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39話
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「また、戦いに出掛けてしまうの、 李玲峰 ?
今度は、根威座 へ?」
息子の 根威座 への出立に際して、競絽帆 王の側妃である母 李絽妻良 はいつものように、どこかひどく哀しそうに 李玲峰 を見た。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
そう言って 李絽妻良 は、息子の赤い髪を撫でた。
そして、ぽつりとひとこと、言った。
「ごめんなさい、李玲峰。お母さまを許してね」
「母上?」
「あなたを、こんな赤い髪に産んでしまったこと。
炎の御子 であるばかりに、あなたは……」
李玲峰 は、びっくりしてかぶりを振った。
「どうして?
母上、おれはこの赤い髪を恨んでなどいません。むしろ、誇りにしています」
「本当に、李玲峰 ?」
「ええ。おれは 宝剣の英雄 として母上やこの国の人々、それに 愛理洲 を守ることが出来る。炎の御子 だからこそ。
そして 炎の御子 だからこそ、根威座 へ行かなければならないのです。おれが 炎の御子 だからこそ。
どうか、許して下さい。あえて、危険に身を投じることを」
李絽妻良 は首を振った。
「あなたは成すべきことをなさい、李玲峰。いつか平穏な日々がわたくしたちの未来に待っていますように。
李玲峰」
李絽妻良 妃は 李玲峰 の頬に優しく口付けをした。
「李玲峰 お兄さま、本当なんですの?
本当に 根威座 へ行かれるんですか?」
愛理洲 は、心配そうにその大きな黒い瞳を見開いた。
「ああ」
李玲峰 は、ぬいぐるみだらけの 愛理洲 の寝台の端に座って、答えた。
「でも、もうその話はするなよ、愛理洲。おれが 根威座 へと行くことは秘密さ。誰にも知られちゃいけないことなんだから」
「わかりました、お兄さま。
でも、寂しい。お兄さまが行ってしまわれると。
また、愛理洲 を一人にはしませんわよね?
根威座 の魔都はそれはひどいところと聞きます。宇摩琉場 の 菜美禮 さまのお姉さまお二人も 根威座 の魔都に連れていかれて、それっきり消息も知れないということ。たぶん、ころされているだろうって、菜美禮 さまは申されてます。あそこでは、夜も昼も、浮遊大陸に生きる者たちには考えもつかないような残虐なことが行われているからって。
お兄さま」
愛理洲 は、ぶるっと体を震わせた。
肩から胸にかけて一房だけ垂らしてある黒髪も、その動きに合わせてぷるん、と動いた。
「わたくし、待っております。
お兄さまのご無事を祈って。毎日、毎日、お祈りしますわ。だから、きっと帰っていらしてね、お兄さま。きっと」
「ああ」
李玲峰 は答えた。
「約束するよ」
妹の小さな頭に手を添え、頬に妹の愛らしい、暖かいキスを受けながら、李玲峰 は魔都のことを思った。
かつて、彼の手からもぎ離されたふたつの魂。
於呂禹 、そして 麗羅符露 。
もう、死んでいると、そう、思っていた。
だが二人が生きていて、もし、於呂禹 と 麗羅符露 が困難な状況にいたとしたら、二人に手を差しのべられる者、それは自分だけだ、という確信があった。
(行こう)
李玲峰 は、自分にもう一度ささやきかけた。
根威座 の魔都、婁久世之亜 へ。
今度は、根威座 へ?」
息子の 根威座 への出立に際して、競絽帆 王の側妃である母 李絽妻良 はいつものように、どこかひどく哀しそうに 李玲峰 を見た。
「行ってらっしゃい。気をつけて」
そう言って 李絽妻良 は、息子の赤い髪を撫でた。
そして、ぽつりとひとこと、言った。
「ごめんなさい、李玲峰。お母さまを許してね」
「母上?」
「あなたを、こんな赤い髪に産んでしまったこと。
炎の御子 であるばかりに、あなたは……」
李玲峰 は、びっくりしてかぶりを振った。
「どうして?
母上、おれはこの赤い髪を恨んでなどいません。むしろ、誇りにしています」
「本当に、李玲峰 ?」
「ええ。おれは 宝剣の英雄 として母上やこの国の人々、それに 愛理洲 を守ることが出来る。炎の御子 だからこそ。
そして 炎の御子 だからこそ、根威座 へ行かなければならないのです。おれが 炎の御子 だからこそ。
どうか、許して下さい。あえて、危険に身を投じることを」
李絽妻良 は首を振った。
「あなたは成すべきことをなさい、李玲峰。いつか平穏な日々がわたくしたちの未来に待っていますように。
李玲峰」
李絽妻良 妃は 李玲峰 の頬に優しく口付けをした。
「李玲峰 お兄さま、本当なんですの?
本当に 根威座 へ行かれるんですか?」
愛理洲 は、心配そうにその大きな黒い瞳を見開いた。
「ああ」
李玲峰 は、ぬいぐるみだらけの 愛理洲 の寝台の端に座って、答えた。
「でも、もうその話はするなよ、愛理洲。おれが 根威座 へと行くことは秘密さ。誰にも知られちゃいけないことなんだから」
「わかりました、お兄さま。
でも、寂しい。お兄さまが行ってしまわれると。
また、愛理洲 を一人にはしませんわよね?
根威座 の魔都はそれはひどいところと聞きます。宇摩琉場 の 菜美禮 さまのお姉さまお二人も 根威座 の魔都に連れていかれて、それっきり消息も知れないということ。たぶん、ころされているだろうって、菜美禮 さまは申されてます。あそこでは、夜も昼も、浮遊大陸に生きる者たちには考えもつかないような残虐なことが行われているからって。
お兄さま」
愛理洲 は、ぶるっと体を震わせた。
肩から胸にかけて一房だけ垂らしてある黒髪も、その動きに合わせてぷるん、と動いた。
「わたくし、待っております。
お兄さまのご無事を祈って。毎日、毎日、お祈りしますわ。だから、きっと帰っていらしてね、お兄さま。きっと」
「ああ」
李玲峰 は答えた。
「約束するよ」
妹の小さな頭に手を添え、頬に妹の愛らしい、暖かいキスを受けながら、李玲峰 は魔都のことを思った。
かつて、彼の手からもぎ離されたふたつの魂。
於呂禹 、そして 麗羅符露 。
もう、死んでいると、そう、思っていた。
だが二人が生きていて、もし、於呂禹 と 麗羅符露 が困難な状況にいたとしたら、二人に手を差しのべられる者、それは自分だけだ、という確信があった。
(行こう)
李玲峰 は、自分にもう一度ささやきかけた。
根威座 の魔都、婁久世之亜 へ。
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