57 / 97
57話
しおりを挟む
雪の合間から下を臨むと、そこに真っ白い大地が現れた。
白い氷の大地。
氷の大陸だ。
ぶるっ、と 李玲峰 は身を震わせた。
連れてきた巨鳥兵たちも彼も、この大陸に来るにあたってそれなりの装備はし、できる限りの防寒具に身を包んでいたが、それでも寒い。
(苦手だな)
李玲峰 は思った。
やはり、彼は 炎の御子 なのだろう。
いくら熱い濃密な炎の中でも我慢できる、どころか、とっても心地よくて嬉しくなってしまうのだが、寒いのは苦手だ。
しかし、ここは 根威座 よりはマシかな、とも思う。
どちらも、生命が無い世界だ。
この白い大地には草一本生えていないし、人も住めない。
それでも、太陽の光を強く反射し、まともに見下ろしていると次第に目が痛くなってくるほどに眩しい。
眩い純白の氷の大地。
ここには、少なくとも起伏があり、陽が高くなっていくにつれ、氷山が列なる白い大地はその表情を変える。
この氷の大地も、対極にある定着した大地、死した 根威座 と同じくらいの広さがあるという。
氷の大地は、人を阻んでいる、と言われる。
この世界が今の姿となり、浮遊する大陸にしか人が住めないようになった当初、物好きにもこの氷の大陸に住もうと試みた者もいないわけではないという。
根威座 を抜かせば、この氷の大陸が人に残された最後の定着した大地であったから。
が、そうした者たちの試みは、悉く失敗した。
氷の大地に亀裂が入り、氷の上に造られた人の村を片端から飲み込んでいた。
そう、伝説では伝えられている。
いつしか、この氷の大陸に住もうとする者はまったくいなくなった。
この真っ白な大地を汚す者は今はどこにもいない。
そんな大陸の上空に、李玲峰 たち巨鳥兵の編隊はやって来たのだ。
「よし、高度を下げろ」
李玲峰 は命じた。
命令が、編隊の後ろの者へと伝わっていく。
「あの大地の上に着地しますか、王子?
騎士長が尋ねてきた。
「そうだな」
李玲峰 は考えてから、首を振った。
「いや。しばらく飛ぼう。氷の裂け目がある場所まで先に行きたい」
「わかりました」
巨鳥兵の編隊は降下していく。
やがて、単調に白い大地の氷面の上を飛んでいく 藍絽野眞 の巨鳥兵たちの変態の前に、一つの変化を現す風景が現れた。
白い大地が、まるで山脈のように隆起している。
少し高度を上げて、その隆起した山の上へと飛行していくと、それがただの山ではないのがわかる。
その隆起した頂において、ぱっくりと大地は二つに割れていて、その裂け目がずっと続いているのだ。
まるで神が大地を二つに裂いて造ったかのような深い亀裂。
深い淵だ。
長大な河を思わせるように、亀裂は蛇行し、地平線の彼方まで純白の大地に黒く線を引いている。
「話には聞いておりましたが、これは!」
李玲峰 と並んで 鵜吏竜紗 を飛ばしていた騎士長が感嘆したように叫んだ。
今回、李玲峰 に従ってきた巨鳥兵の編隊を統べるこの騎士長は、父子ほどに 李玲峰 とは歳が違う。
一徹者の壮年の戦士で、競絽帆 王が全幅の信頼を寄せている歴戦の勇者だ。
が、どんな戦いにも怯まない勇者も、この雄大な眺めにはえらく心動かされたようである。
「生きているうちに、このような素晴らしい眺めを拝むことが出来るとは思いませんでしたな、王子!」
物見遊山のような気楽な口調で、そう語りかけてくる。
「二手に分かれ、一隊は淵の上を飛び、もう一隊は淵の中へ降りることにしよう」
李玲峰 が指示すると、即座に応じて、騎士長は命令を下す。
付き従ってきた者たちは、藍絽野眞 近衛隊の精鋭の者たちだ。
見事な動きで隊は二つに割れ、一隊は 李玲峰 とともに裂け目の間の淵に向かって降りていき、もう一隊は騎士長とともに上空に残った。
淵には、ただ、闇ばかりが詰まっている。
あまりに深すぎて、底の方には何も見えない。
(レイラ)
氷の大地の、この裂け目の底へと身を投げたという 麗羅符露。
しかし、どこにいるのだろう。
この広大な氷の大地を横切る淵の、どのあたりに?
左右には氷の壁がそびえている。
光が届く上部の壁面は、壁の内部が完全に透明に見える。
透き通った、厚い氷の壁だ。
麗羅符露 が閉じ込められた氷の壁もこんなふうな漢字だった。
(レイラ、答えてくれよ!)
いつだって、心へと呼びかけてくるときには高飛車な、叱り付けるような口調で話しかけてきた麗羅符露 。
イレー。
彼のことを、そう呼ぶのは 麗羅符露 と 於呂禹 だけだった。
おれが来たよ。
おれがここまで来たんだよっ!
答えてよ、レイラ!
白い氷の大地。
氷の大陸だ。
ぶるっ、と 李玲峰 は身を震わせた。
連れてきた巨鳥兵たちも彼も、この大陸に来るにあたってそれなりの装備はし、できる限りの防寒具に身を包んでいたが、それでも寒い。
(苦手だな)
李玲峰 は思った。
やはり、彼は 炎の御子 なのだろう。
いくら熱い濃密な炎の中でも我慢できる、どころか、とっても心地よくて嬉しくなってしまうのだが、寒いのは苦手だ。
しかし、ここは 根威座 よりはマシかな、とも思う。
どちらも、生命が無い世界だ。
この白い大地には草一本生えていないし、人も住めない。
それでも、太陽の光を強く反射し、まともに見下ろしていると次第に目が痛くなってくるほどに眩しい。
眩い純白の氷の大地。
ここには、少なくとも起伏があり、陽が高くなっていくにつれ、氷山が列なる白い大地はその表情を変える。
この氷の大地も、対極にある定着した大地、死した 根威座 と同じくらいの広さがあるという。
氷の大地は、人を阻んでいる、と言われる。
この世界が今の姿となり、浮遊する大陸にしか人が住めないようになった当初、物好きにもこの氷の大陸に住もうと試みた者もいないわけではないという。
根威座 を抜かせば、この氷の大陸が人に残された最後の定着した大地であったから。
が、そうした者たちの試みは、悉く失敗した。
氷の大地に亀裂が入り、氷の上に造られた人の村を片端から飲み込んでいた。
そう、伝説では伝えられている。
いつしか、この氷の大陸に住もうとする者はまったくいなくなった。
この真っ白な大地を汚す者は今はどこにもいない。
そんな大陸の上空に、李玲峰 たち巨鳥兵の編隊はやって来たのだ。
「よし、高度を下げろ」
李玲峰 は命じた。
命令が、編隊の後ろの者へと伝わっていく。
「あの大地の上に着地しますか、王子?
騎士長が尋ねてきた。
「そうだな」
李玲峰 は考えてから、首を振った。
「いや。しばらく飛ぼう。氷の裂け目がある場所まで先に行きたい」
「わかりました」
巨鳥兵の編隊は降下していく。
やがて、単調に白い大地の氷面の上を飛んでいく 藍絽野眞 の巨鳥兵たちの変態の前に、一つの変化を現す風景が現れた。
白い大地が、まるで山脈のように隆起している。
少し高度を上げて、その隆起した山の上へと飛行していくと、それがただの山ではないのがわかる。
その隆起した頂において、ぱっくりと大地は二つに割れていて、その裂け目がずっと続いているのだ。
まるで神が大地を二つに裂いて造ったかのような深い亀裂。
深い淵だ。
長大な河を思わせるように、亀裂は蛇行し、地平線の彼方まで純白の大地に黒く線を引いている。
「話には聞いておりましたが、これは!」
李玲峰 と並んで 鵜吏竜紗 を飛ばしていた騎士長が感嘆したように叫んだ。
今回、李玲峰 に従ってきた巨鳥兵の編隊を統べるこの騎士長は、父子ほどに 李玲峰 とは歳が違う。
一徹者の壮年の戦士で、競絽帆 王が全幅の信頼を寄せている歴戦の勇者だ。
が、どんな戦いにも怯まない勇者も、この雄大な眺めにはえらく心動かされたようである。
「生きているうちに、このような素晴らしい眺めを拝むことが出来るとは思いませんでしたな、王子!」
物見遊山のような気楽な口調で、そう語りかけてくる。
「二手に分かれ、一隊は淵の上を飛び、もう一隊は淵の中へ降りることにしよう」
李玲峰 が指示すると、即座に応じて、騎士長は命令を下す。
付き従ってきた者たちは、藍絽野眞 近衛隊の精鋭の者たちだ。
見事な動きで隊は二つに割れ、一隊は 李玲峰 とともに裂け目の間の淵に向かって降りていき、もう一隊は騎士長とともに上空に残った。
淵には、ただ、闇ばかりが詰まっている。
あまりに深すぎて、底の方には何も見えない。
(レイラ)
氷の大地の、この裂け目の底へと身を投げたという 麗羅符露。
しかし、どこにいるのだろう。
この広大な氷の大地を横切る淵の、どのあたりに?
左右には氷の壁がそびえている。
光が届く上部の壁面は、壁の内部が完全に透明に見える。
透き通った、厚い氷の壁だ。
麗羅符露 が閉じ込められた氷の壁もこんなふうな漢字だった。
(レイラ、答えてくれよ!)
いつだって、心へと呼びかけてくるときには高飛車な、叱り付けるような口調で話しかけてきた麗羅符露 。
イレー。
彼のことを、そう呼ぶのは 麗羅符露 と 於呂禹 だけだった。
おれが来たよ。
おれがここまで来たんだよっ!
答えてよ、レイラ!
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる