大学生のきみへ

ポニーテール

　ちなみに僕は法学部だ。まぁなんとなく、法律でも勉強しておけば将来役に立つんじゃないかと思ったからだ。別に弁護士とか検察とかになりたいわけじゃない。

　講義開始5分前に1限の教室に到着した。この講義は必修科目なので法学部の全員が集結する。なかなかに、騒がしい。

「おーう、タツキー！偶然じゃないかー！！イェーイ！」と、その騒がしい教室でも一際騒がしい声とテンションで僕に話しかけてきたのは、同じ法学部1年の朝井幸太郎だ。どっかの小説家みたいな名前だがこいつは1ミリも小説を読まない。

「全員必修なんだから全然偶然じゃねーだろ」と、僕はツッコム。

「お、ナイスツッコミ！今日もキレキレですなー！」と、幸太郎は言った。

　相変わらずうるさいやつだ。いつもはこのテンションを僕も楽しむことができるのだが、朝からは少々きつい。

「俺が来た時にはもう席がいっぱいでさ、後ろの席は取られちった、前の席とっといたから、こっち！」と、幸太郎は前から2番目の列のど真ん中に席を確保していた。

「もっといい席ねーのかよ」

「ない、席をとってやっただけありがたいと思え」

　仕方なくその席に座る。後ろを振り向くと法学部1年全員が見渡せる。ほとんど知らない顔だったが、ちらほら知った顔を見かけた。前から15、6列目くらいの左から3番目、内村治は何やら参考書を読んでいる。こちらの視線に気がつくと、こちらに顔を向け、一瞬変顔をしてまた参考書に顔を戻した。治は普段はふざけてて、いかにも文系大学生っぽい性格をしているが、かなり頭が良い。いつも難しそうな参考書を読んでいる。

　前から10番目右から2番目の席には、いつものポニーテールとは違って今日は髪を下ろしている村山理奈がとなりの女子とお喋りをしている。こちらには気がつかない。

「理奈ちゃん、今日は髪下ろしてるんだ」幸太郎が横から小声で言った。

「そうみたいだな」僕はいかにもどーでもよさそうに言って、前を向いた。

　同じタイミングで教授がドアを開け入って来たので、教室は徐々に静かになり、完全に静かになったところで教授が話し出し講義が始まった。幸太郎はまだ何かを言いたそうに僕の方を見ていたが、すぐに諦めて前を向き、講義を聞き始めた。