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第1章 最弱の冒険者
幕間:「君の事を見つめてる」
しおりを挟むラスタリカの町にある冒険者ギルド、そのギルド内においてある限られた人間しか立ち入りが許されないエリアがある。
そもそもギルド内は一階部分と二階部分がありクエスト受注や新人を迎えるための受付など、用途に応じたカウンターが一階部分に複数設置されているが、二階部分はそうではない。
この場所は最低でも【Cランク】以上の階級を所持している者しか立ち入りが許可されていない。
この場合の許可と言うのは、別段ギルド自体が制限を掛けているのではなく、このラスタリカの冒険者ギルドを拠点とする冒険者たちの間でいつの間にか取り決められた暗黙のルールだった。
その二階部分の最奥に設置された一人用のテーブル、そこはいつも彼女が座る特等席だ。
全身を黒のローブで身に纏い黒のとんがり帽子を被った妙齢の女性。
長髪の赤毛にルビーをはめ込んだかのような赤い瞳を持ち黒一色で統一された魔法使いが好んで装着する服装だが
彼女専用として特別製に仕立て上げられている服装は使われている布の表面積が少なく体のラインがはっきりと見て取れる。
その肢体は女性特有のしなやかな丸みを帯びて色香を漂わせささやかな布生地によって包まれている彼女の乳房は大きくそのあまりの大きさに今にも布生地からこぼれ落ちそうなほどだ。
「おい、あれが噂の【黒き薔薇の魔女】か?」
「ああ、このラスタリカの冒険者ギルドを根城にする二つ名持ちの冒険者だよ」
そう話す彼らはやっとの思いでCランクまで上り詰めこの二階部分に来ることが許された二人組の冒険者だ。
二人ともそれなりの装備に身を包んではいるが、この二階部分にいる冒険者の中ではそれほど高性能な装備ではない。
そんな二人がテーブルの椅子に足を組みながら座っている彼女をちらちらと見ながら噂話を始める。
「そういや、あの女のランクってどれくらいなんだ?」
「さあな、なんでもギルドマスターがあの女の情報を異常なほどに規制してるらしく
実際のランクは誰も知らねえんだとよ」
「実はそんなに大した事なかったりしてな、ハハハ」
「バカヤロウ、実力があるからこそ二つ名持ちなんだろうが!! 大体、あの女がやった功績を知ってんのか?」
「いや、何をやったってんだ?」
【黒き薔薇の魔女】、彼女がこう呼ばれるようになったきっかけは数年前に起こったラスタリカの町に魔物の群れが進行してきたことがきっかけであった。
ゴブリンやオーク、レッサーウルフなどの新人の冒険者でも単体であれば後れを取らないモンスターばかりだったが個の力など数の暴力の前には無力に等しい。
当時ラスタリカの町を襲ったモンスターの総数は3000、それに対し町の警備隊を含め迎え撃った冒険者の数は
僅か300人程度だった。
誰しもが絶望と敗北の色を顔に浮かべたがその軍勢がたった一人の女魔法使いによって駆逐されてしまった。
モンスターの軍勢が彼女の植物を操る魔法によって瞬く間に倒され、立っていたのは彼女だけだった。
その光景を目の当たりにした冒険者たちは彼女を称え彼女が着ていた黒ずくめの服と魔法で操った棘の付いた植物の蔦が薔薇の茎に似ていたことからいつしか【黒き薔薇の魔女】と呼ばれるようになったそうだ。
「それって、事実なのか?」
「どうやらマジらしいぜ。 当時その戦いに参加してた冒険者が今も現役でよ。
その時の様子を教えてくれた。 しかも何人もな」
そう言いつつ二人はジョッキに継がれたエールを煽り飲み干した。
そのタイミングをまるで待っていたかのように鈴を転がしたような声が二人の耳に届く。
「ねえそこの二人組のお兄さんたち。 あたしのことを話してるみたいだけど、
もしよかったら、あたしと遊ばない?」
「「っ!?」」
突然掛けられた声に驚き思わず、肩がビクリと震える。
それもそのはずだ。 何故なら彼らは彼女に聞こえないように極力声を小さくして話しており
それこそ顔を突き合わせていなければ聞こえないほどの音量で話していたからだ。
そんな状態でまさか自分たちの会話が聞き取れたことに畏怖の感情が浮かぶ。
だが彼等もまた百戦錬磨とはいかないまでもCランクまで上り詰めた猛者であることに違いはなく
平静を保ちつつも警戒した様子で彼女の問いかけに答えた。
「それは光栄ですけんども、残念ながらこのあと仕事にで掛けるもんでね。
あっしらはこれで失礼させてもらいやすよ」
「おい、そんな仕事入って――」
「おし、さっさと出かけるぞ!」
そう言って相方の胸倉を掴むとそのまま二階を後にする二人だったが、突然のことに驚いている相方に
その経緯を説明する。
「あいつにはもう一つ二つ名があってな最近じゃそっちの方が有名なくらいだ」
「その二つ名って?」
「……【男食い】だ」
「いっ……」
彼女のもう一つの二つ名である男食いの由縁は言わずもがな性に対してよく言えば積極的、悪く言えば貪欲な
感情を持ち合わせており、一度彼女の毒牙に掛かった男は生も根も全て搾り取られ冒険者稼業どころではなくなるほどのものだった。
特に成人になる前の十代前半の男の子が好みらしく、彼女の手によって若い新人冒険者が何人も潰れてしまっていた。
事態を重く見たギルドは彼女に勧告命令を出し、そう言った行為に及ぶことを制限したほどだ。
「あのままあの女の誘いに乗ってたら、何もかも搾り取られて最悪冒険者としては仕事できなくなってただろうな」
「マジかよ……」
ポツリと呟いた男の顔は青ざめ、肩をガクガクと震わせる。
もう一人はそんな男の肩に手を置き「まあ気を取り直して仕事だ仕事」と言って
クエストが張られたボードに歩いて行くのだった。
(はあ、また逃げられてしまったわ。 最近好みの子もいないし、ここが潮時かしらね)
【黒き薔薇の魔女】ことマリアン・ウィル・スカーレットは辟易していた。
彼女の楽しみの一つだった異性との戯れがギルドの手によって制限されてしまい、マリアンは毎日欲求不満の日々を送っていた。
だがギルドも彼女の行動を全て制限できるわけもなくある程度の犠牲者は黙認されている状態だった。
それでも今までのマリアンからすれば自らの欲求を抑えている方でそれに嫌気が差していた。
そんな時不意にマリアンがギルドの入り口を見ると小さな背格好をした少年の姿が目に映った。
その瞬間彼女の押さえていた欲求と相まって、まるで全身を雷で撃たれたような衝撃が走る感覚を覚える。
だが彼女はそれが恋に落ちるという感覚だという事に気づいておらず、どちらかと言うと武者震いか何かと勘違いしてしまった。
思わず、椅子から立ち上がりその少年を頭から足のつま先まで値踏みするかのように見回す。
この時無意識だがマリアンは上唇を右から左に舌なめずりをしていた。
「みぃーつけた、次の獲物はあの子で決まりね、うふふふ」
そう呟くとねっとりとした視線を少年にぶつけると艶のある唇を三日月の形に歪める。
それが一般的な美女がやれば好ましいものだったが、彼女のそれは醜怪の一言に尽きる。
そのあまりの恐ろしさにその場にいた他の冒険者は目を背け一言も声を上げないように務めた。
彼らは危機的な本能で悟っていた。 「今の彼女に関われば死ぬ」ということを。
そして、その少年とは他でもないサヴァンのことであったが、彼がマリアンの存在に気付くことはなく
彼女から向けられる気持ちの悪い視線には何となく気づいたようで身を震わせながらギルドを出ていった。
新しいおもちゃを見つけたような子供のように目を爛爛と輝かせるマリアンはギルドの命令もあるため
表だって彼と接触することを避けてはいたが、彼に向ける邪な視線を止めることはしなかったのであった。
「あなたはあたしのものになるんだから……」
そう呟くと、彼女は再びいつもの定位置に戻ると、顔に微笑を浮かべるのであった。
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