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44話
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魔皇帝 亜苦施渡瑠 の宮殿。
不夜城である魔都 婁久世之亜 に君臨するその絢爛たる宮殿は、黄金色に輝く金属で築かれていて、それゆえに黄金の宮殿と呼ばれていた。
怪しく混沌とした色彩に彩られた、その黄金の宮殿の中で……
根威座 の支配者、炎の髪をした美貌の魔皇帝 亜苦施渡瑠 は、自らの居室で黄金で出来たテーブルに向かって座り、いささか退屈げな様子でテーブルに置かれた透明な盤の上に丸く磨き上げられた宝石をはじいていた。
盤の上には御盤上の線が引かれており、散りばめられた輝く石、ダイヤモンドや、サファイヤ、ルビー、エメラルド、オパールなどの大粒の宝石の玉は 亜苦施渡瑠 の優美な指先、長く爪を伸ばし、きれいに整えたその指先ではじかれると、コロコロと盤上を転がる。
宝石と宝石とが、カチン、とぶつかる。
すると、不思議な光の波動が起こり、透明な盤の下の丸い黄金のテーブルの上に光の波紋が広がって、映像が写る。
炎上する、石造りの王宮の映像が写った。
王宮に掲げられた、燃え尽きようとしている旗に描かれている紋章は、浮遊大陸 阿琉御羅 王家のもの。
王宮の荒らされた大広間には、すさまじい形相をした男が床の上に横たわっている。
男は、すでに死んでいる。
阿琉御羅 の、 符部裏 王。
根威座 の恐怖に負け、浮遊九大陸連合を裏切り、そして滅んだ男だ。
亜苦施渡瑠 魔皇帝の直属である仮面騎士団の騎士たちが、面白がってその男の死体に剣を何度も突き立てている。
しかし、吹き出す血は僅かだ。
死んで、もうかなり経っているのだろう。
「ふん」
亜苦施渡瑠 は鼻を鳴らした。
「つまらん」
亜苦施渡瑠 が手にしていた空の杯を差し上げると、背後に控えていた金色の髪の少年は捧げ持つ壺から酒を杯へと注ぎ入れた。
優しい容貌を持つ少年である。
瞳は、その髪と同様、大地の恵みを表す琥珀色。
亜苦施渡瑠 は少年に視線を投げると、含み笑いをして、語りかけた。
「於呂禹。阿琉御羅 は堕ちたぞ。これで三つ。あと残りは六大陸か」
金髪の少年は 亜苦施渡瑠 に答えて、にこり、と天使のごとき笑みをその口元に浮かべた。
その笑みは暖かではあったが、どこか人形めいている。
なんだかその笑みがその口元に張り付いているかのような。
亜苦施渡瑠 は杯を口元に寄せて、舐めるように液体を味わうと、つぶやいた。
「残りの六大陸は、もう少しわたしを娯しませてくれるかな?
この遊戯もいつも同じ繰り返しではつまらぬ。いささか飽きたしな。何か新しい展開がないと、これではせっかく目覚めた甲斐がないというものだ」
その若く美し外見にもかかわらず、魔皇帝はもう何百年、何千年と生き続けているという。
彼は、つねにこの 根威座 を治めているわけではなく、その永遠の若さを保つために何十年から、時には何百年と、眠りに就く。
大陸 根威座 の人々は、別に九大陸を支配しなくても生きていけないわけではない。
ここには、すべてを産み出す、永久の獄炎 があるのだから。
九大陸制覇は、根威座 帝国にとっては奴隷を調達し、魔都 婁久世之亜 の人口を保つ、という目的はあっても、亜苦施渡瑠 にとってはようするに目覚めている時の退屈しのぎのひとつであるに過ぎない。
亜苦施渡瑠 は 於呂禹 に向かって腕を伸ばし、壺を捧げ持つ少年の金色の髪を手で弄んだ。
大地の寵愛を受けていることを示す、美しい金の髪。
くつくつと、魔皇帝は笑った。
「さて、お前を愛しているあの子はどうしているかな。那理恵渡玲 の最愛の養い子。あの、怖れ知らずの 炎の御子 は」
亜苦施渡瑠 は、盤の上の宝石を気儘にツンとまたはじいた。
ルビーの玉が気紛れに転がり、もう一つのルビーの玉と当たって、赤い光の波動を発した。
「ほぉ……」
やがて現れた情景に見入った 亜苦施渡瑠 魔皇帝の美しい顔には、これまでの退屈げなものとは違う表情が表れた。
興味を惹かれたように、魔皇帝は椅子の上で組んでいた足を解いて、身を乗り出した。
魔皇帝は目を輝かせ、そして酷薄な口元に、にやり、と残忍な、人をぞっとさせるような笑みを浮かばせた。
不夜城である魔都 婁久世之亜 に君臨するその絢爛たる宮殿は、黄金色に輝く金属で築かれていて、それゆえに黄金の宮殿と呼ばれていた。
怪しく混沌とした色彩に彩られた、その黄金の宮殿の中で……
根威座 の支配者、炎の髪をした美貌の魔皇帝 亜苦施渡瑠 は、自らの居室で黄金で出来たテーブルに向かって座り、いささか退屈げな様子でテーブルに置かれた透明な盤の上に丸く磨き上げられた宝石をはじいていた。
盤の上には御盤上の線が引かれており、散りばめられた輝く石、ダイヤモンドや、サファイヤ、ルビー、エメラルド、オパールなどの大粒の宝石の玉は 亜苦施渡瑠 の優美な指先、長く爪を伸ばし、きれいに整えたその指先ではじかれると、コロコロと盤上を転がる。
宝石と宝石とが、カチン、とぶつかる。
すると、不思議な光の波動が起こり、透明な盤の下の丸い黄金のテーブルの上に光の波紋が広がって、映像が写る。
炎上する、石造りの王宮の映像が写った。
王宮に掲げられた、燃え尽きようとしている旗に描かれている紋章は、浮遊大陸 阿琉御羅 王家のもの。
王宮の荒らされた大広間には、すさまじい形相をした男が床の上に横たわっている。
男は、すでに死んでいる。
阿琉御羅 の、 符部裏 王。
根威座 の恐怖に負け、浮遊九大陸連合を裏切り、そして滅んだ男だ。
亜苦施渡瑠 魔皇帝の直属である仮面騎士団の騎士たちが、面白がってその男の死体に剣を何度も突き立てている。
しかし、吹き出す血は僅かだ。
死んで、もうかなり経っているのだろう。
「ふん」
亜苦施渡瑠 は鼻を鳴らした。
「つまらん」
亜苦施渡瑠 が手にしていた空の杯を差し上げると、背後に控えていた金色の髪の少年は捧げ持つ壺から酒を杯へと注ぎ入れた。
優しい容貌を持つ少年である。
瞳は、その髪と同様、大地の恵みを表す琥珀色。
亜苦施渡瑠 は少年に視線を投げると、含み笑いをして、語りかけた。
「於呂禹。阿琉御羅 は堕ちたぞ。これで三つ。あと残りは六大陸か」
金髪の少年は 亜苦施渡瑠 に答えて、にこり、と天使のごとき笑みをその口元に浮かべた。
その笑みは暖かではあったが、どこか人形めいている。
なんだかその笑みがその口元に張り付いているかのような。
亜苦施渡瑠 は杯を口元に寄せて、舐めるように液体を味わうと、つぶやいた。
「残りの六大陸は、もう少しわたしを娯しませてくれるかな?
この遊戯もいつも同じ繰り返しではつまらぬ。いささか飽きたしな。何か新しい展開がないと、これではせっかく目覚めた甲斐がないというものだ」
その若く美し外見にもかかわらず、魔皇帝はもう何百年、何千年と生き続けているという。
彼は、つねにこの 根威座 を治めているわけではなく、その永遠の若さを保つために何十年から、時には何百年と、眠りに就く。
大陸 根威座 の人々は、別に九大陸を支配しなくても生きていけないわけではない。
ここには、すべてを産み出す、永久の獄炎 があるのだから。
九大陸制覇は、根威座 帝国にとっては奴隷を調達し、魔都 婁久世之亜 の人口を保つ、という目的はあっても、亜苦施渡瑠 にとってはようするに目覚めている時の退屈しのぎのひとつであるに過ぎない。
亜苦施渡瑠 は 於呂禹 に向かって腕を伸ばし、壺を捧げ持つ少年の金色の髪を手で弄んだ。
大地の寵愛を受けていることを示す、美しい金の髪。
くつくつと、魔皇帝は笑った。
「さて、お前を愛しているあの子はどうしているかな。那理恵渡玲 の最愛の養い子。あの、怖れ知らずの 炎の御子 は」
亜苦施渡瑠 は、盤の上の宝石を気儘にツンとまたはじいた。
ルビーの玉が気紛れに転がり、もう一つのルビーの玉と当たって、赤い光の波動を発した。
「ほぉ……」
やがて現れた情景に見入った 亜苦施渡瑠 魔皇帝の美しい顔には、これまでの退屈げなものとは違う表情が表れた。
興味を惹かれたように、魔皇帝は椅子の上で組んでいた足を解いて、身を乗り出した。
魔皇帝は目を輝かせ、そして酷薄な口元に、にやり、と残忍な、人をぞっとさせるような笑みを浮かばせた。
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