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伝統と刷新
#第14話
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「オーナー!あの部屋どういうことか説明して下さい!」
僕は部屋を飛び出して、廊下からティーハウスに電話をかけていた。
「ああ、フィンリーか、、、オーナーは今留守だよ」
オーナーだと思ってかけたのに、マークがぼさっとした声で答えたから拍子抜けしてしまった。
「で、部屋がどうしたって?」
「ダブルベッドかもしれないとは覚悟していたけど、さすがに部屋が狭すぎる!これじゃ床に寝ることもできない」
「ベッドで寝ればいいじゃないか」
マークのとぼけた声が余計に僕を煽った。
「そんなことできないよ。グレイスがかわいそう」
「まあ、落ち着けって。そのホテルなんて名前?」
僕は電話に貼ってあるシールに書かれたホテルの名前を読み上げた。
「あ~、やっぱりおとぼけオーナーだな。このホテル、、、じゃあな」
「あ、ちょっと、ま」
電話が切れた。
頭が混乱したまま部屋に戻ると、グレイスが荷解きの途中で疲れてベッドの上で眠っていた。
天使のようだと言ったらありきたりのように聞こえるかもしれないが、彼女の寝顔はすごく愛らしい。
この繊細な少女を守りたいと勝手に思ってしまう。
僕はグレイスにそっと毛布を掛けた。
その時に触れた彼女の肌の軟らかさ、近づいたときの果物のような甘いが心臓の鼓動を早めた。
「先輩、、、」
彼女の唇から自分を呼ぶ言葉が聞えた。
心の中で返事をする。
彼女に呼ばれたときはいつだって真っ先に行きたい。
どんなときも自分が一番に彼女を助けに行きたかった。
その時彼女の口角が少し上がった。
彼女の瞼の裏にいるのは自分であって欲しいと願わずにはいられなかった。
♦
私、昨日何してたんだっけ、、、。
起きたばかりでぼんやりした視界が少しずつはっきりとしていく。
何あれ?
天井からぶら下がった布がゆらゆらと揺れている。
ベッドから出て、立ち上がって見ると、そこには先輩が眠っていた。
「わあ、おはよう、グレイス。ホテルの支配人に事情を話したら親切にハンモックを貸してくれたんだ」
先輩が目を擦りながら言った。
私はまた先輩に気を遣わせてしまったという罪悪感で胸が一杯になった。
「すみません。私がベッドを占領して寝落ちしてしまったから、、、。」
先輩は必死に謝る私を見て、微笑んだ。
「いいんだよ、気にしなくて。ハンモックで寝る体験なんてなかなかできないし!見かけよりずっと快適だよ」
「、、、そうですか?」
先輩は頷いて私の目を見た。
先輩の瞳の中に私が映っている。
当たり前だけど、私の目にも彼が映っているのだろう。
なんてないことなのに、憧れの相手と目を合わせることがすごく特別なことのように思えた。
♦
夕方、僕たちはベリーナのお茶の名所ティーガーデンに向かった。
フリルのついたテーブルクロスが掛かった丸いテーブルにグレイスと向かい合って座る。
そこの庭にはピンクと白の薔薇の花が咲き乱れており、おとぎ話の中にいるような非現実的な空間である。
お茶が運ばれてくるまでの間、周りの風景に見入るグレイスを見ながら、やっぱり昨日勇気を出して彼女との関係を進展させればよかったかななどとくよくよ悩む自分が嫌になった。
「お待たせいたしました。夕焼けのアフタヌーンティーセットです」
ウエートレスが運んでくれた紅茶はオレンジ、ピンク、紫のグラデーションで本当に夕焼けのようだった。
「先輩、本当に綺麗ですね!どんな味がするんだろう」
ワクワクした表情のグレイスがたまらなく可愛いが、僕は爽やかな先輩を装うために必死でにやけそうになるのを我慢して「飲んでみようか」と答えた。
カップを唇に近づけるとフルーティーな香りがした。
紅茶を一口含むと、、、あれ?
美味しいのだが、いつも飲んでいるお茶と変わらない、、、この色が期待させるような味は全然しない。
グレイスも同じことを考えているのか、首をかしげている。
僕は近くにいたウエートレスを呼び止めて尋ねた。
「ああ、この色は紅茶が夕焼け空を映し出しているのです。色がよく映るように、紅茶にはレモンを加えて色を薄くしてあります」
「なるほど!空の鏡みたいな紅茶なんですね。色が素敵だと特別感が増しますね」
「その通りです。お嬢様」
ウエートレスはグレイスの表現が気にいったようだ。
「先輩!」
グレイスがキラキラした目で言う。
「ん?」
「このお茶会、うちでもやりましょう!」
「でも、全く同じものを出してもね、、、」
「いいえ、同じものは出しません!カップに虹の橋を架けます」
僕は部屋を飛び出して、廊下からティーハウスに電話をかけていた。
「ああ、フィンリーか、、、オーナーは今留守だよ」
オーナーだと思ってかけたのに、マークがぼさっとした声で答えたから拍子抜けしてしまった。
「で、部屋がどうしたって?」
「ダブルベッドかもしれないとは覚悟していたけど、さすがに部屋が狭すぎる!これじゃ床に寝ることもできない」
「ベッドで寝ればいいじゃないか」
マークのとぼけた声が余計に僕を煽った。
「そんなことできないよ。グレイスがかわいそう」
「まあ、落ち着けって。そのホテルなんて名前?」
僕は電話に貼ってあるシールに書かれたホテルの名前を読み上げた。
「あ~、やっぱりおとぼけオーナーだな。このホテル、、、じゃあな」
「あ、ちょっと、ま」
電話が切れた。
頭が混乱したまま部屋に戻ると、グレイスが荷解きの途中で疲れてベッドの上で眠っていた。
天使のようだと言ったらありきたりのように聞こえるかもしれないが、彼女の寝顔はすごく愛らしい。
この繊細な少女を守りたいと勝手に思ってしまう。
僕はグレイスにそっと毛布を掛けた。
その時に触れた彼女の肌の軟らかさ、近づいたときの果物のような甘いが心臓の鼓動を早めた。
「先輩、、、」
彼女の唇から自分を呼ぶ言葉が聞えた。
心の中で返事をする。
彼女に呼ばれたときはいつだって真っ先に行きたい。
どんなときも自分が一番に彼女を助けに行きたかった。
その時彼女の口角が少し上がった。
彼女の瞼の裏にいるのは自分であって欲しいと願わずにはいられなかった。
♦
私、昨日何してたんだっけ、、、。
起きたばかりでぼんやりした視界が少しずつはっきりとしていく。
何あれ?
天井からぶら下がった布がゆらゆらと揺れている。
ベッドから出て、立ち上がって見ると、そこには先輩が眠っていた。
「わあ、おはよう、グレイス。ホテルの支配人に事情を話したら親切にハンモックを貸してくれたんだ」
先輩が目を擦りながら言った。
私はまた先輩に気を遣わせてしまったという罪悪感で胸が一杯になった。
「すみません。私がベッドを占領して寝落ちしてしまったから、、、。」
先輩は必死に謝る私を見て、微笑んだ。
「いいんだよ、気にしなくて。ハンモックで寝る体験なんてなかなかできないし!見かけよりずっと快適だよ」
「、、、そうですか?」
先輩は頷いて私の目を見た。
先輩の瞳の中に私が映っている。
当たり前だけど、私の目にも彼が映っているのだろう。
なんてないことなのに、憧れの相手と目を合わせることがすごく特別なことのように思えた。
♦
夕方、僕たちはベリーナのお茶の名所ティーガーデンに向かった。
フリルのついたテーブルクロスが掛かった丸いテーブルにグレイスと向かい合って座る。
そこの庭にはピンクと白の薔薇の花が咲き乱れており、おとぎ話の中にいるような非現実的な空間である。
お茶が運ばれてくるまでの間、周りの風景に見入るグレイスを見ながら、やっぱり昨日勇気を出して彼女との関係を進展させればよかったかななどとくよくよ悩む自分が嫌になった。
「お待たせいたしました。夕焼けのアフタヌーンティーセットです」
ウエートレスが運んでくれた紅茶はオレンジ、ピンク、紫のグラデーションで本当に夕焼けのようだった。
「先輩、本当に綺麗ですね!どんな味がするんだろう」
ワクワクした表情のグレイスがたまらなく可愛いが、僕は爽やかな先輩を装うために必死でにやけそうになるのを我慢して「飲んでみようか」と答えた。
カップを唇に近づけるとフルーティーな香りがした。
紅茶を一口含むと、、、あれ?
美味しいのだが、いつも飲んでいるお茶と変わらない、、、この色が期待させるような味は全然しない。
グレイスも同じことを考えているのか、首をかしげている。
僕は近くにいたウエートレスを呼び止めて尋ねた。
「ああ、この色は紅茶が夕焼け空を映し出しているのです。色がよく映るように、紅茶にはレモンを加えて色を薄くしてあります」
「なるほど!空の鏡みたいな紅茶なんですね。色が素敵だと特別感が増しますね」
「その通りです。お嬢様」
ウエートレスはグレイスの表現が気にいったようだ。
「先輩!」
グレイスがキラキラした目で言う。
「ん?」
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「でも、全く同じものを出してもね、、、」
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