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第1章 最弱の冒険者
12話
しおりを挟む朝、宿屋のベッドで目が覚めたサヴァンは清々しい気持ちだった。
気分はまさに戦場に赴かんとする騎士が如く。
宿屋の食堂で簡単な朝食を取ると足取りも軽く冒険者ギルドを目指す。
10分ほどの歩くと目的の場所が目に飛び込んでくる。
ギルドに入る前に大きく深呼吸をすると覚悟を決めたかのように勢いよくスイングドアを開け放つ。
ギルド内に扉の衝撃音が響き渡り、中にいた冒険者の視線が集まる。
そんなことにもお構いなしに大股開きである人物の元へ歩いて行く。
サヴァンの雰囲気に気圧されたのか、朝一で込み合っているはずのギルド内に道ができていく。
彼の通り道に不思議と道を開ける者がいたためだ。
「おしっ」
誰にも聞こえないような声で小さく気合を入れると、目的の人物のところまでつかつかと歩いていき
勢いよく両手を机に叩きつけると彼女に宣言する。
「マキナさん! 今日こそスライムに勝ってきます!!」
「えっ、う、うん頑張ってね……」
「はいっ!!」
彼女の声援に満足そうに頷いたサヴァンはそのまま踵を返すとトコトコと走りながらギルドを後にした。
この時マキナは心の中でこう呟いたそうだ。
(サヴァン君、クエストの趣旨が変わっちゃってるよ……)
その後のサヴァンはいつもの道程二時間の場所にある小さな洞窟に来ていた。
何度目か分からないほど訪れたこの地も今日限りでおさらばだという意気込みで松明の明かりに火を灯す。
「さあ、今度こそ僕……俺は奴に勝つんだ!!」
侵入した洞窟を歩くこと数分後の事、ジメジメとした空気を漂わせる中、のそっとした緩慢な動きで岩の影から奴が姿を現した。
どうやらまだ奴はこちらに気付いていないようで、その場に留まりながら重心を左右に動かして遊んでいた。
サヴァンは敵に気取られぬよう松明をその場に静かに置くと、腰に差してある短剣を抜き放つ。
洞窟内は薄暗く松明の明かりなしでは少々見えにくいが完全に見えないわけでもないため戦いの邪魔になる松明を置いたのだ。
本来なら松明を持って戦いたいところだが、今のサヴァンにそんな余裕はない。
(よし、先手必勝、先制攻撃だ!)
じりじりとすり足でスライムとの距離を詰めながら飛び出すタイミングを窺うサヴァン。
スライムとの距離が縮まる毎に心臓の音がバクバクと脈打つ。
そして、相手の不意を突ける距離まで近づくことに成功したサヴァンはタイミングを見計らって
スライムに急襲を仕掛けた。
地面を蹴り上げ相手との距離を素早く縮めたサヴァンは先制攻撃の短剣の一閃を繰り出す。
完全に不意を突かれたスライムは回避行動を取ることもできずに短剣の一撃を食らうかに見えたのだが――。
「くっ、しまった!」
絶好の先制攻撃のチャンスだったが、焦りと緊張によって半歩分距離が足りず短剣の一撃はスライムの体を掠める程度に留まった。
だが物理的なダメージとは裏腹に精神的なダメージはあったようでスライムが焦ったような動きを見せる。
(落ち着け、まだ戦いは始まったばかりだ)
すぐさま体勢を立て直したサヴァンは再びスライムの懐めがけ突進する。
だがそれを許してくれるほど相手もお人好しではなく――この場合スライム好しなのだろうか?――真っ向から体当たりで迎え撃つ。
今までのサヴァンであればこの攻撃をまともに食らいカウンターを受けていたことだろう、だが今の彼は一味違った。
「そんなもの!!」
そう言いながら前傾姿勢で突っ込んだ状態で右足に力を入れる。
すると直進していたサヴァンがいつの間にかサイドステップで横に飛んでいた。
先ほどまでサヴァンがいた場所に体当たりでカウンターを狙っていたスライムが体ごと突っ込んでくる。
体当たりの勢いがなくなるとそのまま地面へと着地するスライムだったが、背後にはサイドステップで躱したサヴァンが反撃のためもうすでにスライムめがけ直進しているところだった。
「くらえええええええ!!!!」
これを好機と見たサヴァンは気合の雄たけびと共に突進し短剣を構える。
完全に背後を取られたスライムは体当たりの反動で避けることもカウンターを取ることもできないでいた。
(思い出すんだ、ウッドマッシュで覚えた間合いを!!)
先ほどの先制攻撃のように浅い攻撃にならないよう自分の攻撃範囲にスライムを捉えると
突進の勢いそのままに短剣を一閃する。
振り抜かれた短剣はスライムの柔らかい肉体を断ち切り確実なダメージを与えた。
この一撃はスライムと最初に戦ってから初めてのクリーンヒットだった。
スライムの肉体を断ち切る確かな手応えを手に感じながら、勢いそのままに短剣を振り切る。
流れた体を立て直し、スライムの姿を捉え続ける。
「まだ、死んでないのか?」
残念ながらサヴァンの一撃は確かにスライムの肉体を断ち切ったが一部のみに留まった状態で
まだ辛うじてスライムの様相を呈している。
だが確実な致命傷を与えられたためスライムの動きが鈍くなっている。
サヴァンは最後の止めを刺すためにスライムとの距離を詰めた。
「これで、とどめだ!!」
だがスライムもまた殺されまいと最後の力を振り絞りサヴァンにカウンターで突っ込んできた。
お互いの距離が徐々に狭まりスライムの体とサヴァンの短剣が交差する。
その瞬間サヴァンの体に衝撃が走り、両膝を地に着ける。
スライムの捨て身の攻撃が当たってしまったのだ。
このままでは畳み掛けられると感じたサヴァンは体をスライムに向ける。
だがスライムは何もせずただじっと地面に佇んでいるだけだったが刹那――。
楕円形の体は縦に真っ二つに分断され、そのままスライムは動かなくなった。
「はぁ、はぁ、勝った……のか?」
己が勝利したことが未だに信じられずただ戦闘が終了したことで緊張の糸が切れ地面に倒れ込む。
しばらくその状態で体力を回復させると身体を起こし、先ほど戦っていたスライムを見やる。
そこには確かに二つに分断された“スライムだったもの”があった。
「やっやったーーーー、勝ったぞーーーーーー!!」
まるで子供の用に――といってもサヴァンはまだ十歳の子供なのだが――体全体で勝利の喜びを表現する。
それもそのはずだ。 なにせサヴァンにとってこの戦いが初めての勝利だったのだから。
しばらく洞窟内を飛び跳ねながら喜んでいたが、まだ目的の薬草であるメニー苔を採取してないことに気付いたサヴァンは
投げ捨ててあった松明を拾って火を灯すと、洞窟の奥へと歩を進めた。
そのまま道なりに進んだ先は縦十メートル、横幅六メートルほどの開けた広場のような場所に行き着く。
どうやらこの場所が洞窟の最奥のようで他に道はなかった。
奥に進んで行くと天井部分に穴がいており、そこから水が滝のように流れ出ている。
その水によって二メートル半ほどの水たまりができており、その水辺にはたくさんの苔のような植物が自生していた。
「これがたぶんメニー苔だな、じゃあ早速」
サヴァンはそう言って、メニー苔を必要数採取していく。
全て採取してしまうと二度と取れなくなってしまうかもしれないので
クエストで提示された納品数3つに対し、予備を一つとして4つ採取することにした。
メニー苔を採取し終わると、先ほどの戦いの事を思い出し、顔が綻ぶ。
冒険者として活動を開始してまだほんのわずかな時間しか経過していないが
それでも初めて魔物を倒した喜びは一塩でニヤニヤが止まらなかった。
メニー苔も採取したので忘れ物がないか確認し終わると、もと来た道を辿り出口を目指そうを踵を返した瞬間
突如目の前が柔らかい何かで包まれ真っ暗になった。
(なっなんだ? 急に目の前が暗くなって――)
そう考えているとだんだんと意識が遠のいてゆき完全に意識を失ってしまった。
サヴァンが再び目を覚ますとそこには見慣れた白い天井が広がっていた。
―― 第1章 完 ――
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