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第8話
しおりを挟む「【フレア】!」
「ふるふる……」
生産工房で調合を終えたクラフは、すぐにビギニング平原へと舞い戻ってきた。目的はレッドスライムとの再戦である。元々戦闘においてそれほど興味のないクラフだが、彼が何よりも大切にしている素材を失うきっかけを作った仇敵ということで、その恨みを晴らすべく、楽しんでいた生産活動を中断してまでレッドスライムと戦うためだけにビギニング平原へとやってきたのだ。まさに食べ物の恨みならぬ素材の恨みである。
だが、ここでクラフにとって予想外の出来事が起こった。それは、肩慣らしとばかりにビギニング平原に生息する普通のスライムを魔法で攻撃した時に、一発でスライムに命中させることができたのである。そんなことができたのにはもちろん理由があり、それはスキルとパラメータの関連性に起因する。
FLOSのスキルは自分の意志で発動するアクティブスキルと、常時発動しているパッシブスキルの二種類が存在している。その両方ともにスキルのレベルや位によって発動する効果の強弱を決定付けているのだが、それ以外にももう一つ効果の強弱に影響する要素があり、それが何かといえばパラメータである。
今回の場合を例に挙げれば、以前クラフは【遠距離攻撃命中補正】というスキルを獲得しているのだが、このスキルによって彼の魔法に対する命中率が格段に上がったことで、一回当たりの戦闘時間が短縮される結果をもたらしている。そして、このスキルの補正率はAGIとDEXに依存しているのだ。つまり、このスキルによって補正される命中率はAGIとDEXが高ければ高い程、補正の数値もまた高くなるという訳なのである。
ここで思い出してほしいのだが、クラフは新しい装備をクリークから購入し、今はその装備で戦っている。そして、その装備にはDEXを上昇させる効果がある。ここまで言えば理解できるだろうが、DEXを大幅に上昇させる装備を身に着けたことで、遠距離攻撃命中補正の補正率が上昇し、クラフの魔法が命中する確率が上がったのだ。
クラフの魔法命中率が上がった理由はそれだけではなく、パッシブスキルである【遠距離攻撃命中補正】のレベル自体も上がっており、それによってアシストシステムも解禁されていた。
アシストシステムとは、ある分野の工程を補佐するためのシステムであり、今回の場合“魔法の命中”という行為に対しての補佐を行うシステムが発動している。システムといってもそれほど難しいものではなく、シューティングゲームのように十字のターゲッティングが表示され、その十字を狙いたい場所に持って行った状態で魔法を使用すれば、その場所へ魔法が飛んでいくと行った感じだ。
元々クラフがプレイしていたクラフト系ゲームにもこういったギミックが搭載されており、生産メインのゲームの場合こういった補助機能的なシステムはデフォルトで導入されていることが多い。実際彼がプレイしていたゲームもこういった機能があらかじめ使える状態でゲームを始めていたため、戦闘が苦手な彼でもなんとかクリアできていた。
だが、今回のFLOSはこういった補助的なシステムは付随するスキルを取得して特定のレベルにまで上げない限りは、プレイヤー自身のプレイスキルに依存する形となってしまうため、アクションが苦手な人には辛い面がある。実際、こういったクレームも運営の下には連日寄せられているが、ゲームを攻略する上で致命的にクリアが難しいという訳ではないため、運営は改善を見合わせている。決してアプデの作業が面倒という理由からそういった判断を下したのだとは思いたくはない。
「い、一撃……一撃で撃破か」
あれほど手こずっていたスライムをたったの一発で倒せたという事実に驚愕しながらも、目ざとく採取ポイントを見つけて素材回収も抜かりなく行っていく。スライムに魔法を当てていく作業と採取作業を交互に繰り返していると、突然メッセージが表示される。
『【火魔法】がレベル2になりました。【フレイムボール】、【フレイムアロー】を覚えました』
「お、やっとか」
いつの間にやら経験値を獲得していたようで、ようやくクラフの火魔法がレベル2となる。ここで魔法についての説明をするが、魔法には攻撃や回復などそれぞれ用途に応じて使い分けが行われる。当然だが、レベルが上がれば上がるほどその効果も強まっていく仕様となっている。例えば火魔法の初期魔法【フレア】に焦点を当てた時、レベルが上がると以下のような効果が得られる。
レベル1:与えるダメージが1
レベル2: 〃 が1~3
レベル3: 〃 が1~10
レベル4: 〃 が2~15
レベル5: 〃 が3~30
レベル6: 〃 が4~50
レベル7: 〃 が5~70
レベル8: 〃 が7~100
レベル9: 〃 が10~150
レベル10: 〃 が20~300
このようにレベルが上がれば上がるほど与えるダメージが増えたり、場合によっては消費するMPが減少したりなど、何かしらの効果が上がったり効率が良くなったりするのだ。
といっても、このFLOSの場合スキル習得は容易いがレベルを上げること自体難易度が高く、次のレベル3に上げるためには火魔法を最低でも千回は使用しないといけないのだが……。
ちなみに、レベルが上がる毎に次のレベルアップするための経験値が阿保ほど必要になるため、そこからは地獄の作業とプレイヤーたちの間で言われていたりする。
「よし、この調子でレッドスライムもボコボコにしてやるぜ」
「ふるふる?」
「出たな宿敵! 先手必勝ぉー!! 【フレア】【フレア】【フレア】」
などとクラフが息巻いていると、ちょうどいいタイミングでレッドスライムとエンカウントする。噂をすれば何とやらとはよく言うが、あまりにタイミングが良すぎる辺り、彼らしいといえば彼らしい。
クラフがレッドスライムを視認すると、すぐさまフレアの三連打をお見舞いする。命中アシストのお陰かクラフが放った魔法が全弾命中する。ダメージは合計で4ポイントだ。
これでレッドスライムの残り体力は11となったが、まだまだイエローゾーンにすら到達できていないため、ダメージを受けたレッドスライムが勢いよくクラフに突進していく。
だがしかし、スライムとの戦いでスライム自体の動きがなんとなく読めるようになってきたクラフは、レッドスライムの攻撃をあっさりと回避でき――。
「ぐぼぁ」
……るわけもなく。今まで通りダメージを受けてしまうが、その数値は2ポイントと明らかに減っている。新しく手に入れた装備の恩恵は凄まじく、あれだけのダメージをこの程度に軽減してみせたのである。クリークの装備が凄いのか、それともレッドスライムが元々大したことがなかったのか、あるいは両方か。
とにかく、相変わらず相手の攻撃を避けることは難しいものの、受けるダメージが軽減されたことで死に戻りの確率が大幅に減少しHP管理もやり易くなった。これで滅多なことでは死に戻ることはない――。
「ぐはぁ、げぇクリティカルヒットだ。回復ポーションを!!」
……今のは偶然クリティカルヒットが出ただけに過ぎない……と思うが、そのあとは今までにない程に効率的にレッドスライムにダメージを与えていく。そして、最終的にはフレアのみでレッドスライムのHPをすべて削り切り、見事勝利をおさめることができたのであった。
「よっしゃぁー! レッドスライム撃破だぜぃ!!」
素材を奪った仇敵を打ち倒し、クラフは思わずガッツポーズを取る。それだけレッドスライムを倒せたことが嬉しかったのだ。
そして、お待ちかねのレッドスライムの素材はというと【スライムの核】と【スライムレッドゼリー】というアイテムだった。スライムの核はなんとなく理解できるものの、もう一つの素材が用途を含めどんなものかがわからなかったクラフは首を傾げつつも、ひとまずこのままビギニング平原の奥へと進むことにした。
ここでFLOSのフィールドについての説明をするが、フィールドは主に上層・中層・下層という基本的に三つのエリアに区分されており、奥に行けば行くほど強いモンスターが出現する仕様となっている。それと比例するように、手に入る素材も良質なものやレア度の高いアイテムが多く入手できるようになり、戦闘職にとっても生産職にとっても旨味のある仕様となっている。
ちなみに、この呼び方はダンジョンでも同じ呼び方をされることがあるため、プレイヤーの中では序盤・中盤・終盤などといった別称で呼ばれていたりする。そして、これは当然のことだが、このエリアの区分けは今の街から次の街へ向かうことを前提とした区分け方であり、逆側から移動した場合、下層・中層・上層という順番になる。
つまり、始まりの街ファスタードから次の街となるセカンドリスへ向かう場合、上層・中層・下層と奥に行くほど難易度が上がっていくが、逆行となるセカンドリスからファスタードへ向かう場合、下層・中層・上層というように難易度が下がっていくことになるということである。そして、現在クラフがいるのは上層であり、これから中層へ向けて進撃を開始しようという訳だ。
しばらく進んでいると、新たな採取ポイントを発見する。いつものように採取をすると新たなアイテムを入手したので、クラフはさっそく鑑定を試みる。
【石】:何の変哲もないただの石。ただし、使いようによっては様々な用途で活用が可能となる。 効果:投げてぶつけると固定で1ポイントのダメージを与える。 レア度:1 品質:★
「よっしゃあー、石ゲットだぜ!!」
鑑定の結果はただの石だと表示されているが、クラフは珍しくテンションが上がっている様子だ。その理由としては、石という素材の有用性にある。木の素材よりも固く、耐久度や性能も木の材質と比較しても圧倒的ではないが石の方が良く、当然だがその素材を用いて生み出された道具は木で作られたものよりも高い能力を有している場合が多い。
かつて一世を風靡し、VR技術が導入された現代においてもその人気は衰えることを知らないゲームが存在した。英語を直訳すると“私のクラフト”という意味になるそのゲームタイトルは、今もなお一定数のファンを獲得しつつけ、VR技術導入によってそのリアリティは向上し、今ではゲーム内で理想の家を建てそこでバカンスを楽しむことができるほどにまで発展を遂げている。
そのゲーム内においても木の素材を使った道具から石を使った素材にアップグレードすると、作業効率が格段に向上する仕様となっており、クラフもまたそのゲームの経験者であるため、石という素材がどれだけの可能性を秘めているのか十二分に理解していた。
「おお、まだまだ取れる! こりゃあ、大盤振る舞いじゃないか!!」
たくさん取れる素材に興奮しつつ、あるだけクラフは回収していく。それはまさに何かに憑りつかれた悪鬼の如くであり、その様相はなんというか、あれにそっくりであった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
まあ、そういうことである。彼の言動から察してくれると有り難い。
兎にも角にも、その場にある採取ポイントを枯らす勢いでアイテム収集を行っていたクラフだったが、そこはフィールドであり、存在しているのは何も採取ポイントだけではない。
「キュー」
「む、新手か?」
などと言いつつ、クラフは正面にいるモンスターを見据える。ビギニング平原の中層に出現するモンスター【ホワイトラビット】が現れる。読んで字の如く見た目はただの白い兎なのだが、当然中層のモンスターであるためスライムよりも強敵となる。その小さな体から繰り出される蹴りは強力で、油断すると瞬く間にプレイヤーのHPをレッドゾーンへと追い込むほどの能力を有している。
だが、ランナーズハイならぬサイシューズハイとなっているクラフの前に現れたのが運の尽きとばかりに、彼の魔法がホワイトラビットを強襲する。
「【フレア】、【アクア】、【ブロウ】、【アース】! 【フレア】、【アクア】、【ブロウ】、【アース】!!」
両の掌で交互に魔法を放つその姿は、まるでお相撲さんが張り手を繰り出すかのようだったが、クラフがそれを気にする様子はなく、MPが続く限り攻撃を連打する。それはまさに弾幕という名の圧倒的な攻撃であり、これならブライトさんも納得してくれることだろう。
突如として襲った魔法によって反撃の隙すら与えられず、そのままいいところなく光の粒子へと姿を変える。戦闘ログには【ホワイトラビットの肉】と【ホワイトラビットの皮】が手に入ったというメッセージが表示された。
「なんだ弱いじゃないか。スライムとは大違いだな」
クラフは勘違いしていたが、ホワイトラビットは決して弱くはない。もちろんそれは彼にとってという意味での弱くはないということなのだが、たまたま彼の魔法弾幕戦法がホワイトラビットに刺さっただけであり、真っ向勝負すれば彼の場合勝率は40%といったところだ。ちなみに、通常のプレイヤーであれば勝率は大体八割から九割ほどとなる。
そんなこととは露知らず、クラフは採取ポイントとホワイトラビット戦を交互にこなしていく。だが、彼はまだ中層という場所がどういうところであるのか理解していなかった。
「うん? 二匹いるな」
ここに来てホワイトラビットが複数匹出現するという事態が発生したのだ。上層ではスライムは一匹ずつ出現していたが、難易度が上がった中層からは複数匹の群れとして出現するようになる。当然、一対一の時よりも難易度が上がり、敵の動きに注視しなければならないのだ。
どうしたものかと悩むクラフに一つの天啓が降りてくる。それをさっそく実行すべく、クラフは行動を開始する。
「二匹いるならまとめて攻撃すればいい。食らえ! 【フレイムボール】!!」
クラフが思いついた策は、一匹一匹個々で相手にするのではなく、二匹同時に攻撃を仕掛けるという方法だった。こうすることで、片方から不意打ちを受けることなく戦うことができると同時に一回当たりの戦闘時間も個別で戦うよりも短くて済むというメリットがあるのだ。
彼の思惑通りフレイムボールが二匹のホワイトラビットを捉える。いきなりの不意打ちに慌てふためく二匹のホワイトラビットに、遠慮のない魔法連打を叩き込み、すぐさま光の粒子へと変化する。
「いいぞ。戦えているじゃないか」
確かな手ごたえを感じつつ、クラフはさらに戦闘を繰り返す。そして、それが功を奏し【水魔法】、【風魔法】、【土魔法】がそれぞれレベル2へと上がり、新たな魔法を手に入れることに成功する。
しばらく採取と戦闘行為をMPが尽きるまで続けていたが、とうとうそのMPも尽きてしまい、これ以上のフィールドワークは続行不可能となってしまったため、それを区切りにクラフは街へと戻ることにした。ちなみに、フィールドから街へと即時帰還するコマンドがあり、フィールド上のどこからでも最後に訪れた街の広場へと帰還できるようになっている。ただし、戦闘中やボス戦など特定の状況では使用できないため、注意が必要だ。
「とりあえず、生産工房だな」
街へと帰還したクラフは、すぐさま手に入れた素材を使って生産活動を行うべく生産工房へと移動する。もはや顔なじみになりつつあるNPCに400ゼニルを支払いいつもの部屋へと向かう。
ひとまずは、今回のフィールドワークで手に入れた素材アイテムの一覧を確認するべく、クラフは所持品をチェックすることにする。現在彼の手持ちの一覧は以下の通りだ。
【ヒーリングプラント×68個】
【ポイズンプラント×33個】
【スライムゼリー×22個】
【セントハーブ×21個】
【石×31個】
【棒切れ×26個】
【スライムの核×1個】
【ホワイトラビットの肉×9個】
【ホワイトラビットの皮×7個】
「うむ、実に素晴らしい。これだからクラフト系ゲームはやめられない」
手に入れた素材一覧のウインドウを眺めながら、クラフが満足気な表情を浮かべる。その顔は一仕事を終えた男の顔というよりも、何か妙な癖を感じる恍惚に近い表情をしており、そのまま放っておけば何時間でもそうしている雰囲気を醸し出している。
ひとまずは手に入れたことのある素材による調合などは後回しにして、クラフは新素材となるアイテムに着目する。その中の一つである【石】と【棒切れ】を選択した彼は、さっそく加工するための道具が置いてある区画へと移動をする。
鉄製の小さな金槌と先端がマイナスドライバーのような形状になっているノミと呼ばれる工具を手に取った瞬間、メッセージが表示された。
『特定の条件を満たしました。【初級石工】を習得しました』
石工をするための道具を手に取ることがトリガーとなり、クラフは初級石工を覚えた。そのことに「よし」と言いながら一つ頷くと、作業スペースに戻り石と棒切れを取り出す。
まずは、石をノミを使って加工するのだが、ここでスキルについての説明をしておく。木工や調合などある一定の技術を用いるスキルには素材を消費することで出来上がるアイテムをオートで作り出す方法と自らの手で生み出すマニュアルでの操作の二つが存在する。
この二つの方法というのは調合のみならずほとんどの生産系スキルに搭載されており、今回使う石工にも当然オートとマニュアルの二つの作製法がある。
とりあえず、どんな素材を使ってどんなアイテムができるのかがわからないため、クラフは一つ一つ確認しながら進めていく。
最初はやはり基本となる木の素材を扱った方がいいと判断し、棒切れから何ができるのかを見ていく。すると、棒切れを二つ消費することで木材ができ、木材を四つ消費すると木の丸太ができるらしい。さらに、その木の丸太を四つ消費して完成したのが【木の苗木(ヒノキ)】だった。これで植林をして木系の材料を増やすことができるようだ。
「あのゲームとは逆なんだな。違いを出すための考慮ってやつかな」
この世には似たゲームが数多く存在しているが、他のゲームとの差別化を図るため、アイテム作製において同じ作製法にならないようにメーカーが工夫することがある。某有名クラフトゲームとレシピが被らないようにすることで“あのゲームをパクったわけじゃないですよ”という運営の意志が感じ取れた。
さらに調べると木材と棒切れを組み合わせることで、木製の道具が作れるようになるらしく、今作れるのは以下の五つだ。
【木のスコップ】木材1個、棒切れ2個
【木のクワ】木材2個、棒切れ2個
【木剣】木材3個、棒切れ2個
【木のピッケル】木材4個、棒切れ2個
【木のアックス】木材6個、棒切れ2個
「とにかく、全部作ってみるとしよう」
何事もトライアンドエラーが大切ということで、すべての組み合わせを作り上げたかったが、持っていた棒切れが底を突いてしまい、結局できたのはスコップとクワと木剣だけだった。そして、出来上がったものを鑑定したものが以下の通りだ。
【木のスコップ】:何の変哲もない木でできたスコップ。 効果:土系の素材を採取する時に補正が掛かる。武器装備時STR+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:50
【木のクワ】:何の変哲もない木でできたクワ。 効果:畑を耕すことができる。武器装備時STR+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:50
【木剣】:何の変哲もない木でできた剣。 効果:STR+2 レア度:1 品質:★ 耐久度:60
特にこれといって珍しいものではなく、オート作製でできる最低限度の道具や装備といった印象だ。それでも、新しく生産できるレパートリーが増えたことに変わりはなく、クラフは納得して頷く。
「ふむ、石だけで石材ができて、その石材と棒切れでいろんな道具ができるようだな」
次にクラフが注目したのは、石を使った石工だった。石二個から【石材】が一つでき、その石材と棒切れを組み合わせることで様々な道具や装備ができるらしい。具体的には以下のような感じだ。
【石のスコップ】石材1個、棒切れ2個
【石のクワ】石材2個、棒切れ2個
【石のソード】石材3個、棒切れ2個
【石のピッケル】石材4個、棒切れ2個
【石のアックス】石材6個、棒切れ2個
こちらの石系のアイテムについてもオートでの作製を試みてみたかったものの、既に素材を使ってしまったため、次の機会に持ち越しとなった。
石工についてはこれくらいとし、次にスライム系の素材を調べてみた。すると、調合を使ってスライムゼリーとスライムの核でスライムの結晶というアイテムが作れることがわかった。だが、未だにどういった用途で使うのかはわからず、スライムの核自体が一個しかないため、これについては調合せず保留とした。
続けざまに、クラフは中層で手に入れたホワイトラビットの素材の内、皮を試すことにする。工房から革工に関する工具を手に取ると、例の如く【初級革工】というスキルを覚えた。
さっそく手に入れたスキルを使ってホワイトラビットの皮をなめして革に加工し、その素材でできるものはホワイトラビットシリーズの装備だった。具体的には革帽子、レザー、ブレスレット、ズボン、シューズの五点だった。効果はVITやAGIを2ポイント上昇させるというもので、初期装備より少し性能が良いが耐久度があるため、実質的には初期装備の方が優秀という印象の装備だ。
これもすべてのシリーズを揃えるには皮が不足していたため、作成可能なレザーだけ作っておくことにした。ちなみに、鑑定結果は以下の通りだ。
【ホワイトラビットレザー】:ホワイトラビットの皮を使用したレザー。 効果:VIT+2 レア度:1 品質:★ 耐久度:70
使った皮は全部で八個で、所持していた皮のほとんどを使うことになってしまった。ちなみに、革帽子には五個、ブレスレットには三個、ズボンには七個、シューズには四個も皮が必要となってくる。
皮についてはまたフィールドワークで集めてくることとし、クラフは皮から肉へと興味をシフトさせる。肉といえば料理であり、工房内にあったフライパンを手に取った瞬間、あっさりと【初級料理】のスキルを覚え、相変わらずスキルの覚えるトリガーの緩さに苦笑いを浮かべる。
料理については、現実世界でも炊事を行っていることもあって、クラフはかなりの期待を寄せていた。すべての五感を表現することが可能となる仮想現実では当然味覚も備わっており、美味いものを食べれば美味いと感じ、その逆に不味いものは不味いと感じるようになっている。
VRの技術が導入され数十年という時が経過しているが、五感の中で再現するのに最も苦労した感覚が味覚と嗅覚という人間の食に関する部分であったことはVRの歴史の中では有名な話となっている。
人間の三大欲求の一角でもあると同時に、食にうるさい日本人であるが故、そのクオリティを高めることに一切の妥協を見せなかった結果、僅か数十年という短期間で現実とほぼ変わらぬところにまで発展させたのだ。これもまた食べ物に対する執念がそうさせたのだと思うと、なんとも複雑なところではある。まさに、食いしん坊万歳といったところだろうか。
「では、これよりホワイトラビットの肉の調理を開始する!!」
先ほどの生産とは比べ物にならないほどの真剣な表情でそう力強く宣言すると、クラフのお料理タイムが始まった。
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