精霊の御子

神泉朱之介

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11話

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於呂禹オロウ、イレー!」
 麗羅符露レイラフロ が怯えた声を出す。
「レイラ、僕らは大丈夫だから。
 すぐ行くよ。怖がらないで!」
 於呂禹オロウ は落ち着いて 麗羅符露レイラフロ に答えた。
「くそぉ。あいつら、何のつもりなんだ! 野原に火をつけるなんて!」
 李玲峰イレイネ はつぶやいた。
「やっぱり、浮遊大陸の兵じゃないよ。
 浮遊大陸の人間だったら、野や森に火をつけたりすることがどんなに大変なことか、よくわかっている。
 あんなことはしない」
 於呂禹オロウ は答えた。
 そして、小さく咳きこんだ。
 火の煙が風に乗ってこちらへと流れてきている。
 そう、浮遊大陸の人間だったら、こんなことはしない。
 浮遊大陸は、大地に浮力をもたらす成分が含まれていて、その大きさや重さ、微妙なバランスによって一定の軌道を辿っている。
 長い時の淘汰によって、それぞれが衝突しない軌道を漂っているし、その軌道はよほどのことがない限りずれたり狂ったりしないが、それでも浮遊大陸に生きる民は大陸の自然の状態を崩すことには神経質である。
 大地を削ったり、森林を伐採するのにも気を使うし、ましてや焼くなど、考えもしないことである。
「イレー。麗羅符露レイラフロ がいる鍾乳洞の奥の氷室に退避しよう。ここは危険だし。
 那理恵渡玲ナリエドレ が帰るまで、隠れていよう」
 於呂禹オロウ が、李玲峰イレイネ の服の袖をしきりに引っ張る。
「待てよ! 戦わなくっちゃ!」
 李玲峰イレイネ は、於呂禹オロウ の引っ張る手を振り切った。
 彼は炎には耐性があるから、煙にも比較的強い。
「剣! そうだ、剣が無いと!」
「剣? だ、だって、戦うって、どうやって?」
 李玲峰イレイネ の言葉に、今度は 於呂禹オロウ が動揺する。
「無茶だ!
 あんな軍勢を相手に、勝ち目はないよ」
「みつかっちゃたら、どーするんだ!
 剣の一本もなきゃ、身を守れないよ」
「でも、剣があるのは、僧院だけだよ、イレー!
 今から戻っても……」
「おれが、行く!」
李玲峰イレイネ!」
「やめて!」
 麗羅符露レイラフロ が、泣くような声を出す。
「それより、二人とも、早く来て!
 怖い。あたしを一人にしないで!」
 麗羅符露レイラフロ は、地下湖の岸辺で一人で怯えて震えている。
 李玲峰イレイネ と 於呂禹オロウ は顔を見合わせた。
 於呂禹オロウ が口を開く前に、李玲峰イレイネ は言った。
於呂禹オロウ 、先にレイラのところへ行っていて。おれは剣を取ったら、すぐに行くから」
「でも、イレー!」
 於呂禹オロウ は背後に空の蒼を侵食してもうもうと立ち上る黒煙を見上げて、もう一度食い下がった。
「見ろよ! きっと、僧院も攻撃を受けている。
 そこに飛び込んでいくなんて、無理だよ!」
「ダメそうだったら、無理はしないよっ!」
「……ホントだね?」
「うん! 誓う!」
 疑わしげに 於呂禹オロウ は見たが、李玲峰イレイネ は胸に祈りの印を結んで誓いをした。
 それで 於呂禹オロウ はようやく、しぶしぶとうなずいた。
「いいよ、わかった。そうしよう。イレー」
 立ち上がる前に、金髪の少年は 李玲峰イレイネ の両肩をぎゅっと抱きしめた。
「すぐ……来るね?」
 ささやきかける 於呂禹オロウ の言葉に、李玲峰イレイネ はもう一度強くうなずき返した。
 それから、二人は草原の中で別れた。
 於呂禹オロウ は、麗羅符露レイラフロ が待つ鍾乳洞へ。
 李玲峰イレイネ は、攻撃を受ける僧院の方へと。
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