11 / 97
11話
しおりを挟む
「於呂禹、イレー!」
麗羅符露 が怯えた声を出す。
「レイラ、僕らは大丈夫だから。
すぐ行くよ。怖がらないで!」
於呂禹 は落ち着いて 麗羅符露 に答えた。
「くそぉ。あいつら、何のつもりなんだ! 野原に火をつけるなんて!」
李玲峰 はつぶやいた。
「やっぱり、浮遊大陸の兵じゃないよ。
浮遊大陸の人間だったら、野や森に火をつけたりすることがどんなに大変なことか、よくわかっている。
あんなことはしない」
於呂禹 は答えた。
そして、小さく咳きこんだ。
火の煙が風に乗ってこちらへと流れてきている。
そう、浮遊大陸の人間だったら、こんなことはしない。
浮遊大陸は、大地に浮力をもたらす成分が含まれていて、その大きさや重さ、微妙なバランスによって一定の軌道を辿っている。
長い時の淘汰によって、それぞれが衝突しない軌道を漂っているし、その軌道はよほどのことがない限りずれたり狂ったりしないが、それでも浮遊大陸に生きる民は大陸の自然の状態を崩すことには神経質である。
大地を削ったり、森林を伐採するのにも気を使うし、ましてや焼くなど、考えもしないことである。
「イレー。麗羅符露 がいる鍾乳洞の奥の氷室に退避しよう。ここは危険だし。
那理恵渡玲 が帰るまで、隠れていよう」
於呂禹 が、李玲峰 の服の袖をしきりに引っ張る。
「待てよ! 戦わなくっちゃ!」
李玲峰 は、於呂禹 の引っ張る手を振り切った。
彼は炎には耐性があるから、煙にも比較的強い。
「剣! そうだ、剣が無いと!」
「剣? だ、だって、戦うって、どうやって?」
李玲峰 の言葉に、今度は 於呂禹 が動揺する。
「無茶だ!
あんな軍勢を相手に、勝ち目はないよ」
「みつかっちゃたら、どーするんだ!
剣の一本もなきゃ、身を守れないよ」
「でも、剣があるのは、僧院だけだよ、イレー!
今から戻っても……」
「おれが、行く!」
「李玲峰!」
「やめて!」
麗羅符露 が、泣くような声を出す。
「それより、二人とも、早く来て!
怖い。あたしを一人にしないで!」
麗羅符露 は、地下湖の岸辺で一人で怯えて震えている。
李玲峰 と 於呂禹 は顔を見合わせた。
於呂禹 が口を開く前に、李玲峰 は言った。
「於呂禹 、先にレイラのところへ行っていて。おれは剣を取ったら、すぐに行くから」
「でも、イレー!」
於呂禹 は背後に空の蒼を侵食してもうもうと立ち上る黒煙を見上げて、もう一度食い下がった。
「見ろよ! きっと、僧院も攻撃を受けている。
そこに飛び込んでいくなんて、無理だよ!」
「ダメそうだったら、無理はしないよっ!」
「……ホントだね?」
「うん! 誓う!」
疑わしげに 於呂禹 は見たが、李玲峰 は胸に祈りの印を結んで誓いをした。
それで 於呂禹 はようやく、しぶしぶとうなずいた。
「いいよ、わかった。そうしよう。イレー」
立ち上がる前に、金髪の少年は 李玲峰 の両肩をぎゅっと抱きしめた。
「すぐ……来るね?」
ささやきかける 於呂禹 の言葉に、李玲峰 はもう一度強くうなずき返した。
それから、二人は草原の中で別れた。
於呂禹 は、麗羅符露 が待つ鍾乳洞へ。
李玲峰 は、攻撃を受ける僧院の方へと。
麗羅符露 が怯えた声を出す。
「レイラ、僕らは大丈夫だから。
すぐ行くよ。怖がらないで!」
於呂禹 は落ち着いて 麗羅符露 に答えた。
「くそぉ。あいつら、何のつもりなんだ! 野原に火をつけるなんて!」
李玲峰 はつぶやいた。
「やっぱり、浮遊大陸の兵じゃないよ。
浮遊大陸の人間だったら、野や森に火をつけたりすることがどんなに大変なことか、よくわかっている。
あんなことはしない」
於呂禹 は答えた。
そして、小さく咳きこんだ。
火の煙が風に乗ってこちらへと流れてきている。
そう、浮遊大陸の人間だったら、こんなことはしない。
浮遊大陸は、大地に浮力をもたらす成分が含まれていて、その大きさや重さ、微妙なバランスによって一定の軌道を辿っている。
長い時の淘汰によって、それぞれが衝突しない軌道を漂っているし、その軌道はよほどのことがない限りずれたり狂ったりしないが、それでも浮遊大陸に生きる民は大陸の自然の状態を崩すことには神経質である。
大地を削ったり、森林を伐採するのにも気を使うし、ましてや焼くなど、考えもしないことである。
「イレー。麗羅符露 がいる鍾乳洞の奥の氷室に退避しよう。ここは危険だし。
那理恵渡玲 が帰るまで、隠れていよう」
於呂禹 が、李玲峰 の服の袖をしきりに引っ張る。
「待てよ! 戦わなくっちゃ!」
李玲峰 は、於呂禹 の引っ張る手を振り切った。
彼は炎には耐性があるから、煙にも比較的強い。
「剣! そうだ、剣が無いと!」
「剣? だ、だって、戦うって、どうやって?」
李玲峰 の言葉に、今度は 於呂禹 が動揺する。
「無茶だ!
あんな軍勢を相手に、勝ち目はないよ」
「みつかっちゃたら、どーするんだ!
剣の一本もなきゃ、身を守れないよ」
「でも、剣があるのは、僧院だけだよ、イレー!
今から戻っても……」
「おれが、行く!」
「李玲峰!」
「やめて!」
麗羅符露 が、泣くような声を出す。
「それより、二人とも、早く来て!
怖い。あたしを一人にしないで!」
麗羅符露 は、地下湖の岸辺で一人で怯えて震えている。
李玲峰 と 於呂禹 は顔を見合わせた。
於呂禹 が口を開く前に、李玲峰 は言った。
「於呂禹 、先にレイラのところへ行っていて。おれは剣を取ったら、すぐに行くから」
「でも、イレー!」
於呂禹 は背後に空の蒼を侵食してもうもうと立ち上る黒煙を見上げて、もう一度食い下がった。
「見ろよ! きっと、僧院も攻撃を受けている。
そこに飛び込んでいくなんて、無理だよ!」
「ダメそうだったら、無理はしないよっ!」
「……ホントだね?」
「うん! 誓う!」
疑わしげに 於呂禹 は見たが、李玲峰 は胸に祈りの印を結んで誓いをした。
それで 於呂禹 はようやく、しぶしぶとうなずいた。
「いいよ、わかった。そうしよう。イレー」
立ち上がる前に、金髪の少年は 李玲峰 の両肩をぎゅっと抱きしめた。
「すぐ……来るね?」
ささやきかける 於呂禹 の言葉に、李玲峰 はもう一度強くうなずき返した。
それから、二人は草原の中で別れた。
於呂禹 は、麗羅符露 が待つ鍾乳洞へ。
李玲峰 は、攻撃を受ける僧院の方へと。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
76
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる