれる……みんな、ぼくのこと、きらいにならない……いいこに、なりたい……」
大粒の涙が、青い瞳からほろりと零れ落ちた。それはさながら、宝石のように美しかった。美しくて、なにより痛々しかった。
「良い子になりたい、って……」
――どうして、そんなことを言うのか。
彼は、そりゃあ力加減が出来ずにいろんなものを壊しているようだけれど、この家のひとたちは彼のことを少なくとも最低限気遣っていないだろうか。例えばそう、料理の味についてはっきり彼に伝えたら傷つけるだろうと、明言を避けたりしている様子を見る限り、エルシャスは大事にされていると思う。
それに彼自身、世間的に見て良くできた凄く良い子、ではなくても、決して悪い子じゃあないはず。
それなのに、どうしてそんなことを言うのだろう。現時点の大事にされている、という状態ではまだ、満足できないのだろうか。
それともその「大事に」の方向が、彼の思っているものと違うのだろうか。
――私にはわからない。
……結局、私にその答えは出せなかった。安易に彼の真意を聞くことも何故かためらわれた。正直、どんな顔をすればいいのかすらわからなかった。
だから私は、曖昧に彼をなだめて台所へと向かうしかなかったのだ。
「エルシャス、こっちです、こっち」
「ん……」
エルシャスが粉の入った大きな袋を腕一杯に抱えて慎重に運んできてくれる。その粉が一体何なのか、実のところ私自身もよくわかっていないのだが、レシピを見る限りは多分小麦粉みたいなものだと思う。
落とさないように潰さないように、力加減をしようとするその小さな手は、少し震えていた。
「はい、そこに。ありがとうございます」
「うん。つぎは?」
エルシャスが首をかしげるのを見て、私は慌ててレシピをのぞき込んだ。
「えーとですね……その袋の粉をカップに……二杯……で、器に」
「……わかった」
エルシャスが袋の口を開けて、無造作にカップを袋に突っこむ。
あっ、という間もない。袋へ入ったカップが見えなくなった途端に、
「……! けほっ、こほっ、うぅ」
恐らくカップを叩き付けられたのだろう白い粉が袋からもわっと舞い上がった。
「え、エルシャス大丈夫ですか!! けほっ」
「けほっ……力加減……こほっ……できなかった……」
しょぼん、と肩を落としてエルシャスが項垂れる。うん、項垂れても可愛いですね。
彼の鼻先が白く染まっていたので、人差し指で拭うと彼は捨てられた子犬のような目で私を見つめる。多分、自分が失敗したことを責めているのだろう。
「大丈夫です、大きな失敗じゃありません。次行きましょう、次。えーと、カップに二杯、慎重に」
「うん」
今度はゆっくりと慎重に袋の中にカップが消えていく。そして静かに白い粉を掬い上げられた。
「その調子です、エルシャス! あともう一回、頑張ってください」
少しプルプルと震えている手をそっと両手で包むと、エルシャスは私を見て緩慢に瞬きをし――頬を染めて照れくさそうに笑った。
「……ええと」
リビングの椅子に座って静かに眠っているエルシャスの頭をなでながら、私はテーブルの上に視線を走らせた。テーブルの上にはいくつもの皿が並んでいる。
しかしなんというか、黒である。
ものの見事に、黒である。
……まぁ早い話が、料理に失敗したわけなのですが。
「……とりあえず、ですね。結構いいところまで行った、ということは、彼の名誉のためにも言っておきたいです」
と、私が言っても、妖精六人からは反応が返ってこない。
「あと焼くだけだったんですけど。火の加減を、間違えてしまったみたいで。まぁ危うく私まで火だるまになりかけた、すんでのところで彼が水をぶっかけた途端、これが出来上がった次第です」
おそらくハンバーグらしきものであろうものが出来上がるはずだったわけだが、最後の工程で前述のような状態になり、まぁ当然、料理は仕上がらなかった。
エルシャスはと言えば、疲れたのか眠ってしまい、今現在は私の隣で座って寝ている、という状況である。
「確かに料理自体はダメになってしまいましたけど、今回は初めての試みですし、その、大目に見てもらえると……」
私がそう言おうとすると、「いや……」とルーヴァスから声が上がった。
「その。……その状況については、全部知っている」
「は」
「万一エルシャスの暴走が起こったらということを考えて、一応……我々が交代であなた方を見ていた」
気まずそうに眼をそらしながら、ルーヴァスがそういう。
なるほど。
「しかし今回は大事に至らなかったようだが、危ない面もあっただろう。火については特に。このようなことで女性のあなたの顔に火傷の跡でもついてしまったら、わたしはあなたに合わせる顔がない。……それだけ危険だったというのに、あなたは怒らないのか?」
「……うーん」
怒らないのか、と問われても、正直何とも言えない。
火が眼前で上がった時、慌てるだけで、特に誰かに対する怒りも恨みも浮かばなかったし、むしろ目の前に火が迫るあの状態でそんな余裕などあるわけがなかった。鎮火した後は焦りから解放されて安堵したのと、ぐったりしただけで、何というか、あれだ。
とりあえず、疲れた。
この一言に尽きる。
まあでも、最後に失敗したとはいえ、エルシャスがあれだけ頑張って慎重に慎重に料理をしてくれたのだし、達成感はあった。
何度も何度も続けていけば、彼はもっともっと良くなるだろうと思う。あれだけ頑張って力を制御していたわけだし。
「怒るとか、そういう感情は、とりあえずないです」
「……そう、なのか?」
「そもそも私が一緒に料理しようって持ち掛けたわけですし」
「確かにまぁ、それは……そうだが」
「まぁ次は、下手でも何でもいいから、料理を完成まで持って行くのが目標かな。頑張ります、ほどほどに」
つい本音が最後にこぼれたが、特に六人は言及しなかった。
「じゃあ私、ちょっと疲れてしまったので部屋で休んできてもいいですか」
「その……もう朝食、って時間じゃないけれど、昼食はどうするの? おなかすいたでしょう」
「うーん……お気遣いは凄くありがたいんですが、今は疲れてるせいか微妙で」
「そう? じゃあ昼食を作ったらここに置いておくから、おなかがすいたら食べにおいで」
カーチェスがはにかみながらゆるりと微笑む。
私は礼を言うと、七人を背にふらふらと自室へと戻った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる